小説『よだかの片想い』が2022年9月16日(金)に映画公開!
顔にアザがある女性の恋愛を描いた直木賞作家・島本理生の恋愛小説『よだかの片想い』が、映画化されます。
監督は『Dressing UP』(2012)や『蒲田前奏曲』(2020)の安川有果。『性の劇薬』『アルプススタンドのはしの方』(2020)の城定秀夫が脚本を手がけました。
顔にアザがあるアイコは勉強一筋の生活を送っていましたが、「顔にアザや怪我を負った人」のルポタージュ本の取材を受けたことから生活が一変。監督の飛坂に恋心を抱き、コンプレックスと向き合うことになります。
『幕が下りたら会いましょう』(2021)『今日も嫌がらせ弁当』(2019)の松井玲奈がヒロイン・アイコを演じ、飛坂役は『グッド・ストライプス』(2015)の中島歩が扮します。
映画公開に先駆けて、小説『よだかの片想い』をネタバレ有りでご紹介します。
小説『よだかの片想い』の主な登場人物
【前田アイコ】
生まれつき顔にアザがある女性。周囲からの「可哀想」などの言葉から自分にも恋愛にもコンプレックスを持つようになります。
【飛坂逢太】
映画監督。アイコが表紙を飾った本の映画化にあたり、監督を務める。
【ミュウ先輩】
アイコの大学院の先輩
【まりえ】
アイコの中学生からの友人
【原田】
アイコの大学院の後輩
小説『よだかの片想い』のあらすじとネタバレ
生まれつき顔にアザがある前田アイコ。その容姿のコンプレックスは成長とともに大きくなっていきます。
小学生の頃は「アザが琵琶湖にそっくりだ」とクラスの男の子に言われ、「いいかげんにしろ。なんてひどいことを言うんだ!」と怒った担任の言葉の方に驚きました。
中学生の頃には、「(自分たちだって)ああなってた可能性はあるわけだし。(前田は)可哀想だって」と自分のことを話す男子の会話を聞いて愕然とします。
自分では少しも可哀想だと思っていないのに……。生まれつきのものを可哀想だと言うのなら、アイコは一生否定されることになってしまいます。あえて否定的な考えは持ちたくありません。
高校に入ると、地元の友達が少なくて知らない子だらけでしたので、アイコは少し気分が軽くなりました。
ある日、アイコはクラスメイトからメンバーに欠員が出たからとカラオケの合コンに誘われます。
少し浮き浮きした気分で参加しようとしたのですが、待ち合わせ場所で「ほかに誘う子いなかったの?」と噂されているのを聞き、すぐにその場を立ち去りました。
その時から、アイコは普通の人と同じような夢を見たり、出会いがあるかもという期待をしたりしないでおこうと心を決めました。
それからしばらくして、アイコは部員不足だった物理部の部員になりました。
自分の容姿にコンプレックスを持ってからアイコは物理の勉強に没頭するようになり、国立大学の理学部に合格できました。
大学に入ったらアザも目立たなくなるのだろうか。自分にも素敵な出来事がちょっとくらいはあるのかもしれない。
アイコはそんなことを思って、そんなに簡単に変わるわけがないと、すぐに打ち消します。
結局、大学の4年間をアイコは勉強ばかりして過ごし、大学院に進みました。
あるとき、大学卒業して出版社で働く友人のまりえから「顔にアザや怪我のある人たちのルポルタージュを作成したい」と頼まれ、アイコは了承してインタビューを受けます。
おまけに表紙モデルも頼まれ、写真を撮ってもらい、表紙を飾りました。すると、その本は話題となり映画化の話が舞い込みます。
アイコは勝手に独り歩きする自分の話に抵抗はあったのですが、映画監督・ 飛坂逢太と対談することを了承しました。
飛坂はアイコの強い表情が気に入ったと言い、飲み会の帰りに手鏡をプレゼントしてくれました。
自分の顔のアザに同情せず、自然に振る舞ってくれる飛坂にアイコは初めて恋をしたのです。
忙しくてこれまで彼女と長続きしたことがないという飛坂と付き合うことになったアイコ。
ある日のデートの帰り道、アイコの母親に偶然見られてしまった2人は、アイコの家に招かれて夕食を共にします。
そこでアイコの母は飛坂に、「アイコは本当にいい意味で普通に育ったの」と言いました。
意思が強くて頑丈そうに見えるけど、アイコは繊細な子なんです。この子の真っすぐにモノを見るところだけは、失われないでいてほしい、と頼みました。
夕食後、アイコは飛坂を駅まで送って行きました。
「アイコさんは、すごく親に愛されているんだな」と飛坂は孤独な少年の眼をして言います。
実は飛坂は有名な役者の父親のスキャンダルのせいで誹謗中傷を受け、普通とは程遠い人生を歩んできたのです。
だから、飛坂はアイコの母親の言葉を聞いて少し寂しくもあり、両親から愛され大切に育ったアイコと付き合う重みを感じはじめていました。
小説『よだかの片想い』の感想と評価
原作者島本理生はこの小説において、顔にアザがある女性を主人公にしています。
ただでさえ全て成就といかないラブストーリーにおいてのこの配役に、どんな顛末が待っているのかと気になります。
案の定、主役のアイコは小学校・中学校と周囲の反応から自分が普通でない子だと自覚し、何かを期待することを諦めていました。
そんなアイコの写真が「顔にアザや怪我のある人たちのルポルタージュ」本の表紙を飾り、人生が一変します。
映画化の話が舞い込み、その映画監督の飛坂に恋をします。果たしてこの恋の行方はどうなるのでしょう。
一生におけるハンディキャップともいえるアザを受け入れて生きているアイコ。
レーザー治療でアザを取ることも考えますが、このアザがあったから飛坂とも出会えたと思うと思い切って取り去る気になれません。
それは、自分がずっとこのアザを通して人を見てたと、自身の存在証明に気づいたからでもあります。
ラストは、アイコが遠い星を見つめるシーンで終わりますが、なんとも納得感のある結末です。
人を好きになって片想いに終わっても、アザを自分の個性と考えられるほどひと回りも二回りも大きく成長したアイコ。
空いっぱいに瞬く星空のその先には、きっと幸福が待っていると、明るい希望を持てる作品でした。
映画『よだかの片想い』の見どころ
顔のアザにコンプレックスを抱く女性が、恋をきっかけに自身と向き合うストーリーの『よだかの片思い』。
主人公のアイコはコンプレックスを持ちながらも真っ直ぐに生きている強い女性です。
‟顔にアザや怪我のある人たち”は大人しくしていても、いじめの対象になったりと偏見の眼でみられがちですが、アイコはそんな偏見に負けそうになりながらも、涙をこらえて立ち向かいます。
映画でこんなアイコを演じるのは、松井玲奈。原作の大ファンという彼女は、複雑に揺れ動く細やかなアイコにしかわからない心の動きを読み取ろうとしていたといいます。
どんなに他人がアイコを思いやっていたとしても、逆効果な言葉や行動があるということもわかる本作で熱演する松井玲奈。
彼女が演じ切る、不器用でも必死に生きるアザのあるアイコに注目です。
映画『よだかの片想い』の作品情報
【公開】
2022年公開(日本映画)
【原作】
島本理生『よだかの片想い』(集英社文庫)
【監督】
安川有果
【脚本】
城定秀夫
【キャスト】
松井玲奈、中島歩、藤井美菜、織田梨沙、青木柚、手島実優、三宅弘城
まとめ
直木賞作家・島本理生の恋愛小説『よだかの片想い』をご紹介しました。
生まれつき顔にアザがある女性の恋愛はコンプレックスとの戦いと言えます。ありのままの自分を受け入れてくれる人は、なかなかいないのではないでしょうか。
そういう意味では主人公アイコの片思いは、勇気ある選択だったのです。
映画では、原作とは違うラストが用意されているそうです。
アザへの偏見などの社会的な問題がクローズアップされているのか、ひとりの女性の恋愛ストーリーにスポットライトが当たるのか。
監督と脚本家の間でも議論があったというストーリー展開に、本作への期待も高まります。
映画『よだかの片想い』は2022年9月16日(金)に全国公開!