Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/03/09
Update

シンエヴァンゲリオン|ネタバレ感想解説とあらすじ結末。ラスト最後にシンジが語る“希望”と有力考察の真相とは【終わりとシンの狭間で5】

  • Writer :
  • 河合のび

連載コラム『終わりとシンの狭間で』第5回

1995~96年に放送され社会現象を巻き起こしたテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』をリビルド(再構築)し、全4部作に渡って新たな物語と結末を描こうとした新劇場版シリーズ。

そのシリーズ最終作にして完結編となる作品が、映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(以下、『シン・エヴァンゲリオン』)です。

本記事では2021年3月8日(月)に劇場公開を迎え、ついにその全貌が明らかとなった『シン・エヴァンゲリオン』を、ネタバレ有りあらすじと作品感想でご紹介させていただきます。

【連載コラム】『終わりとシンの狭間で』記事一覧はこちら

映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の作品情報


(C)カラー

【日本公開】
2021年3月8日(日本映画)

【原作・企画・脚本・総監督】
庵野秀明

【監督】
鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏

【総作画監督】
錦織敦史

【音楽】
鷺巣詩郎

【主題歌】
宇多田ヒカル「One Last Kiss」

【作品概要】
2007年に公開された第1作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』、2009年の第2作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』、2012年の第3作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』に続く新劇場版シリーズの最終作。

庵野秀明が総監督が務め、鶴巻和哉・中山勝一・前田真宏が監督を担当。なおタイトル表記は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の文末に、楽譜で使用される反復(リピート)記号が付くのが正式。

映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のあらすじとネタバレ

コア化により赤色に荒廃したフランス・パリの市街地。

その上空に到着した反ネルフ組織ヴィレの旗艦「AAA ヴンダー」から、“パリカチコミ艦隊”としてマリが登場するエヴァ8号機、リツコとマヤ率いる作業員らが降下。街に眠る「ユーロネルフ第1号封印柱」によるアンチLシステムの起動を試みます。

そこにネルフの副司令・冬月が差し向けた航空特化型「EVA 44A」群体、陽電子砲装備陸戦型「EVA 4444C」と電力供給特化型「EVA 44B」群体による編成部隊が襲来。

一時は危機に陥るものの、エヴァ8号機は部隊を全て撃破。あわせて、無事にアンチLシステムが起動したことでコア化から解放され、“復元”されたパリ市街地は元の姿に戻り、ヴィレは旧ユーロネルフ設備とエヴァシリーズ機体の予備修理パーツの確保に成功します。

その頃、前作『Q』ラストにて地上に不時着したシンジ・アスカ・アヤナミ(『序』『破』に登場したレイとは別個体の、シンジの母ユイの複製体)の3人はヴィレと合流すべく、リリン(人類)の活動可能領域を目指してコア化した大地を歩き続けていました。

しかし途中で、動けなくなってしまうシンジ。そこに、一台の車が止まります。

シンジが目を覚ますと、そこにはかつての同級生であり、成長し大人になったトウジ・ケンスケ・ヒカリがいました。3人はニアサード・インパクトを生き残った人々による集落「第三村」で生活し、ヴィレ設立の支援組織「クレイディト」の助力のもと生活していました。

トウジとヒカリは結婚し娘ツバメをもうけるなど、あまりにも大きな時間の流れの差を感じつつも、シンジとの再会を喜ぶ3人。しかしシンジの心は、以前消沈したままでした。

その後ヴンダーが村にやって来る日まで、アスカ・シンジはケンスケが暮らす家へ、アヤナミはトウジらが暮らす家で過ごすことに。

その中で村仕事を手伝うようになり、ヒカリやまだ赤ん坊のツバメ、人々との心の交流を通じて、アヤナミは“命令”とは全く異なる“生きる”ということの在り方に触れていきます。

一方、村の人々とも関わることなくただ沈み続けるシンジにアスカは正論をもって冷たく接し、食事すら摂ろうとしないシンジに思わず怒りをぶつけることも。対してケンスケは、それでも生きていてくれたシンジのことを励まし続けます。

その後“家出”をしたシンジは、村の北側に位置する廃墟……旧ネルフ施設跡で一人過ごすように。そこにアヤナミが、『Q』ラストでシンジが落としたカセットプレーヤーを返そうと訪ねてきますが、“レイではないレイ”であるアヤナミをシンジは拒絶しました。

アヤナミはアスカから預かっていた食料だけを置き、その場を去ります。一人座り続ける中、シンジは泣きながらもその食事に手をつけます。

“命令”ではない“仕事”を続けながら、村での日々を送るアヤナミ。その間も、彼女は廃墟で一人過ごすシンジのもとを訪ねては、食料を置いていきました。またその様子を、アスカは影から見守っていました。

やがてシンジは、何もかも壊してしまった自身に、それでも優しく接する人々に対する思いを吐露します。そしてその理由をアヤナミが答えてくれたことで、シンジは一人落ち込み続けることをやめました。

シンジは村周辺の環境調査といったケンスケの仕事を手伝うように。その中で、シンジは“ニアサー”発生後の大混乱によっていち早く“大人”にならざるを得なかったトウジたちの苦労を知り、ケンスケからも「父ゲンドウと話せ」と諭されます。

また村をコア化現象から守っている封印柱の復元実験場を訪ねた際、シンジはリョウジという名の少年に会います。彼はヴンダー現艦長のミサト、元ネルフ主席監察官でかつてサードインパクトを食い止めるため命を落とした加持リョウジとの間に生まれた子どもでした。

ミサトがシンジや息子リョウジに対し抱き続ける“責任”を知り、心を動かされていくシンジ。その一方で、アヤナミの肉体にはある異変が起こりつつありました。

そして全てを悟ったアヤナミは、ヒカリをはじめ村の人々に教えてもらった言葉で精一杯書いた手紙だけを残し、黙って村を後にしました。

廃墟にてアヤナミと会うシンジ。彼は以前アヤナミから名付けるよう頼まれた“名前”について、悩み続けた結果「アヤナミは、アヤナミだ」と答えます。

シンジの答えを聞き届けたアヤナミは、村では生きられないけれど村が好きだったことなど、短い時間ながらも確かに感じられた自身の“人生”を語ります。そしてプラグスーツが黒から白に変色したかと思うと、一瞬でLCL化し跡形もなくなってしまいました。

ヴンダーが村に到着する中、シンジはアヤナミから託されたカセットプレーヤーと共に、一度は脱走したヴンダーへと戻ることを決意します。

ミサトの乗艦許可も下り、シンジはヴンダー内で監禁措置を受けることに。しかしニアサード・インパクトで家族全員を失っていたミドリは、大罪を犯したシンジに、そして“贖罪”を信じる人々に不満を抱きます。

その頃ミサトとヴンダー副艦長リツコは、艦内に存在する「種の保管室」にいました。

ヴンダーの本来の目的とは、人類どころか地球上の全生命をリセットしてしまう「人類補完計画」から動植物を守る“方舟”の役割であり、加持はそのためにネルフからヴンダーを強奪。そして加持亡き後に、ミサトらは“方舟”だったヴンダーを現在の“戦艦”へと改装したのです。

ネルフのゲンドウ・冬月がフォース・インパクトの儀式遂行を目論む中、ヴィレも“最後の決戦”に向けての準備を進めます。またアスカはマリと共に監禁中のシンジと会い、自身が14年ぶりの再会時にシンジを殴ろうとした理由(詳細は『Q』参照)を尋ねます。そしてその問いに対し、シンジは自身の“罪”の形に触れながら答えます。

そしてついに、ヴィレは儀式の要とされるエヴァ第13号機の無力化によるフォース・インパクト阻止を目的とする「ヤマト作戦」を開始。南極……セカンド・インパクト爆心地に現在位置するネルフ本部に向け、ヴンダーの大気圏外からの急降下突撃を敢行します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『シン・エヴァンゲリオン劇場版』ネタバレ・結末の記載がございます。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

L結界の境界面を貫き、ネルフ本部と「黒き月」が位置する爆心地最深部への潜航を開始するヴンダー。しかし冬月が指揮するネルフ所属の空中戦艦群に行く手を阻まれます。

ヴンダーを遥かに凌駕した空中戦艦群の大火力、無数のエヴァインフィニティを何とか振り切り、ヴンダーはL結界第一層から第三層への潜航に成功。ネルフ本部への誘導弾による一斉射撃をした後、再起動前の第13号機の無力化のため、決戦に向け修理と更なる改装を施したエヴァ新2号機とエヴァ改8号機が出撃します。

対してネルフ側もエヴァMark.07群を出撃。尋常ではない数のMark.07の大群、また本部到着後に襲撃してきた第13号機の「腕部」などネルフの物量作戦に苦戦しながらも、アスカが乗る新2号機はついに第13号機のもとにたどり着きます。

持参した「強制停止信号プラグ」で第13号機を貫こうとするアスカ。しかし“第13号機を恐れる新2号機自身”のATフィールドに阻まれてしまいます。

セカンド・インパクト爆心地中の爆心地「カルヴァリーベース」では、「地獄の門」が再び開き、ゼーレのシナリオにはない新たな儀式が展開。ネルフはフォースとは異なるインパクト「アナザー・インパクト」の儀式遂行を進めているのではとヴィレの乗員らは気づきます。

その頃、アスカは任務を全うすべく、新2号機の裏コード“999”を展開。さらに眼帯を外し左眼に埋め込まれていた小型の封印柱を引き抜き、『破』作中で取り込まれてしまった際に残った「第9の使徒」の力を解放。自らを“使徒化”することで、新2号機のATフィールドの中和を試みます。

機体の“獣化”とアスカの“使徒化”が重なり、おぞましい変貌を遂げる新2号機。アスカは再び強制停止信号プラグを第13号機を貫こうとしますが、あと一歩のところで第13号機が再起動。

エントリープラグ内のアスカの前には「シキナミシリーズ」の“オリジナル”が出現し、自らの手による処理装置「DSSチョーカー」の起動も空しく、アスカは第13号機内に取り込まれてしまいます。

また空中戦艦の一機に激突され身動きが取れなくなっていたヴンダーに、改装されたエヴァMark.09-Aがとりつき『Q』同様に侵食を行い艦の制御権を強奪。ゲンドウが新たな儀式のため欲していた「使徒化したアスカ」と「ヴンダー」が揃い儀式がさらに進んでいく中、ヴィレメンバーの前にゲンドウが姿を現します。

ゲンドウと直接対面するミサトたち。またリツコは容赦なくゲンドウの頭部を拳銃で撃ち抜きますが、破壊されたバイザーの下にかつてのゲンドウの顔はなく、そこには「ネブカドネザルの鍵」により人であることを捨てた代償……使徒或いはエヴァを連想させる異貌がありました。

人類の人類による進化。海・大地・魂の三段階による世界の浄化。浄化され魂と化した生命と、器の肉体としてのエヴァインフィティの同化。進化の贄にため用意された「アヤナミシリーズ」と「シキナミシリーズ」……かつてミサトの父が発案した人類補完計画の全容を断片的に語る中、ゲンドウはヴンダーの主機に転用されている初号機の返還を要求します。

そこに、監禁措置から偶然解放されたシンジが現れます。しかし“父さん”という呼び名に応えることなく、ゲンドウは自ら第13号機に取り込まれます。そして第13号機は「ガフの扉」の“向こう側”……マイナス宇宙の世界へと入ってしまいました。

マイナス宇宙への潜航はヴンダーでも不可能であり、人類補完計画の阻止は絶望的となる中、シンジは自身がエヴァ初号機に搭乗し父ゲンドウを止めると告げます。それは自身が逃げ続けてきた“責任”を自らの意思によって負うことを意味していました。

マリがMark.09-Aを対処し艦の制御権を取り戻す中、一時はトラウマとなっていたDSSチョーカーを自らの意思で装着するシンジ。そこに彼の“贖罪”に納得できないミドリが現れ、シンジに銃口を向けます。

シンジという的を大きく外れる銃弾。ただその銃弾を放ったのは、ミドリではなくトウジの妹サクラが構えた拳銃でした。

その身を常に案じながらも、“恩人”であり“仇”でもあるシンジに対して抱いていた本心を吐き出しながら、サクラは撃ち続けます。その内の一発がシンジをかばったミサトの腹部に当たってしまい場は騒然しますが、サクラの本心を知ったミドリは自身の復讐心、そして暴走するサクラを止めます。

ようやく落ち着いたサクラに手当てを受けるミサト。そして保管されていた青いプラグスーツを装着し出撃しようとするシンジを、微笑みながら送り出します。

マリが乗る改8号機に運ばれ、第13号機が潜むマイナス宇宙へと突入するシンジ。“覚醒”を経た彼の初号機とのシンクロ率は「0」に限りなく近い数値……「∞(無限)」に至っていました。

第13号機に取り込まれたゲンドウ、純粋な魂と化しながらもシンジとの記憶を保ち続け、第13号機起動のためのシンクロを担っていたアヤナミと対面するシンジ。そして絶望の槍「ロンギヌスの槍」から変化した希望の槍「カシウスの槍」を持つ初号機、もう一本のロンギヌスの槍を持つ第13号機による戦闘が始まります。

現実世界と“神の世界”=“その現実世界には存在しない、その現実世界にとってはあくまでも「虚構」と認識される世界”であるマイナス宇宙をつなぐ「ゴルゴダオブジェクト」の作用により、次々と出現してゆくシンジの記憶から生み出された光景たち。現実と虚構の境界が曖昧になり続ける光景たちの中で、シンジが乗る初号機はゲンドウが宿る第13号機に圧倒されます。

ゲンドウは暴力と恐怖が決着の基準ではないとシンジに諭した上で、自身が進めていた新たなインパクト「アディショナル・インパクト」、その目的である“依代の願いに基づく現実/虚構世界の再構築”を語ります。

その頃、マイナス宇宙の外のヴィレメンバーは、2本の槍が人類補完計画ならびにインパクトを阻止する鍵であるものの、マイナス宇宙内のゲンドウの手により存在そのものを世界から消されかねない可能性に気づき、ヴンダー機体の一部を基にした新たな槍「ヴィレの槍/ガイウスの槍」の製造を試みていました。

初号機・第13号機での戦闘をやめ、ゲンドウとシンジは記憶の中のセントラルドグマへ。そこでシンジは、黒いリリスの姿をしたエヴァンゲリオンイマジナリー(以下、エヴァイマジナリー)を目にします。

そしてゲンドウ曰く「虚構としてのエヴァ」であるエヴァイマジナリーの仮面が外れ、“アヤナミレイ”に酷似した貌が露わになった瞬間、アディショナル・インパクトが始まりました。

ガフの扉を抜けて現実世界に姿を現すエヴァイマジナリー。エヴァインフィニティとMark.7の肉体は続々と“頭部なきアヤナミレイの肉体”へと変化していきます。

その様子を見つめる冬月のもとに、シンジの帰りを待っていたマリが現れます。冬月は「イスカリオテのマリア」と呼ぶマリに“彼女が欲しいもの”=“エヴァMark.10〜12”を譲り終えると、高過ぎるL結界密度の影響によりLCL化してしまいました。

ヴィレの槍が完成し、ミサトのみを残しヴィレメンバーが退艦する中、マリが乗る改8号機はエヴァMark.10〜12を次々と捕食。Mark.9-Aを含む4体のエヴァを取り込み、シンジ救出に際してのマイナス宇宙への再突入に備えます。

マイナス宇宙内、自身の願いを叶えるため暴走を続けるゲンドウを説得しようとするシンジ。その中で彼は「父のことを知りたかった」というゲンドウへの思いを口にします。そして、一度は喪失したはずのATフィールドが生じるほどに息子を無意識に恐れるゲンドウに対し、シンジは元々父の愛用品だったカセットレコーダーを返します。

両親の愛情を知らずに育ち、シンジ同様に他者と関わることを疎み苦しみ恐れた自身の少年時代。ありのままの自身を受け入れてくれた妻ユイとの出会い。そして、彼女を喪失したことで初めて知った孤独の苦しみをゲンドウは回想。自らの記憶の世界で幾度となくユイの名を呼びますが、彼女は現れません。

自身の弱さゆえにユイに会えないと落胆するゲンドウ。しかしシンジは、それはむしろゲンドウが自身の弱さを認めていないからだと答えます。

一方、マイナス宇宙の外に出現したエヴァイマジナリーに、ミサトが単身乗るヴンダーが激突。ヴィレの槍は無事マイナス宇宙へと突入……激突によるヴンダーの大爆発に飲み込まれる中、ミサトは一人残してしまう息子リョウジに謝るのでした。

“人の手によって造られた槍”であるヴィレの槍、何よりも命を落としたミサトの意思を受け取るシンジ。その様子を見たゲンドウは息子が“大人”になったことを思い知らされます。

母ユイを失くした息子シンジの存在を“父である自らに与えられた罰”と感じ、彼のことを恐れ避けていたゲンドウは、シンジに謝ります。その瞬間、シンジの心の中に存在していたユイの姿と再会。全てを悟ったゲンドウはシンジのもとを去ります。

一人になったシンジのもとに、『Q』終盤で亡くなったはずのカヲルが現れます。アスカやインパクトの犠牲となった全ての人々を助けたいと語るシンジの姿に、彼が“イマジナリー(虚構)”でなく“リアリティ(現実)”の中で立ち直ったのだと悟ります。

場面は変わり、第13号機に取り込まれたアスカは、「シキナミシリーズ」の複製体として生まれた自身の過去を回想していました。両親のことは何も知らず、愛用の人形と共にエヴァに乗るためだけに生きてきたアスカの心は、孤独を知り涙を流す幼少期に取り残されていました。しかし幼いアスカの前に人形のキグルミを着たケンスケが現れ、彼女を優しく励まします。

気づくとアスカは、「旧劇場版」シリーズの世界……ラストシーンで描かれた“サードインパクト中断後の赤い海の浜辺”に横たわっていました。そして同じく「旧劇場版」の世界に訪れたシンジに、自身のことを好きだと言ってくれたことへの感謝、ケンスケへの気遣いの言葉を告げられると、エントリープラグと共に現実世界へと送り返されました。

シンジはカヲルとの対話を続けます。“大人”になったシンジに対し、「生命の書」の作用により“繰り返される円環の物語”を認識し続けてきたカヲルは、彼を自らの手で“幸せ”にしようとし続けた結果、シンジにとっての幸せを誤解していたことに気づきます。

そしてあくまでも“相補性のある世界”を望むシンジに全てを託すと、自身のことを「渚司令」と呼ぶ加持と共にシンジのもとを去ります。

シャッターが下ろされたかと思うと、舞台は名もなき撮影スタジオへ。シンジは最後に取り残されたアヤナミと対面したのち、“新しい人間が生きられる世界”=“エヴァの存在しない世界”を依代として願い、「ネオンジェネシス(新世界の創造)」を試みます。

シンジは初号機に乗る自らを、第13号機もろともヴィレの槍で刺し貫こうとします。それはマイナス宇宙から脱出できなくなるというシンジの自己犠牲を意味していましたが、そこに初号機、或いはシンジの心の中にいたユイが現れ、シンジの役目を引き受けます。

初号機に取り込まれていたユイが自身と第13号機……その中に取り込まれていたゲンドウを刺し貫くと、これまで登場した全てのエヴァが次々と槍に貫かれ消失していきます。そしてエヴァインフィニティと成り果てていた全ての生命も、元の魂と形へと戻ります。

青い海の浜辺に佇むシンジ。新世界の創造により“エヴァの存在する世界”が“虚構”と化していく中、Mark機体を取り込んだ改8号機により、マイナス宇宙への再突入に成功したマリが迎えに来ました。

気づくとシンジは、駅のホームにいました。新世界=“エヴァの存在しない世界”が創造されたことで、エヴァの呪縛もない状態の彼の肉体は、14年の時を経て“大人”になっていました。

そして向かい側のホームには、アヤナミ(或いはアヤナミレイそのもの)やアスカ・カヲルなど、“この世界”で平穏そうに過ごす見知った人々の姿がありました。

やがて、シンジと共に無事“この世界”へたどり着いたマリがやって来ます。シンジは自身と同じく“エヴァの存在する世界”が“現実”にあったことを知るマリと共に、駅の外へと出ます。

そこには、エヴァの存在しない、しかし確かに平穏な世界が広がっていました。

映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の感想と評価

“「新劇場版」シリーズ=ループ世界説”は証明された?

映画『シン・エヴァンゲリオン』公開以前からファンの間で注目され続け、コラム第1回記事でも紹介・解説した「新劇場版=テレビアニメ版・旧劇場版のループ後世界orパラレルワールド説」。

その仮説において、「新劇場版=テレビアニメ版・旧劇場版のループ後世界説」こそが「新劇場版」シリーズの作品解釈として正しかったことが、『シン・エヴァンゲリオン』作中のカヲルのセリフ内に登場した「繰り返される円環の物語」という言葉によって証明されました。

テレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』と「旧劇場版」シリーズ、そして「新劇場版」シリーズと「物語」という名の世界を認識し続けてきたカヲルは、シンジを“幸せ”にしようと行動を続け、その度に物語からの“一時退場”としての死を経験してきました。

しかし、カヲルがなぜ「繰り返される円環の物語」を認識することができていたのか、そしてカヲルの正体とは結局何だったのかなど、依然として多くの謎が残っています。

まず「繰り返される円環の物語」を認識できていた理由として言及された「生命の書」なるアイテムとその作用。ゼーレ・ネルフ側の人間の過去の言動、何よりゲンドウの本作での言動から読み取れる“両組織も世界ループの事実を知っていた”という可能性、カヲルのことを「渚司令」と呼ぶ加持との関係性……。

「繰り返される円環の物語」と判明した“エヴァの存在する世界”、言い換えれば“全「エヴァ」シリーズの物語世界”の中で、カヲルとは一体どのような存在でありどのような役目を果たしていたのか、その謎は新たな考察・解釈の余地を生み出すことになりました。

エヴァを手放し“呪縛”を解放する物語

幾度もの世界ループを繰り返し、ついに自身の犯した罪と向き合い、自身にとっての“幸せ”を願うことに成功したシンジ。

それは、「エヴァ」シリーズにとっての“造物主”である庵野秀明らが生み出した物語世界において、常に世界の中心に立ち受難と苦痛を経験してきた“神児(シンジ/カミノコ)”が、この世界の罪を知り、“救世主(シュジンコウ)”としての役目を自覚したことで“シンの覚醒”に至ったという事実を意味しています。

そしてシンジが願ったのは、“エヴァの存在しない世界”という新世界の創造(ネオン・ジェネシス)でした。それはシンジ自身を、何よりも「エヴァ」シリーズの物語世界で悲惨な仕打ちを受け、罪を犯さざるを得なかった全ての登場人物たちを救うための願いでした。

しかし救われたのは、シンジや「エヴァ」シリーズの登場人物だけではありません。その救済には、『シン・エヴァンゲリオン』のマイナス宇宙における“虚構”の世界の一つ……“エヴァの存在する世界”の一つである、「エヴァ」シリーズの物語が“フィクション(虚構)”作品として制作・発表されてきたこの現実世界を生きる人々も、数に含まれているのです。

“ファン”=“エヴァの登場人物の一人”を救う希望

作品群として画面越しに「エヴァ」シリーズの物語を目にした人々は言わずもがな、物語の魅力に取り憑かれ多大なる影響を受けた人々、物語が原因で「争い(それは物理的な闘争だけでなく、心理的な“葛藤/憂鬱”も含む)」が生じたことで“愛するが故の苦痛”を味わってきた人々が、この現実世界には無数に存在します。

すなわち、フィクション作品として制作・発表されてきた現実世界に生き、まるで“いつまでも14歳の少年少女”かのように「エヴァ」シリーズに固執してきた人々もまた、シンジやレイ・アスカたち同様に“エヴァの存在する世界”の登場人物の一人、エヴァの“呪縛”に苦しんでいた人間の一人と捉えることができるのです。

“造物主”である庵野秀明らが見守る中、『シン・エヴァンゲリオン』終盤にてついに“少年”から“大人”の心へと成長し、思い続けてきた父母との決別も終えられたシンジは、“エヴァの存在しない世界”を新たに創造しました。

それは、「エヴァ」シリーズという「繰り返される円環の物語」に呪縛され続けてきた全ての人々に向けて、“救世主(シュジンコウ)”のシンジが最後の最後に見せてくれた「わずかな前進」という希望でもあるのです。

まとめ

以下は、コラム第3回記事でも紹介した、総監督・庵野秀明が『序』公開年の前年・2006年に発表した「所信表明」の一部です。

エヴァはくりかえしの物語です。
主人公が何度も同じ目に遭いながら、ひたすら立ち上がっていく話です。
わずかでも前に進もうとする、意思の話です。
曖昧な孤独に耐え他者に触れるのが怖くても一緒にいたいと思う、覚悟の話です。
同じ物語からまた違うカタチへと変化していく4つの作品を、楽しんでいただければ幸いです。
(「所信表明」より抜粋)

「くりかえしの物語」「意思(ヴィレ/WILLE)」「覚悟」「前進」……所信表明でも啓示されていた希望の結末を、『シン・エヴァンゲリオン』は「新劇場版」シリーズの最終作として、「エヴァ」シリーズの最終作として描き出したのです。

長きにわたって、現実世界を生きる人々を“登場人物”へと変えてしまっていた「エヴァ」シリーズという作品群。その罪を贖うために『シン・エヴァンゲリオン』ならびに「新劇場版」シリーズは制作され、「さようなら、全てのエヴァンゲリオン。」という言葉にふさわしい「エヴァ」シリーズからの決別をもって、ついに目的は果たされました。

一人の少年を巡る“神話”はようやく、“終劇”を迎えたのです。

次回の『終わりとシンの狭間で』は……

次回記事以降も、『シン・エヴァンゲリオン』のネタバレあり考察・解説を敢行。その第二弾として、第6回記事では本作のキーキャラクターの一人・アスカをピックアップ。

眼帯の下に隠された秘密と“使徒化”、「シキナミシリーズ」の複製体としての出生、ケンスケとの関係など、作中にて登場した様々な描写の意味やその真意を探っていきます。

【連載コラム】『終わりとシンの狭間で』記事一覧はこちら







編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、2020年6月に映画情報Webサイト「Cinemarche」編集長へ就任。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける。

2021年にはポッドキャスト番組「こんじゅりのシネマストリーマー」にサブMCとして出演(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介

関連記事

連載コラム

映画『ソニータ』レビュー解説。元難民の女性がラップに込めた思いとは|だからドキュメンタリー映画は面白い3

アフガンから逃れイランで暮らすラッパー志望の少女が、古い慣習による結婚を強要され、その反発心をラップにぶつける―。 『だからドキュメンタリー映画は面白い』第3回は、サンダンス映画祭ワールドシネマ・ドキ …

連載コラム

HOMESTAY(ホームステイ)ネタバレあらすじ感想と結末解説。森絵都の「カラフル」映画化の系譜から読み解く|Amazonプライムおすすめ映画館11

連載コラム「Amazonプライムおすすめ映画館」第11回 今回ご紹介するのは、直木賞作家・森絵都の小説『カラフル』をジャニーズのアイドルグループ「なにわ男子」の長尾謙杜主演で実写映画化した『HOMES …

連載コラム

『燈火(ネオン)は消えず』あらすじ感想と評価解説。香港映画の夜景を彩るネオンに纏わる夫婦愛をシルヴィア・チャンとサイモン・ヤムが魅せる|映画という星空を知るひとよ179

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第179回 中華圏を代表する映画賞・金馬奨で主演女優賞に輝き、第96回米アカデミー賞国際長編映画賞香港代表作品にも選ばれている香港映画『燈火(ネオン)は消えず』 …

連載コラム

映画『左様なら』あらすじと感想レビュー。少女の不在がもたらすものと“教室ごと”描く青春|銀幕の月光遊戯 38

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第38回 映像と音楽がコラボレーションした作品を送り出す若手作家の登竜門「MOOSIC LAB 2018」長編部門として制作された映画『左様なら』。 監督は本作が長編映画デ …

連載コラム

『コーマン帝国』感想レビューと内容解説。“B級映画の帝王”ロジャー・コーマンのスゴさに迫る!|だからドキュメンタリー映画は面白い5

低予算ながら奇抜なアイデアの数々で長年映画界を牽引してきた、映画プロデューサーの“インサイド・ヘッド”をのぞき見してみよう── 『だからドキュメンタリー映画は面白い』第5回は、2012年公開の『コーマ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学