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Entry 2021/01/06
Update

【シンエヴァンゲリオン考察】予告・特報3を解説2:シンジの“紫”の瞳が意味する擬似シン化の“先”|終わりとシンの狭間で2

  • Writer :
  • 河合のび

連載コラム『終わりとシンの狭間で』第2回

1995~96年に放送され社会現象を巻き起こしたテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』をリビルド(再構築)し、全4部作に渡って新たな物語と結末を描こうとした新劇場版シリーズ。

その最終作にして完結編となるのが、映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』です。


(C)カラー

本記事では連載コラム第1回に引き続き、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を予告編の映像から分析。「二つの異なる槍」の登場、シンジに現れた「ある変化」など、本編の内容や展開を予想しつつも考察・解説していきます。

【連載コラム】『終わりとシンの狭間で』記事一覧はこちら

映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の作品情報

【日本公開】
2021年3月8日(日本映画)

【原作・企画・脚本・総監督】
庵野秀明

【監督】
鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏

【総作画監督】
錦織敦史

【音楽】
鷺巣詩郎

【主題歌】
宇多田ヒカル「One Last Kiss」

【作品概要】
2007年に公開された第1作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』、2009年の第2作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』、2012年の第3作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』に続く新劇場版シリーズの最終作。

庵野秀明が総監督が務め、鶴巻和哉・中山勝一・前田真宏が監督を担当。なおタイトル表記は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の文末に、楽譜で使用される反復(リピート)記号が付くのが正式。

映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』予告編考察・解説

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』特報3

新たな「黒」のヴンダー

前作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(以下『Q』)にて反ネルフ組織「ヴィレ」が保有する巨大空中戦艦として活躍した「AAA ヴンダー」。しかし『シン・エヴァンゲリオン劇場版』予告編の01分11秒では、「AAA ヴンダー」とは異なる機体である「黒いヴンダー」の出現が描かれています。

まず最初に浮かんでくる疑問は、「この『黒いヴンダー』はどのEVAシリーズ機体を基に作られたのか?」。「AAA ヴンダー」そのものは、『Q』序盤にて展開された「US作戦」にてネルフが衛星軌道上に封印していたのを強奪した初号機を「主機(メインエンジン)」を利用しているため、この「黒いヴンダー」でも同様に何らかのEVAシリーズ機体を基に動かしている可能性が高いのです。

その候補は、「AAA ヴンダー」の「本来の主」であると言われているEVANGELION Mark.09、ヒト型の姿を失い多種多様な姿で運用されていたEVANGELION Mark.04、「鎌倉ぼんぼり祭2020」でのデザイン公開で話題となったEVANGELION Mark.10など多数ですが、『Q』にて初号機に酷似した容姿と「第○○」という使徒に酷似した呼称を露わにし、予告編内にも登場した第13号機が可能性が高いのではとファン間では囁かれています。

そして何よりも重要な疑問は「誰が『黒いヴンダー』に搭乗しているのか?」。実はこの「黒いヴンダー」は本作の特報3の00分28秒にも登場しており、「AAA ヴンダー」に対し攻撃をしている点からも「ヴィレ」とは異なる勢力が操っていることは明白となっています。そして「ヴィレ」と唯一敵対し、「黒いヴンダー」を新造できる技術を持ち得る勢力は「ネルフ」の他にありません。つまり、「ネルフ」として暗躍を続けているゲンドウと冬月らが「黒いヴンダー」に搭乗している可能性が高いのです。

初号機と13号機の対決

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』予告編

予告編の01分09秒では、前作『Q』にてシンジがカヲルと共に搭乗した第13号機が登場。形状から恐らく「ロンギヌスの槍」であろう一本の槍を手にしたその姿には、誰もが不穏を感じたはずです。そしてその直後の01分10分に映し出されるのが、互いに異なる槍をもって市街での戦闘を繰り広げる、第13号機と初号機の姿です。

この映像からまたもや浮かんでくる疑問は、「誰がそれぞれの機体に搭乗し、戦っているのか?」。連載コラム第1回でも紹介した通り、予告編00分57秒の映像から「シンジが再びエヴァに乗る」ということは明らかであるものの、「どの機体に搭乗しているのか?」は明確には描かれていません。

ただ『シン・エヴァンゲリオン劇場版』がシリーズ完結作である以上、「シンジがテレビアニメ版から乗り続けてきた初号機に乗らないまま、エヴァが完結を迎える」とは考えにくいのも確かです。また「シンジが初号機に再び乗り戦う姿」を一目観ずに、「エヴァの終焉」に期待と不安が膨らみ続けるファンたちが満足するとは到底思えません。

では初号機に搭乗しているのがシンジと仮定した場合、第13号機には誰が乗っているのか。やはり前作『Q』にてシンジと共に第13号機へ搭乗し、予告編00分55秒でもその姿が描かれているカヲルの可能性が高いです。

しかし、カヲルが第13号機に搭乗してまで初号機及びシンジと対決する光景は、彼が『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(以下『破』)エンドロール後に語った「今度こそ君を幸せにしてみせる」というセリフ、『Q』におけるシンジへの献身的な態度を見ると想像しにくいことは否定できません。

強いてその理由を挙げるならば、やはりカヲルが『Q』にてゲンドウの策略により「第1の使徒」から本来存在しないはずの「第13の使徒」へと堕とされたこと、カヲルが第13号機のエントリープラグ内にて死亡したことが関係しているのではないでしょうか。

ロンギヌスとカシウス、二本の異なる槍

そして前述の通り、予告編01分10分にて戦闘を繰り広げていた第13号機と初号機それぞれの手には、異なる形状の槍が握られています。

第13号機が握るのは、テレビアニメ版・旧劇場版・新劇場版と全シリーズにて幾度となく描かれてきた「ロンギヌスの槍」。ATフィールド(全ての生命体が、他者を拒絶し自己の肉体や精神を保持する為に有する“心の壁”)を打ち破り、アンチATフィールド(生命体以前の原初の姿へと回帰する力、いわば“生命体としての死”を与える力)により対象に死をもたらす機能を持つ槍です。

一方で初号機が握るのは、『破』エンドロール後にEVANGELION Mark.06に乗るカヲルが、疑似シン化第2形態にまで到達した初号機を貫いた「カシウスの槍」。『Q』ではカヲル曰く「ロンギヌスの槍」を含めて「第13号機とセットで使えば世界の修復も可能」だとされることから、その機能は「ロンギヌスの槍」の機能とは対極のもの=「ATフィールドをもたらす力(“生命体としての生”を与える力)」ではないかという考察が挙がっています。

それでは何故「第13号機が「ロンギヌスの槍」を、初号機が「カシウスの槍」を持って戦う」という予告編で描かれている状況が生まれたのでしょうか。

そもそも、予告編01分10分の背景に映し出されている市街は連載コラム第1回でも触れた「コア化」していない風景であることから、この戦闘はパリ同様に「ヴィレ」が復元を完了した世界、或いは『Q』では失敗に終わった「世界の修復」が行われた世界であると推測できます。

ならば元の姿へと戻った世界で、何故第13号機と初号機は二本の槍をもって戦闘をしなくてはならないのか。その理由の考察において「『ロンギヌスの槍』を振る第13号機には、もう一度「インパクト」を起こそうと目論む誰かが搭乗しているのでは?」と想像するのは容易であり、カヲルの可能性が高かった第13号機への搭乗者にも、新たな「候補者」が立ち現れてくるのです。

「紫」へと変わるシンジの瞳

そして予告編終盤の01分16秒では、プラグスーツを着たシンジの顔と、決して見逃すことのできない「ある変化」が映し出されています。覚悟に満ちたシンジの瞳の色が、本来の黒色から「紫」へと変化するのです。

シンジの瞳の色が変化する描写は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が初ではなく、『破』終盤でも第10の使徒に取り込まれたレイを救おうとし、初号機を疑似シン化第1覚醒形態へと到達させた際には「赤色」に変化しています。その色は疑似シン化第1覚醒形態の初号機の眼と同じ色であることから、「擬似シン化」はシンジとのシンクロがもたらしたものであるとされています。

「擬似シン化」時には「赤色」へと変化したシンジの瞳。それを踏まえると、予告編内におけるシンジの瞳の「紫色」への変化も、初号機とシンジの間で何かしらの状態変化が起きたことが推測できます。また「赤色」に欠けていた「青色」が加わり融合してはじめて「紫色」が生じることから、「紫色」は赤色が示す「擬似シン化」に欠けていたものが加わることで新たに生じた状態変化=「擬似」ではない「シン化」を象徴しているのではないでしょうか。

果たしてシンジの瞳の「紫色」への変化は、予想通り「シン化」の表れなのか。もしそうだとすれば、シンジと初号機は他に一体どのような変化が訪れたのか。それは本編にて明らかになるはずです。

まとめ

コラム第1回、第2回の2記事に渡って、予告編によるストーリーの予想・考察を行ってきた『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。しかし予想・考察を進めれば進める程謎は深まっていき、その結果多くの方が「早く本編を観たい」という想いがより一層募ったはずです。

予告編にも登場した「さようなら、全てのエヴァンゲリオン」というシンジの言葉は、同時にテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』以来エヴァと向き合い続けてきた総監督・庵野秀明自身の言葉であると言えます。

そのような別れの言葉にふさわしい結末を、新劇場版シリーズ及び「エヴァンゲリオン」シリーズの完結編『シン・エヴァンゲリオン劇場版』はエヴァを愛する人々にどう提示してくれるのか。それは、本作の全国ロードショー公開をもって明らかになります。

次回の『終わりとシンの狭間で』は……

次回記事では、2012年の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』劇場公開時に初めて発表されて以降、2021年現在に至るまで多くの議論がなされている『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のタイトルそのものを解説。

様々な予想・仮説を紹介しつつも、そのタイトルに込められた意味を考察します。

【連載コラム】『終わりとシンの狭間で』記事一覧はこちら






編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、2020年6月に映画情報Webサイト「Cinemarche」編集長へ就任。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける。

2021年にはポッドキャスト番組「こんじゅりのシネマストリーマー」にサブMCとして出演(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介

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