Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

Entry 2021/10/19
Update

韓国映画『ビースト』ネタバレ感想と結末の評価考察。イ・ソンミンがサスペンスノワールで新たに魅せる“凄み”

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

イ・ソンミンとユ・ジェミョン、演技派の名優が魅せる韓国ノワール

フランス映画『あるいは裏切りという名の犬』(2004)を『さまよう刃』(2014)のイ・ジョンホ監督が大胆に翻案した映画『ビースト』。

かつては互いを認め合い、相棒同士だったハンス(イ・ソンミン)とミンテ(ユ・ジェミョン)は昇進をかけて連続猟奇殺人犯を追っていました。しかし、2人の刑事の確執と野心がぶつかり、運命の歯車は狂い始め思いも寄らない事態へと加速していく……。

正義と悪の狭間で揺れる刑事を『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』(2019)のイ・ソンミン、ドラマ『梨泰院クラス』(2020)のユ・ジェミョンの名優が迫真の演技で魅せます。

映画『ビースト』の作品情報


(C)2019 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & STUDIO&NEW. All Rights Reserved.

【日本公開】
2021年(韓国映画)

【原題】
비스트(英題:The Beast)

【監督・脚本】
イ・ジョンホ

【キャスト】
イ・ソンミン、ユ・ジェミョン、チョン・ヘジン、チェ・ダニエル

【作品概要】
フランス映画『あるいは裏切りという名の犬』(2004)を大胆に翻案し、正義と悪の狭間で揺れる人間の業を描きだした韓国ノワール映画『ビースト』。監督を務めたのは、『さまよう刃』(2014)、『ベストセラー』(2010)のイ・ジョンホ。

事件解決のためなら手段を選ばないハンスを演じたのは、『KCIA 南山の部長たち』(2021)、『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』(2019)、『目撃者』(2019)のイ・ソンミン。

冷静沈着なミンテを演じたのは、ドラマ『梨泰院クラス』(2020)、『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』(2020)、『風水師 王の運命を決めた男』(2019)のユ・ジェミョン。待機作は『声もなく』(2022)。

さらに『白頭山大噴火』(2021)、『詩人の恋』(2020)のチョン・ヘジン、『悪のクロニクル』(2015)のチェ・ダニエルなどが出演。

映画『ビースト』のあらすじとネタバレ


(C)2019 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & STUDIO&NEW. All Rights Reserved.

仁川(インチョン)で行方不明になった女子高生の遺体が見つかり、猟奇殺人事件として捜査が始まります。

捜査1班を率いる事件解決のためなら手段を選ばないハンス(イ・ソンミン)と、2班を率いる冷静沈着なミンテ(ユ・ジェミョン)。かつて相棒同志であった2人は、昇進をかけて捜査に臨みます。

ハンスは女子高生が通っていた教会の助祭に犯罪歴があることから容疑者として連行しますが、ミンテは資料を読み込み冤罪を確信すると独断で釈放。捜査は振り出しに戻り、ハンスとミンテの確執は広がっていきます。

その後「情報がある」と仮出所した情報屋チュンべ(チョン・ヘジン)から呼び出されたハンスは、言われるまま車に乗り込みます。ハンスが車に乗るとチュンべは突如ハンスの車の方に向かい、ハンスの拳銃を奪いますがハンスは気づいていません。

チュンべは路地裏で車を止め、待ち伏せしていた男を射殺します。射殺したのはチュンべを陥れ、刑務所におくった麻薬の売人の男でした。

チュンべの予想外の行動により、殺人事件に関わってしまったハンス。怒りを露わにするハンスにチュンべは隠蔽工作に協力してくれたら、猟奇殺人事件の情報を提供すると言います。

チュンべと車を海に沈め、隠蔽工作に加担したハンスは猟奇殺人犯の居所の情報をチュンべから得たのでした。

猟奇殺人犯がいるアパートには麻薬密売の大物や不法滞在者など犯罪者が潜伏し、突入のタイミングをはかる機動隊、捜査1班、2班には緊張感が漂います。そこに広域捜査隊がやってきます。

広域捜査隊は長い間アパートを見張り、麻薬密売組織の捜査をしていました。上層部より撤退を命じられた捜査班はやむなく撤退の準備を始めていましたが、突如マイクを外したミンテが一人で突入してしまいます。

慌てて捜査官が押しかけ、アパートの住人らも警官がやってきたことに気づいたことで、警察、犯罪者、機動隊が入り乱れ大騒動に。ミンテやハンスらは猟奇殺人犯の部屋に押し入ります。

手錠をかけ捕まえようとした瞬間、犯人は抵抗し、一人の警官を道連れにアパートから身を投げてしまいます。

犯人の自殺により事件は解決に向かうかのように思えた矢先、ハンスが隠蔽したはずの車が海から引き上げられてしまいます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ビースト』ネタバレ・結末の記載がございます。『ビースト』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & STUDIO&NEW. All Rights Reserved.

引き上げられた車の中にある拳銃が特定されてしまうことを恐れたハンスは、証拠を隠滅しようと暴走していきます。そして鑑識である妻に勘づかれます。

「全て俺が解決するから」自分自身に言い聞かせるように躍起になっていくハンス。

一方、猟奇殺人犯の逮捕で手柄をあげられなかったミンテは、チュンべからハンスが事故現場にいたことを知り、何とか証拠を押さえてハンスを追い詰めようとします。

また猟奇殺人事件は解決したかのように見えましたが、アパートの現場を検証していくうちに、現在行方が分からない犯人の父親が真犯人である可能性が出てきました。

ハンス率いる捜査1班は真犯人の行方を追いますが、なかなか見つけられません。

情報屋から得た情報を元に、動物病院に真犯人が潜んでいることを知ったハンスは単独で動物病院に突入します。しかし真犯人に薬を打たれ、次第に体が痺れ、最後には呼吸も止まってしまう窮地に立たされます。

苦しみうめくハンスを嘲笑うかのように、真犯人はカセットテープを流します。そこから流れてきたのは妻の呻き声でした。真犯人の魔の手はハンスの妻に向かっていたのです。

怒りと絶望でハンスは慟哭し、体が言うことをきかないなか、執念で真犯人を追い詰め、射殺してしまいます。

そこにミンテがやってきます。真犯人に向けていた銃をミンテに向け、なぜ裏切ったのかと言います。

かつて相棒同士だったミンテとハンス。狂った歯車はもう元には戻らず、薬が全身に回ったハンスは倒れ、ミンテはハンスを静かに見つめていました。

映画『ビースト』の感想と評価


(C)2019 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & STUDIO&NEW. All Rights Reserved.

韓国映画らしい絶妙な味付け

フランス映画『あるいは裏切りという名の犬』(2004)を大胆に翻案した映画『ビースト』。

犯人を追うことに躍起になり、かつて相棒同士であった2人の確執がいつしか刑事としての“正義”と“信念”を大きく歪め、破滅へと向かっていく……。

イ・ソンミン演じるハンスは事件解決のためなら手段を選ばず、情報屋とつながっています。犯罪者はクズだから何をしてもいいとすら言います。一方、ミンテは冷静に行動し、強硬手段に出ることはありませんが、それゆえに検挙率ではハンスに遅れをとり、リーダーには向かないと思われています。

犯人を捕まえたいと思うあまりに情報屋の殺人の隠蔽に関わってしまったハンスと、ハンスのように強硬手段にでてアパートに突入した結果、容疑者が身投げをして部下を失うことになってしまったミンテ。

行きすぎた“正義”と“確執”が一線を越え、戻れないところまできてしまう……“正義”の側にいるべきはずの刑事の葛藤と一歩越えてしまったら底無し沼のように戻れず、罪を重ねてしまう様子は、韓国映画においても非常によく描かれてきました。

アシュラ』(2017)ではチョン・ウソン演じる汚職刑事が尻拭いをしてきた市長と、刑事の弱みを握る検察に板挟みにされ破滅していく様が描かれており、イ・ソンギュン主演の『最後まで行く』(2015)もひき逃げ事故の隠蔽工作を図った刑事が窮地に追い込まれていく姿が描かれています。

また『あるいは裏切りという名の犬』(2004)ではなかった、猟奇殺人犯を追うという物語の軸も韓国映画らしさ、と言えるでしょう。

猟奇殺人犯を描いた映画といえばやはり『チェイサー』(2008)が頭に浮かぶでしょうか。容赦ないバイオレンスな描写も特徴です。

イ・ソンミンの新たな魅力と凄み


(C)2019 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & STUDIO&NEW. All Rights Reserved.

舞台俳優として活躍し、ドラマ『ミセン 未生』(2014)などで知名度をあげ、数々の映画に出演してきたイ・ソンミン。

北への潜入を命じられた韓国のスパイの命を懸けた工作活動を描いた『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』(2019)では北朝鮮の高位幹部であるリ・ミョンウンを演じ高評価を受けました。

KCIA 南山の部長たち』(2021)では暗殺された朴正煕大統領、『目撃者』(2019)では殺人現場を目撃してしまったサラリーマンなど演じてきた役柄は幅広く多才さが窺えます。

そして本作では行きすぎた“正義”故に我が身すら破滅させてしまう刑事を鬼気迫る演技で魅せます。

ハンスは事件解決のためなら手段を選ばず、出所した男に覆面をして暴行し、悪人は二度と刑務所から出てはいけないという一歩間違えば危険な“正義”感を持った人物です。

ハンスの行きすぎた“正義”を上が目をつぶっているのは、ハンスの刑事としての能力を買っているからなのでしょう。ですが、かつて相棒であったミンスはハンスが悪人なのか善人なのか分からなくなると危険視しています。

殺人事件の隠蔽工作に関わってしまったハンスは、自分につながる証拠を隠そうと更に罪を重ねていきます。罪を重ねていくうちに疑心暗鬼になり、やつれ、目だけがぎらついた恐ろしい形相になっていくハンス。

自分が解決する」そう言い聞かせるかのように何度も呟き、なんとかしようと奔走する姿は人間の業の深さを思わせるような恐ろしさがあります。

薬を打たれ、身動きが取れなくなっていくなか、妻の身に起こったことを知ったハンスの慟哭、執念に突き動かされ、犯人を追い詰める姿はまさに「ビースト)」のようです。イ・ソンミンの役者としての凄みを感じさせる映画でした。

まとめ


(C)2019 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & STUDIO&NEW. All Rights Reserved.

フランス映画『あるいは裏切りという名の犬』(2004)を猟奇殺人犯や課長というポストを狙う刑事たちの確執など韓国映画らしい味付けで描き上げた映画『ビースト』。

イ・ソンミン、ユ・ジェミョンの演技派の名優が対照的な刑事を演じ、犯人を追ううちに一線を越え戻れなくなっていく人間の業を凄みのある演技で魅せます。





関連記事

サスペンス映画

映画『動物界』 あらすじ感想評価。カンヌが認めたアニマライズ・スリラーコロナとは⁈普遍的視点への異議を問う

映画『動物界』は2022年11月8日(金)より全国ロードショー! 時代性を感じさせる、「奇病に翻弄される人々」から人間の本質を描いた映画『動物界』。 鳥や犬猫、爬虫類などの動物に変化してしまうという原 …

サスペンス映画

映画『ミスター・ガラス』ネタバレあらすじと感想レビュー。内容解説のアンブレイカブルとスプリットの事前学習も

M.ナイト・シャマラン監督待望の作品『ミスター・ガラス』は、2019年1月18日(金)より公開! M.ナイト・シャマラン監督の『アンブレイカブル』『スプリット』の後受け継ぐ三部作の完結編。 『アンブレ …

サスペンス映画

映画『三つ数えろ』ネタバレ感想と結末解説のあらすじ。原作「大いなる眠り」をハワード・ホークスが最高傑作のハードボイルドに仕立てた名画

ハンフリー・ボガート×ローレン・バコール共演ノワール 『三つ数えろ』はレイモンド・チャンドラー原作小説の「フィリップ・マーロウ」シリーズ長編一作目『大いなる眠り』の映画化作品で、ハードボイルドを語る上 …

サスペンス映画

【ネタバレ 鳩の撃退法 考察解説】タイトルの意味は偽札じゃない?幸地秀吉と“鳩”の真の正体に迫る

謎に包まれた『鳩の撃退法』のタイトルの意味を考察! 藤原竜也演じる元小説家が執筆した小説を巡り「現実」と「想像」が入り乱れる物語が展開される映画『鳩の撃退法』(2021)。 本作では物語の一応の解決は …

サスペンス映画

【ネタバレ】母性|映画あらすじ感想と結末の評価解説。ハコヅメ戸田恵梨香×永野芽郁が“母性”に呪われた母娘を演じる!

母親と娘、それぞれの目線で語られる親子をつなぐ母性とは? 女子高生が自宅の庭で死亡する、ショッキングな事件が発生したことで語られる「ある出来事」を、母と娘それぞれの証言で構成されるミステリードラマ『母 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学