人間の業に迫るスリリングなクライムストーリー
『七人の侍』(1954)の巨匠・黒澤明監督が初めて本格的な犯罪サスペンスに挑んだ意欲作です。
数々の黒澤監督作品で主役を務める三船敏郎が、主人公・村上刑事を演じます。バディとなるベテラン刑事役に、同じく黒澤組の志村喬。
バスの中でコルト銃を盗まれてしまった若手刑事の村上。必死で捜し回りますが、やがて彼のコルトが犯罪に使われてしまいます。頭と足を使って、地道に必死で犯人の足跡をたどる姿に心揺さぶられる名作の魅力をご紹介します。
映画『野良犬』の作品情報

(C)1949 TOHO CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
【公開】
1949年(日本映画)
【監督】
黒澤明
【脚本】
黒澤明、菊島隆三
【編集】
後藤敏男
【キャスト】
三船敏郎、志村喬、淡路恵子、木村功、千石規子、三好栄子、河村黎吉、千秋実
【作品概要】
『七人の侍』(1954)の巨匠・黒澤明監督作品。黒澤が初めて挑んだ本格犯罪サスペンスです。真夏の都会の灼熱の暑さが緊迫感を生み出し、雷雨との対比など切れ味鋭い演出に圧倒されます。
拳銃を奪われた刑事が、ベテラン刑事と共に犯人を追い詰める過程を、戦後の闇市やスラム街など猥雑な風景を舞台に描きます。刑事が地道な捜査を重ねて犯人に迫る刑事ドラマの原点といわれ、その後多くの作品に影響を与えました。
渡哲也主演のリメイク版(1973)と江口洋介主演のTVドラマ版(2013)が製作されています。
黒澤映画になくてはならない俳優・三船敏郎と志村喬が、主人公の刑事コンビを演じます。当時16歳の淡路恵子が共演。
映画『野良犬』のあらすじとネタバレ

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暑い夏の日の午後、射撃練習を終えた若手の刑事・村上は、満員のバスに乗り込み帰路につきました。しかし、ポケットに入れたコルト銃を車内で盗まれてしまいます。慌てて犯人らしき男を追いましたが、結局路地裏で見失いました。
コルトには実弾が7発入っていました。村上はコルトを捜すために復員兵の姿になって闇市を歩き回ります。何日も歩き回った末、とうとうピストル屋の女に接触してつかまえました。
しかし、現場に来ていた売人の男は、女が捕まるのを見て逃げてしまいます。
やがてそのコルトを使った強盗事件が起き、責任を感じた村上は辞表を提出しました。しかし、上司の中島警部はその辞表を破り捨て、ベテランの佐藤刑事と組んで捜査をするように言います。
映画『野良犬』の感想と評価

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消えた拳銃を追うスリリングなサスペンス
戦後の混沌とした町と社会を背景に描く本格クライムサスペンスです。黒澤明ならではの骨太な味わいが素晴らしく、後に数々の作品に大きな影響を与えました。
真夏のうだるような暑さに人々が追い詰められてイライラが蓄積していく様が描かれ、いつ何が暴発するかわからない緊迫感を感じさせます。
犯人を追い詰める日に訪れる、激しい豪雨との対比に圧倒されることでしょう。
三船敏郎演じる若手の刑事村上が、満員バスでコルト銃を盗まれてしまうところから物語は始まります。泥臭い捜査で銃を追う姿に、胸が熱くなります。
村上を導く志村喬演じるベテランの佐藤刑事もまた、足と頭を使って犯人の足取りを丹念に追います。人々の幸福を守るために苦労を厭わず、執念深く犯人を追う様に心が揺さぶられるのです。
拳銃の行方を追うスリリングな展開に加え、闇市の様子や人々が熱狂する満員の球場、駅の待合室など、当時を映し出した映像もとても興味深い作品です。
激しいシーンに、素朴で穏やかな音楽を流す手法も独特です。村上と遊佐の決闘シーンでは、素人女性の弾くのどかなピアノソナタが窓から流れてきます。
また、遊佐を逮捕した後には、幼稚園児が「ちょうちょ」を歌いながら通り過ぎます。その歌声を聞いて、まるで獣が咆哮するかのように大声で泣き始める遊佐。彼の心情は想像するほかありませんが、自分がもう昔には戻れないことを痛感したゆえだったのかもしれません。
運命を分けた刑事と犯人の分岐点

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本作で印象的に描かれているのは、村上刑事と犯人・遊佐との悲しい共通点です。
二人は復員してきた際、列車の中で全財産を入れたリュックを盗まれたという同じ経験をしています。
それをきっかけに遊佐が投げやりになって悪い道へと転げ落ちたことを、遊佐の姉や女友だちのハルミが証言しました。
一方の村上刑事は、ベテランの佐藤刑事に、自分も同じくリュックを盗まれて自暴自棄になりかけたけれど、逆のコースを選んで刑事になったと話します。
分岐点を迎えた後に、そのまま堕ちていく者と、何くそと踏ん張って正しい道を志す者。異なる人生を歩んだ二人の姿が、残酷なまでに生々しく描かれます。
このシーンはとても感慨深いセリフに満ちています。佐藤は、「悪い奴は悪いと憎む。大勢の幸福を守ったと確信がなければ刑事なんて救われない」と話すのに対し、村上は「自分は犯人の気持ちがわかってしまう」と答えます。戦争を経験した村上は、人間が簡単な理由で獣になるのを見てきたと言うのです。
佐藤も本当は犯人の気持ちや堕ちていった課程も理解していたことでしょう。しかし、それらに目をつぶらねば刑事の仕事は務まらないことを、年を重ねて理解していました。
ラストシーンで、佐藤は村上に向かい「遊佐のことは自然に忘れるよ」と諭します。村上も経験を積むうちに自分と同じ考えに変わっていくだろうこと、そしてそうすることで村上が今後も刑事を続けていけるだろうことを予言したのかもしれません。
まとめ

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若き日の三船敏郎が、がむしゃらな若手刑事を等身大で熱く演じるクライムサスペンスの名作『野良犬』。
老獪な刑事・佐藤を演じる志村喬の、のらりくらりとしながら真実に突き進む姿も素晴らしく、とても見応えある作品となっています。
未成熟な者の持つ危なっかしさと、成熟した者の持つ鋭い目。佐藤が若くまっすぐな村上を慈しみ、経験を積んでいつか優れた刑事になることを予感しているのが伝わってきます。
師弟の温かな関係こそが、本作を名作たらしめる原動力といえるのかもしれません。



































