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『エドガルド・モルターラ』あらすじ感想と評価解説。“ある少年の数奇な運命”をあのスピルバーグも映画化を希望した衝撃の少年拉致事件

  • Writer :
  • 松平光冬

イタリア史上最大級の波紋を呼んだ誘拐事件を映画化

第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作の映画『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』が、2024年4月26日(金)より東京・YEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショーされます。

『眠れる美女』(2013)、『シチリアーノ 裏切りの美学』(2020)で知られるイタリアの巨匠マルコ・ベロッキオ監督が、19世紀のイタリアで発生した男児拉致事件に迫った衝撃作の見どころをご紹介します。

映画『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』の作品情報


(C)IBC MOVIE / KAVAC FILM / AD VITAM PRODUCTION / MATCH FACTORY PRODUCTIONS (2023)

【日本公開】
2024年(イタリア・フランス・ドイツ合作映画)

【原題】
Rapito(英題:Kidnapped)

【監督・脚本】
マルコ・ベロッキオ

【製作】
ベッペ・カスケット、シモーネ・ガットーニ、パオロ・デル・ブロッコ、ダニエラ・チェゼッリ

【製作総指揮】
アレッシオ・ラッツァレスキ

【共同脚本】
スザンナ・ニッキャレッリ、エドゥアルド・アルビナティ

【編集】
フランチェスカ・カルベリ

【キャスト】
パオロ・ピエロボン、ファウスト・ルッソ・アレシ、バルバラ・ロンキ、レオナルド・マルチーズ、アンドレア・ゲルペッリ、コッラード・インベルニッツィ、フィリッポ・ティーミ、ファブリツィオ・ジフーニ

【作品概要】
『眠れる美女』のイタリアの巨匠マルコ・ベロッキオ監督が、19世紀半ばのイタリア・ボローニャで発生した男児拉致事件を映像化。

パオロ・ピエロボン、ファウスト・ルッソ・アレシ、バルバラ・ロンキら主要キャストは、『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』(2011)、『甘き人生』(2017)といったベロッキオ監督作にも出演。

2023年の第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品され、2023年ナストロ・ダルジェント賞で作品賞、監督賞、主演女優賞などを含む7部門を受賞。

日本では同年の第36回東京国際映画祭ガラ・セレクション部門で『Kidnapped(誘拐)』の英題で出品され、2024年4月26日(金)に一般公開されます。

映画『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』のあらすじ


(C)IBC MOVIE / KAVAC FILM / AD VITAM PRODUCTION / MATCH FACTORY PRODUCTIONS (2023)

1858年、ボローニャのユダヤ人街で、ローマ教皇ピウス9世直属の兵士たちがモルターラ家に突如として押し入ります。枢機卿の命令で、7歳になる息子エドガルドを連れ去りに来たのです。

状況を把握できないエドガルドの父モモロと母マリアンナは、息子を取り戻すためにあらゆる手を尽くします。世論と国際的なユダヤ人社会に支えられ、モルターラ夫妻の闘いは急速に政治的な局面を迎えることに。

しかし教会と教皇は、ますます揺らぎつつある権力を強化するために、エドガルドの返還に応じようとせず…。

映画『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』の感想と評価


(C)IBC MOVIE / KAVAC FILM / AD VITAM PRODUCTION / MATCH FACTORY PRODUCTIONS (2023)

巨匠スピルバーグも映像化に動いた衝撃の拉致事件

19世紀半ばのイタリア・ボローニャで、ローマ教皇ピウス9世から派遣された兵士たちが、ユダヤ人商人のモモロ・モルターラ家に押し入り、7歳の息子エドガルドを強引に連れ去りました。

息子奪回のためあらゆる手立てを講じたモモロと妻マリアンナと、時の権力強化のため返還に応じない教会側の争いにまで発展したこの「エドガルド・モルターラ誘拐事件」は、時の皇帝ナポレオンやロスチャイルド家らを巻き込み、イタリアを飛び越え全世界に波紋を呼びました。

この事件の映像化にまず名乗りを上げたのが、ユダヤの血筋を引くスティーヴン・スピルバーグ監督。一説にはピウス9世役に『ブリッジ・オブ・スパイ』(2016)のマーク・ライランス、青年期のエドガルド役に『カード・カウンター』(2023)のオスカー・アイザックをキャスティングして企画を進めようとするも、少年期のエドガルド役に相応しい子役俳優が見つからず断念したとされます。

最終的に映画化を実現させたのは、イタリア映画界の巨匠と称されるマルコ・ベロッキオ。ポリティカルサスペンスやロマンスなど、ジャンルに囚われない作品をこれまでに発表してきた彼は、160年以上前に母国で起きたこの事件を、「絶対原理の名のもとに行われた犯罪」であり、「イタリアの物語はイタリア語で語られるべき」と強い関心を示したのです。

強大な組織に潜む歪み

第36回東京国際映画祭で行われた『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』プロデューサー、パオロ・デル・ブロッコの質疑応答

なぜユダヤ人のエドガルドは、突如としてピウス9世に連れ去られてしまったのか? 実はエドガルドは生後間もなくして、キリスト教徒のベビーシッターから秘密裏に洗礼を授けられていました

カトリック教会法においては、非キリスト教徒はキリスト教徒を育てる権限を有しないと定めており、「一度でも洗礼を受けた者は永遠にキリスト教徒である。そのため、異教徒であるユダヤ人がエドガルドを育てるわけにはいかない」として、強硬手段に出たのです。

「神の思し示し」という名目で行われたエドガルドの連れ去り。しかし、本作の原題『Rapito』や英題『Kidnapped』が示すとおり、それは「誘拐」以外の何物でもありません。

マルコ・ベロッキオは絶対権力を持つ組織に潜む歪みへの追究にこだわる監督で、これまで自作で描いた組織は宗教、国家、マフィア、テロリストなど多岐に渡ります。

『シチリアーノ 裏切りの美学』では殺された家族や仲間の敵討ちとして属するマフィアを裏切る男を描き、1978年のアルド・モーロ元首相誘拐殺害事件を題材とする『夜よ、こんにちは』(2006)と『夜のロケーション』(2023)では、極左テロ組織や共産主義者、ローマ教皇側といった多角的視点で事件の全容を活写しました。

ナポレオン戦争後のヨーロッパ中に広まったリベラルな自由主義思想に押されつつあったピウス9世。なんとか教皇領の確保と自らの権威を誇示すべく、エドガルドを実の家族から引き離し、新たな家族の下でキリスト教徒として育てようとする彼の思惑を、ベロッキオはそのまま組織の歪みと結びつけます。

権力とは、宗教とは、神とは、そして家族とは何かを問い続ける姿勢は、御年85歳となっても不変です。

まとめ


(C)IBC MOVIE / KAVAC FILM / AD VITAM PRODUCTION / MATCH FACTORY PRODUCTIONS (2023)

モルターラ家以外にも、「洗礼を受けた」として教会側に子どもを連れ去られたユダヤ人家族は多数いたとされます。

2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻が勃発して以降、ロシア兵がウクライナの子どもの移送を強制的に開始。名目上は「戦地孤児たちの保護のため」としているも、その実は里子や養子に出され、養護施設でウクライナ語の使用を禁じられてロシア語を学ばされ、さらにはロシア兵の軍事訓練を受けさせられていることが明るみとなりました。

状況は違えど、誘拐した子どもの“洗脳”は今でも行われているのです。

「突き詰めていくと、合理的な説明をすべて覆す人物像が浮かび上がって来る」とベロッキオが語るように、キリスト教に“洗脳された”エドガルドの顛末は、観る者に驚きを与えるはず。

現代にも通じる看過できない事件として、チェックしたい一本です。

映画『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』は2024年4月26日(金)より東京・YEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー

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