名優ソル・ギョングとイ・ソンギュン共演、大統領を目指す男とその“影”となった男を描きます
第15代韓国大統領・金大中(キム・デジュン)と彼の選挙参謀だった厳昌録(オム・チャンノク)の実話をベースにしたフィクション。
長きにわたる独裁政権の打倒を掲げ、強い志をもとに、国会議員を目指すキム・ウンボム(ソル・ギョング)でしたが、手段を選ばない与党の候補者に妨害され、落選が続いていました。
薬剤師をしているソ・チャンデ(イ・ソンギュン)は、キム・ウンボムの志に感銘を受け、事務所に赴き、必ず勝たせるから自分を採用してほしいと頼み込みます。
同じ目標を目指しながらも、戦い方の違う2人の男の絆を描くポリティカルサスペンス。
監督を務めたのは、『名もなき野良犬の輪舞』(2018)でも、ソル・ギョングとタッグを組んだ、ビョン・ソンヒョン監督。
『ペパーミント・キャンディー』(2000)、『殺人者の記憶法』(2017)などのソル・ギョングと『パラサイト 半地下の家族』(2019)のイ・ソンギュンがタイプの違うキム・ウンボムとソ・チャンデを熱演します。
脇には、『ヴィンチェンツォ』(2021)、『梨泰院クラス』(2020)と大ヒットドラマの出演が続くユ・ジェミョンや、『ハード・ヒット 発信制限』(2022)で主演を務め、メイバイプレーヤーとして活躍するチョ・ウジンをはじめ、キム・ジョンス、ユン・ギョンホなど豪華なキャスト陣が顔をそろえます。
映画『キングメーカー 大統領を作った男』の作品情報
【日本公開】
2022年(韓国映画)
【原題】
Kingmaker
【監督・脚本】
ビョン・ソンヒョン
【キャスト】
ソル・ギョング、イ・ソンギュン、ユ・ジェミョン、チョ・ウジン、パク・イナン、イ・ヘヨン、キム・ソンオ、チョン・べス、ソ・ウンス、ぺ・ジョンオク、キム・ジョンス、ユン・ギョンホ
【作品概要】
監督を務めたビョン・ソンヒョンは、『マイPSパートナー』(2012)で商業映画デビューをし、『名もなき野良犬の輪舞』(2018)で、第70回 カンヌ国際映画祭 ミッドナイトスクリーニングに招待されました。
『ペパーミント・キャンディー』(2000)、『殺人者の記憶法』(2017)などのソル・ギョングがキム・ウンボム役を務め、『パラサイト 半地下の家族』(2019)ぶりの映画出演となるイ・ソンギュンがソ・チャンデ役を務めました。
そのほか、『ビースト』(2021)のユ・ジェミョン、『SEOBOK/ソボク』(2021)のチョ・ウジン、『スタートアップ!』(2020)のキム・ジョンス、ユン・ギョンホ、『パイレーツ:失われた王家の秘宝』(2022)のキム・ソンオなど豪華な顔ぶれが揃っています。
映画『キングメーカー 大統領を作った男』のあらすじとネタバレ
1961年。韓国東北部の江原道。
薬剤師をしているソ・チャンデ(イ・ソンギュン)のもとに1人の村人が相談を持ちかけます。
ある日、飼っている鶏が卵を産まなくなり、不思議に思って小屋を見張っていると、隣人が卵を盗んでいたというのです。そのことを村長に訴えても、隣人は村長の親戚だからお咎めがない。だからチャンデに相談しにきたのです。
チャンデは、赤い紐を渡し、これを鶏の足に結んで、こっそり隣の家の小屋に入れるといい、そして今度は鶏を盗まれたと訴えればいいというのです。
印をつけておいたと言えば、皆信じるというチャンデ。手段として嘘をつくことに対し、村人は躊躇します。お人好しで居続けるという方法もあるというチャンデの言葉に、村人は赤い紐をぎゅっと握りしめました。
村人の話を聞きながら手紙を書いたチャンデは、国政選挙で落選を繰り返していたキム・ウンボム(ソル・ギョング)の事務所を訪れます。
いつ帰るか分からないウンボムを待ち続け、ウンボムが帰宅したのは夜遅くになってからでした。
ウンボムの志は素晴らしいが、志だけでは選挙には勝てないと言います。
ウンボムの志に感銘を受け、世の中を変えたい、無実の人が迫害されない、自由にものが言える社会にしたいとチャンデは話します。
チャンデは北朝鮮から逃れてきた脱北者で、チャンデの父は無実の罪に問われ、チャンデ自身も隠れて暮らしてきたという過去があったのです。
与党に比べ、資金も少ないウンボムはスタッフを雇える余裕はない上に、最初はチャンデの考え方に賛同できかねないウンボムでしたが、チャンデの思いや過去をきき、スタッフとして迎えることにしました。
1票を得るより、相手の票を10票減らすと言うチャンデの斬新な作戦は成功し、ウンボムは当選を果たします。
一方で、スタッフの中にはチャンデのやり方を卑怯だとよく思わない者も多く、ウンボムは謹慎という形でスタッフから外されます。
しかし、ウンボムは選挙に勝つためにはチャンデが必要だと判断し、呼び戻します。チャンデは、呼び戻されると思っていたと言いますが、「私は欲しい時だけもいで食べる柿ではない。柿以上になりたい」と言います。
いつまでも“影”としてウンボムを支えるのではなく、肩書きが欲しいと言うチャンデに、ウンボムは「今すぐは難しいが、君の準備次第だ」と答えます。
チャンデは復帰してすぐ、スタッフの前で、自分達はウンボムを支えるのではなく、ウンボムと共にスタッフ皆が共和党と戦うのだとスタッフを鼓舞し、自分を認めさせました。
そして、共和党のスタッフの衣装を注文します。理由がわからず困惑するスタッフらにチャンデは、この服を着て地方を回るように指示します。
共和党に票を入れるように言いながら、わざと悪い態度をするようにしたり、飲み屋で喧嘩をさせて共和党のイメージを壊していきます。
また、共和党が十人に配ったシャツなどの物品を手違いがあったから返してほしいと回収し、共和党のラベルを剥がして新民党にし、住民らに配ります。
多大な予算を投入しているのに、共和党の候補の支持が伸びないことにヤキモキしたパク・キス大統領ら国会の大臣らは、共和党の候補にウンボムを陥れるネタを見つけた何とかして蹴落とすように言います。
共同討論の際、共和党の候補者はウンボム陣営は予算もなく、共和党を不正していると糾弾するが、新民党も物品を配っていると民主党のラベルのついた物品を手にします。
窮地に立たされたウンボムですが、予算もないのに物品を配っているのは矛盾している、これは私たちの考えに賛同してくださった方が提供してくれたものだと言って不正をしていないとします。
そしてウンボムは、共和党の候補者に見事勝ち国会議員に当選します。
映画『キングメーカー 大統領を作った男』の感想と評価
光と影
金大中(キム・デジュン)と選挙参謀だった厳昌録(オム·チャンノク)の実話を元にしたポリティカルサスペンス『キングメーカー 大統領を作った男』。
ソ・チャンデ(イ・ソンギュン)は、“影”としてキム・ウンボム(ソル・ギョング)の選挙戦を支えてきました。
理想家で実直なキム・ウンボムは与党の不正選挙を正したい、長年続くパク・キス(キム・ジョンス)政権を打倒しようと考えていました。
しかし、与党陣営は、資金を使って住民に物品を配ったり、開票の際に停電などを起こして不正を行い続け、理想で勝負しようとするウンボムは負け続けていました。
正攻法で戦わない相手に、正攻法で戦っては勝てない、選挙に勝ってこそ、大義を実現させることができるというチャンデの意見は確かに一理あるものです。
実際にチャンデの作戦によって、ウンボムは選挙に勝つことができたのです。チャンデが必要だと思う一方で、チャンデのやり方に賛同できないという気持ちは拭えませんでした。
チャンデは北朝鮮出身であり、共産主義と疑われているウンボムがチャンデに肩書きを与える可能性は低いとどこかでわかっていながらも、ウンボムの志に感銘を受け、同じ景色を見たいとウンボムの元で働くことを志願しました。
しかし、ウンボムの地位が変わり、出世するスタッフらを見て、チャンデ自身も“影”ではなく、認められたいという思いが強くなります。何の肩書きもなく、その存在を知られることのない自分の立場に不満を感じ始めていました。
「光が強くなれば、影も強くなる、それでも私は先生に輝いていてほしい」とチャンデは言いました。肩書きをもらえたものの、チャンデとウンボムの考え方の違い、2人の間の溝は大きくなっていました。
どんな方法でもいい、勝てばいい。相手も同じように工作をしてくるから、ある意味正当防衛だ、という考えに固執するあまり、チャンデは超えてはいけない一線を超えかねない状態になっていきます。
チャンデのおかげで今の自分の地位があるという思いもあり、ウンボムをチャンデを切れないでいましたが、爆発の一件が決定打となり、チャンデを切りました。
チャンデとイ・ジンピョ室長の会話から、爆発の犯人はチャンデではなかった、と考えられます。しかし、チャンデを狙ったものであり、このままチャンデが認めなかったらウンボム陣営に不利になると考えチャンデは認めたのでしょう。
もしくは、ウンボムが自分を切るかどうか試そうとしたのかもしれません。もし、ウンボムがチャンデを切らなかったら、チャンデはパク・キス大統領陣営で選挙参謀として働かなかったかもしれません。
落選続きだったウンボムがチャンデの斬新な作戦で、当選し、国会議員として頭角を表していく様は鮮やかかつコミカルで面白いと同時に本当にこんなことを?と驚くような選挙の裏側が描かれていきます。
そして次第に2人の違いが大きくなり、決別していくまではハラハラする展開に加え、大義とは、政治家とはどうあるべきかという現代にもつながるテーマを突きつけてきます。
また、志が高く、理想家とも言えるウンボムの、真っ直ぐ物事に対峙し、自分の言葉で国民と向き合おうとする姿勢は綺麗事だけではない真摯さがあり、ソル・ギョングの説得力のある演技の成せる技といえるでしょう。
まとめ
大統領選の裏側を描いた本作のモデルは、第15代韓国大統領・金大中(キム・デジュン)と彼の選挙参謀だった厳昌録(オム・チャンノク)です。
軍事政権下、野党の指導者として活動していた金大中は1980年に金泳三らと共に軟禁されます。その逮捕事件が1980年の広州で起きた光州事件などにつながっています。
光州事件をはじめとした1970年代後半から1990年頃までの民主化運動を描いた映画は、『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2018)や、『1987、ある闘いの真実』(2018)などが思い浮かぶでしょう。
本作が描かれているのはそのような民主化運動に影響を及ぼす指導者となる以前の無名時代の金大中です。その頃から独裁政権が続き、その体制を金大中をモデルにしたキム・ウンボムは批判していました。
また、選挙戦の裏側の様子では、物品を送ったり、噂を流したりと、国民がいかに票稼ぎのために利用されているかが感じ取れる描写もあります。
その中ウンボムは、国民があっての今の自分で第一に考えるべきは国民だと言い続けます。そんなウンボムに対し、チャンデはそれは建前であって本音ではない、本音では国民のことなど考えていないでしょうと言います。
国民が何もしないから今の独裁政権があるのだ、国民のせいだともチャンデは言います。しかしウンボムはチャンデの意見には賛同せず国民第一という考えを捨てませんでした。
チャンデのその考えの背景には、今まで声を上げても聞き入れられない政治家に対する不信感や、静かに影を潜めて生きていくしかなかった自分の境遇などが影響しているのかもしれません。
キム・ウンボムとソ・チャンデ。考え方は違えど同じ方向を向いて、社会をより良くしようと闘う2人の姿をソル・ギョング、イ・ソンギュンの熱き演技が盛り上げます。