16歳の美少女戦士に隠された真実とは
『つぐない』(2008)でアカデミー助演女優賞にノミネートされたシアーシャ・ローナンが、同作のジョー・ライト監督と再タッグを組んだサスペンスアクションです。
父に戦士として育てられた美少女の冷徹な殺し屋・ハンナが、自分の宿命と戦う様をスリリングに描きます。
共演は『ハルク』(2003)のエリック・バナと『エリザベス』(1999)のケイト・ブランシェット。
仇の女性・マリッサを倒すために旅立ったハンナが見つけたのは、信じがたい真実でした。サスペンスフルな展開と超絶アクションが楽しめる本作の魅力をご紹介します。
映画『ハンナ』の作品情報
【公開】
2011年(アメリカ映画)
【監督】
ジョー・ライト
【脚本】
セス・ロクヘッド、デヴィッド・ファーラー
【編集】
ポール・トシル
【キャスト】
シアーシャ・ローナン、エリック・バナ、ケイト・ブランシェット、トム・ホランダー、オリヴィア・ウィリアムズ、ジェイソン・フレミング、ジェシカ・バーデン
【作品概要】
『つぐない』(2008)でアカデミー助演女優賞にノミネートされたシアーシャ・ローナンが無垢な少女の顔と、凄腕の暗殺者という二面性を持つ主人公を、鋭いアクションとともに無二の存在感で見せるサスペンスアクション。
監督はローナンと同作以来2度目のタッグとなるジョー・ライト。父に戦士として育てられた少女が、母の仇である女性CIAエージェントを倒すために激しい戦いを繰り広げます。
父役を『ハルク』(2003)のエリック・バナ、仇のエージェント役を『エリザベス』(1999)のケイト・ブランシェットが熱演。
映画『ハンナ』のあらすじとネタバレ
フィンランドの雪深い山奥で、16歳の少女ハンナは元CIA工作員の父エリックと二人きりで暮らしていました。
彼女は父から日々戦闘技術を徹底的にたたき込まれて育ちます。ラジオもテレビもない世間から隔絶した世界で、読める本は百科事典と隠し持っているグリム童話だけでした。その本には亡き母の写真が隠してありました。
英語、ドイツ語、スペイン語、アラビア語をマスターし、偽りの経歴や住所をすらすらと言える様になったハンナ。ある日猟でトナカイを追っていた彼女は、矢で射止めたものの、「心臓を外しちゃった」と呟きながらとどめをさします。
戦闘スキルを身につけたハンナは外界に出たがります。エリックからある装置を見せられ、そのスイッチをいれれば出て行けると聞かされたハンナは、とうとう決心してスイッチを入れました。
その信号に、父のかつての同僚でCIA捜査官のマリッサ・ウィーグラーが気づきます。エリックは身支度を整えて、娘とベルリンの「グリムの家」で落ち合う約束をしてから、先に一人小屋を出て行きました。
まもなくハンナのいる小屋をCIAの小隊が襲撃します。ハンナは二人の敵を倒した後に、大勢の追手により基地に拉致されました。
映画『ハンナ』の感想と評価
無垢な少女と冷徹なアサシンの二つの顔
自らの母を殺した憎き敵を倒すために戦い続ける少女・ハンナを描いた、スリリングなサスペンス・アクションです。
人里離れた雪山で、父からひたすら戦闘能力だけを磨かれて育ったハンナ。彼女にとっては戦闘がすべてで、それ以外は何も知らないまま育ちます。音楽の存在すら、百科事典でしか知りません。心の拠り所はひっそり隠し持っていたグリム童話の絵本と母の写真だけ。彼女の深い孤独が浮かび上がります。
ハンナが外の世界に出てから見せる、感動の表情は観る者の胸を打ちます。人々の歌う声に聞き入る顔は喜びに輝き、テレビや電気ポットに怯えて逃げ去る背中からは世の中と隔絶された世界に生きてきた少女の戸惑いと不安が伝わってきます。
しかし、戦闘となるとまったく様子は一変します。雪山であろうと、超ハイテク施設内であろうと、砂漠であろうと、彼女はまったくひるまず敵に立ち向かい激しい戦いを繰り広げます。
まったく異なる二面性を併せ持つハンナを、ハンナと同年齢のシアーシャ・ローナンが繊細に表現しています。無垢なあどけなさと、非情な輝きを瞬時に切り替える瞳が印象的です。
旅の途中で出会った、自分の感情に素直な少女・ソフィーと、ハンナは友情で結ばれます。ソフィーはハンナにとって、損得抜きに自分を見てくれた初めての相手でした。ハンナの年頃の少女らしいあどけない表情と、心から発した感謝の言葉は本物でした。
恐れや哀れみの感情を減らす遺伝子操作をされたハンナですが、人を思い、愛する心は失わずに済んだのかもしれません。
ハンナに命を狙われるCIAエージェントのマリッサを演じるケイト・ブランシェットにも注目です。『エリザベス』(1999)『アビエイター』(2005)など数々の大作で知られる名女優が、冷徹な女工作員を演じます。
マリッサはハンナの祖母も、エリックのことも次々に撃ち殺す冷酷な女性ですが、ケイト・ブランシェット独特の妖艶な色気に思わず魅了されてしまいます。成熟した女性・マリッサと、ティーンの透明感ある少女・ハンナの対決という対比も見どころです。
マリッサは誰よりハンナを脅威に感じていたはずです。自分の敗北を予感しながらも、対峙し続けなければならない彼女の恐怖はどれほど大きかったことでしょうか。
突き進むしかなかったマリッサの人生は、ハンナと同じくらい悲壮なものだったように思えてなりません。
ハンナの出生にまつわる悲劇的な真実
仇敵マリッサらとの激しい戦闘シーンに加え、本作での大きな見どころは、ハンナの出生にまつわる大きな秘密です。
人の世界から隔絶された雪山で、父と二人きりで暮らし、そこではひたすら戦士となるべく厳しい訓練を施されてきたハンナ。そのすべては、母ヨハンナを殺害した憎き相手、女性エージェントのマリッサを倒すためでした。
しかし、やがてハンナは自分が遺伝子操作によって生まれた「普通とは違う人間」だと気づきます。彼女は胎児のうちに、感情を抑制し筋力を高めるという非人間的な操作を施されていました。自分を育ててくれたエリックが実父ではないことがわかり、ハンナは動揺します。
エリックがなぜヨハンナとハンナを連れて逃げていたのかは、作中では語られません。もしかすると、ヨハンナに思いを寄せるようになったのかもしれませんが、一番の理由は最強の戦士になるであろうハンナを、自分の手で育てたいという欲望に勝てなかったのではないでしょうか。
最後、ハンナはマリッサに向かい、「もう誰も傷つけたくない。行かせて。」と、母への復讐を振り捨てて背を向けようとします。しかし、マリッサは諦めずに銃口をハンナに向け、ハンナは反射的にマリッサに矢を放ってしまうのです。
人間として生きようとしたハンナを、マリッサは引き戻してしまいます。瀕死のマリッサを前にして、いつか獲物の鹿にかけたのとまるで同じ言葉「心臓を外しちゃった。」と呟く声には、マリッサへの哀れみは全く感じられません。酷い遺伝子操作をされて生まれ落ち、暗殺者となるべく育てられた少女の悲哀がにじみ出るラストとなっています。
まとめ
10代の若さながら天性の輝きを見せる女優シアーシャ・ローナンが、悲しい運命を持つ少女戦士を演じる『ハンナ』。ケイト・ブランシェット、エリック・バナという二人の名優が脇を固め、見応えあるサスペンス作品が生まれました。
ソフィーと話したり、マジックを見て笑う幼い少女そのもののあどけない表情を見るたびに、ハンナの過酷な運命に胸が締め付けられます。子どもを大人の道具にすることは決して許されないと、改めて実感させられる作品です。