Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

Entry 2020/04/06
Update

映画『悪の偶像』考察と内容解説。結末までのどんでん返しで怖い女リョナが導く運命とは⁈

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

映画『悪の偶像』は2020年6月26日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかでロードショー予定。

韓国映画界の実力派俳優ハン・ソッキュとソル・ギョングの演技合戦と、どんでん返しの連続で見せる予想外の展開。

『ベルリンファイル』(2013)で熱血な諜報員を演じたソッキュは、知事選に有力候補者として出馬する市議会議員役を冷血に魅せます。また彼の息子に自身の子どもをひき殺された父親役は、『殺人者の記憶法』(2017)で元連続殺人犯を激やせで減量して演じたソル・ギョングが務めています。

さらに演出を担当したのは、韓国で実際に起きた集団少女暴行事件を映画化した、『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』(2013)で手腕を世界に見せつけた、長編第2作目となるイ・スジン監督。

監督自らが脚本を執筆するに至った“人間の業”とは?そして韓国ニューウェーブが放つ、コリアン・ノワール『悪の偶像』の衝撃の結末とは……。

スポンサーリンク

映画『悪の偶像』の作品情報


(C) 2019 CJ CGV Co., Ltd., VILL LEE FILM, POLLUX BARUNSON INC PRODUCTION All Rights Reserved

【日本公開】
2020年(韓国映画)

【原題】
우상(英題:Idol)

【監督・共同脚本】
イ・スジン

【キャスト】
ハン・ソッキュ、ソル・ギョング、チョン・ウヒ、ユ・スンモク、ジョー・ビョンギュ、キム・ジェファ

【作品概要】
『シュリ』(1999)『ベルリンファイル』(2013)で知られるハン・ソッシュ。そして『オアシス』(2004)『殺人者の記憶法』(2017)のソル・ギョングという、韓国映画界を代表する実力派俳優の共演によるコリアン・ノワールの話題作。ひき逃げ事件の加害者の父と被害者の父の運命が交錯する“人間の業様”を、『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』(2013)のイ・スジンが脚本・監督を務めています。

本作は第69回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門へ出品、さらに2019年ファンタジア映画祭で作品賞と男優賞(ハン・ソッキュ、ソル・ギョング)を受賞。さらに第28回釜日映画賞主演男優賞ノミネート(ハン・ソッキュ)など国内外で大きな注目を集めました。

映画『悪の偶像』のあらすじ


(C) 2019 CJ CGV Co., Ltd., VILL LEE FILM, POLLUX BARUNSON INC PRODUCTION All Rights Reserved

市民からの支持も高く、政治家としての将来を有望視された市議会議員のク・ミョンフェ。知事選の最有力候補として注目を集める日々を送っていたが、そんな彼に突如、政治家生命の危機が襲いかかります。

帰宅するミョンフェは、妻からの電話で息子ヨハンが飲酒運転した挙句、人をひき殺してしまった事実を知らされ、激しく動揺します。

しかも自宅に戻ると、車とともに、そこには被害者の死体がありました。ミョンフェは息子に自首をするよう説得し、その一方で死体をひき殺した現場に再び遺棄することに……。

そしてミョンフェは、世間からバッシングを受け、また息子をひき殺された父親ジュンシクの怒りを甘んじて受け、知事選の辞退を宣言します。

しかし、その対応で逆に市民からの支持率が上がり、ミョンフェ陣営の周辺は、何としてでも立候補を続けるようにと説得されます。

ところが、ミョンヒフェが犯行当日の自宅のガレージの防犯カメラを確認すると意外な事実が……。

また同じころ、現場に居合わせた被害者の新妻リョナの行方不明になっていたことが判明。事実が明るみに出ることを恐れるミョンフェは、リョナの行方を追います。

一方、ジュンシクはリョナの足取りを追うなか、義理の娘であるリョナが妊娠していることを知り、なんとかして彼女を捜し出そうとします。

しかし、消えた目撃者であるリョナは、ミョンフェとジュンシクの2人を大きく揺るがし、彼らの想像を絶する本性を持っているのでした……。

スポンサーリンク

映画『悪の偶像』の感想と評価

イ・スジン監督のデビュー作『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』(2014)

若手新鋭の映画作家だからこそ注目すべし!

映画ファンのみならず、話題にするまでとなった注目の韓国映画といえば、2019年に劇場公開されたポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』。

いまでは名匠となったジュノ監督のファンが、彼の代表作にあげるのは、アカデミー賞など獲らなくてもペ・ドゥナ主演の初監督作品『ほえる犬は噛まない』(2000)を挙げる方も多いはず。

映画というのは、潤沢な予算や円熟期には撮れない、初期にはエッジの効いた快作というのが存在し、古今東西の映画作家には若いうちに、そのような作品が必ずある

イ・スジン監督の本作品『悪の偶像』もまた、そのような作品のひとつといえます。

2014年にスジン監督のデビュー作『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』は、2004年に韓国で実際に起きた、密陽女子中学生集団性暴行事件を題材に、少女の残酷な運命のなかでも成長する姿を描き、第13回マラケシュ国際映画祭で大賞、第43回ロッテルダム国際映画祭でも最高賞など受賞した才気ある作家。

そんなスジン監督が第2作目に挑んだのは、コリアンノワール。あるひき逃げ事件をきっかけに、それまで交わることのなかった男たちが悲劇的な運命に転落するなか、“人間の正体とは何か”を今回も描いています。

キャストの何が見どころか?


(C) 2019 CJ CGV Co., Ltd., VILL LEE FILM, POLLUX BARUNSON INC PRODUCTION All Rights Reserved

本作品『悪の偶像』は単純な構成では描かれてはいません。そのことがこれまでのコリアンノワールをとは一線を引く作りになっています。

ひとつの“ひき逃げ事件”が発端で始まるというと、加害者と被害者という出来事の状況から、追う者と追われる者というキャラクターを想像するかもしれません。

しかし『悪の偶像』では「加害者と被害者」は、“人間であるという共犯者関係”になり、自己存在の境界線がストーリーの進行とともに、曖昧どころか重なり合っていくのです。

まず加害者の父親を演じたのは、2013年の韓国映画『ベルリンファイル』で、気性の荒い国家情報局員を演じたハン・ソッキュ。『悪の偶像』では、ひき逃げ事故を起こした息子ヨハンの父親ミョンフェを物静かに熱演しています。

父親ミョンフェは思わぬ災難に巻き込まれ、知事選での有力候補者という立場から苦境な状況に晒されるも、事件をもみ消すために徐々に“人の業”という欲深さに汚れながらも、しがみつき打破していきます。

一方の被害者の父親ジュンシクを演じるのはソル・ギョング。“カメレオン俳優”と呼ばれる演技派で『悪の偶像』では金髪の様相だが、2017年の『殺人の記憶法』では、元連続殺人犯を演じるにあたり、激痩せした容姿が老人に見える役作りをしていたことは記憶に鮮明でしょう。

韓国きっての演技派である、ソッキュとギョングが共演するだけでも韓国映画ファンは、好物のヨダレものにちがいない。しかも、今回の配役ではちょっとしたエピソードもありました。

実はスジン監督は当初、被害者の父親ジュンシクをソッキュに出演オファーを出していました。監督の意図としては意外性のある配役を求めたのですが、出演するにあたり役柄について話し合ううちに、ソッキュから政治家ミョンフェの方を演じたいと要望があったそうです。

そしてギョングの方も、実はミョンフェ役を狙い演じたかったと後日談で述べ、「ソッキュさんに取られてしまった」と笑っていたそうです。

このように実力のある演技派俳優が演じてみたいと思わせる、“人間の業”をとことんまで見せる政治家ミョンフェとはどのような運命を辿るのか、大きな見どころですし要注目です。

ふたりのキャスト以上に怖いヒト⁈


(C) 2019 CJ CGV Co., Ltd., VILL LEE FILM, POLLUX BARUNSON INC PRODUCTION All Rights Reserved

しかし、本作『悪の偶像』をコリアン・ノワールであると、いってのけた理由は、2人の父親という存在が共に転落していく運命であるということですが、そこにいるべき存在が女性、ファム・ファタールという証しでもあります。

その男たちの運命を変えていく魔性のファム・ファタールを演じたのが、2016年の『哭声/コクソン』で不可思議な謎の女性ムミョンを演じたチョン・ウヒ

ウヒは、ソッキュの演じた加害者の父親ミョンフェと、ギョング演じる被害者の父親ジュンシクの2人の運命に拍車をかけて狂わせていく、謎を持って消えた目撃者のリョナを務めています。

ウヒは既にスジン監督のデビュー作である、『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』でも主演を務めています。しかしスジン監督は脚本を執筆する際に当て書きをしてキャラクターを描かないそうで、当初はリョナ役のイメージにはウヒと重ねずにいました。

『悪の偶像』のなかで重要な役柄であることから、監督は無名の新人をキャスティングしようと考えていました。ですが、残酷なキャラクターを演じられるのは、健全な心身ともにタフなウヒしかいないと、リョナを思い浮かべるとともに起用の確信に至ったそうです。

さて、その気になるリョナという女性の存在ですが、本作『悪の偶像』では、一気にストーリーを豹変させる存在ですのです。ここは注目というよりも、野生的な生物感と血の生命力に、ただただ驚いてください

ウヒの演じたリョナの登場は、“これまでの韓国映画にはない緊張感”。そして登場人物の誰も、そして観客のアナタも彼女の存在そのものの先が読めずに、怪演による混乱にカオス状態になるはずです。

ウヒの天性で持ちえた容姿のあどけない少女らしさと、そこから匂い立つ鬼畜の怖さは必見です。

まとめ


(C) 2019 CJ CGV Co., Ltd., VILL LEE FILM, POLLUX BARUNSON INC PRODUCTION All Rights Reserved

新鋭イ・スジン監督は、第43回ロッテルダム国際映画祭にて、長編第1作『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』がタイガーアワードの受賞に輝き、その際に名匠マーティン・スコセッシ監督から絶賛の評価を受けました。

その第2作目となる作品が『悪の偶像』。スジン監督は「韓国で起きた大・小の事件や事故には、その中に個人あるいは特定の集団が必ず存在している」とし、「事件を誘発し選択するのは結局のところ人間だ」と語っています。

それは観客が本作を観るにあたり、登場人物と同じ状況でいかなる選択をするのかを問いかけた作品なのです。

さて映画の冒頭、ソウルにあるイ・スンシン(李舜臣)将軍銅像から始まります。韓国では英雄として知られ、1592年の日本から侵略に来た豊臣秀吉の朝鮮出兵(文禄の役)と戦った歴史上の人物です。

韓国旅行に行かれた方なら、スンシン肖像画が紙幣なども描かれるので多くの人が目にしてます。

実はこのスシン銅像が登場するにあたり、その姿に韓国にいる観客たちの多くは、きっと声を出し驚いたでしょうし、それがどんでん返しが繰り返されるストーリーの結末に迎えられた時、スジン監督が本作の『悪の偶像』というタイトルに何を込めたのか? きっと読めてくるはずです。

人の業”という盲信さとは、いかなる人間が持つのか? また、それはけして特別なことでなく、一般的なことなのか? 結末に描かれ切れていない部分も、深読みしてみてはいかがでしょうか。

名匠スコセッシ監督が待望した、スジン監督の第2作目となる映画『悪の偶像』。演技派俳優のハン・ソッキュ、ソル・ギョングの共演に注目と、チョン・ウヒが怪演したリョナは必見です!

映画『悪の偶像』は2020年6月26日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかで公開予定です。



関連記事

サスペンス映画

映画『十二人の死にたい子どもたち』3番ミツエ役は古川琴音。演技力とプロフィール紹介

『天地明察』で知られるベストセラー作家の冲方丁(うぶかた・とう)の小説を原作とした映画『十二人の死にたい子どもたち』が2019年1月25日に公開されます。 メガホンをとるのは、『イニシエーション・ラブ …

サスペンス映画

映画『インフェルノ』ネタバレあらすじと感想。ラスト結末も【トムハンクス主演のパンデミック作品】

地球にとって人類は疫病。特効薬は「地獄=インフェルノ」 ハーバード大学教授ロバート・ラングドンが歴史に秘められた謎を解き事件解決に挑む、ダン・ブラウン原作の大ヒットシリーズ映画化第3弾『インフェルノ』 …

サスペンス映画

実話映画『ウォーキング・ウィズ・エネミー 』ネタバレ感想評価と結末解説のあらすじ。ピンチャス・ローゼンバウムを‟ナチスになりすました男”として戦争サスペンス救出劇として描く

ナチス兵に成りすました青年が、ユダヤ人救出のために奔走する戦争サスペンス マーク・シュミットが原案の担当・監督を務めた、戦争サスペンス映画『ウォーキング・ウィズ・エネミー ナチスになりすました男』。 …

サスペンス映画

映画『モースト・ビューティフルアイランド』ネタバレ感想と考察評価。実話体験をした監督自身の着想から不法移民たちを描く

スペイン出身の女優アナ・アセンシオが自身の経験を基に描いたサスペンス・スリラー『モースト・ビューティフルアイランド』。 2020年はアメリカで大統領選挙があります。アメリカが抱える目下の課題は「移民問 …

サスペンス映画

映画『リグレッション』あらすじネタバレと感想。ラスト結末に実話ならではの怖さがある【悪魔崇拝儀礼虐待】

1980年から90年代にかけて多発し、全米をパニックに陥れた「悪魔崇拝儀礼虐待」を描いたサスペンス映画『リグレッション』。 実際の事件を基に、人間の奥底にある闇を描く本作をご紹介します。 スポンサーリ …

U-NEXT
CINEMA DISCOVERIES【シネマディスカバリーズ】
架空映画館 by ReallyLikeFilms Online
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
映画『哀愁しんでれら』2021年2月5日(金)より全国公開
映画『写真の女』
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学