Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

新作映画ニュース

ジャ・ジャンクー監督来日記者会見レポート。映画最新作『帰れない二人』の製作秘話と市山プロデューサーの受賞について

  • Writer :
  • 石井夏子

複雑に絡み合うロマンチックな悲劇『帰れない二人』。

中国の名匠ジャ・ジャンクー監督最新作『帰れない二人』が、2019年9月6日(金)Bunkamuraル・シネマ、新宿武蔵野館にて公開されます。

一組の女と男が辿る2001年から2018年の18年間を、変わりゆく中国を背景にして丁寧に紡ぎだしました。

『帰れない二人』日本公開に先立ち映画PRのため、ジャ・ジャンクー監督と主演女優チャオ・タオが来日。7月25日(木)に記者会見を行いました。

また、長年ジャ・ジャンクー監督作品を手掛けてきた市山尚三プロデューサーがその功績をたたえられ、26日(金)に第37回川喜多賞を受賞

ジャ監督が授賞式に駆け付け祝福した模様も併せてレポート致します。

スポンサーリンク

映画『帰れない二人』記者会見概要


© 2018 Xstream Pictures (Beijing) – MK Productions – ARTE France Cinéma

【開催日時】
7月25日(木)13:00~13:45    

【会見場所】
Bunkamura B1F大会議室 

【登壇者】
ジャ・ジャンクー監督、チャオ・タオ、市山尚三プロデューサー  

【通訳】
樋口裕子

映画『帰れない二人』記者会見レポート

ふたつのものの間で揺れ動く作品

© 2018 Xstream Pictures (Beijing) – MK Productions – ARTE France Cinéma

──2001年~17年という中国が急激に変化した17年間を描いた本作への監督の想いを聞かせてください。

ジャ・ジャンクー監督(以下ジャ監督):中国はいま激烈な変化を遂げています。経済、政治…、様々な変化が直接的に人々に変化を及ぼしています。その中で、どう自分は生きるのか。それを“マクロな視点で振り返る”方法を見つけたのです。

長い歴史のスパンの中で人間を観察し、変化する社会状況の中で、より客観的に人間を観て、映画として語りたいと思いました。なので、17年間という時間は重要でした。

2001年の中国は、古いものから新しいものへと変わる過渡期の年でした。WTOへの加入、北京五輪の決定、インターネットの普及。時代的にシンボリックな事象が現れたのが2001年でした。そういったことが、中国で生きる人々のライフスタイルだけでなく、心にも変化をもたらしました。

この作品は、ラブストーリーであると同時に、古い世界から新しい世界に入っていく人の心の変化を描いた作品です。ビンもチャオも、古い処世術、社会の原則を持っていました。そうした二人が新しい世界に入っていったときに、物事に対処する方法の違いが現れます。それは、恋愛にも言えることだと思ったのです。

役作りと海外での反応

© 2018 Xstream Pictures (Beijing) – MK Productions – ARTE France Cinéma

──『青の稲妻』『長江哀歌』を踏襲するヒロインを演じる際に、心がけた点を教えてください。

チャオ・タオ:『帰れない二人』でチャオを演じるにあたり、衣装も過去の作品を踏襲し、同じ服を着るようにしました。当時の衣装を着ると、『青の稲妻』のチャオや『長江哀歌』の中のシェン・ホンに戻った感覚がありました。そうした外見的な小道具が演技を手助けしてくれましたし、そういった演出にも感謝しています。

その一方で、『帰れない二人』でのチャオは、その二人とは全く違う人物です。前作の中で生きた女性を理解はしていますが、本作では、全くの別人として演じました。

──本作の海外の反応は?

市山尚三プロデューサー:本作は中国では、監督作品の中で一番の動員となりました。驚いたのが、アメリカでかなり多くの動員となったこと。

アメリカにおけるアジアのアート映画のマーケットは限られていますが、本作はこれまでで最も動員の良かった監督の過去作『罪の手ざわり』の倍以上の動員になるなど、とてもいい成績でした。おそらく、彼の集大成的作品であることと、登場人物に寄り添ったストーリーがわかりやすかったからでないかと思います。

過去作の要素を入れた意図とは

© 2018 Xstream Pictures (Beijing) – MK Productions – ARTE France Cinéma

──『青の稲妻』、『長江哀歌』の要素を作品の中に盛り込んだ点について教えてください。『青の稲妻』は、2001年という年を映すことが重要だったからでしょうか。

ジャ監督:脚本の初稿を書いているときに、撮りたいと思っていたのは現代の中国の裏社会の人々を描くことでした。現代にも裏社会の人はいて、それは特殊なことではなく底辺層を構成する人々の一部です。

初稿を書き上げたものを読んだときにふと思ったのが、『青の稲妻』、『長江哀歌』で描いた主人公の男女二人を、きちんと描けてなかったなということです。たとえば、『青の稲妻』でチャオがどう彼と愛し合ったり、別れたりしたのか。『長江哀歌』ではシェン・ホンがビンを探しに行くが、離婚する。なぜ離婚したのか。

そうした過去2作で描き切れなかったことを、この作品でラブストーリーとして語ろうと思ったんです。

この3本を1本の映画と考え、2001年『青の稲妻』、2006年『長江哀歌』、そして2017年『帰れない二人』と、17年を生きた女性の物語にしようと。当初、ヒロインは別の名前の設定でしたが、途中でチャオに変更しました。

当時の映像をミックスして紡ぎ出した世界

© 2018 Xstream Pictures (Beijing) – MK Productions – ARTE France Cinéma

──映像について、すべてが撮りおろしではないと聞きました。過去の映像、今の映像、違った質感の映像をミックスすることで素晴らしいマジックが起きてるように感じます。

ジャ監督:車、バイク、道までもが当時と今では違うと編集や美術スタッフと話しました。なんといっても人間の顔つきが違う。2001年当時は今よりも、貧しく、みんな痩せており黒っぽい感じがしていたんです。

現代の撮影で2001年のシーンを撮影して表現するのは難しい。なので、以前撮った素材を冒頭2001年パートに持ってくるべきだと考えるようなりました。過去の素材をMIXして使用しようと思ったんです。当時は、解像度も考えずに撮影していたので、映像としては良くないものが多いです。

『帰れない二人』は5種類の機材(カメラ)で撮影しています。それは、過去のそうしたトーンを統一させるため。当時の映像には、質感、歴史的感覚が残っている。それを使うことで、観客にも当時の感覚を納得させることができると思ったんです。

スポンサーリンク

第37回川喜多賞贈賞式の概要

© 2018 Xstream Pictures (Beijing) – MK Productions – ARTE France Cinéma

【開催日時】
7月26日(金)18:00~  

【会見場所】
東京會舘 クインス(千代田区丸の内3丁目2−1)

【登壇者】
市山尚三プロデューサー、ジャ・ジャンクー監督

【通訳】
樋口裕子

第37回川喜多賞贈賞式のレポート

© 2018 Xstream Pictures (Beijing) – MK Productions – ARTE France Cinéma

第37回川喜多賞に本作のプロデューサー市山尚三が選ばれました。

これまで、ホウ・シャオシェン監督やジャ・ジャンクー監督の映画をプロデュースする一方で、2000年に始まった映画祭「東京フィルメックス」のプログラム・ディレクターを務めるなど、映画を作ることと見せることの両面での活動が評価されての授賞となりました。

授賞式ではこれまでのジャ・ジャンクー監督作品のプロデューサーを数多く手がけてきた市山プロデューサーへ、監督が以下のように祝辞を贈りました。

「市山さんがこの賞を受賞したことを大変嬉しく思っています。市山さんは、私にとっても大きな存在。映画の道に入って21年ですが、そのうち20年を市山さんと共に歩んできました。この20年間、市山さんが大事にしていることは変わっていません。一つは“映画をみるとこと”、もう一つは“美味しいご飯を食べること”(笑)ですね。市山さんが良い映画を制作してくれること、そしてフィルメックスで様々な中国監督を日本に紹介してくれることに感謝しています。これからもまた、映画を一緒に作っていきたい」

ジャ・ジャンクー監督は盟友市山プロデューサーの川喜多賞受賞について笑顔で締めくくりました。

スポンサーリンク

映画『帰れない二人』の作品情報


© 2018 Xstream Pictures (Beijing) – MK Productions – ARTE France Cinéma

【日本公開】
2019年(中国・フランス合作映画)

【原題】
江湖儿女(英題:Ash is Purest White )

【監督・脚本】
ジャ・ジャンクー

【キャスト】
チャオ・タオ、リャオ・ファン、ディアオ・イーナン、フォン・シャオガン

【作品概要】
『罪の手ざわり』(2013)『山河ノスタルジア』(2015)のジャ・ジャンクーが監督を務めました。

裏社会に生きる男女の18年間にわたる関係を山西省、長江流域、さらに新疆にまで至る壮大なスケールで描きます。

主人公チャオはジャ・ジャンクー組常連のチャオ・タオ。

その恋人役は『薄氷の殺人』(2014)で第64 回ベルリン国際映画祭男優賞を受賞したリャオ・ファンが演じます。

映画『帰れない二人』あらすじ


© 2018 Xstream Pictures (Beijing) – MK Productions – ARTE France Cinéma

山西省の都市・大同(ダートン)。

チャオはヤクザ者の恋人ビンと共に彼女らなりの幸せを夢見ていました。

ある日、ビンは路上でチンピラに襲われますが、チャオが発砲し一命をとりとめます。

5年後、出所したチャオは長江のほとりの古都・ 奉節(フォンジェ)へビンを訪ねますが、彼には新たな恋人がいました。

チャオは世界で最も内地にある大都市・新疆(シンジャン)ウイグル自地区を目指します。

そして2017年がやってきて…。

まとめ


(C)2018 Xstream Pictures (Beijing) – MK Productions – ARTE France All rights reserved

移ろいゆく景色、街、心。それでも愛し続ける。

第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品されたロマンチックなフィルム・ノワール『帰れない二人』は2019年9月6日(金)より、Bunkamuraル・シネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

中国の名匠ジャ・ジャンクー監督と、20年間ともに歩んできた市山尚三プロデューサーの集大成とも言える傑作にご期待下さい。

関連記事

新作映画ニュース

映画『斬、』キャスト池松壮亮&蒼井優の思い。塚本晋也監督の新作とは

(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER 塚本晋也監督が挑んだ初時代劇『斬、』(ざん、) は、2018年11月24日(土)よりユーロスペースほか全国公開。 本作品『斬、』の …

新作映画ニュース

映画『はりぼて』劇場公開決定と上映館。腐敗した地方政治を富山のテレビ局がドキュメンタリーで暴く

虚飾を剥がせ!この映画こそ日本の縮図だ!! 富山県の小さなテレビ局が地方政治の不正に挑み、報道によって人の狡猾さと滑稽さを丸裸にした4年間を描いたドキュメンタリー映画『はりぼて』。 この度、映画『はり …

新作映画ニュース

映画『99.9 刑事専門弁護士』キャストの松本潤は深山大翔役!演技力の評価とプロフィール

映画『99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE』は2021年12月30日(木)ロードショー 大ヒットドラマを映画化した『99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE』が、2021年12月30日(木 …

新作映画ニュース

東京国際映画祭2018上映作品のリポート第2弾。コンペティション部門などからピックアップ解説

© 2018 TIFF 10月25日から始まった第31回東京国際映画祭。 映画祭の顔といえばコンペティション部門を中心にしたオリジナルセレクション部門です。 まだ発掘されていない才能をいち早く発見する …

新作映画ニュース

映画『ギャングスタ』あらすじとキャスト。上映劇場情報【ワールド・エクストリーム・シネマ2018】

アムステルダムの麻薬王・コロンビアのカルテル、泥沼の麻薬抗争に巻き込まれていく幼馴染のチンピラ4人組を描いた映画『ギャングスタ』。 10月20日(土)より ヒューマントラストシネマ渋谷「ワールド・エク …

U-NEXT
タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』
山田あゆみの『あしたも映画日和』
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学