ファッションの最先端となった永遠のアイコン・サブリナ
『ローマの休日』(1954)の銀幕の妖精オードリー・ヘプバーン主演のロマンティックコメディ。
『アパートの鍵貸します』(1960)『お熱いのがお好き』(1959)などの名作を手掛けたビリー・ワイルダーが監督を務める珠玉の一作です。
大富豪の家に仕える運転手の娘が、パリで修行した後に洗練されたレディとなって戻り、富豪の兄弟とコミカルな恋愛模様を繰り広げます。
恋の相手をボギーことハンフリー・ボガートと、ウィリアム・ホールデンが演じます。
CONTENTS
映画『麗しのサブリナ』の作品情報
【公開】
1954年(アメリカ映画)
【原作】
サミュエル・テイラー
【脚本】
ビリー・ワイルダー、サミュエル・テイラー、アーテスト・レーマン
【監督】
ビリー・ワイルダー
【編集】
アーサー・シュミット
【出演】
オードリー・ヘプバーン、ハンフリー・ボガート、ウィリアム・ホールデン、ウォルター・ハンプデン、ジョン・ウィリアムズ、マーサ・ハイヤー、ジョーン・ポーズ
【作品概要】
『アパートの鍵貸します』(1960)『お熱いのがお好き』(1959)の巨匠ビリー・ワイルダー監督による珠玉のロマンティック・コメディ。
『ローマの休日』(1954)のオードリー・ヘプバーン演じるサブリナが、パリ修行で美しく変身した後に大富豪の息子ふたりの間で恋に揺れる様をユーモラスに綴ります。
共演は『カサブランカ』(1946)のハンフリー・ボガートと『サンセット大通り』(1951)のウィリアム・ホールデン、『ダイヤルMを廻せ!』(1954)のジョン・ウィリアムズ。
映画『麗しのサブリナ』のあらすじとネタバレ
高級住宅地にあるララビー家の大邸宅。屋内、屋外のテニスコートにプールまであるその家には、大勢の使用人たち、そしてお抱え運転手のフェアチャイルドとその娘サブリナがいました。
ララビー家には夫婦とふたりの息子がいました。ライナスはエール大学出身、弟のデイヴィッドは名門校をいくつか転校し、短い結婚も経験しています。
年に一回のパーティーの様子を、サブリナは木の上からのぞいていました。デイヴィッドに恋する彼女は、彼がほかの女性と笑い合いながらダンスするのをみて悲しみます。
そんな娘を心配した父は、パリの料理学校に留学させます。「月に手を伸ばすな」と身分違いの恋をする娘を諭す父。
デイヴィッドへの思いを断ち切れないサブリナは父宛ての遺書を書き、閉め切った車庫で何台もの車にエンジンをかけて自殺しようとします。
すると異変に気付いたライナスが現れ、ガレージを開けてエンジンを止めて周りました。サブリナはプラグの点検をしていたと嘘をつきます。その後気絶したサブリナをライナスが抱きかかえて部屋へ連れて行きました。
サブリナはパリの料理学校の授業を受けながら、デイヴィッドへの思いをにじませた手紙を父に送ります。
生徒のフォンテネル男爵は、スフレのオーブンのスイッチを入れ忘れたサブリナに恋に破れたことを言い当てます。月に手を伸ばすなと言われたという彼女に「月にロケットを飛ばす時代だ」と笑い、まずポニーテールはやめるように助言しました。
フォンテネル男爵から芸術や人生を学んだことを手紙にしたためるサブリナ。イブニングをデイヴィッドに見せたいとも書いてありました。
当のデイヴィッドはサブリナの手紙に興味を示さず、猛スピードの車で出て行きます。彼の4度目の結婚が新聞に報じられていました。兄が出した新聞記事に激怒したデイヴィッドは、ララビー産業株式会社に乗り込みます。彼は記事に出ているエリザベスと結婚したくなかったからです。
しかしライナスは彼を資産家の彼女と政略結婚させたがっていました。仕事人間の彼自身は結婚する気はサラサラありません。
サブリナは卒業を目の前に控え、生涯最良の2年間への感謝を手紙にしたためます。窓からはモンマルトルのサクレ・クールが見え、窓からはラヴィアンローズが流れていました。
サブリナは自分が料理だけはなく、もっと大切な人生の過ごし方や、生きがいある人生をおくるためには傍観者ではいけないこと、人生も恋も自分でつかむことを学んだと書き、もし私がわからなかったら、一番磨きのかかった素敵な女性が私だと書き添えました。
そしてその言葉通り、スタイリッシュなコートに身を包んだとびきり素敵なレディとなって、子犬を連れて故郷に帰ってきます。
彼女の美しさに引き寄せられた放蕩息子のデイヴィッドが車で近づいて声をかけますが、まったくサブリナとは気づきません。
サブリナは面白がりながら、デイヴィッドと名付けた子犬を抱きかかえて車に乗り込みます。自分は誰なのか秘密にしたまま。
映画『麗しのサブリナ』の感想と評価
ビリー・ワイルダーの魔術に酔う
冒頭の音楽を聴くだけで胸躍るオープニング。ディズニーのように煌めく夢の世界へと誘われます。
監督のビリー・ワイルダーは『サンセット大通り』(1951)、『アパートの鍵貸します』(1960)、マリリン・モンロー主演の『お熱いのがお好き』(1959)など映画史に残る名作の数々を世に送り出してきた巨匠です。ユダヤ系だった彼はナチスから逃れるためにフランス、アメリカへと亡命する激動の人生を送って来ました。
アカデミー賞ノミネートは20回にも及び、『アパートの鍵貸します』(1960)ではアカデミー作品賞、監督賞、脚本賞を受賞する快挙を成し遂げています。
すぐれた脚本家である彼は、全作品の脚本を共同担当。緻密な構成のもと繰り広げられるおしゃれな会話劇はワイルダーならではの魅力に満ちています。
本作ではサブリナ役にヘプバーンが決定していたことから、彼女をイメージした脚本が書かれました。ヘップバーンの魅力をあまさず描き出したからこそ、サブリナはあれほどまでにキュートで魅力的なキャラクターとなったのです。
長い髪を切り落としてレディに変身して美しくなるのはアン王女と同じですが、サブリナはその後もファッションや仕草、そして自信で女性は変わるということを強く発信します。
対して、ライナス役は当初のケーリー・グラントからハンフリー・ボガートに変更されたため、何度も書き直し、その日の撮影に間に合わないこともあったそうです。
『カサブランカ』(1946)『マルタの鷹』(1941)などハードボイルドの代表的存在で男性が憧れる俳優ボギーが、ヘップバーンとうい妖精を相手役にロマンティック・コメディを演じたというとても珍しい作品となりました。
割れないプラスティックのコミカルな耐久テストシーンや、弟の尻ポケットにグラスが入っていると知っていながら座るように勧めたり、彼のために尻部分をくりぬいたハンモックを用意したりと、ライナスのコメディシーンも笑わせてくれます。秘書に気つけ薬の指示を出すシーンも最高です。
弟デイヴィッド役のウィリアム・ホールデンはワイルダー作品の常連で、コミカルなシーンの呼吸は見事です。
「僕が結婚しないと子どもが靴をはけないのか?」ととんちんかんなことを言いながら兄に食ってかかったり、ハンモックの尻用に開けた穴から落ちたりしては爆笑をさらいます。
そんな放蕩息子が、失敗ばかりと思われていた3度の結婚生活からしっかりと女心を学んでいたというオチにほろっとさせられます。
デイヴィッドの尻で割れたグラスを伏線に、父の尻ポケットのオリーブの瓶をラストに持ってくるあたりは、さすがはワイルダーとうなるしかありません
ファッションアイコンとなった記念碑的作品
世界中から今なお愛されるオードリー・ヘプバーンの魅力が輝く本作は、大ヒット作『ローマの休日』(1954)の翌年に撮影されました。
『ローマの休日』でのアン王女とは違い、サブリナは大富豪宅に25年勤務するお抱え運転手の父を持つ庶民の娘です。
オードリーの相手役は常にかなり年上の男性ばかりです。グレゴリー・ペック、ゲイリー・クーパー、そして本作のハンフリー・ボガートなど、父親といってもよいほど年の離れた男性たちが年若いオードリーの魅力を引き立て、また彼女自身も男性たちの渋さを引き出しています。
監督たちは、若いながらも芯の通った凛としたオードリーには、年若い男性では役不足に感じたのかもしれません。
サブリナを美しく成長させたのは、パリの料理学校で出会った老人・フォンテネル男爵でした。スフレの焼き加減ひとつでサブリナの傷心を言い当てる慧眼を持つ彼は、彼女に人生と教養を教えます。
ちなみにこの料理学校はコルドンブルーという名門で、今でも人気のスクールです。ここでの修行風景もコミカルに楽しく描かれます。
素直で純粋なサブリナは自然に男爵からの教えを吸収し、ピカピカに磨かれた女性となって帰ってきます。
駅でプードルを連れ、スタイリッシュなコートを着て父を待つ彼女の立ち姿の美しさには、デイヴィッド同様私たちもただみとれるばかりです。その後、ララビー家のパーティーに着て行ったイヴニングドレス姿の美しいことといったら!野暮ったい小娘から羽化した彼女をそのまま映し出したかのような、蝶を思わせる素晴らしいデザインのドレスはコートと同じくジヴァンシィの作品で、世界中を魅了しました。
ファッション文化を生み出すこととなったサブリナパンツ、サブリナカットは一世を風靡。本作はオードリーが完璧なファッションアイコンとしての地位を確立した記念碑的作品なのです。
まとめ
ファッションアイコンとしてのオードリーを生み出した名作『麗しのサブリナ』。モノクロ作品なのに、観終えた後には彼女の姿が色鮮やかに記憶に残っているように感じさせられるほど輝きに満ちた一作です。
9歳のときにキスしたデイヴィッドへのほのかな恋心から、大人の男性のライナスへの恋に目覚めることで本当の成熟を迎えたサブリナ。パリで迎えるハネムーンはどれほど甘く幸せだったことでしょう。心配かけ通しだった父のフェアチャイルドの喜ぶ顔も目に浮かぶようです。
サブリナやライナス、デイヴィッドだけではなく、運転手の父親、その同僚の使用人たち、ライナスの両親など、劇中のすべての人たちや細部に至るまで監督の愛情が感じられ、温かな思いに包まれます。
人間観察に長けたワイルダー監督ならではの気の利いたセリフ劇が、魅力ある役者たちによって演じられた珠玉の一作です。どうぞゆっくり夢の世界を楽しんでください。