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Entry 2023/08/26
Update

『オアシス』ネタバレ考察と結末の感想評価。身体障害のあるコンジュが空想を見る理由を俳優ムン・ソリが魅せる

  • Writer :
  • からさわゆみこ

世間から疎外された男女が織り成す、極限の純愛物語

今回ご紹介する映画『オアシス』は、『ペパーミント・キャンディー』(1999)、『バーニング 劇場版』(2023)のイ・チャンドン監督が手がけ、第59回ベネチア国際映画祭で監督賞を受賞しました。

過失致死事故を起こし服役したジョンドゥは、刑期を終え極寒の冬、刑務所から出所します。誰の迎えもなく無銭飲食し、家族に引き取られるというジョンドゥでした。

まもなく彼は被害者の家族が暮らすアパートを訪れ、脳性麻痺を患った被害者の娘コンジュと出会います。兄夫婦はコンジュを残し新居に越し、ジョンドゥは残された彼女を気にするようになります。

部屋の中で空想の世界に生きていたコンジュと、ジョンドゥは互いに惹かれ合い、純粋な愛を育んでいくのですが・・・。

映画『オアシス』の作品情報

2002 Cineclick Asia All Rights Reserved.

【公開】
2002年(韓国映画)

【原題】
Oasis

【監督・脚本】
イ・チャンドン

【キャスト】
ソル・ギョング、ムン・ソリ、アン・ネサン、チュ・グィジョン、リュ・スンワン

【作品概要】
イ・チャンドン監督は高校教師と小説家という経歴を経て、40歳を過ぎてから映画の道に進んだ異色の監督です。監督デビュー作『グリーンフィッシュ』(1997)で高い評価を得ました。

第59回ベネチア国際映画祭でチャンドン監督は、銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞し、重度の脳性麻痺を患ったコンジュを演じた、ムン・ソリは新人俳優賞を受賞しました。

ジョンドゥ役にはイ・チャンドン監督作品の『ペパーミント・キャンディ』(1999)で、ムン・ソリと初共演したソル・ギョングが務めます。

映画『オアシス』のあらすじとネタバレ

2002 Cineclick Asia All Rights Reserved.

寒空の下、夏の服装で刑期を終えた1人の男が出所します。わずかな所持金で豆腐一丁を買ってほおばり、露店で女性用の羽織物を買うと、家族のいるアパートへ向かいます。

しかし、家族は引越しておらず、別人が暮らしていました。途方にくれた男は行くあてもなく、空腹から料理店で無銭飲食をして、再び警察に逮捕されてしまいました。

まもなく30歳になる29歳のホン・ジョンドゥは前科三犯で、ひき逃げの死亡事故をおこし服役していました。

警察から連絡を受けて弟のジョンセが迎えに来ますが、度重なるトラブルからジョンドゥとは関わりたくないと告げ、家族の住む新居へ向かいます。

こうして家族と再会できたジョンドゥでしたが、兄のジョンイルや兄嫁、母からも露骨に迷惑がられながら迎えられました。

数日後、ジョンドゥはジョンイルが話をつけた中華料理店で、配達の仕事をすることになります。そして、しばらくたったある日、ジョンドゥは事故で死なせてしまった、被害者の家族が住むアパートに謝罪するため、お供え用の果物を持って訪ねます。

ところが被害者の息子ハン・サンシクは引っ越しの最中で、ジョンドゥの突然の訪問に怒りをあらわにして追い返してしまいます。

サンシクには、脳性麻痺で障害を抱える妹のコンジュがいましたが、彼は身重の妻と2人だけで新居に引っ越そうとしていました。

ジョンドゥは出発しようとするサンシクに、体の不自由な妹を残して行くのかと訊ねます。サンシクはジョンドゥには関係ないことだと、立ち去るよう言い放ちます。

兄夫婦が出て行き、1人になったコンジュは手鏡を持って、光を壁に反射させ妄想の世界にいましたが、置き去りにされた悲しみと憤りで鏡を割ってしまいます。

残った鏡のかけらがまるでモンシロチョウのように、部屋の中をユラユラと漂いコンジュの寂しさを癒しました。

ジョンドゥは一度はアパートを去りましたが、果物の籠を部屋の前に置き様子をみます。そして少しだけドアが開いて、すき間から籠が見えるようにするとそっとアパートをあとにしました。

以下、映画『オアシス』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『オアシス』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

2002 Cineclick Asia All Rights Reserved.

中華料理店の配達員として働くことになったジョンドゥでしたが、食器を下げに行った事務所で、道草をして帰りが遅くなると店はとっくに閉店していました。

締め出されたジョンドゥは何かを思い立ち、配達のバイクでコンジュのアパートに向かいますが、窓から灯りは見えずそのまま帰ることにします。

コンジュは1人きりになった部屋でラジオを聞きながら、壁に映る木の影に怯えるように、布団にくるまっていました。

ジョンドゥは帰路の途中、映画かなんかの撮影クルーと遭遇し、好奇心が炸裂し執拗に追尾し、撮影の邪魔をしながら乱暴な運転をし横転し、ケガをしてしまいます。

ジョンドゥは兄から説教を受け、兄嫁からはジョンドゥが帰って来なければ、家庭は心配事もなく平穏だったと言われてしまいます。ジョンドゥは反省する様子もなくニヤニヤ笑うだけでした。

翌日、ジョンドゥは花束を持って、再びコンジュのアパートを訪ねました。呼び鈴を鳴らしたり、ドアをノックしていると帰宅した隣人の女性と出くわし、何か用かと聞かれます。

ジョンドゥは花のお届け物だと答えると、女性は植木鉢の下に隠した合鍵を使って、コンジュの家のドアを開けると、花束を受け取って中に入って行きました。

しかし、ジョンドゥは立ち去ったふりをして、鍵の隠し場所を盗み見ていたジョンドゥは、鍵を使ってコンジュの家に忍び込みます。

コンジュは脳性麻痺でこわばる体と表情で、ジョンドゥに怯えますが、彼はそんな彼女を見て「その程度なら、女としてなかなか可愛い」と、初めて見た時からそう思ったと、好意のあることを告げ、電話番号を書いたメモをのこします。

しかし、ジョンドゥの行動はエスカレートし、コンジュを強姦しようとします。必死に抵抗したコンジュはパニック発作を起こし、気絶をしてしまいます。

焦ったジョンドゥは気を失ったコンジュを浴室に運ぶと、顔にシャワーをかけて意識を戻し、慌ててアパートを立ち去ります。

翌日、コンジュは念入りにお化粧をして身支度を整えていると、隣人の女性が夫と一緒に合鍵で家に入り、コンジュが見ているのもお構いなしに、彼女をからかうように性行為をはじめます。

ところがそこにコンジュの兄サンシクが訪ねてきて、彼女を引越し先のマンションに連れていきました。兄が借りたマンションは障害者向けマンションで、コンジュ名義で入居しています。

その日は行政の立ち入り調査がある日で、コンジュと同居していることを示すだけのために、連れて来ただけでした。職員はコンジュを見て調査を終えますが、不正に入居する人が絶えないと言います。

その晩、コンジュはアパートに戻され、兄は隣人の女性に高額の金を渡し、世話を頼んでいるが気に入らなければ、辞めてもいいと言い捨てます。

コンジュは虚しさと惨めさを感じながらも、兄に理解を示して早く帰るよう言います。そして、おもむろにジョンドゥの残した電話番号のメモをとって電話をします。

驚いたジョンドゥは受話器に耳をあて、コンジュが話し出すのを待つと「聞きたいことがあって、電話しました」と必死の声で言います。

ジョンドゥは彼女と直接会って、話を聞こうとアパートを訪ねました。なかなか応答がなく帰ろうとした時、鍵の開く音がしてドアが開き、コンジュはジョンドゥを中に入れます。

コンジュは楽に座ってと促しますが、ジョンドゥは“許し”があるまで正座すると座り、聞きたいことは何なのか訊ねます。

コンジュはなぜ自分に花を届けたのかと聞きますが、ジョンドゥは「分からない」と答えます。困惑するコンジュにジョンドゥは、コンジュ(“姫”という意味)は本当の名前か聞きます。

彼女はそうだと答えるとジョンドゥは「姫というほどではないな」と言って、コンジュを和ますと、自分の先祖はホン・ギョンネ将軍で自分は18代目だと話します。

すると今度はコンジュが「ホン・ギョンネは将軍ではなく反逆者よ」と言います。ジョンドゥは困惑しますが、コンジュにむかってこれからは彼女を「お姫様と呼ぶ」といいます。

するとコンジュはジョンドゥを“将軍”と呼ぶと言い、2人は心を通わせていきます。コンジュはジョンドゥに仕事は何かと聞くと、とっさに自動車の整備工だと答えます。

コンジュは仕事ができることが羨ましいと、不自由な身を憂いでいると、ジョンドゥはこの家にいたら、気が滅入るだろうと彼女をアパートの屋上へ連れていってあげます。

夕刻、ジョンドゥが帰宅すると、母と兄嫁が「牧師様が心配して訪ねてくださった」と言います。牧師がジョンドゥを労うと、彼は自分のために祈ってほしいと頼みます。

牧師は皆と手を取って円になり、ジョンドゥの罪を許し、二度と邪悪な道にいかぬよう祈りを捧げました。そして、ジョンドゥは兄の工場へ行き、仕事を教えてほしいと願い出ます。

ジョンドゥは兄の工場で働くようになり、コンジュの家を訪ね洗濯などをするようになります。コンジュは好きな色や好きな季節など聞き、ジョンドゥとの時間を楽しんでいました。

ジョンドゥは好きな食べ物をジャージャー麵だと話し、コンジュは何でも食べるけど“豆”だけは嫌いだと強く言います。

2人は日が暮れるまで話し、ジョンドゥは歌を唄って聞かせたりしました。するとコンジュは「怖い・・・」とつぶやきます。

部屋の壁にインドの風景が描かれた「オアシス」という題のタペストリーに、街路樹の影が重なって怖いと話しました。

ジョンドゥはそんなコンジュのために、影を消す魔法をかけてやるとでたらめな呪文を唱えます。影は消えませんが、コンジュは楽しそうな笑顔を見せます。

日曜日、ジョンドゥは兄嫁の財布から札を抜き、コンジュを外出に連れ出します。電車に乗ってレストランに連れて行きますが、ランチの時間は終了したと言われます。

ジョンドゥは仕方なく兄の工場に戻り、出前を注文して事務所で食事をしようと考えますが、そこに兄から電話が入り、財布から現金を抜いたことを咎められました。

会話の邪魔をするコンジュに彼は不機嫌になって、彼女に少し怒ってしまいます。しかし、出前が届くとそれも忘れ、食べ始めると昨日見た夢の話をしました。

コンジュの部屋で2人は踊っていて、そこにインド人の女性と子供、象も現れ踊っている夢で、まるでオアシスの絵から飛び出して来たようだったと話します。

食事が済むとジョンドゥは、工場の車を勝手に持ち出してコンジュを送ろうとしますが、渋滞に巻き込まれ、帰宅が遅くなってしまいます。

その車はその日の夕刻に顧客へ引き渡す予定のものでした。顧客に迷惑をかけたこと、金を盗んだことで兄はジョンドゥに激しく怒り、後先何も考えない彼の行動を咎めます。

それにも懲りないジョンドゥは、母の誕生日パーティーが行われる日、コンジュを会場のレストランへ連れていきます。しかし、親戚なども集まる席では空気がおかしくなります。

兄がコンジュを見て誰なのか訊ねます。ジョンドゥは事故で死なせてしまった被害者の娘だと説明すると、その場が凍り付き気まずい雰囲気になりました。

そして、我慢の限界になった兄はジョンドゥを廊下に連れ出し、どこで知り合ったのか追究すると、ジョンドゥは悪いと思って会いに行ったと話します。

すると兄は悪いと思うのはジョンドゥではなく、自分だと言いそのことで自分に恨みがあるのだと、突っかかり始めました。

そこに弟のジョンセが、自分が説得すると間に入り、ジョンドゥが前科のある自分が兄の身代わりになると言いだし、罪を被ったことで、誰も強要していないのになぜ今さら蒸し返すのか聞きます。

兄も弟もジョンドゥがなぜそんな行動をするのか理解できませんが、ことを荒立てないために、コンジュを食事の席に着くことを容認しました。

しかし、最後に家族で記念写真を撮ろうとした時、ジョンドゥはコンジュも参列させようとしますが、兄に阻止されてしまいジョンドゥはコンジュを連れて店を出ます。

2人はカラオケに行き時間をつぶし、地下鉄でアパートに帰り、コンジュをベッドへ寝かせたジョンドゥが帰ろうとした時、彼女は「帰らないで」と引き止めます。

コンジュが思いきって「一緒に寝ましょう」と言い、その晩2人は結ばれ愛し合いますが、そこにサンシク夫妻が遊びに来たと訪ねてきます。

サンシクの妻が抱き合う2人を見て、コンジュが強姦されていると勘違いし、周囲に助けを求め、ジョンドゥはまた警察に逮捕されてしまいました。

取り調べでジョンドゥは本当のことを話しません。コンジュも調書のため警察へ行きますが、間に兄嫁が入って事実を警官に伝えられません。

コンジュは激しく体を動かして暴れ、彼の疑いを晴らそうとしますが、警官も兄嫁も怯えているためだと思い、ジョンドゥは留置所に連れていかれます。

しばらくして母が牧師を連れて面会に来ました。母はジョンドゥに懺悔するよう促し、牧師に祈りを頼みます。ところがジョンドゥは隙を見て警察を脱走してしまいます。

アパートに戻ったコンジュは、ベッドの中で「オアシス」の絵に映る影に怯えていました。ところがその枝の影が激しく揺れ、消えていくのがわかりました。

警察署を脱走してきたジョンドゥが、コンジュを怖がらせていた、外の木によじ登り枝を切っていたのです。そのことに気づいたコンジュは、ラジオのボリュームを最大にして応えます。

アパートの下で張り込んでいた警察も、ジョンドゥの行動が理解できませんでしたが、彼は最後の1本を切り落とすと、「姫君」と叫んで降り警察に連行されていきました。

その後、コンジュに服役中のジョンドゥから、「愛しの姫様へ」という書き出しで、刑務所内での暮らしが綴られた手紙が届きます。

刑務所での粗末な食事に豆が出ると、コンジュを思い出し、自分も豆が嫌いになったと書かれています。そして、出所したらまた美味しい料理を食べようと締めくくられていました。

コンジュは部屋の掃除をしながら、ジョンドゥの帰りを待つ幸せそうな表情を浮かべます。

映画『オアシス』の感想と評価

2002 Cineclick Asia All Rights Reserved.

『オアシス』は要所要所にコンジュの空想シーンが登場します。それは自分がもし、健常者だったら、ジョンドゥとこんな風に踊ったり、はしゃいだりケンカしたりするのだろうというものです。

コンジュ役のムン・ソリの迫真の演技は、身体の障害や思いを上手く言葉で伝えられない、そんなもどかしさをリアルに伝えていました。

ジョンドゥが言ったように、空想の中のコンジュは可愛い女性ですので、彼は見る目のある男性だとわかりますが、ジョンドゥがコンジュに惹かれていった理由は他にも推測できます。

ジョンドゥにはあきらかに多動性による、適応障害の特徴がみてとれます。そう考えると目に見える身体的な障害と、目に見えない発達障害を持つ2人の距離が近づくのは、必然的だったとも言えるでしょう。

周囲の健常者はコンジュのことを“哀れむ”ようにしか見ず、ジョンドゥの周囲の人間も目にみえない障害があることすら知らず、ただの“厄介もの”として見ています。

言わば世間から疎外されている境遇の2人が、互いに気持ちを通じ合わせるのに、時間がかからなかったということです。

ジョンドゥが兄弟思いから、兄の身代わりになったように、コンジュへの愛情にはなんの偽りもなく、純粋なものだったことがわかります。

コンジュは妄想の中で自分を昇華させていましたが、ジョンドゥの純粋な優しさが、現実の中でも幸せになれる希望を見出しました。

周囲に理解されなくても、2人で居れば力強く生きていけるという、自信をコンジュはジョンドゥによって導きました。

ジョンドゥが母のバースデーパーティーで、“鈴鳥”という鳥の話をしますが、韓国の代表的な鳥に“カササギ”という鳥がいて、日本でいう雀のように親しまれていることがわかりました。

韓国でカササギは幸運と幸福を象徴する鳥、“吉鳥”として親しまれています。カチカチと鳴くことから“カチ”とも呼ばれています。

ジョンドゥの父が話した“鈴鳥”はこのカチのことだったのでしょうか?また、ジョンドゥの家庭は敬虔なクリスチャンのようなので、聖書の説話に関係する話なのでしょうか?

聖書の中に「一羽の雀」という一節がありました。

「例え雀一羽であっても、神が創造したものは、神の許しがなければ落ちることはなく、清く、賢く、力強く、守り導く」という説法でした。

自然の摂理の中で生まれた、コンジュとジョンドゥは本来、慈しみに満ちた愛で守られなければならないのに、家族でさえも訝しく扱う矛盾がこの映画から伝わりました。

まとめ

2002 Cineclick Asia All Rights Reserved.

元教師で小説家でもあるチャンドン監督は、韓国社会の片隅でもがき苦しみながらも、必死に生活をし、生きようとする人間の姿を独自の視点で描き、『ペパーミント・キャンディ』をはじめ、本作の『オアシス』を制作しました。

『オアシス』ではあるべき姿の理想が、描かれているようにも取れます。ラストシーンはジョンドゥの“オアシス”になるべく部屋を掃除し、出所を心待ちにするコンジュの姿です。その純粋な心を満面の笑みと、陽の光で明るい部屋で表していました。

また、本作は世間や行政の助けはあてにならず、自力で補う力強さも必要なのだと訴えているようです。コンジュが少しでもアパート暮らしで自立し、ジョンドゥがそこに帰ってくれば、兄の不正が明るみになるのも時間の問題です。

ただ、弱者であることを悲壮感だけで描くのではなく、強さを身に着け生き抜く大切さもこの映画では伝えていました。




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