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Entry 2020/11/25
Update

二階堂ふみ映画『ばるぼら』ネタバレ考察と解説。ラストの原作漫画との違いと小説を“死なせなかった”意味とは?

  • Writer :
  • 河合のび

映画『ばるぼら』は2020年11月20日(金)よりシネマート新宿、渋谷ユーロスペースほかにて全国ロードショー公開!

「漫画の神様」こと漫画家・手塚治虫の数々の代表作の中でも「異色の名作」「映像化は不可能」と評された漫画を基に、実子である手塚眞が大胆に映像化した映画『ばるぼら』。

異常性欲に悩まされる人気小説家・美倉洋介役を『半世界』の稲垣吾郎が、芸術家のミューズで在り続ける謎の女ばるぼらを二階堂ふみが演じています。

本記事では、映画『ばるぼら』と手塚治虫による原作漫画の間での相違点を紹介しつつも、「原作漫画と最も異なる点」である映画の結末について解説・考察していきます。

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映画『ばるぼら』の作品情報


(C)2019『ばるぼら』製作委員会

【日本公開】
2020年(日本映画)

【原作】
手塚治虫

【監督・編集】
手塚眞

【脚本】
黒沢久子

【撮影監督】
クリストファー・ドイル、蔡高比

【キャスト】
稲垣吾郎、二階堂ふみ、渋川清彦、石橋静河、美波、大谷亮介、ISSA、片山萌美/渡辺えり

【映倫区分】
R15+

【作品概要】
異常性欲に悩まされている耽美派小説家・美倉洋介役を『半世界』の稲垣吾郎、芸術家のミューズで在り続ける謎の女ばるぼらを二階堂ふみが演じた他、渋川清彦、石橋静河、美波ら国内外で活躍する豪華俳優陣が集結。

監督は手塚治虫の実子であり『白痴』『ブラックキス』など独特の映画美学により国際的に評価される手塚眞。また撮影監督をウォン・カーウァイ監督作品等で知られるクリストファー・ドイルが務めている。

映画『ばるぼら』のあらすじ


(C)2019『ばるぼら』製作委員会

ある日人気小説家の美倉洋介は、新宿駅の片隅でホームレスのような風体で酔っ払う謎の少女ばるぼらに出会い、思わず家に連れて帰ってしまう。

大酒飲みでだらしないばるぼらに、美倉はなぜか奇妙な魅力を感じて追い出すことができない。彼女を手元に置いておくと不思議と美倉の手は動きだし、新たな小説を創造する意欲がわき起こるのだ。彼女はあたかも、芸術家を守るミューズのようだった。

その一方、異常性欲に悩まされる美倉は、あらゆる場面で幻想に惑わされていた。ばるぼらは、そんな幻想から美倉を救い出す。

魔法にかかったように混乱する美倉。その美倉を翻弄する、ばるぼら。いつしか美倉はばるぼらがいなくては生きられないようになっていた。

ばるぼらは現実の女なのか、美倉の幻なのか。狂気が生み出す迷宮のような世界に美倉は堕ちてゆくのだった……。

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映画『ばるぼら』の感想と評価


(C)2019『ばるぼら』製作委員会

小説の「未完の完成」を描かなかった映画版

「漫画の神様」と讃えられる漫画家・手塚治虫の数々の代表作の中でも「異色の名作」「映像化は不可能」と評された漫画『ばるぼら』。同作の映画化を手がけるにあたって、映画『ばるぼら』の監督であり手塚治虫の実子でもある手塚眞は原作漫画から多くの改変を行っています。

美倉の「初恋」と過去に触れた第5章「砂丘の悪魔」、政治と芸術の関係性を問う第6章「黒い破戒者」のちに訪れる物語の結末と美倉の運命を予期させる第7章「狼は鎖もて繋げ」など、原作漫画を構成する全15章のうちいくつかの章が省略されている点。原作漫画では「美倉の婚約者候補」として登場する志賀子・加奈子の立場や役割が大幅に変更されている点など、手塚眞による改変によって生じた映画と原作漫画の相違点は多々見受けられます。

しかしながら、それらはあくまで「詳細な相違点」に過ぎないといえます。そうした詳細な相違点よりもさらに重要な、映画『ばるぼら』と原作漫画の間において最も異なる点。それは物語を締め括る、「稲垣吾郎演じる小説家・美倉が孤独と飢えの絶頂の中で創作の衝動に駆られ、小説を書き始める」という結末の展開です。


(C)2019『ばるぼら』製作委員会

映画『ばるぼら』の作中では、「小説を書き始める」という時点以降の美倉の姿は描かれていません

一方で原作漫画では、美倉は小説を書き続けている途中で声も出せない程に衰弱。やがて美倉たちが過ごしていた別荘に訪れた愚かな若者たちに書きかけの原稿を持ち去られ、のちにその書きかけの小説『ばるぼら』が「未完の傑作」として世間で絶賛されるように。だが「芸術家・美倉洋介」として死を迎えた美倉本人は、「誰でもない誰か」として余生を送った……という結末で締め括られています。

手塚治虫が原作漫画において、美倉最後の小説『ばるぼら』を「未完」として完成させたのに対し、手塚眞は「未完」に至らせることなく、あくまでも「小説を書き始める」という創作の始まりの瞬間で物語を締め括る美倉の小説『ばるぼら』を「未完の完成」によって死なせなかったその意味には、手塚治虫の晩年を知る息子・手塚眞の想いが込められていると捉えることができます。

父・手塚治虫の晩年と「創作」の渇望と苦悩


(C)2019『ばるぼら』製作委員会

晩年、手塚治虫は末期のスキルス胃がんによって半蔵門病院へ入院。やがて昏睡状態と意識回復を繰り返す程に衰弱してゆく中、昏睡から目覚めるたびに「頼むから仕事をさせてくれ」と起き上がろうとし周囲から制止されていたといわれています。

当時手塚プロ社長を務めていた松谷孝征曰く、1989年1月21日に死去する前の最後の言葉もまた「頼むから仕事をさせてくれ」の一言だったという手塚治虫。最期まで創作を続けようとしていた父のそのような姿を、手塚眞もまた息子として見守っていました。

原作漫画『ばるぼら』の主人公であり「小説家」という創作者である美倉洋介のモデルは、作者である手塚治虫本人ではないかと言われていました。また同作の連載が開始された1973年は、自身が経営していた虫プロ商事と虫プロダクションの倒産によって莫大な負債を抱え、手塚治虫は才能と現実のしがらみ中で鬱屈と葛藤に苦悩していた年。主人公・美倉が創作者として苦悩する姿に、手塚治虫は自身を重ねていたのかもしれません。

そしてだからこそ、多くの「未完」の作品を遺すことになった手塚治虫自身の最期を予言するかのような結末を描いてしまうほどの名作『ばるぼら』を生み出せたのでしょう。

「創作の未完と死」ではなく「創作が生まれる瞬間」を


(C)2019『ばるぼら』製作委員会

ある意味では、「多くの「未完」の作品を遺すことになった手塚治虫自身の最期を描かれている」と解釈とすることも可能な漫画『ばるぼら』。しかし、病に冒され苦しみながらも創作を渇望し、創作の苦悩に身を投じることをやめなかった手塚治虫を「息子」として、「創作者」として知る手塚眞は、「父であり創作者であった手塚治虫へ捧ぐ映画」を作るにあたって、父の想いが込められた原作漫画の結末に自分自身の想いをぶつけました。

書きかけの原稿は「未完の傑作」として世間で高く評価されたものの、それはあくまで「死後の評価」であり、創作者として美倉は既に死を迎えていた。原作漫画のそのような結末に対して、映画『ばるぼら』の結末は「ある創作者の死」ではなく、「創作が生まれる瞬間」を描いています。

「創作の未完と死」ではなく、「創作が生まれる瞬間」を。

そこには、渇望と葛藤の堂々巡りを繰り返すという地獄を彷徨うことになる「創作」という行為の原点にして希望を「21世紀を迎え、消化不良と飽和に塗れた社会」が存在する今だからこそ描きたいという想い。そして、病と死によって「創作」という地獄から解放されようとしているにも関わらず、それでもなお地獄を彷徨いたいと訴え続けた父・手塚治虫の願いを叶えたいという息子・手塚治虫の想いが込められているのです。

まとめ


(C)2019『ばるぼら』製作委員会

映画化によって省略された原作漫画の章の一つであり、美倉の「初恋」と過去に触れた第5章「砂丘の悪魔」の作中には、美倉の言葉を通じて以下のような一節が綴られています。

書き上げた本は殺した獅子のようなものだ
そのときには次の獅子を射止めることにしか興味がない
それが芸術家なのだ
だが…もし次に殺すべき獅子がいなければどうなる?
いたずらにくさり果てはえのたかった古い獅子の死体に…すがりついていなければならんのか!
(手塚治虫『ばるぼら』より)

創作を続けていく中で、避けては通ることのできない葛藤と苦悩。この一節からだけでも、無数の創作者たちとそのうちの一人である手塚治虫の想いを窺い知ることができます。ですが、それでも彼ら彼女らが「創作が生まれる瞬間」を渇望し続けることをやめなかったからこそ、今日までの芸術が存在するのです。

そして手塚眞は、創作を求め続けた父の願い、無数の創作者たちの願いを叶えるべく、「創作が生まれる瞬間」を映画という時間を操る芸術によって描き出しました。

映像としてその瞬間を焼き付け、映画の「終わり」とともに必ず「はじまり」であるその瞬間が訪れる。その「終わり」と「はじまり」が混ざり溶け合った映画の構造によって、手塚眞は「創作」という地獄に身を投じることで体感できる「創作」の価値を表現し、父であり創作者であった手塚治虫の願いへの想いを捧げたのです。




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