Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

LGBTQ映画

Entry 2021/06/29
Update

映画『片袖の魚』感想評価とレビュー解説。水槽とクマノミに思いを馳せる自分を不完全だと思い込む“ある女性”の姿を描く

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

映画『片袖の魚』は2021年7月10日(土)より新宿 K’s cinemaで公開予定!

日本で初めてとなるトランスジェンダー女性の俳優オーディションを開催し、主役に選ばれたのはファッションモデルとして活躍しているイシヅカユウ。

自身を不完全だと思い込み、自信がもてないトランスジェンダーの女性が新たな一歩を踏み出そうとする、ささやかながらも確かな一歩を描く映画。

本作は、2021年のホノルル・レインボーフィルム・フェスティバルとアウトサウス・クィアフィルム・フェスティバルに正式招待されました。

映画『片袖の魚』の作品情報


(C)2021 みのむしフィルム

【公開】
2021年(日本映画)

【原案】
文月悠光「片袖の魚」 (『わたしたちの猫』/ナナロク社刊)

【監督・脚本】
東海林毅

【キャスト】
イシヅカユウ、広畑りか、黒住尚生、猪狩ともか、田村泰二郎、原日出子

【作品概要】
監督を務めた東海林毅監督は、「劇場版 喧嘩番長」シリーズや『お姉チャンバラ Vortex』(2009)『はぐれアイドル地獄変』(2020)などの商業映画も手がける一方で、自主映画製作も手がけています。

自主映画として製作した、ゲイでマゾヒストの老人の姿を描いた短編『老ナルキソス』(2019)や『ミソジニー(女性嫌悪)と男性社会の持つホモソーシャリティというテーマを取り扱った短編『ホモソーシャルダンス』は国内外のLGBTQ+の映画祭で高い評価を得ています。

日本で初めてとなるトランスジェンダー女性の俳優オーディションを開催し、主役を勝ち取ったイシヅカユウは、体が男性として生まれながら女性のアイデンティティを持っているトランスジェンダーモデルとして様々な分野で活躍するファッションモデル。本作が映画初出演となります。

映画『片袖の魚』のあらすじ


(C)2021 みのむしフィルム

トランスジェンダーの女性である新谷ひかり(イシヅカユウ)は、時折人々の配慮のない言動に言いようのない壁を感じていました。

しかし、友人で同じくトランスジェンダーの女性・千秋(広畑りか)や上司の中山(原日出子)、同僚の辻(猪狩ともか)ら理解者に恵まれ、魚の水槽の設置や管理をする仕事に就いていました。

ある日、出張で故郷の街を訪れることになったひかり。ふと過去の記憶がよぎり、高校の同級生であった久田敬(黒住尚生)に、今の自分を見てもらおうと連絡をしますが…

映画『片袖の魚』の感想と評価


(C)2021 みのむしフィルム

印象的な“水槽”

本作『片袖の魚』では“水槽”が印象的に使われています。

冒頭、ひかりの独白で原案となった文月悠光の詩「片袖の魚」の一部が朗読され、最後の一編に「彼らの暮らす水槽は、あまりに澄んでいたから。」という言葉があります。

ひかりは自分が不完全な存在であると思い、自信が持てずにいます。その詩はあまりに澄んだ水槽に、不完全な自分は暮らせないと思うひかりの心情のあらわれかのようです。

海水魚“クマノミ”に寄せたものとは

また、ひかりにとって思い出深い魚がクマノミです。クマノミは雄性先熟という、群れのメスがいなくなったりした場合、生殖の問題が起きると雄が雌になるという性質があります。

ひかりはクマノミのそのような性質に自分自身と近いものを感じているのかもしれません。

社会を水槽になぞらえ、ひかりが感じている息苦しさや他者との壁を水音を用いて印象的に表現しています。

更に本作は新型コロナウイルス対策として少人数で撮影が行われ、全編スマートフォン1台で撮影が行われました。ひかりに寄り添うように丁寧に撮影された映像が彼女の新たな一歩を清々しく描き出します。

日本で初めてトランスジェンダーのオーディションを経て、イシヅカユウがトランスジェンダーの女性を演じた本作は、LGBTQ+映画であると共に、一人の人間として自分らしく生きようとする全ての人に届く映画になっています。

まとめ


(C)2021 みのむしフィルム

トランスジェンダーモデル・イシヅカユウがトランスジェンダーの女性が新たな一歩を踏み出す姿を描いた映画『片袖の魚』。

水槽の中で生きる魚たちに自分自身や社会を投影し、息苦しさや言いようのない壁を演出し、その中でも自分らしく生きていこうとするひかりの姿に希望を感じられます。

原案の文月悠光が映画のために書き下ろした主題歌「RED FISH」にも注目です。

映画『片袖の魚』は2021年7月10日(土)より新宿 K’s cinemaでロードショー。

関連記事

LGBTQ映画

映画『マイビューティフルランドレット』フル動画を無料視聴!あらすじと見どころ

1985年のLGBTをテーマに扱った青春映画『マイ・ビューティフル・ランドレット』。 演出はスティーヴン・フリアーズ監督が務め、初めはイギリスのテレビ局チャンネル4のために制作したテレビ映画だったが、 …

LGBTQ映画

映画『百合の雨音』ネタバレ結末あらすじと感想評価の解説。2022年の今なお金子修介監督が原点回帰で“女性の解放”を描く

ロマンポルノで監督デビューした金子修介監督が原点に立ち返り、女性の解放を描く 日活ロマンポルノ50周年を記念した「ROMAN PORNO NOW」プロジェクトとして、第一弾は松井大吾監督の『手』、第二 …

LGBTQ映画

今田美桜映画『カランコエの花』あらすじとキャスト。作品はグランプリ5冠へ

今田美桜主演の映画『カランコエの花』は、2018年7月14日(土)より新宿K’s cinemaにて1週間限定ロードショー。 世界的な映画の1つテーマに浸透つつあるLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシ …

LGBTQ映画

『しあわせな人生の選択』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も

トマスは長年の友人でスペインに住むフリアンの余命が僅かであること聞き、カナダからフリアンに会いに訪れます。 映画『しあわせな人生の選択』は余命宣告されたフリアンと、彼を取り巻く人たちの最期の4日間を描 …

LGBTQ映画

【ネタバレ】蟻の王|あらすじ結末感想と評価解説。社会派ヒューマン映画で描いた“2人の男性の尊厳”の闘い

同性愛の許されない時代に生き、自身の尊厳のために闘った詩人と青年の物語 映画『蟻の王』は、『ナポリの隣人』(2019)、『家の鍵』(2006)のジャンニ・アメリオが、「ブライバンティ事件」の実話をもと …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学