ド派手なドラァグクイーンたちの心の旅
オーストラリアの広大な地を舞台に、3人のドラァグクイーンが真実の愛を求めて旅する姿を描いたロードムービー『プリシラ』。
監督はステファン・エリオットが監督を務めた本作は、1995年の第67回アカデミー賞にて衣装デザイン賞を受賞しました。
ドラァグクイーン3人組を演じたのは、『コレクター』(1965)のテレンス・スタンプ、「マトリックス」シリーズのヒューゴ・ウィービング、『L.A.コンフィデンシャル』(1998)のガイ・ピアース。名優3人がド派手なコスチューム姿で荒野を進む姿は幻想的な美しさを放っています。
彼らが見つけ出した真実の愛とは、どんなものだったのでしょうか。
映画『プリシラ』の作品情報
(C)1994 AUSTRALIAN FILM FINANCE CORPORATION LIMITED, ORION PICTURES CORPORATION, LATENT IMAGE PRODUCTIONS PTY LTD AND NEW SOUTH WALES FILM AND TELEVISION. All Rights Reserved
【日本公開】
1995年(オーストラリア映画)
【監督・脚本】
ステファン・エリオット
【キャスト】
テレンス・スタンプ、ヒューゴ・ウィービング、ガイ・ピアース、ビル・ハンター
【作品概要】
オーストラリアの砂漠の街で開かれるショーに出るために、真実の愛を求めておんぼろバス「プリシラ号」で旅をする3人のドラァグクイーンの姿を描くロードムービー。
監督はステファン・エリオット。素晴らしい奇抜な衣装が高く評価され、1995年・第67回アカデミー賞で衣装デザイン賞を受賞しました。
キャストには『コレクター』(1965)のテレンス・スタンプ、「マトリックス」シリーズのヒューゴ・ウィービング、『L.A.コンフィデンシャル』(1998)のガイ・ピアースなど。
映画『プリシラ』のあらすじとネタバレ
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シドニーで暮らすバイセクシュアルのミッチ、プライドの高い性転換者のバーナデット、いつも騒々しい若いフェリシアら3人のドラァグクイーンは、オーストラリア中部の砂漠のリゾート地・アリススプリングスにあるホテルでショーを行うことに。
「キングズ・キャニオンの山頂に、スパンコールのドレスとハイヒールで立つ」という夢を抱いた3人は、フェリシアが手に入れたおんぼろバスに「プリシラ号」と名付け、大勢の人々に見送られながら3000キロの旅に出発します。
道中、今回の仕事の依頼人がミッチの元妻マリオンであることが判明。音信不通だった彼女から6年ぶりに連絡があったことを、ミッチは涙ながらに話しました。
派手に着飾った3人は途中で降りてホテルに泊まり、酒場を訪れます。他の客から偏見の目で見られますが、そんなことにも負けず、3人は周囲を巻き込んで大盛り上がりに。しかし、自分を「ラルフ」という本名で呼んだフェリシアをバーナデットは殴りつけました。
翌朝、バスに「出ていけ、エイズ野郎」というひどいラクガキがされており、それを見て3人は傷つきます。
さらに移動を続けるうちに、走行中のバスがガタガタと音を立てて止まってしまいました。そこは見渡すばかり、何もない荒野でした。
このまま野垂れ死ぬのだけは避けるため、バーナデットは一人で救助を求めて歩き出します。フェリシアはバスをラベンダー色のペンキで塗り直し、ミッチはドレスに着替えて荒野で踊り始めました。
老夫婦の車を見つけたバーナデットは必死で助けを求め、バスのところまで連れてきます。しかし、老夫婦はドラァグクイーンたちの奇天烈な出で立ちに驚いて逃げ去ってしまいました。
3人はがっくりしながらも、時間を有効に使おうと砂漠でショーのリハーサルを始めます。すると、近くでキャンプを張っていたアボリジニの男がやって来て、自分たちの宴会へと彼らを連れて行きました。
映画『プリシラ』の感想と評価
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偏見に屈せず自分だけの花を咲かせる大切さ
心にそれぞれ痛みを抱える3人のドラァグクイーンたちが、広大な荒野をひたすら進む旅を描いたロードムービー『プリシラ』。
いつも騒々しく、人を怒らせるのが好きなフェリシア。フェリシアの挑発に毎回乗ってしまう誇り高きゲイのバーナデット。どうしてそうなのかとフェリシアに理由を聞く、元妻子持ちのミッチ。目的地に向かっているのに、どこか“逃避行”のような匂いを感じさせる過酷な旅です。
壮大な自然さながらに、己の心のままに生きるドラァグクイーンたち。3人のバランスが素晴らしく、彼らの旅を見守るうちに自分も一緒に旅しているような気分になってきます。彼らが受ける差別や偏見にも一緒に傷つき、怒りを感じ始めるのですから不思議なものです。
彼らは行く先々で何度も差別を受け、偏見の目で見られます。酒場では罵られ、バスにはひどい落書きをされ、故障したバスを助けに来たはずの老夫婦は彼らの姿を見ただけで逃げ去ります。女装で男だらけの飲み会に乗り込んだフェリシアは、ゲイへの偏見を持つ大勢の男たちに危うく殺されそうになる始末です。
いつもはエレガントでいながら百戦錬磨のバーナデットは、屈することなく相手を殴り倒します。彼がこれまで偏見に正面から立ち向かってきたことを示す象徴的なシーンです。
「我々には都会しかない。都会の壁がまもってくれる。ののしられて強くなるんだから。男が女になるのはラクじゃないのよ」という、フェリシアに語り掛けるバーナデットの言葉には重みがあります。年輪を重ねたバーナデットの言葉は、やんちゃなフェリシアの胸に深く響いたに違いありません。
そんな彼らですが、バーナデットとボブの純な恋模様や、子どもが欲しかったと語るバーナデット、そしてそんな彼に自分には子どもがいることを話せずにいるミッチ、バーナデットのいたわりの言葉に泣くフェリシアなど、人間らしい姿を何度も見せます。
ボブと気持ち良く酔った末、ケーキの上に寝てしまったバーナデットのキュートなことといったら!『コレクター』の名優テレンス・スタンプが、この個性的な役をこんなにも魅力的に演じてくれることに感動するばかりです。
そのほかにも、ミッチをマダム扱いする温かなボブ、ミッチの全てを受け入れる肝っ玉母さんのマリオン、父と母を理解する幼く逞しいベンジーなど、素敵なキャラクターが登場し、主人公3人を支えます。
圧倒的な美を表現する衣装たち
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本作の大きな見どころは、ドラァグクイーンが身にまとう独創的で奇抜な、それでいて圧倒的に美しい衣装の数々です。その衣装は多くの人々に評価され、1995年の第67回アカデミー賞では衣装デザイン賞を見事受賞しました。
どこまでも広がる荒涼とした大地と、ド派手な色彩とデザインをまとうドラァグクイーンの対比は、異空間かと思わせるほどに幻想的で胸に迫る美しさです。7変化の独創的な衣装に、常に目が釘付けになることでしょう。
銀ギラの裾の長い服を風になびかせて、バスの上でオペラを歌って悦にひたるフェリシアの幻想的な姿。サンダルをつなげた奇抜なミニスカートを見事に着こなすミッチ。バスが故障してしまい、助けを求めてひとり彷徨うシックな出で立ちのバーナデットもファンタジックです。
最後に念願だったグランド・キャニオンに登る3人。どこまでも荒れ果てた岩山が広がる中でキラキラと光るきらびやかなコスチューム姿は圧巻です。
派手な衣装を着た彼らが、がぶがぶと飲み干す酒。故障したバスの脇で、テーブルを出して優雅に食す朝食のフレークスとホルモン剤など。彼らにとって日常のものすら、平凡な私たちにとっては幻想的な存在感を感じさせます。
そんな強大なパワーを持つ3人組だからこそ、あれほど個性的で過激なファッションに負けず、見事に着こなすことができたのだと改めて感じ入らずにはいられません。
まとめ
(C)1994 AUSTRALIAN FILM FINANCE CORPORATION LIMITED, ORION PICTURES CORPORATION, LATENT IMAGE PRODUCTIONS PTY LTD AND NEW SOUTH WALES FILM AND TELEVISION. All Rights Reserved
名優テレンス・スタンプ、ヒューゴ・ウィービング、ガイ・ピアースの名演が光る異色のロードムービー『プリシラ』。本作には人の持つ優しさ、悲しみ、喜び、怒りなどさまざまな感情がギュッと凝縮して詰め込まれています。
愛を追い求めたバーナデットはボブという伴侶と出会い、彼と生きることを不安ななかにも選び取りました。ミッチは、かわいい息子を一時的にせよ、一人で育てるという大きな冒険に繰り出し、フェリシアは傍で一緒に支える道を選びます。
彼らは誰より、愛を追い求める人たちだったといえるのではないでしょうか。彼らが愛を求め続ける限り、幸せへの扉はいつも開かれているに違いありません。
自分が美しいと思うファッションに身を包み、偏見に負けることなく自己を貫く彼らから、多くのことを教えられます。
ありのままに自分を生きること。その先にこそ本当の幸せは待っているのかもしれません。