映画『愛してる!』は2022年9月30日(金)より全国順次公開!
アイドルの主人公がSMの世界と出会い、自分でも知らなかった本性に目覚め解放されていく姿をポップに描いた白石晃士監督の映画『愛してる!』。
日活ロマンポルノ50周年を記念し、異なる個性をもった3人の監督が作品を手がけるプロジェクト「ROMAN PORNO NOW」の第2弾作品です。
このたびの劇場公開を記念し、「髙嶋政宏」役として映画に出演したほか、映画の企画監修も務められた俳優・髙嶋政宏さんにインタビュー。
本作の脚本を初めて読まれた際に抱いた感動、自身が思う「好き」の在り方とそれがもたらしてくれる「出会い」など、貴重なお話を伺いました。
『変態紳士』の精神が盛り込まれた映画
──本作からは、髙嶋さんがエッセイ『変態紳士』(2018、ぶんか社)でも語られていたSMやフェチへの愛が伝わってきました。
髙嶋政宏(以下、髙嶋):今回の映画のお話をいただいた時、当初は「『変態紳士』なんて、どうやって映画にするの?」と思ったんです。あくまでもエッセイな『変態紳士』は物語といえる物語がないので、それをどう劇映画として作るのかが疑問だったんです。
その何ヶ月か後、準備稿を渡された時には本当に感動しました。『変態紳士』の精神が見事に映画へ盛り込まれていて、最初からほぼ完成形に近い状態だったんです。
『愛してる!』は「フェチとは、いつ出会ってもいい」「その出会いは、人類に与えられた平等な権利だ」と描いてくれていると感じていて、それが凄くいいんです。
いつ気づいたって、いいんです。気づきを恐れないでほしいし、この『愛してる!』という映画そのきっかけになってほしい。「変態最高」というセリフもよかったですよね。
「好き」を深刻に考え過ぎない
──髙嶋さんは「好き」という感情が時にもたらす「こだわり」について、どのように捉えられているのでしょうか。
髙嶋:僕は「こだわりがない」のがこだわりといいますか、「自分が好きなものだけが好き」というのが正直なところです。
周りがスポーツなどで沸き立っていても、自分自身の中で興味がなかったら全然興味がない。ただ好きなものだけは、時を忘れてめり込む。「あるがままに」といえばいいんですかね。他人の好きに振り回されず、自分の好きを信じるんです。
ただ、あまり深刻に考え過ぎないのも大事ですね。例えば、味噌汁とご飯としゃけの朝ごはんが好きだから「朝ごはんは毎日それを食べたい」と思ったとしても、「それを毎日食べる」と固執するわけじゃない。
もちろん、毎日食べる時だってあると思います。でもある日、急にコンビニのタマゴサンドを食べる時もある。周りからは「なんだ、前は『朝はご飯と味噌汁とシャケ』と言っていたのに」と指摘されても、「今、俺の好きは変わったんだ」と答えるんです。
『変態紳士』を出した時も、「あなたの本で勇気いただきました」「自分は変態で、どうしようもない人間だと思っていたけど、この本を読んで『変態でいいんだ』と思えました」といったご感想をいただけたんですが、やっぱり深刻に考え過ぎない方がいいんです。
何歳になっても、「好き」にしていい
──SMやフェチを含め多くの「好き」と出会ってきた髙嶋さんにとって、「出会い」とは一体何なのでしょうか。
髙嶋:「好きだ」と言ってみたら、同じものが好きな人たちがそこにいた。ただ、それだけなんですよね。
実は道を歩いていても、「この人、変態じゃないかな」となんとなく分かることがあるんです。それぐらい、自然な出会い自体はいくらでもあるけれど、世間体だとか「『これが好き!』と言ったら、相手にどう思われちゃうんだろう」という不安がよぎって、出会いを見逃してしまう。
最近、80歳代の方が書かれたエッセイを読んだんですが、その中で「人の目を気にしないで生きてくればよかった」「自分のやりたいことやればよかった」と悔やまれていたんです。
本当は何歳になっても、好きにしていいんですよ。「抑圧から解放される」なんて言うと大仰に聞こえますが、『愛してる!』の精神、『変態紳士』の精神で、自分が本当に求めているものだったら、それを信じる。自分の好きなようにすればいいんです。
映画監督だって、それに気づく時期に違いはあれど「自分の撮りたいもの」が必ずある。美食家と呼ばれる人たちも、「もう病気になってもいい」「とにかくこれが食いたいんだ」と何ヶ月も前から店に予約を入れ、食事をする。周りから「定食屋とかどうせ行かないんでしょ」なんて嫌味を言われたって関係なくて、「自分がよけりゃ、それでいいじゃないか」と答えたらいい。僕の場合は、それがフェチだったんです。
そもそも自分自身に正直になることは、大したことじゃないと思っているんです。SMやフェチの話をするようになって、みんなから「よくやったね」と言われることもありますが、逆に恐縮しちゃうんです。
他人は関係なく、自分が全て。そうやってみんなが少しずつ自由になれたら、きっと楽しいはずです。
インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介
髙嶋政宏プロフィール
1965年生まれ、東京都出身。
1987年に映画『トットチャンネル』で俳優デビュー。同作と同年公開の映画『BU・SU』により、第11回日本アカデミー賞新人俳優賞、第30回ブルーリボン賞新人賞、第61回キネマ旬報新人男優賞などを受賞。以降、映画・テレビ・舞台など幅広く活躍。
近年では個性的なキャラクターを活かし、バラエティー番組にも多数出演する。2022年4月からはCXの新番組『ポップUP!』の木曜パーソナリティも務めている。
主な出演作に、映画は『野球部に花束を』(2022)、『キングダム2 遥かなる大地へ』(2022)、『劇場版ラジエーションハウス』(2022)など。またドラマは『親愛なる僕へ殺意をこめて』(2022/CX)、『わげもん~長崎通訳異聞~』(2022/NHK)、『忠臣蔵狂騒曲No.5中村仲蔵出世階段」(2021/NHK)、『ラジエーションハウスⅡ~放射線科の診断リポート~』(2021/CX)、『ソロモンの偽証』(2021/WOWOW)、『武士スタント逢坂くん!』(2021/NTV)、『裕さんの女房』(2021/NHK BSプレミアム)などがある。
映画『愛してる!』の作品情報
【日本公開】
2022年(日本映画)*R18+指定
【監督】
白石晃士
【脚本】
白石晃士、谷口恒平
【SM監修】
蒼月流
【キャスト】
川瀬知佐子、鳥之海凪紗、乙葉あい、ryuchell、髙嶋政宏
【作品概要】
日活ロマンポルノ50周年を記念し、異なる個性をもった3人の監督が作品を手がけるプロジェクト「ROMAN PORNO NOW」の第2弾作品。アイドルの主人公がSMの世界と出会い、自分でも知らなかった本性に目覚め解放されていく姿をポップに描いた。
監督は『貞子vs伽椰子』『不能犯』などホラー・サスペンスを得意とする白石晃士。
映画『愛してる!』のあらすじ
ドキュメンタリーの密着取材を受ける地下アイドルのミサは、SMラウンジ「H」のオーナーから、女王様の素質があると見込まれスカウトされる。
困惑するミサだったが、人気女王様カノンとの出会いを通して、知らなかった快感に目覚める。そして、アイドルとSMの世界双方で上を目指そうと決意をするが……。
編集長:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。