Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

Entry 2019/05/07
Update

【清原惟インタビュー:前編】映画『わたしたちの家』で劇場公開を果たした宇宙的発想を探る⑴

  • Writer :
  • 加賀谷健

ちば映画祭2019「清原惟監督特集」

「初期衝動」をテーマに掲げ、2019年で10回目の開催となった「ちば映画祭2019」で特集された清原惟監督。

2018年には、東京藝術大学大学院の修了制作として手がけた初長編作品『わたしたちの家』が渋谷ユーロスペースにて公開され、彗星のごとく現れたその才能に多くの映画ファンが驚きと恐怖を覚えました。

©︎Cinemarche

並外れた表現力で映像と音響の宇宙を自在に想像(創造)していくイマジネーションは一体どこから沸き上がっているのでしょうか。

今回は、清原監督の頭の中に広がる発想(宇宙)の秘密や映画制作のモットーについて詳しいお話を伺うことが出来ました。

清原惟インタビューの後編⑵はコチラから

スポンサーリンク

“清原ワールド”の立ち上がり

──特有の世界観はどのような発想から初まるのか教えてください。

清原惟(以下、清原):作品ごとにそれぞれ違うのですが、大学の卒業制作の『ひとつのバガテル』でいうと、自分自身の物語でもあると言えるかと思います。

当時の自分は美術大学でものづくりをする環境にいて、いろんな困難はあったのですが、それなりに恵まれた環境でものづくりが出来ていると思っていました。でも、もしかしたら人生のどこかで分岐してしまった、そうじゃない自分もいたかもしれないなと考えたりする時がありました。

主人公のアキという女の子は、ピアノを弾いているのですが、経済的な理由などで学校に通って勉強をできない境遇にあります。それでも毎日自分のペースでピアノを練習しているんです。どんな境遇にあっても、その状況にいるひとなりのやり方で、やりたいことをやり続けるというのは、困難なことだけど、切実なことだと思っていました。

あとは、普通に生きているだけで面白いこととか、変だなと思うことがいっぱいあるじゃないですか。別に映画を作ったり表現をしていなくても、そういう瞬間に立ち会う時ってあると思うんですよね。そういうものをたくさん集めて、散りばめていくように作っていきました。

──撮りたいものを撮るという感じでしょうか?

清原:そうですね。私も映画は好きで、過去作から近年の映画までいろいろと観て、その中で自分の映画作りを培ってきたことが大きいので、意識下でも、潜在意識下でもたくさんj影響を受けていると思います。

でも、どちらかと言うと、自分自身の個人的な感覚とか人生への考え方から出発していたり、身近な人物、友達であったりとか場所だとか、そういうものからインスピレーションを受けているのが強いです。

ただもちろん、鑑賞してきた作品が反映されているというのは自分でも感じますし、それも自分にとっては大切なことの一部なのでミックスされている気がします。

ヌーヴェル・ヴァーグからの影響

©︎Cinemarche

──具体的に影響を受けた作品を教えてください。

清原:高校生の頃から、ヌーヴェル・ヴァーグのジャック・リヴェット監督が好きでした。

一番最初に映画を撮ったのが、高校二年生の時だったんですが、映画を撮りたいと思ったきっかけはリヴェット監督の映画だとか、大きな映画館でかかることのないような映画をみたことが原体験としてあります。

──作るよりも先に見ることがあったわけですね?

清原:そうですね、やっぱり見ることから映画が好きになって、それも小さい頃からではなくて高校生くらいになって、昔の映画やミニシアターでかかるような映画を観た体験というがありましたね。

──ジャック・リヴェット監督のどの作品がお好きですか?

清原:『セリーヌとジュリーは舟でゆく』(1974)とか『北の橋』(1981)、『彼女たちの舞台』(1989)がすごく好きですね。パリの日常的な景色の中に魔術的な空間が生まれちゃうという、日常と魔法がいとも簡単に地続きになって接続されているのがほんとうに素晴らしいなと思います。

パリの街と私たちの住んでいる東京の街とは全然違う場所ではあるんだけれど、日常と魔術的なものが繋がってしまう感覚は、自分自身のリアリティとして感じられるものでした。

参考映像:『セリーヌとジュリーは舟でゆく』(1974)

ロケーションの選び方をすごく参考にしていて、ただただ身の回りのものを撮るのではなく、映画はワンショット、ワンショットで全く別の場所を同じものとしてみせられるわけですね。それによって新しい場所というのか、現実には存在しないけど現実が写っているような、別の空間が立ち上がってくる感じをヌーヴェル・ヴァーグの人たちは、特にセットを立てているお金もなかったのにやっているので、そういうロケーションの使い方に影響を受けました。

だから自分もたくさんロケーションハンティングを重ねて、好きな場所を全然離れた場所と繋げて、自分自身の街を作り上げるような気持ちがありました。

──映画好きが実際に映画を撮る時に、フランソワ・トリュフォー監督の『映画術』を参考にすることは多いですが、清原監督の場合はいかがでしたか?

清原:本を読んで映画の技術についてちゃんと勉強しようと思ったのは大学に入ってからですね。(笑)

スポンサーリンク

学生映画の醍醐味

©︎Cinemarche

──高校生で初めて映画を作られた時はどうでしたか?

清原:初めての時は、映画の作り方が全く分かりませんでしたね。

ただただ映画を観ていただけで、こういうものが撮りたい、でも自分が撮るにはどうしたらいいのか、手探りで探さなくちゃいけない。撮った作品も凄く日常的な物語で、友人に出演してもらって、自分の通っている学校で撮ったりとか、家の周りの景色とか、そういう自分に近いものを撮っていました。

面白いなと思ったのが、自分が普段みている平凡な日常、退屈な日常とか、何気ないものたちが、映画に撮ると、別の見え方をして、知らなかった良さが見えはじめる瞬間があって。それが一番の手応えとして、もうちょっと続けてみたいなと感じていました。

──武蔵野美術大学の卒業制作と、東京藝術大学大学院の修了制作での違いはいかがでしたか。

清原:学部の時は、役割はありましたが、少ない人数でやっていたので、持ち回りで流動的に色々やっていました。カメラは自分で回していましたし、美術や衣装も自分でやっていました。

大学院に入ってからは、撮影領域、脚本領域、プロデュース、美術など部署ごとに分かれているので、それぞれの部署の人が集まって一個の座組みを作って制作するという体制になりました。今までフォーマット的に映画業界が積み上げてきた映画の撮り方を学ぶ場として大学院がありましたね。

学部の時より細かい分業スタイルになって、人に任せる部分が大きくなったので、最初は戸惑いもあったんです。

そこで起きるコミュニケーションの取り方もわからなかったし、拘りが強いところがあるので、それを人にどう伝えたらいいのか、あるいは各部署でその人自身のやりたいことがあったりして。学生の映画だから仕事で割り切るというのとも違いますし、他者と自分のやりたいことの折り合いの付け方を勉強させてもらいました。

結果として『わたしたちの家』は、自分以外の人たちのセンスや力みたいなものが入っている作品になったと思っています。

私が細かく指示しているところもありますが、一方でかなり任せている部分もかなりあったりして。美術も担当の子が自分で考えてやってくれて、最初に大きなイメージを渡してそこから膨らませてくれるわけで、一人で考えるよりももっと豊かなものが濃密になっていった感じでした。

それが、『わたしたちの家』のテーマでもある、「他者への想像力」と繋がって、よい作用になったいうのは今だから思うことですね。(笑)

フレームと演技

ちば映画祭のトークショーで来場者に作品の想いを伝える清原惟監督

©︎Cinemarche

──学部時代は撮影をご自分で行なっていたということですが。

清原:そうですね、カメラはほとんど回していましたね。写真はずっとやっていたんです。

中学生くらいからフィルムで写真を撮っていて、日常をあるフレームの中に切り取っていくということが面白いなと思ってました。

動画とスチールは全然違うものではありますが、カメラを使うという根っこの点では似ているところがあるから、あまり抵抗感なく最初から自分で撮影していました。

──カメラのフレームに被写体を捉えていくという感覚はすでにあったわけですね。

清原:映画を見ていてもフレームの取り方などは気になって見ていました。どういうふうな画を作るのか、すごく意識していましたね。演出しながらカメラも自分で回すので、最初はカメラを通して芝居を付けていく作業になっていたのかな。

それが『わたしたちの家』などの藝大作品からは、他の人にカメラをやってもらうようになって、もう少しカメラのフレームの外を意識して生のその人をみて演出することを学んでいったような気がします。

スポンサーリンク

演出家の距離感

──『ひとつのバガテル』と『わたしたちの家』の芝居を比較すると、演技の持続に変化があるように感じますがいかがですか。

清原:おそらく一番の違いは、本業で演技をする俳優か、全くの素人かどうかというところだと思います。あとは、私と出演者との関係性の距離というのがありますね。

『ひとつのバガテル』は本当に身近な人しか出ていなくて、八百屋役の方は役者さんでしたが、もともと積み上げてきたお互いの関係性があって、相手のパーソナリティ、喋り方の癖、歩き方、テンポ感などを理解し合いながらやっています。

参考映像:『わたしたちの家』(2017)予告編

『わたしたちの家』はそれとは違い、ほとんどの方がオーディションで会っていて、リハーサルもそんなに時間が取れませんでした。もともと演技をやっているという素地があるということと、私との距離がまだ遠いこともあって、その違いが多分画面には明確に出ているのでしょうね。

ただ、自分の意識の中で変わらない点もあります。俳優は演じるスキルは持っているんだけど、その人自身というのがやっぱりいるわけじゃないですか、その人のキャラクターというのはいつも重視したいです。その人の役ではないけれど、その人自身でそこに立っているという事実は大事にしています。

──演出家として俳優自身の生々しさを撮っていきたいということですね。

清原:演技している時よりも、普段会話している時の方がこの人魅力的だなと思う瞬間があります。それは俳優からするといいのか悪いのか分かりませんが、でも少なくとも自分はそちらの方がいいなと思ってしまいます。演技らしさみたいなものを削ぎ落としていく傾向はどうしてもありますね。

清原惟インタビューの後編⑵はコチラから
につづく……。

インタビュー後半では、いよいよ清原惟監督のパラレルな世界観の秘密へ踏み込んでいきます……。

インタビュー/ 加賀谷健
撮影/ 出町光識

清原惟監督プロフィール

©︎Cinemarche

1992年生まれ。東京都出身。

武蔵野美術大学映像学科卒業、東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域修了。黒沢清監督、諏訪敦彦監督に師事。

東京藝術大学大学院の修了制作として手がけた初長編作品『わたしたちの家』が、ぴあフィルムフェスティバル2017でグランプリを受賞し、2018年には渋谷ユーロスペース他、全国各地で上映されました。

今、最も注目を集めるインディーズ作家の1人です。


関連記事

インタビュー特集

映画「怪談新耳袋Gメン」田野辺尚人×山口幸彦インタビュー| 若手監督の活躍はシリーズ前作の打倒からはじまる

2019年8月23日(金)よりキネカ大森で開催される、毎年恒例となった「夏のホラー秘宝まつり2019」。 「夏のホラー秘宝まつり」を夏のイベントとして定着させ、様々なホラー映画を送り出し、日本のホラー …

インタビュー特集

【チェン・ホンイー(陳宏一)監督インタビュー】台湾の恋愛映画『台北セブンラブ』の日本公開に寄せて

”この映画は他の映画とは少し違う台湾映画です” 陳宏一(チェン・ホンイー)監督の長編第三作目にあたる映画『台北セブンラブ』(2014/原題:相愛的七種設計)が5月25日(土)からアップリンク吉祥寺と大 …

インタビュー特集

【萩原利久インタビュー】ドラマ『大江戸スチームパンク』六角精児らとの共演で実感できたコメディの醍醐味

ドラマ『大江戸スチームパンク』はテレビ大阪にて絶賛放送中、さらにテレビ放送終了後よりTSUTAYAプレミアムで配信がスタート! 江戸と似ているようで違う町“大江戸”を舞台に、蒸気を原動力として動く甲冑 …

インタビュー特集

【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた

映画『凪待ち』は、2019年6月28日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー! 蒼井優主演の『彼女がその名を知らない鳥たち』や、役所広司主演の『孤狼の血』で知られる白石和彌監督が、俳優に …

インタビュー特集

【三浦貴大インタビュー】映画『ゴーストマスター』ヤングポール監督への信頼が俳優の仕事への“集中”を生んだ

映画『ゴーストマスター』は2019年12月6日(金)より、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー! 映像企画発掘コンペ「TSUTAYA CREATERS’PROGRAM FILM 2016」で準グラ …

U-NEXT
架空映画館 by ReallyLikeFilms Online
【Cinemarche】今週のおすすめ映画情報
凱里(かいり)ブルース|2020年6月6日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて全国順次ロードショー予定!
映画『異端の鳥』TOHOシネマズ シャンテほか近日公開予定
映画『朝が来る』TOHOシネマズ 日比谷ほか近日公開予定
ドラマ『そして、ユリコは一人になった』
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学
国内ドラマ情報サイトDRAMAP