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【小野みゆきインタビュー】映画『クシナ』役者活動の再開とともに改めて考える自分自身にとっての“等身大”

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『クシナ』は全国にて絶賛公開中!

人里離れた山奥で独自の共同体を築いている村で、外界の男女が足を踏み入れたことで始まる崩壊に絡む、この村の母娘の愛情と憎悪を描いた映画『クシナ』。新鋭・速水萌巴監督の長編デビュー作であり、独特の感性と映像美によって支えられる作品の世界観は国内外で高い評価を得ています。


photo by 田中館裕介

ヒロイン・奇稲〈クシナ〉役には本作が映画デビューとなった郁美カデール。14歳のときにクシナを生んだ母・鹿宮〈カグウ〉役には、ラストの表情で監督を涙させたという実力派・廣田朋菜。そしてカグウの母で村長の鬼熊〈オニクマ〉役には、本作で役者活動を再開した小野みゆきという個性的なキャスティングが実現しました。

今回はオニクマ役を務めた小野みゆきさんに、久々の活動となる本作出演の思いとともに作品の印象や、自身の私生活で得たインスピレーションをもってチャレンジした今回の演技へのアプローチなどを語っていただきました。

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若い映画人の感性に触れてみたかった


(C)ATELIER KUSHINA

──本作への出演に至るまでの経緯などをおうかがいできますか。

小野みゆき(以下、小野):この映画はいわゆる台詞劇ではないこともあり、脚本を見ただけでは理解できない部分がいっぱいありました。そのため、正直脚本だけで出演を決めてよいのかどうかも当初は分からなかったんです。

そこで視点を変えて、監督のプロフィールなどに目を向けたりしました。私は子育てでもう20年ぐらい役者の仕事をしていませんでしたし、今の若い人たちがどんな仕事ぶりなのかなという興味もあったんです。特に速水監督は当時大学院生で、ここまで若い方とお仕事をしたことは一度もありませんでしたから。

変な話ではあるんですが、私が以前お仕事をしていた頃は「洋画しか面白くない」みたいな風潮があった時代だったんです。「映画」といえば「ハリウッドで多くの予算が注ぎ込んで制作された洋画」という感覚で、私自身にもそんな意識が強くありました。ですが近年、「邦画が面白くなってきている」という印象を覚えるようになりました。面白い作品が数多くあり、そういったこれからの邦画を担っていこうと頑張っているであろう若い作り手さんたちの気持ちを見てみたかったんです。

そして速水監督のプロフィールや、ロケ地候補の資料などを拝見していく中で、今回の映画に対して非常に興味をそそられていきました。また速水監督の手がける映像はとても特徴的で、ある種の情緒的な雰囲気も漂わせていました。私は元々そういった映画が好きだったので、「私でよろしいのでしょうか」くらいの気持ちで今回の仕事を受けさせていただきました。

「少女」が「監督」に変わる


photo by 田中館裕介

──速水監督と実際にお会いした際の印象はいかがでしたか。

小野:事務所ではじめてお会いしたんですが、想像よりも全然若かった。映画の登場人物であるクシナのイメージに重なるほど、本当に幼い少女が現れたと衝撃を受けました。撮影を行ったのは4年ほど前なんですが、当時の速水監督はショートカットにくわえて化粧っ気もあまりなく、とても幼く感じられる風貌だったので「映画の中からクシナが出てきた」という印象が強かったんです。ですから、その時点で私はもう母親の心境になっていました。

もちろん幼い風貌なだけではなく、その内にある芯の強さも同時に感じとりました。ただ繊細そうな見た目が本当に印象深かったので、実際の撮影では別の意味でドキドキしていました。撮影って、エネルギーの配分を間違うと倒れちゃうことも十分あり得るんです。プロの監督が目の前でバタンって倒れるところを見たこともありますし、そのぐらいみんなが入れ込んでしまうお仕事なんですよね。どんな監督も初めての長編監督作を撮ることには並々ならぬ意欲を抱くわけですから、私が抱いたのはやはり親心みたいな気持ちだったんだと感じています。

──撮影が進んでいく中で、速水監督への印象に変化はありましたか。

小野:速水監督はしっかりとしたビジョンをお持ちだし、実際に現場が回り始めたら、もう全然違う人になるんです。そのビジョンに行き着くようにギリギリまで努力した上で撮る監督でした。

また、現場は本当に静かでした。段取りが整っていて、画もうまく選び取ることができる現場って、うるさくないんですよね。逆にそういったことがちゃんと決まっていなくて、撮影への不安要素が残っていると、誰かが現場で色々と言い出してしまうんです。それは現場で起こりがちなことなんですが、決めるべきことが決まっている現場だと、そんな風に揺れず現場は静かなんです。

それと、現場ではカメラマンの村松良さんが印象的で、口数は少ないけれど「感度」のいい方だと感じられました。撮影までに多くの打ち合わせをされてきたからかもしれませんが、「今ここで100パターンの画が撮れる」という状況であっても、その中から最良の1・2パターンを選べるような感度のよさを持っていました。

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カデール郁美は「クシナ」として生きていた


(C)ATELIER KUSHINA

──小野さんが演じられたカグウの母親・オニクマにとっては「孫娘」にあたるクシナ役を務めたカデール郁美さんとは、現場ではどのようなやりとりされたのでしょうか。

小野:実は初めてカデールさんと会ったのは撮影の初日だったんです。ただクシナは14歳という設定でしたが、カデールさん自身は当時はまだ9歳の女の子で、その時点で冷や汗ものでした。特に私は背も高いので、彼女に怖がられ緊張されたらまずいと感じ、リラックスした状態で演じてもらおうといろいろ考えていました。

初日の撮影は渓谷が現場だったんですが、待機中のロケバスで「私怖そうに見えるけど、全然怖くないから」とかカデールさんに言ったりしました(笑)。そして「撮影の前にセリフを一度喋ってみたら、緊張もほぐれ安心するんじゃないかな?」と考え、カデールさんに声をかけたんです。そうやってこっそりと読み合わせをしたんですが、彼女はとても自然に、まさしくクシナのように喋っていたんです。私はすぐに速水監督のところへ行って「カデールさん自身は今OKなので、緊張してしまう前にすぐ回してください」「無理にテイクを重ねてしまうと緊張しちゃうかもしれない。絶対ワンテイク程度で撮り進めた方がいいと思います」と伝えたことを覚えています。

正直、まだ幼い女の子がカメラの前でどれだけ動けるのかは、実際にカメラを回してみないと分からないんです。それにリハーサルがうまくできても、本番で緊張しちゃうことは大人でもあります。やっぱり本番がよくなければいけないので、いっそ無邪気に、一発で撮っちゃった方がいい。ですからそういった意味では、カデールさん、そしてクシナについては本当にいい画が撮れたと感じています。


(C)ATELIER KUSHINA

小野:それに彼女は、撮影の合間で普通に遊んでいる様子からも「今、回してもいいですね」と思える瞬間があって、「クシナ」として生きているように感じられることがありました。そのおかげで、我々はとても救われたと思っています。

「等身大」の役を演じる喜び


(C)ATELIER KUSHINA

──現場でのカデールさんは「クシナとして生きている」と感じられるほどに、『クシナ』の物語と深くつながっている状態だったんですね。

小野:本当にその通りだったと思います。特に衣装を身につけて動いていると「作り込んでいる」という感覚すらなくなっていたので。私の目から見れば速水監督はクシナの姿と重なるし、カデールさんはクシナそのものだったので、現場には二人のクシナがいたんです(笑)。また人類学者の蒼子役を務めた稲本弥生さんも役のようにとても真面目な方だったので、役から何もずれていない方々とともに、本作の世界はありました。

また私自身も、今回いただいた役は本当に嬉しかったんです。私はこれまで等身大の役をやったことがなく、たとえば殺し屋や外国人の役などいかにもフィクションの世界に登場するような役柄が多かった。OLや主婦など、日常を生きる普通の人間の役を一度もやったことがなかったんです。

ただ、私は確かに等身大ではない役を演じ続けてきましたが、それでも自分が現実から「ずれている」とは感じていないし、映画の現場という世界にいるから「ずれている」とは言われたくないと思いながら、役者の仕事をかつて20年間していました。そういった意味では、表面的には現実から「ずれている」世界で生きているように見えるけれど、実際には「普通の人間なのに……」と思い続けている人間であるオニクマは、私からすれば「等身大」だと感じられる役だったんです。

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母親として「堂々と」泣く


(C)ATELIER KUSHINA

──映画の終盤、クシナと彼女の母親・カグウが二人で戯れている姿を見つめるオニクマが静かに涙を流す姿からは、数十年にわたって「娘たち」のために生きてきた「母親」の強さとかなしみを感じられました。

小野:典型的な日本人の女性像と言いますか、「男たちが何かと戦うという時に、私は泣くことしかできない」と障子の影でこそっと顔を出して涙を流すというイメージが、私は子供の頃から大嫌いだったんです。「そうじゃない泣き方も本当はいっぱいやっているのに」と、大昔から気持ち悪さと感じていました。

むしろ今を生きる女性の多くは、「堂々と泣く」という泣き方をいっぱい経験してきていると思うんですよね。厳しい仕事現場の中では悔しい思いをしても涙をこぼさないけれど、帰りの電車の中、人に顔を向けることなくガラス越しの夜景を見つけていると時に、はらはらと涙がこぼれる。強くたくましく生きようとする一方で、ふと言い様のないかなしみが訪れる瞬間がある。その中で子どもたちを育てようと懸命に日々を送っているという母性と愛の姿があることは、子どもたち側には中々伝わりづらいこともあると感じます。

私には現に息子がいるんですが、彼からすれば「束縛されている」と感じることがあるらしいんです。ただ、それが私にとっての「等身大」の一部だと思いますし、オニクマと重なるものの一部だとも感じているんです。

インタビュー/河合のび
撮影/田中館裕介
構成/桂伸也

小野みゆきプロフィール


photo by 田中館裕介

1959年11月17日生まれ、静岡県出身。1979年、資生堂 サマーキャンペーン「ナツコの夏」でデビュー。主な出演作に鈴木則文監督『トラック野郎 熱風5000キロ』、斉藤耕正監督『戦国自衛隊』、長谷部安春監督『あぶない刑事』、リドリー・スコット監督『ブラック・レイン』、池田敏春監督『ハサミ男』などがある。

映画『クシナ』の作品情報

【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
速水萌巴

【キャスト】
郁美カデール、廣田朋菜、稲本弥生、小沼傑、佐伯美波、藤原絵里、鏑木悠利、尾形美香、紅露綾、藤井正子、うみゆし、奥居元雅、田村幸太、小野みゆき

【作品概要】
山奥で独自の文化を築いた「女性しかいない村」に外界から訪れた二人の男女が足を踏み入れたことで始まる綻び、そして村で暮らす二つの母娘の愛情と憎悪を映し出した作品。本作が長編デビュー作となる速水萌巴が独特の世界観で描きました。

映画『クシナ』のあらすじ


(C)ATELIER KUSHINA

深い山奥に人知れず存在する、女だけの”男子禁制”の村。村長である鬼熊〈オニクマ〉(小野みゆき)のみが、山を下りて収穫した大麻を売り、村の女たちが必要な品々を買って来ることで、28歳となった娘の鹿宮〈カグウ〉(廣田朋菜)と14歳のその娘・奇稲〈クシナ〉(郁美カデール)ら女たちを守っていました。

人類学者の風野蒼子(稲本弥生)と後輩・原田恵太(小沼傑)は、閉鎖的なコミュニティにはそこに根付いた強さや信仰があり、その元で暮らす人々を記録することで人間が美しいと証明したいと何度も山を探索しており、ある日、村を探し当てます。

オニクマが下山するための食糧の準備が整うまで二人の滞在を許したことで、それぞれが決断を迫られていき……。

映画『クシナ』の劇場公開・イベント情報

【アップリンク渋谷(東京)】
2020年7月24日(金)~9月3日(木)/▶︎アップリンク渋谷公式サイト
《トークショーイベント》
8月30日(日)/17時00分〜18時12分:
上映後トークショー(登壇者:小野みゆき、速水萌巴監督)
8月31日(月)/18時35分〜19時47分:
上映後トークショー(登壇者:廣田朋菜、小野みゆき、速水萌巴監督)
9月1日(火)/17時00分〜18時12分:
上映後トークショー(登壇者:汐田海平、速水萌巴監督)
9月2日(水)/17時30分〜18時42分:
上映後トークショー(登壇者:小野みゆき、速水萌巴監督)
9月3日(木)/18時35分〜19時47分:
【最終日】上映後トークショー(登壇者:廣田朋菜、小沼傑、速水萌巴監督)

【キノシネマ立川高島屋S.C.館(東京)】
2020年9月25日(土)/▶︎キノシネマ立川高島屋S.C.館公式サイト

【横浜ジャック&ベティ(神奈川)】
秋公開/▶︎横浜ジャック&ベティ公式サイト

【あつぎのえいがかんkiki(神奈川)】
2020年9月5日(土)~9月18日(金)/▶︎あつぎのえいがかんkiki公式サイト

【シネマスコーレ(愛知)】
2020年8月29日(土)/▶︎シネマスコーレ公式サイト

【刈谷日劇(愛知)】
2020年8月28日(金)/▶︎刈谷日劇公式サイト

【シネ・ヌーヴォ(大阪)】
秋公開/▶︎シネ・ヌーヴォ公式サイト

【アップリンク京都(京都)】
秋公開/▶︎アップリンク京都公式サイト

【岡山メルパ(岡山)】
2020年8月14日(金)~8月27日(金)/▶︎岡山メルパ公式サイト

【キノシネマ天神(福岡)】
2020年10月16日(金)/▶︎キノシネマ天神公式サイト

※実際の上映時間等の詳細は各公開劇場の公式サイトにてご確認ください。



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