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Entry 2020/02/18
Update

【HIKARI監督インタビュー】映画『37セカンズ』障がい者の主人公を通してすべての“人間”に届けたいメッセージ

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『37セカンズ』は全国順次公開中!

2019年2月に開催された第69回ベルリン国際映画祭にて、史上初となるパノラマ観客賞・国際アートシアター連盟(CICAE)賞のW受賞を成し遂げたHIKARI監督の初長編監督作『37セカンズ』

生まれた時に37秒間呼吸が止まっていたことが原因で、身体に障がいを抱えることとなった主人公・ユマが、自己表現を模索しようともがく中で様々な人と出会い、思いもよらない展開でドラマティックに成長していく姿を描いた物語です。


(C)Cinemarche

このたび映画の劇場公開を記念し、本作によってハリウッドをはじめ世界から注目を集めている新鋭、HIKARI監督にインタビューを行いました。

映画に込めた生きる人みなへのメッセージをはじめ、本作に向けて帰国した際の覚悟や監督を支えてきたご家族の存在など、さまざまなお話を伺っています。

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海外でも通用するエンタメを


(C)37 Seconds filmpartners

──初の長編監督作ながら、『37セカンズ』は世界各国で大きな話題を集めていますね。国内外での映画祭での上映時、観客のみなさんからはどのような反応を得られましたか?

HIKARI監督(以下、HIKARI):上映後には、観てくださったみなさんの多くが涙を流しながら拍手をしてくださいました。また、私とハグしてくださる方も沢山いましたね。ベルリン国際映画祭での上映も毎回が満席御礼で、5回と予定していた上映も、最終的に9回まで増やしていただくことができました。

映画祭で車椅子ユーザーの方々が来られる事は滅多にないのですが、私たちの上映日には健常者だけでなく、やはり障がい者の方々やご家族の来場が日に日に増えていったのが印象的でしたね。「自分の作品をみなさんがエンターテインメントとして楽しんでくれている」「海外の方々にも、自分が描こうとした物語やテーマが伝わったんだ」と実感することができました。

本作は“一人の女性の成長”という点に物語としてのフォーカスを定めたかったため、「たとえ主人公・ユマが車椅子に乗っていなくとも成立する物語にしたい」と常に考えていました。その焦点がぶれなかったからこそ、世界中の方に楽しんでもらえたのかなと感じています。

佳山明のピュアさをそのまま画に


(C)37 Seconds filmpartners

──冒頭の場面、佳山明さん演じるユマの表情を観た瞬間に、本作が“ユマの時が動き出す物語”なのだと実感できました。類まれなる“表現力”を発揮されていた佳山さんですが、彼女の姿を撮影するにあたってどのようなことを意識されましたか?

HIKARI:私は技術的な面を意識して撮影するというよりは、「自分自身がどんな画が好きか?」という感性を大切にして撮影を進めています。

実は私も、本作の撮影でカメラを回しているんです。冒頭の場面やユマが入浴する場面は私が撮影しているんですが、その際には「彼女をどのように美しく捉えるか?」を第一に考えていました。本作はユマの成長の物語であると同時に、明ちゃん自身の成長の物語でもあるため、私が「いい」と素直に感じられた彼女の姿をあるがままに映しました。

──演技面の演出においては、佳山さんとはどのようなやりとりをされたのでしょうか?

HIKARI:明ちゃんとのコミュニケーションはなるべく撮影前に行い、リハーサル後は敢えて手放して、ベッタリしないようにしました。それは彼女自身が“表現”をするためのスペースを作りたかったからでもありますし、私が演出し過ぎることで彼女が“演技”をし始めてしまうことを避けたかったからでもあります。

また作中に、明ちゃん自身が持っている素朴さやピュアさを残したいと意識していました。彼女が持つ魅力を映像を通じてあるがままに伝えることが、監督としての目標の一つでもあったので。

現場に入る直前までは、役に関することは敢えて話さず、実際に撮ってみて「違うな」と感じたら何度でもリテイクするというスタイルで撮影を進めました。明ちゃんも初めてのことばかりで戸惑いもあったかと思いますが、その姿自体も良い味となっていました。彼女とでしか作り得ない、私が当初想像していた以上の映画を完成させることができました。

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いつでも背中を押してくれた母の存在


(C)37 Seconds filmpartners

──本作が多くの方に楽しんでもらえる要因の一つとして、主人公・ユマと母親・恭子の関係性があると感じています。母娘の関係性には、HKARI監督ご自身の体験が反映されている部分もあるのでしょうか?

HIKARI:私と母の関係性と、ユマと恭子の関係性は真逆といっていいかもしれません。むしろ私と母の関係性から“逆算”する形で、ユマと恭子の関係性を考えていきました。

私の母は本当に面白い人なんです。母は四女で一番末っ子ということもあり、「アレはダメ」「コレはダメ」と箱入り娘のように育てられたそうなんですが、その反動からか、昔から私が好奇心を持ったことには何でも挑戦させてくれる人でした。

その結果私は、どちらかというと積極的に物事に取り組むタイプ、学校での勉強以外のことを色々やりたがる子どもになりましたね。全てが物足りなく感じていたため、少林寺拳法、スキー、ダンス、器械体操……沢山の習い事をしましたし、学校の生徒会長を務めたこともあります。

ただ生徒会長を務めていた時には、そこまで深刻なものではない事で仲間はずれにされたりすることもありました。私にも言葉足らずなところがあったと今となっては反省する点もあるんですが、私が一人になった瞬間に、他人事のようになった先生たちもいたりして、当時はつらかったですね。「なんで?」というクエスチョンマークがずっと心の中に抱えたままで日々を過ごしていたんです。

そういう状況も相まって、「いつかこの場所を出て、私という人間を受け入れてくれる人のところに行きたい」という思いを抱くようになり、やがて渡米を決意しました。


(C)Cinemarche

──娘であるHIKARI監督に渡米という決意を明かされた時、お母様はどのような反応をされましたか?

HIKARI:すぐ了承してくれましたね。母自身も、私が学校という空間を窮屈に感じていることも、私が「やる」と言い出したら聞かない子であることも十分理解していましたから。「やりたいことはやってみたらいい」と背中を押してくれました。

また母だけでなく姉も、私がアメリカで女優業をやっていた頃から今まで多くのサポートしてくれました。「あかんかったら、帰ってきたらええねん」と励ましてくれていたため、だからこそ頼らずに頑張りたいといいますか、母や姉のためにも絶対に成功したいと思っていましたね。その思いは監督として活動している今も変わりません。

家族のことは、本当に愛おしい存在でありがたいと感じています。

覚悟を決めてアメリカから日本へ


(C)Cinemarche

──渡米後はアメリカ国内で活動をされてきたHIKARI監督ですが、本作の制作に向けて日本へと帰国されました。どのような思いの中で日本での映画制作に臨まれたのでしょうか?

HIKARI:アメリカ国内では思うように資金を集められなかったものの、自分の中では明確なビジュアルができ上がっていたため、自分の勘を信じて日本へと帰国しました。本当はロサンゼルスの家を借りたままで日本に向かってもよかったんですが、本作を何としてもよいものにするためにも「作品を完成させるまでは帰らない」と腹をくくり、家を引き払いました。

ただその時は、正直複雑な気持ちでしたね。18年間をロサンゼルスで過ごした中で初めて“住所”が失ったので、直後の2・3ヶ月は妙な敗北感を抱き落ち込んでしまったことを覚えています。ですが、「この映画が成功したら戻って来れるし、もっとすごいご褒美がある」「そうでなければ、この作品を作る意味がない」と自分自身を鼓舞し、資金を集めること、“ユマ”を見つけることに尽力しました。

また帰国後は、プロデューサーの山口晋さんをはじめ多くの方々が本作のために協力してくださいました。『37セカンズ』はそういった方々の愛と力があったからこそ完成した作品であり、「映画は一人の力では作ることができない」と改めて感じましたね。

今この場所に来ることができたことも、何かに導かれ、さまざまなエネルギーが引き寄せられ混ざり合った結果であり、だからこそ本作に携わる一人の制作者としていられるんだと感じています。

──ちなみに、本作をHIKARI監督の地元・大阪ではなく東京で撮影された理由とは何でしょう?

HIKARI:撮影イメージを掴むために、車椅子に乗って大阪と東京の両方の街に行ってみたんですが、大阪の方はすぐ助けてくれるんですよね。つまづいたり倒れたりすると、周囲の方々が一斉に助けに来てくれるんです。

ですが東京はその真逆といいますか、助けてくれる方は正直限られています。中には鬱陶しそうな顔を向けてくる方もいるぐらいですから。その認識をふまえて、敢えてユマにとって困難な環境での撮影の方がよいと思い、東京で撮影することにしたんです。

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“人間”であるすべての方々に届けたい

第32回東京国際映画祭(2019)レッドカーペッドより


(C)Cinemarche

──国内外を問わず、映画界では「障がい者が主人公の映画」を一つのジャンルとして捉えてしまうことが多々ある一方で、『37セカンズ』はジャンルという“隔たり”を超えた作品であると改めて感じられました。

HIKARI:本作の主人公であるユマは脳性麻痺という障がいを抱えていますが、健常者であるユマの母・恭子もまた、ある意味では心に“障害”を抱えています。

現実世界でも、みんなそうなんじゃないでしょうか。目に見える障がいだけが、「障がい」と呼ばれるハンディキャップだけが、人間関係を隔ててしまう“障害”ではない。「障がい」と聞くとつい色眼鏡で見られがちだけれども、そもそも障がい者と健常者の間に壁はない。そういったことを、本作を観終わった後にふと気づいてもらえると嬉しいです。

また、私が家族のことを「大切だ」と心から言えるのは、私自身が家族に大切されていたからこそです。一方で世の中には、ご両親やご家族とどうしてもよい関係を築けなかった方や、成長の過程で憎しみや嫌悪感を抱くようになってしまった方もいらっしゃいます。

その感情を否定することは誰にもできません。ただ、親も“人間”として生きている以上心に“障害”を抱えてしまうこともある。そのことを理解できるような大人になり、“家族”というものの意味を再認識できたら、それもまた人生における幸せに向かうことができるのではないでしょうか。

障がい者と健常者、親と子ども……それらに関係なく、“人間”であるすべての方々に、この映画に込めたメッセージが届きますようにと祈っています。

インタビュー・映画祭スチール/出町光識
撮影/河合のび
構成/三島穂乃佳

HIKARI監督のプロフィール


(C)Cinemarche

大阪府出身。幼少の頃から合唱団を通じてミュージカルやオペラ、EXPOなどで舞台に立つ。南ユタ州立大学にて舞台芸術・ダンス・美術学部を学び、学士号を取得後ロサンゼルスに移住。女優・カメラマン・アーティストとして活躍する傍ら、南カリフォルニア大学院(USC)映画芸術学部にて映画・テレビ制作を学ぶ。

卒業制作映画『Tsuyako』(2011)で監督デビュー。その後もアメリカを拠点に、『A Better Tomorrow』(2013)など短編映画の監督のみならず、CM・MV制作にも携わっていく。

現在はアメリカの大手エージェント事務所「William Morris Endeavor (WME) Entertainment」に所属し、米国映画スタジオ・TVネットワーク数社とともに長編映画やTVシリーズを企画を進めている。そして長編映画デビュー作となる『37セカンズ』は、海外各国で高い評価を受けている。

映画『37セカンズ』の作品情報

【公開】
2020年2月7日(日本映画)

【原題】
37Seconds

【監督・脚本】
HIKARI

【挿入歌】
CHAI「N.E.O.」

【キャスト】
佳山明、神野三鈴、大東駿介、渡辺真起子、熊篠慶彦、宇野祥平、萩原みのり、芋生悠、渋川清彦、奥野瑛太、石橋静河、尾美としのり/板谷由夏

【作品概要】
第69回ベルリン国際映画祭「パノラマ」部門でのワールドプレミア上映&同映画祭史上初であるパノラマ観客賞・国際アートシネマ連盟(CICAE)賞のW受賞をはじめ、世界各地の映画祭にて多数の賞を獲得。

監督は本作が長編デビュー作となるHIKARI。18歳から渡米して映画を学び、本作でのセンセーショナルな登場によって海外各国から高い評価を受け、ハリウッドから企画オファーが殺到。マイケル・マンが総監督を務めるテレビシリーズプロジェクトも始動しています。

主演は、約100名の一般応募者の中から監督に見出され、実際に脳性麻痺を抱えている佳山明。女優初挑戦とは思えない彼女の熱演はもちろん、神野三鈴、大東駿介、渡辺真起子、尾美としのり、板谷由夏ら豪華実力派俳優たちのリアリティ溢れる演技にも注目です。

さらに劇中で流れる挿入歌は、世界で大きな注目を集める女性4人組ユニット「CHAI」が手がけた「N.E.O.」。主人公の心情と音楽の絶妙にリンクした楽曲です。

映画『37セカンズ』のあらすじ


(C)37 Seconds filmpartners

生まれた時にたった37秒間呼吸が止まっていたことが原因で、身体に障がいを抱えることとなった主人公・貴田ユマ(佳山明)。

親友である漫画家のゴーストライターとして働きながらも、自分の作品として出せないことへの寂しさや歯がゆさ、そしてシングルマザーでユマに対して過保護になってしまう母・恭子(神野三鈴)との生活に息苦しさを感じていました。

自分にハンディ・キャップがあることをつきつけられ、それでも23歳の女性として望んでいいことだってあるはず。そんな思いの狭間で揺れる日々を送っています。

そんな時、ある出来事をきっかけにユマの人生は大きく変わり、彼女は自らの力で『新しい世界』を切り開いていくことになります……。

映画『37セカンズ』は全国順次公開中!


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