映画『光る鯨』は2023年12月8日(金)より池袋HUMAXシネマズにて公開!
行方不明になった大切な幼馴染の行方を追って、《異世界エレベーター》を通じてパラレルワールドへ足を踏み入れていく主人公の成長を描いたSFヒューマンストーリー『光る鯨』。
『カラガラ』『ラストラブレター』の森田博之監督が自身の経験と想いから構想を膨らませ、主演に注目の若手女優・関口蒼を迎えて制作した本作は、2023年12月8日(金)より池袋HUMAXシネマズにて公開されます。
このたびの劇場公開を記念し、主演として本作の主人公・イトを演じられた関口蒼さんにインタビューを敢行。
森田博之監督の想いに突き動かされたエピソード、演じる上で大切にしている“人と向き合うこと”、そして役者として飛躍していくために決断した“自分と向き合うこと”について、心の内となる貴重なお話をお伺いしました。
森田博之監督の「祈り」に応える
──映画『光る鯨』の構想や脚本に初めて触れた際に、どのような感想を抱かれたのでしょう。
関口蒼(以下、関口):森田博之監督から本作のお話をいただいた際に「主人公のイトは“23歳の女性”という設定で、彼女は“現在23歳の方”に演じてもらいたいと考えている」と伺いました。
「23歳」という年齢は、人生の岐路に立つ方が多いタイミングなのかもしれません。特に大学を卒業し、そのまま会社に就職した場合には、一年間を通じて大人としての振る舞いや今後の将来について、真剣に考えざるを得ない時期です。
私自身は現在「俳優として生きていきたい」と決意を固めていますが、それでもまだ大人と子どもを行ったり来たりしている感覚があります。そんな23歳ならではの葛藤や、不安を抱えた今の自分にしか出せない佇まいや存在感があるのなら、森田監督からのオファーは俳優として身に余る光栄なことだと感じました。
また、森田監督の過去作を拝見し、素晴らしい作品を制作される監督だとは存じ上げていたので、当初から本作へのオファーはお受けするつもりでした。しかし、私の「イトを演じたい」という想いをより一層強くしたのは、森田監督から同じく伺った『光る鯨』という作品に対する想いでした。
本作の撮影前にお会いした際に、森田監督はご自身の大切な親族を亡くされた出来事について話してくださいました。その中で「その人にはもう、自分が制作した映画を観せることはできないと思っていた」「けれど、もしパラレルワールドが存在していたら、その人は今もどこかで自分の映画を観ていてくれているのかもしれない」と語られたんです。
森田監督のそうした想いは、映画を制作する上での「祈り」のようだと私は感じて心を動かされました。
目の前の共演者と対峙する
──森田監督との対話で関口さんが感じとられた、監督が映画に込めた「祈り」という願いは、主人公・イトの役作りにも反映されていったのでしょうか。
関口:イトは23歳で、私と同い年です。現代を生きる23歳の女性の多くが抱えているであろう葛藤や不安は、当然私の中にもあります。また、私自身もイトと同じように中学生・高校生の頃は寡黙で、当時はなかなか人に心を開けない状態でした。
今でも自分の心の根っこにある、孤独や寂しさのような感覚に近しいものは、イトにも感じていました。脚本を読み進めていった時も「10代の頃の、人に心を開くのが苦手だった自分」を自然と思い返しました。
だからこそ、今回の『光る鯨』で「役作り」以上にも私が大切にしたかったのは「目の前の共演者の方々と、いかに向き合うか」ということでした。
私が受けている演技レッスンでは、目の前の俳優さんと数ページの脚本について深く話し合う時間があるのですが、その時間が本当に大切だと常々感じています。目の前にいる方はどんな俳優であり、どんな人間なのか。同じ時間を共にする相手について、肌感覚で知っているのと知らないのとでは、お芝居の質は大きく変わってしまうからです。
本作の撮影でも、イトの幼馴染・はかるを演じた佐野日菜汰さんとは、役として日常会話のやりとりをさせてもらいました。またイトが心を開ける数少ない人間である千石役の影山祐子さん、イトの姉役の中神円さんとはお食事をご一緒したり、密にコミュニケーションをとらせていただく中で、役の関係性に似た感覚と距離感を日常生活でも感じられるように心がけました。
そうして実際に目の前の方と交流を図ることで、私自身も役を生きる上で心を開きやすくなり、ある意味安心して色々な挑戦ができるんです。もちろん、そこまで時間的に余裕のない現場もあるので、その場合にどう対応するかはまだまだ勉強中なんですが(笑)。
ただお芝居をする際にはどんな時でも、私は実際の目の前の方との関係や、その方から感じるものを大切にしたいと考えています。そこで得られた距離感や感覚が、そのままお芝居に反映されていくと信じています。
大人として「決断」をする
──共演者の方々との関係性を探り、育んでいった距離感は演技に反映されたことで、初主演となる映画に、大きな影響を受けられましたか。
関口:正直、苦労の連続でした。先輩である俳優の方々にお会いしては主演としての心構えやお芝居について伺いましたが、いただいたアドバイスを参考にしても、やはりできなくて悔しい瞬間はたくさんありました。
はじめは自分の中で想うイトと、森田監督の描きたいと考えているイトの輪郭が重なっているのかが分からず、試行錯誤を重ねながらも撮影に臨んでいました。そうした苦労の中でも、ある時監督から「イトに見えてきた」というお言葉をいただけたことで、少しずつイトとしての実感を強めていったのを覚えています。
イトという登場人物の目線で映画は描かれているので役としての情報は多く書かれているのですが、それでも実際に演じてみると、イトを行動へと突き動かす深い動機が自分の中で処理しきれないことは多かったのかもしれません。
本作で主演をさせて頂いたことで自分自身、役者として一つステップアップできたのではないかと感じられるくらい挑戦の多い撮影現場でした。
──本作はSF作品であることに加え、人生における大切な人たちに会いに行く物語です。重要なシークエンスの連続を積み重ねていくに当たり、難しいことも多かったのでしょうか。
関口:そうですね。特にパラレルワールドから帰ってきて、幼馴染のはかると別れる場面は難しかったです。私が脚本から感じていたことと撮影している時に感じたことではイトの内面が大きく違っていました。
あくまでも観客の皆様にどう感じるかは委ねたいので多くは話せませんが、一つ言えるのは大人になることは“決断”が増えることだと思うのです。そしてそれに伴って責任も増していく。誤解を恐れずに言うなら、“決断をしない”というのはある意味、子供だから許される行為なのかもしれません。
私自身も23歳という年齢で決断を迫られる機会が増えてきて、大人にならざるを得ないと感じることがあります。その“子供から大人への過渡期”がイトにとって大切な幼馴染・はかるとの別れの時に来てしまったのだと感じました。だからこそ、その細やかで繊細な心の在りようが役者として、とても苦戦しました。
イトが何を考えて決断をしているのか。もしくは今はまだ決断できていないのか。そんなイトの子供と大人を行き来する不安定さや心の機微が、映画のワンシーン、ワンシーンに収められているのではないかと今振り返って感じます。
女優として前へ進むために“自分を知る”
──初主演を終えられた今、ご自身は俳優としてどのような「決断」をしていこうと考えていますか?
関口:これが答えになっているのか分かりませんが、決断をしていく上でやはり「知る」ということも重要だと考えています。演技をするときに相手役の方とコミュニケーションを取るのも、この人について「知りたい」という想いから来ているのかもしれません。
そして、それは自分に対しても同じこと。自分の心がワクワクしているのかどうか。自分は何を感じているのか。そういったことに今までは鈍感だったんですね。だからこそ今は自分の心へのアンテナを鋭くしていく時なのかなと感じています。自分を知り、人を知り、その先に「決断」がある。
そんな風に思えるのも、イトという女性を生きた時間があり、『光る鯨』という作品に出会えたからです。イトと同じように警戒心が強くて、なかなか心を開きづらい自分を一つ一つ自由にしていくこと。そして自分と向き合い、人と向き合うこと。それが今、役者として大切にしている一つの「決断」です。
インタビュー・撮影/松野貴則
関口蒼プロフィール
幼少期からキッズダンサーやモデルとして活動をスタートさせ、多ジャンルのパフォーマンスを続けている。元TEMPURA KIDZのメンバーであり、現在はダンサー・女優として活動中。
2020年には、野本梢監督作品『アルム』(2020)に出演し、若手女優として今後の活躍が期待されている。
映画『光る鯨』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【監督・脚本】
森田博之
【キャスト】
関口蒼、佐野日菜汰、古矢航之介、中神円、瀧石涼葉、小吹奈合緒、西巻大翔、下鳥時穏、田中里念、宮本行、渡辺力、ミネオショウ、山口友和、水沢朋美、影山祐子、桐生コウジ
【作品概要】
『ラストラブレター』で第11回田辺・弁慶映画祭にてキネマイスター賞・映画.com賞をW受賞した森田博之監督による長編映画作品。《異世界エレベーター》によってパラレルワールドへと向かい、大切な人に会いに行こうとする主人公・イトの成長を描いたSFヒューマンストーリーです。
野本梢監督作『彼女たちの話』『アルム』の関口蒼が主演を務めるほか、『明ける夜に』の佐野日菜汰、『春みたいだ』の古矢航之介、『空の瞳とカタツムリ』中神円など注目の若手俳優陣が作品を彩ります。
映画『光る鯨』のあらすじ
幼少期に両親を亡くした23歳のコンビニ店員・志村イトは姉と二人で暮らしている。幼馴染の新進作家・高島はかると音信不通となり、数ヶ月が過ぎていた。
イトは彼への密かな想いを断ち切ることができず、かつて家族で暮らした高層団地へと向かう。
はかるの処女作『光る鯨」を手に古いエレベーターに乗り込むと、上昇と下降を繰り返す。彼女の記憶は深く深く潜っていく。
深夜2時、誰もいない11階に止まった時、ついに《異世界エレベーター》が発動する。イトはいなくなった人に会える世界=パラレルワールドへと足を踏み入れる……。