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Entry 2021/04/09
Update

映画『カラガラ』あらすじ感想と評価解説。森田博之監督が震災で被災した人々の生き方を問う意欲作|インディーズ映画発見伝4

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第4回

日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」第4回。

連載コラム第4回目では、森田博之監督の映画『カラガラ』をご紹介いたします。

第6回 田辺・弁慶映画祭入選作品である本作は、大きな地震が起こり壊された町で暮らし続ける夫婦が直面する様々な事態をファンタジックな要素を散りばめながら描く力強い人間ドラマです。

【連載コラム】『インディーズ映画発見伝』一覧はこちら

映画『カラガラ』の作品情報


(C)studio so-lars.

【製作】
2012年(日本映画)

【監督・脚本・編集】
森田博之

【キャスト】
田中圭介、多田亜由美、石井統、正木英恵、ミネオショウ、矢野友樹、西崎啓介、奥山滋規、吉田直子、松田光輝、辻本晃良

【撮影・照明】
荒船泰廣

【作品概要】
2016年の監督作品『ラストラブレター』が第11回田辺・弁慶映画祭でキネマイスター賞と映画.com賞を受賞するなど高い評価を得た森田博之監督が2012年に撮った初の長編映画監督作品。

第6回 田辺・弁慶映画祭入選作品。

映画『カラガラ』 のあらすじ

(C)studio so-lars.

未曾有の大震災から10年が過ぎた日本のとある地方町。鳥太郎と幸子夫婦は慎ましく暮らしていました。

鳥太郎は震災で心身ともに傷つき、ずっとアルミニウムの仮面をかぶって暮らしています。彼の通う職場にはクスリ依存の橋本という男がいて、今日も帰りを急ぐ鳥太郎にしつこく絡んできました。

定期検診を受けて帰路についた鳥太郎は、暗いトンネルの中で、顔のない女に襲われ、奇妙なコスチュームの男に助けらます。

男は逃げていく女を「家族を亡くしたものの成れの果ての“怪獣”だ」と語り、自らを「夜を守る者、ミラクルマン」と名乗りました。

「ミラクルマンに会った」と興奮を隠しきれない鳥太郎に幸子は「なにしてたの!」と声を荒げました。今日は親戚の家の娘・チトセがやってくると何度も念を押していたのにもかかわらず、遅く帰ってきたからです。

明日は、亡くなった両親たちの供養のため、墓を持たない鳥太郎たちは河原で灯篭流しをすることになっていました。その準備をするためにチトセが来ていたのです。

遅くなったから送っていくという幸子に対して、チトセは家に帰っても誰もいないから今晩は泊めてほしいと頼みました。母親がいなくなってどこを捜してもみつからないのだと彼女は言います。

彼女も父親を亡くしていました。母と2人だけだと家族でないような気がすると心情を吐露するチトセ。

思わず幸子は鳥太郎の方を振り向きますが、彼は既に眠っていました。翌日、3人は喪服に身を包み、灯篭流しを行いました。

そんなある夜のこと、夢を見た鳥太郎は思わずテーブルの下にもぐりこみます。

幸子はそんな鳥太郎に「私たちは生きよう。もう10年生きてみよう」と語りかけます。それに対して鳥太郎は「もし僕に何かあったら君はこの町を出るんだよ」と言い、幸子は「何かあったら私も一緒だよ」と応えました。

ある日、鳥太郎たちの家に橋本がやってきます。「相手にしちゃいけない」と鳥太郎が幸子に言った時には、既に橋本は家に入り込んでいました。

明らかに様子のおかしい橋本は奥の部屋にいたチトセを連れ去ろうとしますが……。

映画『カラガラ』の感想と評価


(C)studio so-lars.

まだ10代の時に震災に遭い、互いに両親を失った鳥太郎と幸子は、その後夫婦となり、いたわり合いながら暮してきました。

震災から10年が過ぎましたが、彼らが心身に負った傷は未だ癒えることなく、鳥太郎は仮面で顔を覆い生活をしています。

冒頭、鳥太郎と幸子が「いってきます」、「いってらっしゃい」と高く手をあげて交わす挨拶にほっとするような息吹を感じますが、それも束の間、徒歩で向かった工場の敷地では、問題ある行員が積まれたダンボールに車を突っ込む騒動を起こしていました。

工場内でのこの一連のシークエンスは長いワンカットで捉えられていて、予想もしていなかった騒動の有り様に思わず引き込まれると共に、そこに流れる不穏な空気感に心をざわつかせずにはいられません。

田園の中にそびえる巨大な鉄塔というどこにでもあるような地方の田舎街の風景は、色を失ったような淡い色彩を帯び、時にモノクロ映画に見間違うほどです。空はいつもどんよりとしていて白っぽく、時々画面に現れるクスリの売人の赤いジャケットや、奇妙な女の赤い服などが出現してやっと、これはカラー映画なのだと気がつくほどです。

愛する人を亡くしてしまった悲しみと共に、ここに溢れているのは、「自分だけが生き残ってしまった」という悲痛な叫びです。

その苦しみから逃れようとして、クスリに頼る人もいれば、苦しみのあまり「怪獣」と呼ばれる人ではないものになってしまう者もいます。何かがじんわりと、確実に崩壊していく様子が、時に「怪奇譚」、「怪獣映画」といったジャンル映画の枠組みを取り込みながら、描かれていきます。

(C)studio so-lars.

暴力と狂気が町を蝕んでいく中で、鳥太郎と幸子は、親戚の娘・チトセと共に、一時的に離れることはあっても、献身的に支え合います。

手作りの灯籠を灯して、明かりに染まる幸子の姿、夜の真っ暗な田舎道をまるで灯籠のように明かりを灯してやってくる一台のバス、手をつないで走って屋上に上がり、幸子とチトセが火をつけて飛ばすランタン。色を失った世界にこぼれ落ちる輝きは温かみに満ち、ささやかな希望を感じさせます。

すべてをストレートには語らず、謎を謎として残しながら進行していく物語や映像の断片は、想像力を掻き立て、映画を観る歓びを喚起します。

この混沌とした映像世界に身を置いて私たちが目撃したのは、生者と死者の魂の交感ではなかったでしょうか。

映画『カラガラ』は大きな喪失の物語であると同時に、大きな愛の物語であり、長いお別れの映画なのです。

まとめ


森田博之監督(c)Cinema Discoveries

映画『カラガラ』の撮影は、2011年の4月下旬から年末にかけて行われました。東日本大震災直後の撮影だったということになります。ただ、『カラガラ』の中で出てくる「震災」は、元々、阪神淡路大震災を想定していたそうです。

2011年当時、阪神淡路大震災から既に15年以上が経過し、風化してきていると感じた森田博之監督は、その現状を題材に映画を撮ろうと準備を進めていました。

そんな中で起こった東日本大震災。「『カラガラ』をこのまま撮ってもいいのか?」と自問する一方、「撮らない選択肢はない」と無我夢中で撮った作品がこの『カラガラ』なのです。

大震災という未曾有の大惨事は一瞬にして人の命を奪い、命をとりとめた人々にも多くの傷跡を残します。愛する人を失った悲しみを抱え、如何に人は生きていくのか、深い主題に挑戦した意欲作です。

初長編監督作品ならではの荒削りな面が却って作品の魅力を押し上げ、スケールの大きな作品にしています。

《森田博之監督Twitter》

次回のインディーズ映画発見伝は…

(C)hishinuma

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第5回は、「菱沼康介特集上映『四角い卵』」で劇場公開され菱沼康介監督の作品『かく恋慕』。

お楽しみに!

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