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Entry 2019/02/19
Update

【縄田かのん&中神円インタビュー】映画『空の瞳とカタツムリ』ふたりで挑んだ役作りを語る

  • Writer :
  • 大窪晶

映画『空の瞳とカタツムリ』縄田かのん&中神円インタビュー

求めあうがゆえに傷つけあうしかなかった男女四人の物語。触ろうとすればするりと逃げる儚い青春の終わりを繊細なタッチで叙情的に描きだした作品です。


写真左:中神円、右:縄田かのん©︎ Cinemarche

2019年2月23日(土) より、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開される 映画『空の瞳とカタツムリ』で共演している、縄田かのんさん、中神円さんにインタビューを行い、作品の魅力について語っていただきました。

夢鹿と十百子


©︎ Cinemarche

──おふたりの役はどのような役ですか?

縄田かのん(以下、縄田):私が演じる夢鹿(むじか)という役は、一見すると突拍子も無い言動を取るキャラクターで、中神さん演じる十百子(ともこ)を虐めているように見えるのですが、実はとても繊細で、自分の感情や、社会生活の中で有耶無耶にして向き合わないものに対して、正直に向き合っている人なのかなと、演じていて感じました。

──本作を拝見して「そこに嘘を吐くくらいなら、死ぬ気で生きてやる」というような姿勢を夢鹿から感じ取りました。

縄田:本当にそうですね。自分に対して本当に正直に生きていて、そのせいで絶望に向かっていく。社会生活を送っていく中でそれをやったら普通は生きていけなくなっちゃうところを、彼女は物凄く真っ向から突っ走って生きていく。気高い人だなと感じます。


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──中神さん演じる十百子はいかがでしたか?

中神円(以下、中神):十百子は夢鹿の言いなりになっている弱い立場の女の子なんだと思われがちですが、夢鹿の突拍子も無い行動だったり、(三浦貴大演じる)貴也や、(藤原隆介演じる)鏡一を受け入れることができる大きな器がある人だなと感じていて、結果的に自分で作っていた壁を自分が壊して外に出ていくんです。

なので弱い人に見られがちでも、実は自らを打破する力みたいなものを持っている人だと思います。

──中神さんが仰るように十百子の方が夢鹿よりも強い人間なのではと感じました。自分を守っているようで、相手に向かっていける人なんだなと。

縄田:夢鹿が十百子に惹かれるのも、そんな自分にない強さを感じるからなんだと思います。

十百子は夢鹿の奔放さの中にある強さに憧れているけど、夢鹿は十百子の持っている人間としての強さに憧れているというのはあります。


©︎ Cinemarche

──そんなお互いに強烈なキャラクターを演じる中で役作りで気を配ったことはありますか?

中神:十百子は潔癖症で、その点では私も似ているところがあって、全然汚く無いのに、汚いと思い込むことで、結果、自分が苦しむというところは共感できます。

私自身、そんな自分に正直疲れているところがあったんです。そういう点では十百子を演じて、自分自身も気が楽になりましま。

ですので、十百子の役を作ろうとするよりかは自分自身に向き合う日々だったなと感じます。

──対する夢鹿は、とにかくエネルギーの放出をしていました。

縄田:自分が欲しいものを自分で崩していくエネルギーみたいなものがありましたね。

夢鹿は十百子の身体ではなく、心を求めていて、求めるが故にどれだけ酷いことをしても自分についてくるのか試すというか、仕掛けていくという、そんなパワーが凄いなって思います。

それは愛情表現の裏返しだったりと、不器用な人なんだなと感じます。

普段生きていて、あそこまで人にぶつかるエネルギーって中々持てないです。だけれどもそこに向き合ってやっていく人なので、自分の中で焚き付けてやっていました。普段からこのエネルギーを持っている人は凄いですね。

普段の自分からはギアを変えないとあそこまでは行けないし、相当なエネルギー出すところまで、斎藤久志監督、スタッフさん、それと相手役の十百子が、演じる環境を作り上げてくれました。ですので、ポンとあの世界に放り込まれて、あとはやるだけという感じでしたね。

ふたりで「一役」を演じる


(C)そらひとフィルムパートナーズ

──おふたりで役のことなども話し合われたりされたんですか?

中神:リハーサルや撮影中も自分が出ていないシーンでも、斎藤久志監督に側で見てても良いよって言われて見ていたりとか、割りかし二人で一緒にいる事は多かったです。

縄田:お互い感じあっているみたいなところはありました。ひとりのシーンだけれども、どこかで十百子を感じていたりだとか。

中神:夢鹿が自身で作った十百子のコラージュの上で寝ているシーンがあるんですが、本来ならそのシーンで十百子は近くにいないんですけど、現場ではすぐ横で撮影を見ていました。

本当だったら十百子は夢鹿のそういう姿を知りませんが、側で見ていて凄く気持ちを揺さぶられました。

カットがかかった瞬間に斎藤久志監督にも縄田さんの側に行ってあげてって言われて、あのシーンでは思わずふたりで泣いちゃいました。あれは見せて頂けて本当に良かったです。

縄田:私もそのシーンでは十百子に見られていることによって、感情が高ぶったりして、そういった環境作りは物凄くしてくださいました。


(C)そらひとフィルムパートナーズ

──ひとりのシーンの時にも、もうひとりを強烈に感じることは、本作を観ていてとても印象的でした。

縄田:なにか、ふたりで一つのような存在で、実は同一人物なのではという気もします。

中神:縄田さんと私で、ひとりの役を作った感じがしますね。

縄田:十百子のセリフで「双子の片割れだった」というのがありますが、本当にそうだなと、芝居をしていく中で感じるところもありました。


(C)そらひとフィルムパートナーズ

──お二人にとって、お互いはどんな存在ですか?

縄田:私にとっては、十百子と中神さんが似ていて、ぽわんとしているようでいて、中に秘めた燃える炎のみたいなものを持ってらっしゃる方で、自分の目指すものに突き進んでいくエネルギーとか素晴らしいなといつも横で見ていて思います。

あとは嘘をつかないようにしている姿勢が見ていてとても清々しいです。

中神:縄田さんは、夢鹿とは似ているようで少し違うし、違うようで似ている部分があると思っています。

夢鹿は強い人のようでいてとても繊細で、縄田さんは繊細なようでいてとても強い人なんだなっていうのは感じます。

それと、縄田さんと私、ふたりに共通して言えるのは芯が通っているところだと思います。


©︎ Cinemarche

嘘をつかない


©︎ Cinemarche

──演技に於いて、感情的でありながら、表に出す表現は作り込み過ぎず、非常に削いでいっているように感じました。

縄田:斎藤久志監督が、「演技しない」状態になるまで、何も言わずにとにかく何度もテストを繰り返してくださいました。

中神:最初のうちは緊張だったり、演技の打算が存在してしまっていて。

縄田:そんな演技プランみたいなものを、予めふたりが持って撮影に入ったら、やっぱり噛み合わなくて。

中神:それで、なんども繰り返して、こっちが何も分からなくなって、ポロっと素が出た瞬間にようやくオーケーが出るんですね。

縄田:斎藤久志監督も、つくりものじゃ無いものを欲していたので、私たちがその役として本当に存在した時、普段の自分たちの延長線上にあるものが出た時にだけオーケーが出ました。

そういう意味で、何かを作り込んでない感じを受けたのかなと思います。

──脚本家の荒井美早さんとも、撮影にあたりお話はされたんですか?

縄田:荒井さんは特に何も仰らずに、書き終えたものを私たちに託してくださいました。

中神:出来上がった映画を観てくれて、美早さんが作品を凄く愛してくださってると感じました。脚本の意向をそっくりそのまま出来たかはわかりませんが、それでも完成した作品を愛してくれたというのは、役者として凄く嬉しかったです。

縄田:あと、荒井さんが夢鹿と十百子が私と中神さんで良かったと仰ってくださったので、それはもう本当に嬉しかったですね。


©︎ Cinemarche

──おふたりが役者として大切にしている事はありますか?

縄田:今回の現場でもそうでしたが、作らないこと。作為的に「私こう見えるでしょ」とするのではなく、ただ見てもらうことをするのが役者の仕事だと考えています。

なのでポロっと出たものを、素直に出せて、素直に見てもらえればと。

結局、偽物はバレてしまうので、与えられた状況設定、役柄の延長線に自分をそのまま素直に出せるようにというのは心がけています。

中神:私も縄田さんと同じような考えです。作為的なものって自分が見る側の時に、コレはこう見せようと思ってるんだなと気付いてしまう。

人の心を動かすのって、自然の状態の仕草だったりとか、表情だと思うので、あまり深く考え過ぎてお芝居をしないっていうのが大事なんだというのを、今回の撮影を通して勉強した気がします。

縄田:今回、とても有難かったのは、嘘をつかない状態になるまで、何回も何回も、撮り直してくれたことです。

中神:普通だとそんな現場は中々ないので。

縄田:出来上がったものを見せて、ハイ、オッケーっていう現場もある中で、今回はとても贅沢な時間を体験できて本当に感謝しています。

──本作は、人の裏側にある醜さのようなものまで見せつけられ、それが人の本質的な美しさを持っているようにも感じました。

縄田:人には見せたくないものまで見せ、逆から言えば、見たく無い部分も見せつけられる作品ですので、そこを美しいと仰ってくれるのはとても嬉しいです。

そんな風に映画を観てくださったら幸いです。

映画『空の瞳とカタツムリ』の作品情報

【公開】
2019年(日本映画)

【監督】
斎藤久志

【脚本】
荒井美早

【キャスト】
縄田かのん、中神円、三浦貴大、藤原隆介、内田春菊、クノ真季子、柄本明

【作品概要】
雌雄同体のカタツムリは交尾の際に鋭い矢「 恋矢 れんし(Love dart)」を互いに突き刺しあう。この矢は交尾相手の生殖能力を低下させ、寿命すらもすり減らします。

本作のタイトル『空の瞳とカタツムリ』は、故・相米慎二監督の遺作『風花』のタイトル変更案として最終候補まで残ったもの。

監督は、相米監督の弟子筋であり『サンデイ ドライブ』『フレンチドレッシング』『なにもこわいことはない』など脚本・監督と二足の草鞋で活躍する斎藤久志。

脚本を務めたのはテレビドラマ『深夜食堂』シリーズで脚本家デビューを果たし、本作が初のオリジナル映画脚本の荒井美早。

求めあうがゆえに傷つけあうしかなかった男女四人。触ろうとすればするりと逃げる儚い青春の終わりを繊細なタッチで叙情的に描きだす、新しい愛の物語です。

映画『空の瞳とカタツムリ』のあらすじ


(C)そらひとフィルムパートナーズ

岡崎夢鹿は消えることのない虚無感を埋めるため、男となら誰とでも寝ます。

しかし、一度寝た男と再び寝ることはありません。

夢鹿の美大時代からの友人である高野十百子は極度の潔癖症で性を拒絶し、夢鹿にしか触れることができない体質。

そして、2人の友人である吉田貴也は夢鹿への思いを捨てきれずにいました。

学生時代から仲のよかった3人でしたが、そのバランスは長い年月を経て少しずつ崩れていきました。

夢鹿に紹介され、ピンク映画館でアルバイトを始めた十百子は行動療法のような毎日に鬱屈していきます。

映画館に出入りする大友鏡一は満たされない思いを抱える十百子への思いを募らせていき…。

縄田かのんプロフィール


©︎ Cinemarche

1988年生まれ。 大阪府出身。

主な出演作に、2016年公開のウェイン・ワン監督の『女が眠る時』、2017年公開の中島教奨監督の『ハッピーサッド』、野尻克己監督の2018年の『鈴木家の嘘』に出演。

舞台では、2014年の荒戸源次郎が演出を務めた『安部公房の冒険』があります。

またドラマ作品には『歴史秘話ヒストリア 龍馬が愛した女』(2013/NHK)、『KBOYS』(2018/ABCテレビ)などに出演。

中神円プロフィール


©︎ Cinemarche

1993年生まれ。東京都出身。

2015年よりスカウトを経て、芸能活動を開始。

近年の出演作は、森田博之監督の2018年の短編映画『世界で一番最後の魔法』に出演。

そのほか、MVビッケブランカ「ウララ」などにも出演しています。また特技は幼少時より阿波踊りを続けています。

まとめ


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快活で明るく溢れるエネルギーを持っている縄田かのんさん。柔和で穏やかな中に強い信念を感じさせる中神円さん。

まるで陰と陽のように相反しながらも引かれ合うおふたりを見ていると、本作での経験と体験が培ったものは、お二人にとってとても大切な財産となっているのだと感じさせられました。

撮影では、人物の本質が見えるところまで齋藤久志監督に導かれ、文字通り体当たりの演技をしたおふたり。それはひとりでは成し得ない、相手役の眼差し、演技に没入するための環境づくりなど、まわりから多くの事をもらって初めて生まれたものでした。

インタビューで印象的だったのは“ふたりでひとつの役を作り上げた”と仰っていたことです。

それは本作の脚本が持つ特性でもありますが、相手に対しての想いを誠実に持ち、役を通して以心伝心をしてきたからこそ育まれた感覚なのでしょう。

相手役と共に、自身を投影しながら役作りに励んだ、縄田かのんさんと中神円さん。今後おふたりがそれぞれの場所で、更なる活躍を見せてくれることを期待しています!

インタビュー/大窪晶


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