Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

Entry 2022/11/29
Update

【小沢まゆインタビュー】映画『夜のスカート』喪失を経験した人々に“よくがんばりました”と声をかけられる作品へ

  • Writer :
  • 咲田真菜

映画『夜のスカート』は2022年12月2日(金)より、シモキタ-エキマエ-シネマ『K2』にて公開!ほか全国にて順次公開予定!

⺟を癌で亡くして間もない独⾝アラフォーの実佳(⼩沢まゆ)は、⼩学校の同級⽣だったバツイチ⼦連れの秋⽣(⽊村知貴)と30年ぶりに再会。深い喪失感を抱えていた実佳は思いがけない再会に驚きながらも、秋生に心の内を話すようになっていきます。

本作の脚本・監督・編集を手がけたのは、『ドキュメンタリー映画 100万回⽣きたねこ』『フリーダ・カーロの遺品 ⽯内都、織るように』『たまらん坂』の⼩⾕忠典監督です。


photo by 田中舘裕介

このたびの公開を記念して、本作を企画・プロデュースし、主人公・菊池実佳を演じられた小沢まゆさんにインタビューを敢行。

出産・育児による10年間の休業を経て俳優業に復帰した小沢さんに、初めてプロデューサー業に挑戦した本作に対する想いや、今後描いているヴィジョンについて語っていただきました。

出産・育児を経て10年ぶりの俳優復帰


(C)夜のスカート

──小沢さんは10年間の休業を経て俳優復帰し、本作では企画・プロデュースも務めていますが、その経緯を改めてお聞かせください。

小沢まゆ(以下、小沢):私が小谷監督に「映画を一緒に作りませんか?」と声をかけたところから始まりました。コロナウィルスが流行し始めた2020年、私はちょうど40歳になる年だったんです。ステイホームで自分自身と向き合う時間があったので「30代が終わるなあ、40代はどんな人生を送っていこうか……」と考えていました。

その時に「30代最後の写真を残したい」と思い立ち、小谷監督は写真も撮られるので「30代最後の写真を撮ってもらえませんか?」と連絡しました。撮影の時にどういう写真を撮ったらいいかと、監督とパーソナルな部分を含めていろいろなお話をしました。そこで「映画を作りたいですよね」という話になったんです。

どういうストーリーにしようかとなった際、監督がたまたまご友人とオンライン飲み会をした時に、がんでお母さまを亡くしたと話された方がいて、そのお話を映画で描きたいと思ったんだそうです。その話に私もすごく共感したため、本作の製作が始まりました。

「本当に自分がやりたいこと」をやる


photo by 田中舘裕介

──俳優業への復帰には、どのようなご心境の中で臨まれたのでしょうか?

小沢:出産・育児のため休んでいた10年間を経て、少しずつ映画に出演する機会もありましたが、本格的に復帰するのは怖い……と思う自分がいました。ブランクもありますし、芝居をするのも感覚的に忘れているところがありました。

かねてから自分を鼓舞しないと復帰できないと感じていましたが、2020年に40歳を迎える時が「よし、がんばろう」と思える良いタイミングだと思いました。コロナ禍になっていろいろな価値観がひっくり返り「明日どうなるか分からない」と感じたからこそ「本当に自分がやりたいことをやろう」と決めたのです。

──小沢さんはいつから「俳優になりたい」と思うようになられたのでしょうか?

小沢:物心ついた時から俳優になりたかったので、「何がきっかけか?」と言われると正直分からないんです。ただドラマや映画を観る中で、物語の中でいろいろな人になれるということに、幼い頃から憧れを抱いていたのは覚えています。

高校生の時に半年間、アルバイトをして大阪にある芝居の養成所に通いました。ただ上のクラスに上がるには、遠方から通うのに無理があるということが分かって養成所を辞めてからは、地元の熊本でモデルの活動を始めました。芝居とは違うけれど、写真に撮られるのも表現の一つなので「表現することはやっぱり面白いし難しいな」と思いながら高校生活を過ごしました。

そして高校を卒業して上京し、奥⽥瑛⼆さんが初監督をされた映画『少⼥〜an adolescent』のオーディションを受けて合格したのが、俳優としてのキャリアのスタートとなりました。

木村知貴との「対照的な演技」で見せるバランス


(C)夜のスカート

──本作にて小沢さんは、8年間母親の闘病生活を支えたアラフォーの独身女性・菊池実佳を演じられています。同世代の女性でもある実佳を演じるにあたって、どのような想いを抱かれましたか?

小沢:実佳は、8年間お母さんの闘病に付き合いました。自分の人生で何か一つ優先にしなければならないことが出てきた時、その他のことをいったん止めたり、時には諦めたりしなければいけないことがあります。そんな時、優先しなければいけないことを軸に人生が進んでいきますよね。実佳の場合は、お母さんの看病がそれにあたるわけです。

私自身は、子どもを産んだことで仕事と育児の両立が難しくなり、俳優業を10年間休むことにしました。「今は育児に専念しよう」と決めた上での選択だったので、その瞬間に人生の第一優先は育児になったんです。

いつかは復帰したいと思っていましたし、仕事を再開しようと一歩踏み出したところだった私にとって、長い闘病生活を経て母親を亡くした実佳の人生がもう一度動き出すという本作のストーリーには、自分と合致する部分があると感じていました。

──母親を亡くした喪失感の中で、30年ぶりに小学校の同級生・秋生に再会することが本作のポイントとなっています。秋生役の木村知貴さんとのご共演はいかがでしたか?

小沢:木村さんは、私とのバランスをとりながらお芝居をしてくださったと、できあがった映像を観た時に実感しました。

私が演じる実佳は抑制された役なので、「静」か「動」かといえば「静」であり、感情をワッと出すタイプではありません。それと対比するように、明るい少年がそのまま大人になったのが秋生です。その静と動のバランスを、木村さんが上手くっとりながらお芝居を進めてくださいました。

だからこそ二人のやりとりは、どこかコミカルなものになっています。そして後半、陽気な秋生も本当は問題を抱えているということが見えた時に、秋生という人物像がさらに深く見えてくるんです。


(C)夜のスカート

──映画のラスト、実佳が秋生に胸の内を吐露する場面は思わずクスッと笑ってしまいつつも、とても心に残りました。

小沢:秋生はバツイチで、娘を一人で育てています。父親でもあり母親でもあるんですよね。彼はがんばっているんです。

実佳はそんな秋生の姿を見て、話すつもりがなかった母親の話を思わずしてしまったんでしょうね。

それに、実佳は秋生に対して、励ましてほしいとかそんなことを望んでいるわけではないんです。ただ生きていると、たまたま出会った人に救われることが時にはあるじゃないですか。実佳にとっては、たまたま30年ぶりに再会しただけの同級生の秋生がそうだった。この物語は、その瞬間を切りとったんです。

喪失感を持つ人への「よくがんばりました!」


photo by 田中舘裕介

──本作をどのような方に観ていただきたいですか?

小沢:コロナ禍で、いろいろなことを諦めたり、思いがけず挫折したりして心残りや喪失感を抱えた人はすごく多かったはずです。ですが後悔とか心残り、喪失感は決してネガティブな感情じゃないとも思っています。

なぜ悲しいと思ったり「もっとこうすればよかった」と感じたりするかというと、そこまで積み重ねてきた時間や想いがあるからです。だからこそ、それまでの自分をどうか認めて、抱きしめてあげてほしいという想いをこの作品に込めました。いろんなものをなくしたり諦めたりした人に対して「よくがんばりました!」と言ってあげたいんです。

この作品は、後悔や罪悪感、喪失感が解消される映画ではありません。その代わりに、「肩の上に乗っているものを1個外してもいいんじゃないですか」「大丈夫ですよ」と声をかけてくれる映画なんです。

──今後、小沢さんはどう活動されていきたいとお考えでしょうか。

小沢:俳優業もバリバリやりたいですし、映画を作るって大変だけどすごく面白いので、プロデューサーとしても製作を続けていきたいです。

『夜のスカート』では自分が主役を演じましたが、そのうち自分が全く出演しない100%プロデューサーの作品も作りたいと思っています。せっかく女性として生まれてきたので、自分が経験したことや友人が経験したことを参考にして、40代・50代の女性の物語を作ることができたら……と思います。

そして、育児中の人や家庭の事情がある人、持病を持つ人たちに合わせた現場作りをしていくことも目標にしています。実は小谷監督はパニック障害なのですが、今回の映画はそうした監督の状況に合わせて現場作りをしました。それができたことはプロデューサーとしてすごくうれしかったし、自信にもなりました。

ひとり一人の事情に合わせることは難しいかもしれないけれど、いろいろな選択ができる現場作りをして、さまざまな人が仕事をしやすい環境を作っていきたいです。

インタビュー/咲田真菜
撮影/田中舘裕介

小沢まゆプロフィール


photo by 田中舘裕介

映画『少⼥〜an adolescent』(奥⽥瑛⼆監督/2001)に主演し俳優デビュー。同作で第42回テサロニキ国際映画祭、第17回パリ映画祭、第7回モスクワ国際映画祭Faces of Loveにて最優秀主演⼥優賞を受賞。

主な出演作品に『古奈⼦は男選びが悪い』(前⽥弘⼆監督/2006:主演)、『いっちょんすかん』(⾏定勲監督/2018)、『たまらん坂』(⼩⾕忠典監督/2019)、『DEATH DAYS』(⻑久允監督/2022)などがある。

出⾝地熊本県の震災復興を⽀援するチャリティー映画イベント「熊本に虹を架ける映画館」主催。映画製作プロダクション「second cocoon」を⽴ち上げ、現在はプロデュース作品第2弾を製作中。

映画『夜のスカート』の作品情報

【公開】
2022年(日本映画)

【監督・脚本・編集】
⼩⾕忠典

【企画・プロデュース】
⼩沢まゆ

【キャスト】
⼩沢まゆ、⽊村知貴、新井葵来、南久松真奈、岩原柊 新井⿇⽊

【作品概要】
ユーモアとシリアスを織り交ぜた、「夜」からはじまり「スカート」にまつわるヒューマンドラマ。監督は『ドキュメンタリー映画 100万回⽣きたねこ』『フリーダ・カ―ロの遺品 ⽯内都、織るように』『たまらん坂』など意欲作を⽣み出してきた⼩⾕忠典。

奥⽥瑛⼆監督作『少⼥〜an adolescent』で鮮烈にデビューを飾り、映画・ドラマ・舞台など幅広く活躍する俳優・⼩沢まゆが主演兼初プロデュースを務めた他、⽊村知貴の快演、⼦役・新井葵来の初々しさにも注⽬。

『夜のスカート』のあらすじ


(C)夜のスカート

「ほんと、何やってたんだろう……」

東京の⽚隅。独⾝アラフォーの実佳(⼩沢まゆ)は、癌で亡くした母の遺品整理をしていると、幼い頃の実佳が好きだった⺟のスカートが⾒つかります。

ある⽇、実佳の勤め先の美容院にバツイチ⼦連れの秋⽣(⽊村知貴)がやって来ました。⼆⼈は⼩学校の同級⽣で、30年ぶりの再会となり連絡先を交換します。

その夜、帰宅途中の実佳がアクシデントに⾒舞われ、駆けつけて来た秋⽣は、なぜかスカート姿でした……。

執筆者:咲田真菜プロフィール

愛知県名古屋市出身。大学で法律を学び、国家公務員・一般企業で20年近く勤務後フリーライターとなる。高校時代に観た映画『コーラスライン』でミュージカルにはまり、映画鑑賞・舞台観劇が生きがいに。ミュージカル映画、韓国映画をこよなく愛し、目標は字幕なしで韓国映画の鑑賞(@writickt24)。



関連記事

インタビュー特集

【シルヴィオ・ソルディーニ監督】映画『エマの瞳』独占インタビュー。イタリア人気質の名匠が作品に託した魅力

2019年3月23日(土)より公開されたイタリア映画『エマの瞳』 ヴェネツィア国際映画祭で世界初公開され、日本でも「イタリア映画祭2018」で『Emma 彼女の見た風景』の日本語タイトルで公開され、好 …

インタビュー特集

【松本優作監督インタビュー】映画『ぜんぶ、ボクのせい』逃げずに受け止め、考えなくては本当の意味での“未来”はない

映画『ぜんぶ、ボクのせい』は2022年8月11日(木・祝)より新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショー! どこにも自分の居場所を見つけられない少年が、心の傷を抱えた孤独な人々と出会い成長する。 映画『ぜ …

インタビュー特集

【三澤拓哉監督インタビュー】映画『ある殺人、落葉のころに』湘南・大磯を舞台に社会と個人の悲劇的な日常を問う

第15回OAFF《JAPAN CUTS Award》受賞作『ある殺人、落葉のころに』は2021年2月20日(土)を皮切りに、4月23日(金)/京都みなみ会館、4月24日(土)/大阪シネ・ヌーヴォ、以降 …

インタビュー特集

【田口愛インタビュー】『巡る、カカオ 神のフルーツに魅せられた日本人』自身を世界へ旅立たせてくれたカカオで、日本と世界をつなぐ仕事

映画『巡る、カカオ〜神のフルーツに魅せられた日本人〜』は2024年1月12日(金)よりシネスイッチ銀座ほかで全国順次公開! 2024年1月12日(金)よりシネスイッチ銀座ほかで全国順次公開を迎えた『巡 …

インタビュー特集

【阪本順治監督インタビュー】映画『冬薔薇(ふゆそうび)』伊藤健太郎に感じた俳優としての間口の広さと懐の深さ

映画『冬薔薇(ふゆそうび)』は2022年6月3日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー! 家庭にも社会にも居場所を見つけられず、不良仲間と群れることで虚勢を張ってきた主人公・淳の寄る辺なさ。 映 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学