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Entry 2020/06/29
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【三澤拓哉監督インタビュー】映画『ある殺人、落葉のころに』湘南・大磯を舞台に社会と個人の悲劇的な日常を問う

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

第15回大阪アジアン映画祭《JAPAN CUTS Award》受賞作『ある殺人、落葉のころに』

『3泊4日、5時の鐘』(2015)で知られる三澤拓哉監督が国際共同制作によって完成させた長編第二作『ある殺人、落葉のころに』。湘南・大磯の町を舞台に描かれる、幻想と現実が入り混じるミステリアスな青春群像劇です。

2019年10月の釜山国際映画祭にてワールドプレミア上映を果たしたほか、2020年3月の第15回大阪アジアン映画祭「インディ・フォーラム」部門ではJAPAN CUTS Awardを受賞。2020年秋には劇場での公開も予定しています。


(C)Cinemarche

このたびは本作の第15回大阪アジアン映画祭での上映及び受賞を記念し、三澤拓哉監督にインタビューを敢行。舞台として大磯という町を選んだ経緯、本作の制作を通じて三澤監督が再認識したことなど、貴重なお話を伺いました。

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より社会的な視点を映画へ


(C) Wong Fei Pang & Takuya Misawa

──三澤監督にとって長編第二作にあたる本作ですが、その舞台として湘南・大磯の町を選ばれた理由や要因とは何でしょうか。

三澤拓哉監督(以下、三澤):私の長編デビュー作『3泊4日、5時の鐘』を撮った際、同作の舞台となった「茅ヶ崎館」の館主であり『ある殺人、落葉のころに』の共同プロデューサーでもある森浩章さんに「次は大磯で撮ると面白いんじゃないか」と勧められたんです。そして茅ヶ崎から近い場所にあったこともあり、すぐに大磯へと向かってみたわけです。

森さんの言う通り、大磯は面白い場所でした。茅ヶ崎からは車で10分程度で行けるところなんですが、全く町の雰囲気が違う。駅から歩いてすぐの距離に山があり、一方で海からの潮風によって色々なものが錆びている。小さな町の中に様々な表情が見られる、そしてそこに郷愁も感じられる町でした。また大磯は、伊藤博文の別邸や吉田茂が晩年を過ごした本邸が建っていたという風に、近代以降の日本の変遷と少なからずつながっている場所でもあります。

そうやってこの町を見つめていく中で、大磯という町と『3泊4日、5時の鐘』を撮った後に抱きはじめた「次はもっと社会に踏み込んだ作品を撮りたい」という思いが重なっていったんです。

日本と香港のスタッフ・キャストによる制作


(C) Wong Fei Pang & Takuya Misawa

──大磯をいわば近代以降の日本の縮図としての描く本作を制作するにあたって、香港のスタッフたちとの間ではどのような議論が行われたのでしょうか。

三澤:狭いコミュニティにおけるしがらみや偏見から生じる関係性の歪みだったり、抑圧的な社会の空気を描きたい等、この映画を作る意図は共有しましたし、またそれを表現するためにどのようなアプローチをとるべきかを特に撮影監督のティム・リウリウと話し合ったりもしました。前者についてはエドワード・ヤンの映画や『ミズーラ』(ジョン・クラカワー著, 菅野楽章訳)、『男同士の絆』(イヴ・K・セジウィック著, 上原早苗・亀澤美由紀訳)など幾つかの書籍を、後者についてはデヴィッド・リンチの映画などを参考として取り上げたりもしました。

ただ、最も有効だったと思うのはそうしたことよりも脚本を片手に登場人物の相関図を作成し、それに基づいて登場人物の人物像や物語をいかに膨らませるかと言った具体的なやりとりです。各人物間に矢印をつけながら関係性を整理しつつ、その矢印が作劇上、本当に成り立つか、或いはその矢印の「本数」が足りなかったり細過ぎたりしていないかと吟味し、修正と改稿を進めていきました。そのことで作品のイメージを共に作り上げることができたと思います。

また、抽象的なテーマに逃げずに登場人物の葛藤に拘り続けられたのはこのプロセスがあったからかもしれません。

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「物語」を語る3つの視点


(C) Wong Fei Pang & Takuya Misawa

──作中の「私は覚えている」という言葉通り、本作の物語は「過去」として語られていきます。また本作には物語を綴る人間として三澤監督ご本人が出演されていますね。

三澤:そうですね。この映画は劇中で私がノートに書いた文字をある登場人物が読み上げ、その読み上げられた内容を主要登場人物たちが表現する、と言う構造になっています。そのように物語の視点が3層に分かれているのですが、その3つの層は固定的な関係ではなく映画の進行と共に変容していきます。

また、映画全体は過去の記憶として語られていますが、「私は覚えている」に続いて「これは少し前のことなんだけど…いや今のことって言ったほうがいいかも。だって思い出しているのは今だから」と続くので「過去」として語られていると言い切ることはできません。

ややこしいですよね。プロデューサーのウォン・フェイパンもだいたいの人はこういうタイプの映画は見たがらない、と言っていましたし……。

この手法の狙いについて、なかなか上手く言えないのですが、昨年参加した釜山国際映画祭でのことをお話ししようと思います。上映後のトークセッションで「この映画はいつ爆発するかわからない地表のようだ」と言う感想をもらい、自分がこの映画で表現したかった感覚を教えてもらったような気持ちになりました。その感覚をもたらした一つの要素にこの映画の語り口、つまりストーリーテリングがあると思います。

「映画監督」と言う立場

撮影中の三澤拓哉監督


photo by 渡辺拓真

──本作における三澤監督ご本人の出演は、「語り手」の一人である「映画監督」として今後も活動を続けられるにあたっての覚悟の姿とも受け取れました。

三澤:そうかもしれません。社会を描く際、スクリーンの陰に隠れて「あれは良くない」「こうすべきだ」と言いながら石を投げるような真似はしたくないと思っています。つまり社会を自分自身から切り離して描くのではなく、自分自身もその社会に含まれていることを自覚して描きたい、という思いがあります。

この映画で言えば、作中の登場人物たちが抱えている閉鎖的で仄暗い、決して褒められるものではない感情を私は少なからず持っていると思っています。

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映画と自己との関係


(C)Cinemarche

──最後に、三澤監督にとって映画を制作する意味、或いは映画そのものの意味を改めてお聞かせください。

三澤:これまでそうした質問を頂く度に理屈をこね回して答えてはひどい自己嫌悪に陥ってきました。これは私の性格の問題ですが、質問されるとまず最初に相手が望んでいる答えを考えてしまう癖があります。ない頭で急ごしらえした結果、その相手と自分自身、そして映画をも裏切ってしまったような、とても嫌な気分になることが何度も続いてきました。

しかし、最近ようやく、私にとって映画とは最大限自分を正直にさせてくれるものだと気がつきました。つまり、日頃の自分と真逆な存在でいられる。映画を見る時、作る時は自分に対しても、目の前にいる人・モノに対しても正直でいられるんです。

『ある殺人、落葉のころに』は多言語が飛び交うタイトな撮影現場で「正直な自分」を保つことが難しい場面もたくさんありました。
それでも同じ気持ちを持つキャスト、スタッフとギリギリのところで踏ん張りながら作り上げた映画です。

歪な形をしたフィクションですが、そこから立ち上がる感情は本物だと思っています。

インタビュー/河合のび
撮影/出町光識

三澤拓哉監督プロフィール

1987年生まれ、神奈川県出身。

2006年に茅ヶ崎北陵高校を経て明治大学文学部を卒業したのち、日本映画大学に進学。在学中に長編デビュー作『3泊4日、5時の鐘』(2015)を発表し、同作はロッテルダム国際映画祭をはじめ国内外の多数の映画祭にて正式招待され高い評価を獲得した。

長編第二作にあたる『ある殺人、落葉のころに』は2019年10月の釜山国際映画祭にてワールドプレミア上映を果たしたほか、2020年3月の第15回大阪アジアン映画祭「インディ・フォーラム」部門にてJAPAN CUTS Awardを受賞。2020年秋には劇場での公開も予定している。

映画『ある殺人、落葉のころに』の作品情報

【公開】
2020年(日本映画)

【監督・脚本】
三澤拓哉

【プロデューサー】
ウォン・フェイパン、三澤拓哉

【キャスト】
守屋光治、中崎敏、森優作、永嶋柊吾、堀夏子

【作品概要】
『3泊4日、5時の鐘』の三澤拓哉監督による長編第二作。香港版『十年』のウォン・フェイパン監督をはじめ日本と香港のスタッフ・キャストが湘南・大磯に集って撮り上げた、ミステリアスな青春群像劇。

2015年の釜山国際映画祭によるアジアン・フィルム・アカデミーで出会った三澤とウォンが本作の企画をスタート。2019年10月に開催された釜山国際映画祭にてワールドプレミア上映を果たした。また2020年3月の第15回大阪アジアン映画祭では「インディ・フォーラム」部門にてJAPAN CUTS Awardを受賞した。

映画『ある殺人、落葉のころに』のあらすじ

舞台は湘南・大磯。土建屋で働く幼馴染の俊、知樹、和也、英太の4人。生まれ育った町で気ままな生活を送っていた彼らだが、恩師の死をきっかけにその友情関係が崩れていく。

恩師の未亡人である千里に惹かれていく俊。俊の挙動に対し執拗なこだわりを見せる知樹。家族のため、金を工面する必要から法を犯す決断をする和也。親友によって自分の恋人が身の危険にさらされる英太。

家族や友人、これまで築いてきた親密な関係がしがらみへと反転していき、気が付いた時には自由が失われていく。物語は最後、ある悲劇によって幕を閉じたかのように思えたが……。






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