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【西荻ミナミ監督インタビュー】映画『歌ってみた恋してみた』上埜すみれ×大島薫とともに“しぶとい”生き方を描く

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  • Cinemarche編集部

映画『歌ってみた 恋してみた』は2019年7月6日(金)より絶賛公開中

東京・高円寺を舞台に、小心者でニートなサブカル女子と奇妙な仲間たちが繰り広げる日常を描いたファンタジードラマ映画『歌ってみた 恋してみた』。

そしてカナザワ映画祭2018「期待の新人監督」でも上映された本作を手がけたのが、映画・MV作品の監督のみならず、音楽家・寓話作家など多彩な分野で創作活動を展開している西荻ミナミ監督です。


(C)Cinemarche

このたび映画『歌ってみた 恋してみた』の劇場公開を記念して、西荻ミナミ監督にインタビューを行いました。

主演キャストの上埜すみれさん&大島薫さんへのオファー経緯や映画を通じて描こうとした「オリジナリティ」の意味や「しぶとい」生き方など、貴重なお話を伺えました。

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作詞から始まった創作活動


(C)Harunohi Records

──はじめに、本作を制作された経緯についてお聞かせ願えませんでしょうか?

西荻ミナミ監督(以下、西荻):元々ものを作ることが好きで、映像に触れる以前は楽曲制作、特に作詞を手がけていました。そしてその歌詞も物語性のあるものが多かったので、「ゆくゆくは映画を作りたい」という思いを抱いていました。

やがてPCや一眼レフカメラで動画が制作できる時代が訪れ、そのタイミングに合わせて「今だったら何が撮れるのか?」を第一に企画を立てました。

自分の身近にいる人間からインスピレーションを受けて何本か原案を作った上で、「これならいけるんじゃないか」と思えた本作の物語で脚本を執筆し、キャストの面子も集めて完成させたわけです。

──楽曲制作および作詞活動はいつ頃からされていたのでしょうか?

西荻:2010〜2015年ぐらいまでの間はマメにやっていました。ジャンルとしては童謡のようなものを作り続けていました。

「童謡」といっても子供が聴くわけではないのですが、自分が小さい頃に聴いて記憶に残っている歌って誰にでもあるじゃないですか。『シャボン玉』とか『ドナドナ』など、自分の中でインパクトが残った曲ってなんだったのかなと今でも考えているんですが、ああいう曲が好きなんです。

寓話や言い伝えが入っている歌が多かったので、「自分の中には何があるのかな」と模索しながら童謡に似た音楽を作っていました。その際には作詞・作曲を同時に行いますが、あくまで詩がありきの制作でした。

“歌ってみた”から考えるオリジナリティ


(C)Harunohi Records

──劇中冒頭では“歌ってみた”という音楽活動その動画作品群についての説明がテロップで流れますが、西荻監督ご自身は“歌ってみた”をやってみたことがあるのでしょうか?

西荻:それがやっていないんです。

“歌ってみた”というのは、結局は「人が作った歌をどれだけ自分のものにできるか」というカバー活動だと思うんですね。でも僕が若い頃は、「人のカバーよりも自分が名曲を残したい」という思いが強かったんです。「そこには何の差があったんだろうな」という思いから、本作の制作以前から“歌ってみた”が少し気になっていました。

例えば、オリジナリティがある人間からすればカバー活動をしている人間を下に見がちですが、カバーを楽しんでいる人を見たら憧れの存在なんです。そして若い頃を振り返ってみると、「曲を生んだからってどこが偉いんだ」と少しは考えていたことことに改めて気づいたんです。

──本作の“歌ってみた”にまつわる物語を通じて、「オリジナル」と「オリジナルではないもの」との葛藤を描こうとしたということでしょうか?

西荻:そうですね。例えば主人公のゆうこは嘘つきだから色々な嘘をついたりしますが、男性だけれど女の子の格好をしているひかるなど、様々なキャラクターが都会の中で“自分”を表現するために、何かしらの嘘をついている。

無数の嘘が、その人間のアイデンティティとなっている。そして「それでは、自分の嘘って何だろう?」と考えた時に、嘘をついている人間をキャストとしていっぱい集めて物語に登場させつつも、「良い嘘」と「“自分”に良くない嘘」を映画で描きたいと考えたんです。

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主演キャストとの出会い


(C)Harunohi Records

──主演キャストである上埜すみれさんと大島薫さんと初めて会われた際の印象、そして本作への出演をオファーされた経緯についてお聞かせ願えませんでしょうか?

西荻:まず大島くんには、女装というある種の“嘘”を通じて自身のアイデンティティを模索し続けてきた人間として、当初から「ひかる役をやってほしい」とお願いするためにお会いました。

「この方で映画をかたち作っていくにはどう進めてゆけばいいのかな」と考えながらお会いしたこともあって、「ああ綺麗だな」と感じる余裕はあまり思わなかったです(笑)。

上埜さんについては本作制作以前に知り合ったんですが、ゆうこ役のキャストを探していた際に彼女のことが思い出したのがオファーのきっかけでした。

彼女と初めてお会いした当時は自分の知り合いにあまり女優さんがいなかったので、ただ「この方が女優さんをやってるんだな」と感じていました(笑)。

実はゆうこ役はキャストオーディションを一回やったのですが、その結果は「該当者無し」でした。自分はそれまで映画制作の経験が少なかったため、「これで絶対いける」と思える何かがないといけないと考えていたのが要因です。

それに対して、上埜さんなら既に面識もあるので作品に関するお話もできます。上埜さんの出演作も観たことがあったし、女優としての実績や経験もある方なので、「信用度」という意味でその点がオファーの後押しとなりました。

生きやすいのか、生きにくいのか


(C)Harunohi Records

──劇中ではSNSを通じて形成されていく人間関係が描かれていますが、西荻監督はそれらをどのように捉えられていますか?

西荻:僕は46歳なので若い頃にSNSをやっていた世代ではありませんが、それでもSNSと人間関係の深いつながりを感じることはあります。

数年前に会ったきりの人間なのに、SNSに載せている近況を見たことで「この前会った気がする」と感じるなど、結局はそういった生活を行っています。SNSをやめない限り、そういった出会い方や接し方が必然的になるとは感じています。

それに人によっては「やらない」という選択もあるかもしれませんが、自分がもし若い頃にSNSがあった場合、生きやすかったか生きにくかったかと考えると「どっちもどっちかな」とは思うんです。

僕も刺激は好きですし、知らない人と出会ったり知らない情報を得たりということはすごくいいものだと思うんです。その反面、「誰かに見られているかもしれない」と考えると、若い頃にその危険性に触れることに関してはちょっと怖いものだなと思うとは思います。

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主人公ゆうこの「しぶとい」生き方


(C)Harunohi Records

──ゆうこは劇中にて「傷つくことのないような生き方」について言及しています。西荻監督ご自身はそのような生き方をどのように捉えているのでしょうか?

西荻:自分自身も、ある部分では傷つかないようにするために、努力することを避けることが時にはあります。努力しなければ傷つくこともないですから。

例えるなら、「映画は作りたいけれど、作ってもどうせ誰かに叩かれたり、つまらないと言われるから作らない」という生き方。結局ゆうこの台詞は、自分自身の反映でもあるんですよね。

ただその生き方は、ある意味しぶといと思うんです。サブカル好きな人はもちろん、特に女子はそのしぶとさ、強さを持っていると思うんです。

何かに対し「憧れている」と言っているけれど「本当に憧れていますか?」と感じることがあったり、「好き」と言っているけれど「本当に好きなのかな?」と感じたり(笑)。結局、自身の自我や感情などの方が強いわけです。


(C)Harunohi Records

ただそういう裏に秘めたものこそが、現在の社会を生き抜いていくためのしぶとさや強さにつながっているように思うこともあるんです。僕を含める他者の目からはそう見えないだけで、その生き方のおかげで人間が前に進めるということもあるんじゃないかと。

その生き方を映画を通じて描きたかったというのもありますし、やはり自分自身にも深く関わっているものでもあったので描きやすかったですね。

ただあくまで自分がそう思っているだけで、全然その心境に共感できない人も中にはいると感じています。そういう生き方を選ぶことも、そもそもそんな発想に至ることもない人もまた多くいますから。ですが本作を通じて、そういう生き方を考え選ぶ人間もいることを知ってもらえたらいいなとも感じています。

西荻ミナミ監督のプロフィール


(C)Cinemarche

静岡県出身。詩や寓話などの文筆活動、作詞をはじめとする音楽活動を展開。また音楽活動の傍ら、MVの制作も手がけました。

2015年秋には初監督作品である短編『CHUCHUあいす♡苺味』を制作。同作が「フェチフェスアンダーグラウンド映画祭」や「oido短編映画祭@UPLINK」などで上映されたことで、インディペンデント映画の世界に足を踏み入れます。

そして2019年には初の長編映画『歌ってみた 恋してみた』を発表。同作は「カナザワ映画祭2018」の「期待の新人監督」部門にて入選を果たしました。

映画『歌ってみた 恋してみた』の作品情報

【公開】
2019年7月6日(日本映画)

【監督・脚本】
西荻ミナミ

【撮影】
玉井雅利、田宮健彦

【音楽】
狩生健志

【キャスト】
上埜すみれ、大島薫、本村壮平、マメ山田、小林梓、深琴、しじみ、衣緒菜、佐藤ザンス、川端さくら、カメレオール、エリマキング、エホンオオカミ、やぶさきえみ、繫田健治

【作品概要】
東京・高円寺を舞台に、小心者でニートなサブカル女子と奇妙な仲間たちが繰り広げる日常を描いたファンタジードラマ作品。

本作を手がけたのは、映画・MV作品の監督の他にも音楽家・寓話作家としての一面も持つ西荻ミナミ。

そしてW主演を務めたのは『ゴーストスクワッド』『あの娘が海辺で踊ってる』などで知られる女優・上埜すみれと、“女装男子”として注目を集め、現在はタレント業・文筆業を中心に活躍中の大島薫です。

映画『歌ってみた 恋してみた』のあらすじ


(C)Harunohi Records

実家暮らしでニートなサブカル女子・ゆうこは、ネット仲間でいわゆる“男の娘”のひかるに誘われて上京。ひかるの家に転がり込みます。

二人は“歌ってみた”の動画で人気の“歌い手”タクローの信者という共通点がありましたが、信者たちの中にタクローの素性や顔を知る人間は誰もいませんでした。

そんなある日、二人のもとに憧れのタクローの正体を知るチャンスが訪れます。

絶好の機会を前に、怖気づいてしまう小心者なゆうこ。ですが自身の“妄想フレンド”たちに後押しされたことで勇気を振り絞り、タクローのもとへと向かいます…。


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