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Entry 2023/03/21
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【小中和哉監督インタビュー】『Single8』映画作りの楽しさを観客に伝えられる作品にしたい

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『Single8』は2023年3月18日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開!

平成ウルトラマンシリーズを手がけてきた小中和哉監督が、自身の原点となる8ミリ映画作りに熱中した青春時代を題材とした自伝的作品『Single8』。

1978年を舞台に、当時日本で公開されたばかりの『スター・ウォーズ』に触発された主人公たちが8ミリ映画作りに没頭する青春の物語です。


(C)Cinemarche

2023年3月18日(土)からのユーロスペースでの劇場公開を記念し、Cinemarcheでは本作を手がけられた小中和哉監督にインタビューを敢行。

ご自身の映画作りの“原体験”、『Single8』を通じて伝えようとした「どうやって作ったんだろう」と想像する映画の楽しさなど、貴重なお話を伺いました。

作り手/観客としての“原体験”


(C)「Single8」製作委員会

──小中監督の“映画作り”の記憶は、何歳の頃から始まっているのでしょうか。

小中和哉監督(以下、小中):小学校4年の時、兄の小中千昭とともに8ミリカメラを祖父の家で見つけて「カメラがあれば映画が撮れる」と短絡的な勢いでいきなり撮り始めたんです。そうして作ったのが、幻の第1作となった『死因不明事件』というミステリー映画でした。

ところが、一夏をかけて撮り終えた後にカメラ屋に現像を出しに行ったら、間違ったフィルムの入れ方をしてしまっていたらしくスタートマークが出たままなので受け取ってもらえず、そこで何も撮れていなかったことに初めて気づいた。そのせいで『死因不明事件』は「幻」になってしまったんです。

そんな失敗の後、翌年から作り始めて中学1年生の時に完成した本当の第1作が、侵略宇宙人を一人の少年が知恵を使って撃退するというSF映画『インベーダー』です。兄弟の共同脚本で、兄が監督を、私が主演を務めたその映画は、今もフィルムが残っています。そこから、自分たちの映画作りはようやく始まりました。

そして、本作で主人公・広志たちが作ろうとする映画『タイムリバース』は、高校1年生の時に撮った『TURN POINT 10:40』という映画をほぼ忠実に再現しているんですが、実はそれは、中学校時代に作った『タイムリターン』という映画のリメイク作なんです。

自分が所属していた成蹊高校映画研究部では、部員全員がそれぞれに執筆した脚本を提出し、皆の投票で選ばれた1本を映画化するという伝統があったんですが、その提出脚本の新しいネタに悩み「中学時代に作った映画のストーリーを、もう1回真剣に書き直して再構築してみよう」と思いました。

ちなみに、中学で作った『タイムリターン』は『ウルトラQ』(1966)のフォーマットで作られていたんです。「これから15分、あなた目はあなたの体を離れ、この不思議な時間の中へ入っていくのです」というナレーションがあのテーマ曲の中流れて……そして登場する宇宙船も円盤型だったんです。

そんなウルトラシリーズのオマージュで作られたオリジナル版があって、『スター・ウォーズ』を観た後に「あんな巨大な宇宙船を撮りたい」という動機も加わって、映画研究部でリメイクしようと思ったわけです。

ですから『タイムリバース』のネタ元となった映画は、そのルーツを辿っていくと、『スター・ウォーズ』リスペクトな作品であると同時に、円谷特撮リスペクトの作品でもあるんです。

そもそも自分は「SF」というジャンルを意識する前から、物心ついた時から『ウルトラマン』(1966〜1967)を観てきましたし、やっぱり自身にとっての映像の1番の入り口は「特撮」だったと感じています。

人に見せる上で、映画で何を伝えるのか


(C)「Single8」製作委員会

──“映画作り”の原体験を経た小中監督が本格的に映画作りの道へと進まれたきっかけは、やはり前述の成蹊高校映画研究部への入部なのでしょうか。

小中:それまでは「僕と兄だけが映画作りに没頭していて、撮影時には周りの友だちを巻き込む」という形で映画を作っていたんですが、先輩の手塚眞さんや同期の利重剛など、クラブに入って初めて同じく、あるいはより真剣に映画を作ろうとしている人たちと出会えたんです。

また当時の自分は、映画作りの専門書を読むのがあまり好きではなく「楽しければいいじゃん」とずっと自己流で作っていたんですが、真っ当な映画学校で学ぶような教えに初めて触れることができたのも、そのクラブに入ってからだったんです。

そして、お互いに作った映画を批評し合ったり、先輩の映画作りを手伝ったりするうちに色々な影響を受けていった中で、ただ一人の映画ファンとして“ごっこ”で映画を作るだけでなく「映画を人に見せる上で、そこで何を伝えようとするのか」がやはり大事だと次第に気づいていったんです。

『Single8』の作中では、川久保拓司さん演じる広志の担任の先生がそういったアドバイスをしてくれるんですが、かつての自分に教えてくれたのはクラブの先輩たちでしたね。

「どうやって撮ったんだろう」と想像する楽しさ


(C)「Single8」製作委員会

──小中監督が映像に興味を抱いた1番の入り口であり、のちの作り手としてのフィルモグラフィーにおいても欠かすことのできない存在である「特撮作品」の魅力とは何でしょうか。

小中:「全長1600mの巨大宇宙戦艦」という設定をミニチュア特撮で表現した『スター・ウォーズ』冒頭のスター・デストロイヤーの登場カットに当時驚いたのと同じように、「作り手の技術によって、信じられない映像が作られている」という感動に惹かれたんでしょうね。

特撮に限らず、映画作りって、ウソの連続なんです。

例えば、二人の登場人物の会話をカットバックで撮ろうとした時、映像を編集した後なら二人ともお互いを見て会話しているように見えけれど、実際の撮影では、演じる俳優の目線の先にはあるのは助監督の拳だけかもしれない。

どこかバカバカしいウソを積み重ねることで、映画が完成する。それが映画作りに携わることの楽しさであり、その楽しさが最も顕著に感じられるのが特撮だと思っているんです。

特撮作品を観る時、「どうやって撮ったんだろう」と考えるのが一番楽しいじゃないですか。また僕と兄が始めた映画作りごっこも、「プロの技術を再現する」というのが大きな楽しみの一つだったんです。

ただ、現在はCGが主流となり「どうやって撮ったんだろう」と考えることが中々難しくなってしまった。迫力ある映像を観ても「CGなら、そりゃ何でも作れて当たり前だよね」の一言で片付けられてしまう現状は、映像の作られ方に想像を膨らませるという楽しみも失くしてしまっている気がするんです。

そういう意味でも、今の若い世代の映像の受け取り方、「映像を作る」ということへの認識のあり方を心配しているんです。

映画作りに観客が参加できる映画


(C)「Single8」製作委員会

──最後に、今回『Single8』という映画を撮られた動機を改めてお聞かせいただけませんでしょうか。

小中:映画を観ることはもちろん楽しいんですが、「作る側の楽しさ」というもう一つの映画の楽しさは、どうしても作った人間にしか中々実感できないものです。そんな作り手しか知らない映画の楽しさを、映画ファン全体に共有できる作品を作れたら素敵だとずっと思っていたんです。

ただ、今回の『Single8』で描きたかった映画作りの楽しさは、フランソワ・トリュフォーの『アメリカの夜』(1973)のようなプロの映画業界の面白さとは異なる、やっぱり「8mmカメラでの映画作り」でこそ見えてくるものだと思っています。

どこにでもいる映画好きの子たちが、思い立ったら撮ることができる。8mmカメラがもたらしてくれた、映画ファンと映画好きの作り手の境界が全くない世界の中でこそ、映画作りの本質が見えてくるんじゃないかと思いますし、より手軽に映像制作に触れられるようになった現在とつながれる作品にもなると考えたんです。

スティーヴン・スピルバーグも『SUPER8/スーパーエイト』(2011)という作品で、フィクションを通じて8mmカメラとフィルムの時代に思いを馳せていましたが、その映画を観た時「もっと“生”でやるべきじゃないか」とも感じたんです。

8mmカメラへのノスタルジックな思いよりも、「映画を作る」ということの本質を伝えたい。そのために『Single8』は1本の映画が作られる過程を全部見せます。準備、撮影、仕上げ、そして完成した映画を上映する場面では作品を丸ごと見せ、観客に「映画作りの現場に参加したスタッフ」の立場で映画を観る経験を体験してもらおうとしたんです。

映画を観ることは楽しいことですが、実は映画を作ることはもっと楽しいことです。映画を観ることしか知らない一般の映画ファンにそれを知ってもらえる映画が作りたかったんです。

インタビュー・撮影/タキザワレオ
構成/河合のび

小中和哉監督プロフィール

1963年生まれ。兄・小中千昭(現脚本家)と共に小学生のころから8ミリ映画を作り初め、中学2年『CLAWS』(1976)で初監督。成蹊高校映画研究部、立教大学SPPで自主映画を撮り続け、1986年に池袋の名画座・文芸坐が出資した『星空のむこうの国』で商業映画デビュー。

1992年、兄・千昭と妻・明子と有限会社こぐま兄弟舎(現・株式会社Bear Brothers)を設立。1993年にポニーキャニオン、タカラと共同で映画『くまちゃん』を製作。

1997年公開『ウルトラマンゼアス2 超人大戦・光と影』でウルトラマンシリーズ初監督。以降、監督・特技監督として映画・テレビシリーズ両方でウルトラマンシリーズに深く関わる。

主な代表作に映画『四月怪談』(1988)、『ウルトラマンティガ・ダイナ&ガイア』(1999)、『ULTRAMAN』(2004)、『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』(2006)、『七瀬ふたたび』(2010)、『赤々煉恋』(2013)、『VAMP』(2014)、テレビシリーズ『ウルトラマンダイナ』(1998)、『ASTRO BOY 鉄腕アトム」(2003)、『ウルトラマンネクサス』(2005)、『南くんの恋人』(2015)、『いいね!光源氏くん』(2021)など。

映画『Single8』の作品情報

【公開】
2023年(日本映画)

【監督・脚本】
小中和哉

【キャスト】
上村侑、髙石あかり、福澤希空(WATWING)、桑山隆太(WATWING)、川久保拓司、北岡龍貴、佐藤友祐(lol)、有森也実

【作品概要】
1970年代、8ミリ映画制作に情熱を燃やす若者たちを描いた青春の物語。『ウルトラマンティガ・ウルトラマンダイナ&ウルトラマンガイア 超時空の大決戦』(1999)など人気の平成ウルトラシリーズを手がけてきた小中和哉監督が、自身の青春期を題材に脚本を書き下ろしました。

主人公・広志を演じたのは、主演映画『許された子どもたち』(2020)で第75回毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞を受賞した上村侑。

マドンナ・夏美役の『ベイビーわるきゅーれ』(2021)の髙石あかり、ホリプロ初の男性ダンス&ボーカルグループ「WATWING」で活躍する福澤希空・桑山隆太など、フレッシュな若手俳優たちが出演。

さらに川久保拓司、北岡龍貴、佐藤友祐(lol)、有森也実と小中監督と縁のある個性派キャストが顔を揃えます。

映画『Single8』のあらすじ

1978年の夏。日本で公開された『スター・ウォーズ』に夢中になった高校生の広志は、友人の喜男と一緒に宇宙船のミニチュアを作り、8ミリカメラで撮影し始めました。

最初は宇宙船の撮影だけを考えていた広志でしたが、クラスでの文化祭の出し物会議にて、勢いで映画制作を提案してしまいます。お化け屋敷を提案した生徒から概要を教えるように迫られた広志たちは、次回のホームルームでストーリーを発表することになります。

広志は想いを寄せている夏美にヒロイン役を依頼しますが、あっさり断られてしまいます。彼女とクラスメイトたちを説得するために、広志は喜男、映画マニアの佐々木と一緒にシナリオ作りに取りかかりました。

フィルムを逆に回すリバーズ撮影機能を知ったことから、宇宙人が地球の時間を逆転して人類の進化をやり直させようとする「タイム・リバース」という物語が生まれます。

完成した脚本を夏美に渡し、クラスメイトたちに熱く映画のストーリーを説明する広志。夏美はヒロインをやると返事をし……。



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