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Entry 2019/06/25
Update

【ヴァンサン・ラコスト&ミカエル・アース監督インタビュー】『アマンダと僕』の思いを語る

  • Writer :
  • 加賀谷健

映画『アマンダと僕』は、2019年6月22日(土)より、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開中

第31回東京国際映画祭で審査員の満場一致で「東京グランプリ」を受賞し、世界中の観客を大きな感動で包んだ映画『アマンダと僕』。


©︎Cinemarch

フランス映画界の新たな才能として注目されているミカエル・アース監督は、長編3作目にして、本作が初の日本劇場公開作となります。

今フランスで最も活躍が期待されている若手俳優ヴァンサン・ラコストと、演技初挑戦ながら驚くべき表現力を発揮したイゾール・ミュルトリエの共演には思わず目が釘付けに。

今回は、待望の日本公開にあわせて来日した主演のヴァンサン・ラコステさんとミカエル・アース監督にインタビューを行い、本作のテーマ性や作品への思い入れなど、貴重なお話を伺いました。

「テロ」と「喪失」がきっかけに

©2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

──本作で描かれる悲劇は、2015年にパリで起きた同時多発テロ事件がきっかけになっていますか。

ミカエル・アース監督(以下、アース:テロ事件がもちろんきっかけにはなっています。ただ、テロをテーマにした映画を撮ったわけではありません。私はいつもたった一つのテーマを語る映画は面白くないと思っています。

私の友人でテロの場所となったバタクラにいた人がいました。その人は精神的なショックを受けましたが、身体的な危害は加えられませんでした。人生は色々です。

──主人公たちが大切な人を失う喪失感はご自身の経験によるものですか?

アース:私が映画のシナリオを書く時、テーマというのは自然に降りてくるものです。愛する人が亡くなるといようなことになれば、隠喩に富んだやり方でみせようとするでしょう。自分自身がそういうことに恐怖感を抱いていて、他の人よりうまく対処出来ないのではないかということを感じているので、それがテーマとして自分の中に自然に出てくるのかもしれません。私には、日常に急に不幸が訪れることによってある意味浄化されるような感覚があります。

俳優と監督の信頼関係


©︎Cinemarch

──ラコストさんは最初に脚本を読んだ時どのような印象をもちましたか?

ヴァンサン・ラコスト(以下、ラコスト):とても美しいと思いました。主題の扱い方や、こういうストーリーの中でテロを取りあげ、大切な人を失った悲しみを語っていくその見せ方が面白かったです。家族や身内を失うという悲劇のプリズムを通して描いていくことによって、今パリで生きることがどういうことかよくわかります。人々は傷ついたけれども、困難にも立ち向かっていき、人生にはまだまだ希望があるということを描いています。

ミカエル・アース監督の作品では、前作『サマーフィーリング』もみていて好きでした。監督からオファーがきて、すぐにカフェで会い、出演を承諾しました。

──ラコストさんとの仕事はいかがでしたか。

アース:私は俳優に言葉で説明をするのがあまり好きではないんです。今回、ヴァンサン・ラコストと仕事をしていて、私たちはすぐに分かり合えたので、言葉が必要ありませんでした。私が頭の中に思い描いている音楽と全く同じものを彼も感じていていたんです。私と同じ調子の俳優さんだったので、すごくやり易く、言葉も少なくやってもらうことが出来ました。錬金術が働いたとでも言うのでしょうか。映画が出来た今、他の配役を想像することは難しいです。

奇跡のキャスティング

©2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

──ラコストさんとイゾール・ミュルトリエさんの掛け合いが魅力出来でしたが、演技初挑戦となったミュルトリエさんはどのような経緯でキャスティングしたのでしょう。

アース:子役を選ぶためにたくさんの子どもたちに会いました。しかし大半が演技の経験があるような子たちばかりで、彼ら自身が演技をしたいというよりは、むしろ両親の意志で演技をしているという感じで少し不幸だなと思いました。

キャスティングディレクターが街でビラを配って、それに応えてくれた人たちにオーディションをして会うというかたちをとりました。イゾールの場合は、彼女がちょうど体操教室から出てきたところにビラを配り、後日オーディションに来てくれました。彼女の演技はとても自然でした。さらに赤ん坊のような可愛らしいところや瑞々しいところがある一方で、自分の考えをきちんと言葉に出来る賢こさも兼ね備えている子でした。そのオーディションで私は彼女しかいないと直感しました。

ぴたりと息の合った共演

©︎Cinemarch

──お二人の芝居上のやり取りはいかがでしたか。

アース:二人とも相手を前にして芝居をすることが共通しています。相手がどういうことを言ったか、どういうふうに動いているのかを注意深く聞いて、それに対して芝居をするタイプだと思います。私自身は俳優ではないのではっきりとは言えませんが、二人とも演技をする上でとても寛大で相手に身を任せて演技に臨んでくれました。

──ラコストさんはミュルトリエさんと共演をどのように感じました。

ラコスト:スクリーンテストの時に初めて会いました。小さい女の子と接する機会があまりないので、どういう感じなのか想像出来ませんでした。それに彼女自身子どもだからシナリオの意味が分かるのかどうか、また、かなり哀しい感情を表現しなければならない場面もあったので、初めはどうなるのかなと思っていました。けれども、彼女はきちんと理解していましたし、普通の若い女優さんと何一つ変わらずに全体像もみえていました。とても難しい場面に関しては彼女自身ストレスに感じていたようですが、それ以外はほんとうに楽しんで演じていました。

©2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

私自身もそうですが、一番大切なことは、先ほど監督も言われていたように、相手を聞く力だと思います。相手に対してどういうふうに反応するかということです。私はそこまで演技について理論的に考えているタイプではありませんが、自分の前にいる人の言うことをよく聞いて、それに対して演技をします。決して一人でよい演技をしようなんて全く考えていません。おそらくイゾールもそうだと思います。私が彼女に対して最初どのように接するべきか分からなかったように、彼女も私に対して同じように感じていたはずです。撮影が進むにつれて徐々にお互いを知るようになり、一緒に冗談を言い合ったりするようになりました。それは映画のストーリーと同じです。私たちのそうした関係は映画にもよい影響を与えたのではないかと思います。

俳優としての挑戦


©︎Cinemarch

──今回の撮影でチャレンジしたことや苦労したエピソードがあれば教えてください。

ラコスト:今回のような役は一度も演じたことがなかったので、とても不安に思うこともありました。例えば、三日目の撮影でダヴィッドがアマンダに姉の死を告げる場面では、どんなふうに演じたらよいのか分からない状態で撮影に臨みました。朝まで考えがなかったので、その場で感情が上がってこなければ、大失敗に終わってしまうのではないかと懸念していましたが、幸運にも自分の感情に身を任せることが出来たんです。

もちろん辛さだけでなく、ストレスとともに喜びもありました。今回の撮影ではこれまでなかった演技をやってみてたくさんのことを学びました。特に、恐れずに自分の感情に身を任せて演技をするということや、少し可笑しいなと思われることも怖がらずに演技をすることによって自分自身もそこに喜びを見出せるということを学びました。

──役作りの上で参考にした作品などはありましたか?

ラコスト:私はトリュフォーの作品が大好きなんです。彼の映画に出演し続けたジャン=ピエール・レオをみていて、いつの時代も変わらない人間の人生の描かれ方に親近感を覚えました。過去の映画は、これまで自分が生きてきたことやその感情を掬い取り、俳優としての理解を助けてくれるものです。

抑制の利いた演出力が繋ぐもの


©︎Cinemarch

──本作では凄惨なテロの場面は描かれましたが、サンドリーヌが病院に運ばれたり葬儀をする場面はありません。こうした省略は意図的なものでしょうか?

アース:ほとんど直感的です。私の場合、シナリオを書いている時点で、テロの場面自体をみせないことは間違った慎み深さであると解釈したので、テロの場面は印象としてみせるつもりでした。ただ、お葬式の場面などはこれは初めからみせないと直感的に感じるものなんです。省略や隙間によって、映像としてはみせずにそこで起こっていることを想像させたりするのが好きです。

©2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

──本作のラスト、二人が観戦するウィンブルドンの鮮やかな芝のコートがフランスの公園の芝に繋がりますが、こうした風景には監督の特別な思い入れなどがあるのでしょうか?

アース:そうですね、それは確かに連続性をもたらしてはいますが、全く意図的ではありませんでした。一般的にロンドンのウィンブルドンと言うとテニスのメッカですから、夢の場所として描いています。それが公園の芝生に繋がりますが、観客のみなさんには是非アマンダとダヴィッドのその後の様子を想像してもらいたいです。

ヴァンサン・ラコスト・プロフィール

1993年、フランス、パリ生まれ。

2009年に『いかしたガキども』で映画初主演を果たし、リュミエール賞有望若手男優賞を受賞。

その後も順調に出演作を重ね、若き研修医の成長を描いた『ヒポクラテス』(2014)に主演し、フランス映画界最高峰のセザール賞主演男優賞にノミネートされます。

コメディタッチの作品に多く出演する一方で、本作『アマンダと僕』のような人間ドラマにも挑戦し、今最も活躍が期待されている若手俳優の一人です。

ミカエル・アース監督プロフィール

1975年、フランス、パリ生まれ。

大学経済学を学んだ後、パリにある高等映画学校La Fémisに入学。

数本の短編映画を製作し、『Charell』(2006)がカンヌ国際映画祭批評家週間に選ばれます。

2010年には、『Memory Lane』(2010)で長編デビューを果たし、ロカルノ国際映画祭でワールドプレミア上映されます。

その後、16mmで撮影した『サマーフィーリング』(2015)を手がけ、長編3作目となる本作『アマンダと僕』が第31回東京国際映画祭で東京グランプリを受賞し、大きな評価を得ました。

インタビュー・撮影/ 加賀谷健

映画『アマンダと僕』の作品情報

【公開】
2019年(フランス映画)

【原題】
AMANDA

【監督・脚本】
ミカエル・アース

【協同脚本】
モード・アメリーヌ

【キャスト】
ヴァンサン・ラコスト、イゾール・ミュルトゥリエ、ステイシー・マーティン、オフェリア・コルブ、マリアンヌ・バスレー、ジョナタン・コーエン、グレタ・スカッキ 

【作品概要】
「日常的で些細な出来事を、美と抒情性で描写する」ことが映画作りの目的だとミカエル・アース監督が語るように、隅々まで美しさに満ちた作品です。

悲しみを受け止める人々の繊細な心情描写は監督の過去作にも共通。光の扱いに長けたアース監督は仏映画の伝統を未来へ繋いで行きます。

突然の父親役に戸惑う青年と、彼に頼るしかないが逆に励ます側にも回る少女の関係は微笑ましくも痛ましく、悲劇に見舞われるパリの光景は美しい故に大きな衝撃を残します。

主演のヴァンサン・ラコストは2018年にフランスで主演作が3本公開される若手の代表格でありニュー・スター。

アマンダ役のイゾール・ミュルトリエは本作が初の演技経験となります。

映画『アマンダと僕』のあらすじ

便利屋業をしているダヴィッドは、パリに出てきたてのレナに出会い、恋に落ちます。

しかしその直後、姉の突然の死によって無残に壊れていく彼の人生。

ダヴィッドはショックと辛さを乗り越え、まだ幼い姪っ子アマンダの世話をしながら自分を取り戻していきます。


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