Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

Entry 2019/12/23
Update

【イ・ビョンホン監督インタビュー】映画『エクストリーム・ジョブ』リュ・スンリョンらと描く“コメディ”の魅力とは

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『エクストリーム・ジョブ』は2020年1月3日(金)より全国ロードショー公開!

ドジ続きで解散の危機に陥った韓国警察の麻薬捜査班。その極秘捜査として「フライドチキン店」の経営の裏で捜査を進めるという、奇想天外なポリスアクションを描いたコメディ『エクストリーム・ジョブ』。


(C) 2019 CJ ENM CORPORATION, HAEGRIMM PICTURES. CO., Ltd ALL RIGHTS RESERVED

本作の監督を務めたのは、『過速スキャンダル』『サニー 永遠の仲間たち』で脚色を担当した韓国のイ・ビョンホン監督

2020年1月3日からの劇場公開を記念し、この度イ・ビョンホン監督にインタビューを実施。コメディーにこだわる監督の思いや、作品を手掛ける上で心掛けたポリシー、そして撮影の苦労など貴重なお話を伺いました。

スポンサーリンク

「新たな作り方」への挑戦


(C) 2019 CJ ENM CORPORATION, HAEGRIMM PICTURES. CO., Ltd ALL RIGHTS RESERVED

──非常にユーモアあふれる物語ですが、本作のアイディアにはどのような経緯で行きついたのでしょうか?

イ・ビョンホン監督(以下、):2015年に韓国コンテンツ振興院が、シナリオの共同開発プロジェクトをおこなったんですが、本作の物語はそこで応募された作品の中から選ばれた原案に基づいているんです。

それを初案として製作会社CJとシナリオ作家のペ・セヨンさんが脚色をおこない、両者によって脚色された原稿を私がいただいて自分自身でも脚色し、最終稿を完成させました。

──はじめて原案をご覧になったときには、どのような感想を抱かれましたか?

:とにかく面白いシチュエーションコメディーだと思いました。

私は本作以前の作品制作では、シチュエーションよりも人物の描写を優先し、人物の感情に重きを置いた上で“笑い”を描くべきだと考えていました。だから「まずは笑わせなくてはならない」とは思っていなかったですし、人物の感情よりも“笑い”が先だと思ったこともありませんでした。

ですが原案を読んだ際には、「この作品の場合は“笑い”に重きを置くべきだ」「むしろ、この作品だからそれができる」と感じ、本作の制作にチャレンジしたくなりました。

「爽快感」にこだわったアクション描写


(C) 2019 CJ ENM CORPORATION, HAEGRIMM PICTURES. CO., Ltd ALL RIGHTS RESERVED

──”笑わせよう”という意図とは対照的に、作品内では物語としてのディテールにこだわられている部分も多々見られます。それらはどのような過程を経て構成されていったのでしょうか?

:まず、メインキャラクターである麻薬捜査班のメンバー5人には、隠された才能があるんです。それが物語の展開とともに一つ一つ小出しに披露されていきますが、キャラクターたちの気質を考えると、それはただ派手なアクションではなく、あくまで今まで積み重ねてきたその感情が一気に出てくるようなアクションとして見せたほうが観客は感情移入しやすいのではと考えました。

何よりも、彼ら・彼女らが持っている秘密や能力、才能といったものが存分に発揮されたとき、観客たちはその“開放感”に、爽快感を覚えてもらいたかったんです。ですからアクション自体というよりも、アクションとともに描かれるその人物の感情や状況を大切にし構成していきました。そしてそれが一気に花開くのが、本作の後半部なんです。そのため、アクションの描写についてはできるだけ後半部に重点を置きました。

スポンサーリンク

リュ・スンリョンという「安定感」が生んだキャスティング


(C) 2019 CJ ENM CORPORATION, HAEGRIMM PICTURES. CO., Ltd ALL RIGHTS RESERVED

──先ほど触れられたメインキャスト5人のキャスティングについて、それぞれのキャスティング経緯、また主演のリュ・スンリョンさんが決まったときの思いを教えていただけますか?

:まず第一に「リュさんはコ班長役に無条件で合う」と考えていました。それは当初から全く迷いがなく、とにかく彼に出演してほしいという気持ちが大きかったんです。

彼の出演が決まってからは、脚色も「リュさんがコ班長なんだ」ということを念頭に置いて進めていきました。また最初に彼の出演が決まったことで、「彼が中心にいてくれることで、作品にも安定感が生まれる」と感じられ、他のキャスティングについてもアイディアが広がり、より自由な発想の中で考えることができました。

実はマ刑事とチャン刑事は当初、「がっちりした大柄の方」に演じてもらおうと考えていたんですが、すでにリュさんがいるため、その条件にこだわらないで自由にキャスティングをしてもいいのではと感じ始めた結果、チン・ソンギュさんとイ・ハニさんのお二人にお願いすることにしました。この二人は韓国では普段からよくお茶の間に登場している俳優・女優なんですが、その上でキャスティングすれば、新鮮な印象も期待できると思えたんです。

またヨンホ役のイ・ドンフィさんについては、「シナリオの段階から満足している」と仰るほどに本作を気に入ってくださっていて、彼の韓国国内での人気を考えると5人の中での役柄としての比重は少し小さかったかもしれないですが、それでも自ら「やります」と名乗りを上げてくださいました。

そしてジェフン役のコンミョンさんも、主役級の役での映画出演をするのは本作が初でしたが、キャラクターに対し本当に愛情をもって接してくださいました。また事務所にもよく足を運んでくださり、撮影前に十分なコミュニケ―ションをとることができました。

作品に対し「よそ見」をしない


(C) 2019 CJ ENM CORPORATION, HAEGRIMM PICTURES. CO., Ltd ALL RIGHTS RESERVED

──作品の演出において、イ監督ならではのポリシーなどはありますか?

:(冗談で)居眠りをしないように(笑)。「ポリシー」と言うと大層な言葉に聞こえてしまいますが、「とにかく“よそ見”をしない」という点は気をつけました。

──“よそ見”とは、具体的にどういうことでしょう?

:“よそ見”とは、「“必要のない感動”を入れたりしないこと」です。作品によっては、大衆性を求めるがあまりに“お涙頂戴”な作風になってしまうことがあると僕は感じているんですが、その誘惑に負けず、安直な感動に流されないように制作を進めました。

本作を撮ろうと思い立ったときの初心を忘れずに、前だけを見つめて「観客を笑わせ、楽しませる」という目標へと突き進んでいったんです。

また現場では「アイディアを惜しまないようにしよう」「『少しやり過ぎかな』と感じても、何かしらのアイディアがあるのなら、とにかく実践して“笑い”を追求しよう」と考え、「自身の撮りたいものをとにかく撮る」という方針を貫きました。

──撮影時のご苦労などもお聞かせ願えますか?

:何よりも、暑さでしたね。冒頭の場面はカーチェイスでしたよね。俳優さんたちも走りまわり、車がひっくり返りそうになったり倒れたりするなど、本当に複雑なコンテの中で撮らなければいけなかったんですけども、撮影当日がとにかく暑かったんです。

韓国では史上稀にみる猛暑となり、1カットを撮り終えたら40分ほど休まなければならないという状況に陥りました。多くのカットが必要な場面ということも相まって撮影スケジュールが苦しくなり、綿密なスケジュール進行による撮影となったため、キャストさんたちも本当に苦労されていました。

非常に重要なシークエンスであるため、気を遣いながらの撮影だったんですが、限られた時間の中で撮ることはとても大変でした。スタッフさんたちに関しても猛暑で倒れ、応急処置をとることになるなど、猛暑の中での撮影となった4日間はみなにとって過酷なものでした。

スポンサーリンク

コメディーにこだわる理由


(C) 2019 CJ ENM CORPORATION, HAEGRIMM PICTURES. CO., Ltd ALL RIGHTS RESERVED

──イ監督ご自身がエンタメ、特に「コメディー」というジャンルにこだわる理由とは何でしょう?

:子供のころから、コメディーというジャンルが好きだったんです。逆にホラーやスリラーといったジャンルは苦手で、怖いものがダメなんですよ(笑)。血を見るよりも、笑うほうが好き。子どものころからそうでした。

また作品を制作するときには、どうしてもストレスが溜まってくるんです。いろんなアイディアを出しつつも悩みながら作るんですが、作品が出来上がったとき、やはりコメディー作品が一番“開放感”、あるいは“達成感”を強く味わえるんです。

作ったものを自分で観て“笑える”のはやっぱり嬉しいことだと思いますし、やはり観客の方々に作品を観ていただいたとき、その反応が“笑い声”や“笑顔”として、すぐに、じかに伝わってきますよね。それも僕にとっては一つの快感です。

観客のみなさんが笑ってくださった後、自分が笑った後はやはり気分が良くなるし、幸せになれますよね。その快感を味わえる唯一無二の作品が、コメディーというジャンルだと捉えています。

──イ監督自身にとって、映画監督の醍醐味を感じられる瞬間を改めてお聞かせください。

:まず個人的には、家族といっしょに自身が撮った作品を観るときですね。そして、自分の成果としての作品を観客の方々に観ていただくときです。

実はコメディー映画って、とても怖いジャンルでもあるんです。先ほども話したように、映画館ですぐに観客の反応が分かってしまう。だからこそ成功したときの快感も大きいんですが、一方で失敗したときの自責の念も非常に大きいんです。そのため、「お客さんを笑わせなければいけない」「笑ってほしいところで笑ってもらえない」という恐怖を感じることもあります。

そしてその反面、映画館に訪れた際に観客の反応を目の当たりにして、「ああ、成功したな」と実感できたときには本当に快感を味わえますし、胸がいっぱいになって嬉しくなります。

イ・ビョンホンのプロフィール


(C) 2019 CJ ENM CORPORATION, HAEGRIMM PICTURES. CO., Ltd ALL RIGHTS RESERVED

1983年生まれ、韓国出身。

2013年に独立映画『頑張って、ビョンホンさん(原題)』で監督デビューを果たし、以降『風風風(原題)』『ニ十歳』などを手掛ける一方で、『レッスル!』『今日の恋愛』『サニー 永遠の仲間たち』『過速スキャンダル』などで脚本/脚色を担当しました。

映画『エクストリーム・ジョブ』の作品情報

【日本公開】
2019年(韓国映画)

【英題】
Extreme Job

【監督】
イ・ビョンホン

【キャスト】
リュ・スンリョン、イ・ハニ、チン・ソンギュ、イ・ドンフィ、コンミョン(5urprise)、シン・ハギュン、オ・ジョンセ

【作品概要】
麻薬捜査チームの奇妙な奮闘を描くアクションコメディー。捜査官たちが捜査のためにフライドチキン店の従業員を“装う”つもりが、思わぬ展開に七転八倒する様を描きます。

監督を務めるのは『過速スキャンダル』『サニー 永遠の仲間たち』で脚色を担当、『二十歳(ハタチ)』を手掛けたイ・ビョンホン。

メインキャストには『7番房の奇跡』などのリュ・スンリョンをはじめ、『私は王である!』などのイ・ハニ、『守護教師』などのチン・ソンギュのほか、イ・ドンフィ、「5urprise」のコンミョンらが出演、さらにシン・ハギュン、オ・ジョンセらが名を連ねています。

映画『エクストリーム・ジョブ』のあらすじ


(C) 2019 CJ ENM CORPORATION, HAEGRIMM PICTURES. CO., Ltd ALL RIGHTS RESERVED

コ班長(リュ・スンリョン)がリーダーを務める韓国警察の麻薬捜査チームは、懸命に休みなく奔走しているにもかかわらずドジばかり。全く結果を出せないまま、今や解散の危機に陥っていました。

彼らは同僚刑事から入手した極秘情報から、国際犯罪組織による国内麻薬の密搬入が行われることを知り、起死回生を狙った潜伏捜査に打って出ることに。

そこでコ班長たちは、組織のアジト前にあるフライドチキン店を買い取り、実際に営業しながら24時間態勢で組織の監視を行うことに。ところが偶然から生み出したフライドチキンの味付けが思わぬ評判を呼び客が殺到、捜査をする時間がなくなってしまう。

一方、そんな裏があるとも知らない犯罪組織は、フライドチキン店の繁盛ぶりにある一計を案じるのでした…。

映画『エクストリーム・ジョブ』は2020年1月3日(金)より全国ロードショー公開!





関連記事

インタビュー特集

【田中征爾監督×皆川暢二インタビュー】映画『メランコリック』で目指したオリジナリティ

映画『メランコリック』が、2019年8月3日(土)より、アップリンク渋谷ほか順次公開! アクション、コメディ、サスペンス、ホラー、ラブロマンスとジャンルを横断したエンタメ作品である本作は、映画製作ユニ …

インタビュー特集

【吉川愛×萩原みのり×今泉佑唯インタビュー】映画『転がるビー玉』女優として“同じ時代を生きている”からこそ成し得た自然体の演技

映画『転がるビー玉』は2020年1月31日(金) 渋谷/新生PARCO内・ホワイト シネクイントにて先行公開、2月7日(金)より全国順次公開! 女性ファッション誌『NYLON JAPAN(ナイロン ジ …

インタビュー特集

【野本梢監督インタビュー】映画『愛のくだらない』主演・藤原麻希と共に“自己の戒め”の想いから撮った作品

映画『愛のくだらない』は2021年9月24日(金)よりシネ・リーブル梅田にて、10月30日(土)より池袋シネマ・ロサにて劇場公開。他全国順次公開。 日本映画界における新人監督の登竜門「田辺・弁慶映画祭 …

インタビュー特集

【磯部鉄平監督インタビュー】初長編映画『ミは未来のミ』と短編代表作とともに作家としての“現在”を語る

磯部鉄平監督作品特集はアップリンク吉祥寺にて上映 大阪・東京で映画制作を続ける磯部鉄平監督。2019年には初の長編監督作『ミは未来のミ』を制作し、2020年には長編第2作『コーンフレーク』を完成させる …

インタビュー特集

【大庭功睦監督インタビュー:後編(作家編)】映画『キュクロプス』に配した「問いと答え」を語る⑵

映画『キュクロプス』が2019年5月3日(金)よりテアトル新宿を皮切りに全国順次公開 ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2018にて、批評家が選ぶシネガーアワードと北海道知事賞の2冠を果たした『キュ …

U-NEXT
CINEMA DISCOVERIES【シネマディスカバリーズ】
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
映画『哀愁しんでれら』2021年2月5日(金)より全国公開
映画『写真の女』
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学