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Entry 2024/01/19
Update

【東宮綾音インタビュー】映画『チャロの囀り』恩師からいただいた言葉と対峙しながら“演じる役を生きる”

  • Writer :
  • 松野貴則

映画『チャロの囀り』は2024年1月20日(土)よりユーロスペースで劇場公開!

記憶と言葉を失ったチャロ、そして本当の自分を隠して生きる女子大生・美華が、周りの差別や偏見と対峙する姿を描いたヒューマンドラマ映画『チャロの囀り』が2024年1月20日(土)よりユーロスペースで劇場公開されます。

監督は、Lisaや西野カナなど数々の有名アーティストのミュージックビデオやCMを手がけてきた末吉ノブ。末吉監督自身が北九州市の風景、街並み、空気感に触れ、この地で長編映画を制作したいという想いから本作は生まれました。


(C)田中舘裕介/Cinemarche

このたびの劇場公開を記念し、ヒロインである美華役を演じた東宮綾音さんにインタビューを敢行。

社会問題を学びほぐしながら臨んだ脚本の読解、また、役と等身大な自己を重ねた撮影秘話、そして、大学時代の大切な恩師からいただいた言葉など、撮影の裏側から本作を紐解く、貴重なお話をお伺いしました。

役柄を読み解く“心構え”

──映画『チャロの囀り』の脚本を読んだ際に感じられたことをお聞かせください。

東宮綾音(以下、東宮):撮影に入る半年前に脚本の第一稿を読ませていただきました。末吉ノブ監督の中にある偏見や差別への違和感を描きたいという想いを感じ取り、私が演じさせていただける美華という役の責任の重さを感じました。

今、時代の変化の中で偏見や差別は多様化しています。これまでは埋もれてしまっていた人たちの個性が、ひとりひとりの声によって明るみになっている証拠ではないでしょうか。その現実を私自身、他人事にせずに学びを得て、知識を身につけなければ、この配役には成り切れないと強く感じました。

所属している事務所の先輩たちから、現代社会で起こっている問題に関心を持つ大切さを教えていただいています。そのような姿勢と言葉の持つ意味、また重要性を嚙みしめながら、差別や偏見に関するドキュメンタリー映画を観たり、文献などを探しながら本作の脚本に向き合いました。

──差別や偏見という社会問題と、ご自身が向き合いながら脚本を落とし込んでいく。そのような行為を経て、演技にどのように反映されたのでしょう。

東宮:本作のなかで演じる美華は「自分は差別をしていない」「チャロと向き合おうとしている」と言い切る場面が何度か登場します。特に記憶に残っているのは、俳優の米元信太郎さん演じられた、たつおからチャロと関わらないように美華の諭される場面。

チャロをひとりの人間として自分は向き合っていると強く言えば言うほど、「果たして本当にそう言い切れるのだろうか」という、自己の“わだかまり”も強く感じました。

差別や偏見について様々な学びを得たなかで、そこに漂う一長一短ではいかない複雑さを、私にいくらか理解できたことで芽生えた感覚なのでしょう。マイノリティの方たちに対する私の言動に差別や偏見の気持ちがなかったとしても、当事者やその周りの方々を、結果的に傷つけてしまう可能性があることを私は知ったのだと思います。

今までの一般的な常識から解放され、非常識になっていく可能性は十分にあり、その度に私も意識や言動に気を配る必要がある。そういう価値観や考え方を自分の中で学び育んだからこそ、あの場面で美華の中に、葛藤やわだかまりを持てたのだと振り返ります。

背伸びをしない“等身大”らしさ

──東宮綾音さんご自身で社会で起きた問題を学ぶほか、脚本に提示された“美華”という女性をいかように身体に落とし込みましたか。

東宮:脚本を読み込んでいく中で、美華という女性と自分には、重なる部分が多いと感じていました。本作を撮影している際は、私はまだ大学生であり自身を取り巻く環境や、美華という役には、等身大の自分自身をいくつか投影できると感じました。また、映画前半で描かれる美華はどこにでもいる女子大生であり、観客から映画を観た際に共感される人物だとも感じました。

正直に話せば、美華のように周りに見栄を張ってしまう経験は、過去の自分にもありましたし、そうであれば、飾ることをせず“等身大の大学生”でありのままを見せたいと考えたのです。

また、美華は周りの裕福な友人たちに劣等感を感じながら過ごしており、これは撮影現場で圧倒的に映画出演の経験が少ない私にとって、映画制作という現場経験の豊富な俳優さんたちに囲まれている現実と、どこか似通っており、「現実で感じているこの感覚は、美華を構成する全てになる」と気持ちを奮い立たせていたのを、今も覚えています。

──それでは映画の後半に進むにつれて、美華という役柄との向き合い方も変わっていきましたか。

東宮:美華との向き合い方が変わるというより、より一層、経験豊富な周囲の先輩たちと、しっかりコミュニケーションを取らせていただこうと考えました。後半に進むにつれ、美華自身の内なるチャロへの想いが、大きく複雑になっていくように感じたからです。

その内なる想いについて、末吉ノブ監督に何度もご相談させていただいて、時間をかけながら作り上げていきました。最初は、末吉監督が映画で描く美華に対して、自分を重ねることが難しかったのですが、私の想いに寄り添いながら、末吉監督が映画作りを進行していただいたことで精一杯のチャレンジが出せたと感じています。

逆にチャロ役の卯ノ原圭吾さんは、映画以外の日常でも俳優仲間として仲良くさせていただいており、撮影に入る前にいろいろと本作の脚本について話をしました。脚本に関する解釈、また、チャロへの想い、卯ノ原さんの役作りに関する考え方や、その過程など、具体的なお話をしながら撮影に向けて準備を進めていきました。

そして撮影現場に入ると、私も卯ノ原さんをチャロとして接して、ほとんど話さず、いつもより距離を取ることを意識しており、俳優としての佇まいを意識しながら“異質な存在であるチャロ”を、私自身、撮影する現場で常に感じていました。

あの時の“逃げ”を今に繋ぐ


(C)田中舘裕介/Cinemarche

──演技に対して、それほどまでに向き合っていく姿勢は、ご自身のこれまでの経験から生まれているのでしょうか。

東宮:実は私も美華のように、自分の本音を言えない時期がありました。高校生の頃、演劇やミュージカルが好きで、その世界に憧れていました。しかし、高校の課外授業である芸術鑑賞会で、舞台を観劇した際に周囲は「つまらなかった」という意見ばかりを語り合っていましたが、一方で私にはとても面白く、輝いて見えたものが周りに受け入れられない事実のズレがかなり大きなショックでした。

その時から俳優になりたいという私の夢が周りに馬鹿にされてしまうかもしれない、そのような負い目を、勝手に感じてしまっていたのです。だから、本来の自分を隠しながら、周りにいるクラスメイトたちに合わせて“女子高生を演じている感覚”を、心の片隅にずっと抱えていました。

その後も、大阪芸術大学へ進学することは、両親と親しい人以外には誰にも言わずにいたほどです。

──そのようなご自身の経験も美華という役に近かったのですね。大阪芸術大学に進学してからは、自分のやりたいことに対して、羽を伸ばせた感覚が芽生えたのでしょうか?

東宮:そうですね。ようやく「自分はミュージカルが好きなんだ!」って思う存分言えるようになった時には心の解放と共に、ほんとうに嬉しかったです。しかし、高校生より少し大人に近くなった大学生に成ったこともあり、当然見えてきた風景も異なりましたから、苦労を感じることも絶えませんでした。

大学講義で始まったミュージカルレッスン。私はバレエが未経験だったのですが、バトントワリングをやっていたものですから、追いつけるだろうと最初は甘く思っていました。しかし、生徒20人中3人しか初心者はおらず、1年生の頃は何とか他の学生に追いつけるように必死でした。

私自身、あそこまで落ちこぼれたことは、初めての人生経験で本当に苦しかったです。しかし、そんな日々でも良い意味で“諦め”がついたと言いましょうか。それまではミュージカルしか興味がありませんでしたが、ストレートな演技法、特に映像演技に興味を持ち、たくさんの映画を鑑賞するようにしました。

その落ちこぼれた時だからこそ感動した嬉しさが、自分にとって心から“大切にすべき真実”であると悟りました。「もう、これしかない!」という想いで、演技に突っ走り続けて現在に至っています。

ただ、今になって振り返ってみると、あの時の選択は未熟であり、“逃げ”だったのかなとも考えられるようになりました。その一方で、そこに後悔することはなく、未熟な自分を必死に守ろうとした“逃げ”こそが、今の俳優活動に繋がっているのだという確かな感覚も持っています。

恩師の言葉を胸に人の期待に応える


(C)田中舘裕介/Cinemarche

──ご自身の中でも様々な葛藤を経て挑んだ本作は、等身大で演じることを大切にしたい東宮綾音さんにとって、どのような意味を持った映画になりましたか。

東宮:この2年間は演技でもがくことがとても多く、私自身、意識的に多角的なアプローチを試みています。たくさんの映画と、たくさんの舞台劇を観て、経験を積まれた先輩たちと会い、貪欲に吸収させていただきました。

その経験に加えて、本作『チャロの囀り』においては、美華という女性を演じたことで、少しずつ周りの方から「東宮さんのお芝居って“こう”だよね」って言ってもらえるイメージが変わってきたように思います。その言葉が嬉しい反面、私の性格として強がってしまうところもあるんです(笑)。

本当の自分を理解してほしいというより、自分自身の発した発言を誤解されたくないという気持ちが強く、他人を遠ざけたりしてしまう資質がありました。しかし、今では、「演技とは“人と繋がる”ことが大前提にある」と、痛感しているんです。

大学時代の恩師である壤晴彦先生に教えていただいた言葉をよく思い出します。それは「誠実に生きなさい」「結局は愛と誠実だよ」という教え。この言葉に助けられる有り難さを噛みしめています。

インタビュー/松野貴則
撮影/田中舘裕介
ヘアメイク/白銀一太

東宮綾音プロフィール

1999年生まれ、兵庫県出身。大阪芸術大学 舞台芸術学科にてミュージカルを専攻し、その時の経験を経て、舞台や映像作品のストレート演技に目覚める。

上京後、飯塚俊光監督が制作したWEBドラマ『東京彼女』京子篇で主演を演じ、以降もDisney+/NHK『拾われた男』など数々の映像作品に出演。短い経歴ながら、確実にその演技力が業界内で認知され始めている。

2024年にも映画公開を控えているほか、3月13日から上演される今注目の若手演劇団体「アナログスイッチ」への舞台出演も決まっており、舞台映画問わず、今後の活躍が期待される。

映画『チャロの囀り』の作品情報

【公開】
2024年(日本映画)

【監督・脚本・プロデューサー】
末吉ノブ

【撮影監督】
浦翔也

【撮影】
斎藤工

【録音】
井筒康仁

【キャスト】
卯ノ原圭吾、東宮綾音、芽衣子、米元信太郎、立仙愛理、宇佐美彩乃、松本響、渋江譲二、仲野温、木村直樹、アビルゲン、千藤あずさ、白水帆幹

【作品概要】
記憶と言葉を失った男性・チャロと周りに本当の自分を隠しながら大学生活を送る女性・美華の心のつながりと葛藤を描いたヒューマンドラマ映画。

監督は、PENGUIN RESEARCHや西野カナなど、名だたるアーティストのミュージックビデオを制作し、CMなどの映像作品も手がけてきた末吉ノブが務める。また主題歌は人気アーティストLiSAが担当。

キャストには、野本梢監督『3653の旅』や川野邊修一監督『ボクらのホームパーティ』など、数々の作品に出演し着実に実績と経験を積み上げている卯ノ原圭吾。そして、ドラマや映画、舞台と立て続けに出演を決め、今業界内で注目される若手女優・東宮綾音が主演を務める。

卯ノ原圭吾演じるチャロの相棒・たつお役には、自身も俳優でありながら、千葉大樹主催の演技ワークショップ「PEANUT」にて演技トレーナーも務める米元信太郎が安定感ある演技を光らせる。その他、今注目の若手俳優・芽衣子、立仙愛理、宇佐美彩乃が映画を彩る。

映画『チャロの囀り』のあらすじ

富裕層が集まる大学へ通う美華。

彼女は周りの裕福な友人たちに合わせるため、借金をしながら夜はスナックで働いていた。

唯一心を開き、姉のように慕う童話作家エルの家に入り浸る日々。

ある日の深夜、スナックから帰ると、家の前には闇金の返済を取り立てに来る男たちの姿が。

とある事件で記憶と言葉を失ったチャロは困っている美華を目撃し、助けるところから二人は出会う。

言葉の通じない二人は次第に距離を縮めるのだが、記憶を失ったチャロには壮絶な過去があった……。




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