映画『死が美しいなんて誰が言った』は2023年12月22日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開中!
世界で初めて画像生成AI「Stable Diffusion」とモーションキャプチャーを駆使して制作された長編アニメーション映画『死が美しいなんて誰が言った』。
ゾンビウイルスによって荒廃した世界を舞台に繰り広げられるドラマを描いた本作は、詩人・廣津里香の同名書籍を原案に『スイッチを押すとき』の中島良が監督を務めました。
今回の劇場公開を記念し、本作で医師・リカ役を演じられた中村ゆりかさんにインタビューを行いました。
「初のアニメーション作品への出演」となった本作で再認識した演技において大切なこと、「声」による表現の追求とともに続けられてきたこれまでのお仕事、ご自身の表現にとって欠かせないものなど、貴重なお話を伺えました。
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アニメーションでも実写でも「感情の赴くままに」
──中村さんは本作が初のアニメーション作品へのご出演となったと伺いました。これまでにご経験されてきた実写作品のお芝居との違い、あるいは共通点をお聞かせください。
中村ゆりか(以下、中村):これまでの作品では全身を動かしてお芝居をするということがほとんどだったので、細かな息遣いや発声の微妙な変化など「声だけでどれほど役の感情を乗せられるか」という本作で初めて経験したお芝居は、難しかったですがとても勉強になりました。
また初めての声優としてのお芝居だったので、中島監督からは演技に関する軌道修正やご指導も多くいただくと初めは思っていたんですが、「キャスティングの時点で『リカ役が合う』と考えていたので、中村さんの役へのイメージと、感情の赴くままに演じてもらって大丈夫です」と監督は仰ってくださいました。
中村:実際、演じる役や自分自身の感情の赴くままに演じた方が、お芝居がいい方向に向かうのは実写作品と変わらないんです。頭で考え過ぎて変に緊急しちゃうと、全身の筋肉がぎこちなくなるし、声自体も喉がキューッと狭くなって、出したい声が出せなくなるんです。
ただ本作は、とても奥深いストーリーのおかげでリカという役のイメージもしやすかったですし、アフレコ収録の現場もスタッフの皆さんがお芝居をしやすい環境へ丁寧に整えてくださっていたので、初めての経験のお芝居をする上で本当に助けられました。
本作での経験のおかげで「アニメーション作品も実写作品も、お芝居を通じて伝えるものはあまり変わらない」と気づくことができました。また私は以前から「声」を使うお仕事をやりたいと感じていたのもあって、よりアニメーション作品のお仕事に向き合っていきたいと思うきっかけにもなりました。
「声」の自己表現を諦めたくなかった
──本作へのご出演を含む俳優業、そして2022年にデビューを果たした歌手活動など、中村さんが「声」を使うお仕事にこだわり続ける理由は一体何でしょうか。
中村:私は子どもの頃から歌うことが好きで「歌、あるいは声そのもので、自分自身を表現したい」と思っていたんですが、声がとても小さい子でもあったので「大きく声を張り上げる」ということに強い苦手意識があったんです。
ただ、それでも表現を諦めることはしたくなくて、歌とは少し違うけど、声を使うお仕事ができる場所を求め続けました。そして様々なお仕事をいただく中で、自分の出したかった声……欠点だと感じていた自分の声に合った表現の仕方を見つけられたと感じています。
歌や映画、ドラマ、舞台などの作品と出会った後に「大きな刺激や感動を得られたものを、自分自身も他の誰かに届けたい」と思い始めるのは、皆一度は経験したことがあるはずです。私の場合は、声を使うお仕事に対してそう思っていて、今も様々な形で続けられています。
それも、本作の中島監督のように「この役を演じてほしい」「この仕事をお願いしたい」と仰ってくださる方や、自分の表現を応援してくださる方がいるから成り立っています。自分の表現の場を作ったり支えたりしてくださる方たちのためにも、その期待に応えられるだけのレベルアップを決して止めたくないと考えています。
届ける相手がいる限りは、限界を作りたくない
──中村さんご自身が、お芝居や歌などご自身の表現活動において最も「欠けてはいけない」と感じられているものは何でしょうか。
中村:先ほどのお話にもつながるかもしれませんが、やっぱり「“見ている人”のことを第一に考えないといけない」とは思いますね。
お芝居では一人の役を演じるために多くの時間と体力、気力を費うことがほとんどです。ですが「このお芝居を観たら、皆はどんな反応をするのかな」「楽しんでくれるかな」という想いの方が、疲れや苦しさよりも先に出てくるんです。
届ける相手がいる限りは、自分ができることにも限りがないといいますか「今の自分には“これ”しかできないんだ」とは思われたくないし、思いたくないんです。それは、自分で表現の限界を設定してしまうせいで、届けられる相手まで限定することはしたくないからです。
本作で「アニメーション作品への出演」というやってみたいお仕事の一つを叶えられましたが、「念願のお仕事ができた」と満足してしまうのも、自分の表現を限定することになります。
そして、本作でのお仕事のように、多くの方とのご縁が積み重なって実現できたことを「当たり前」にはしちゃいけないとも思っています。そのことも忘れずに、人に楽しんでもらえるような自分の表現を求めて、色々なところへ進み続けていきたいです。
インタビュー/河合のび
撮影:田中舘裕介
中村ゆりかプロフィール
1997年生まれ、神奈川県出身。2011年に主演作『5windows』でデビュー後、2014年放送のTBS系ドラマ『家族狩り』や2015年放送のNHK朝ドラ『まれ』への出演で注目を集める。
近年の出演作は、映画『ラーメン食いてぇ!』(主演・2018)『賭ケグルイ』(2021)、ドラマFOD×CX『花にけだもの』(主演・2018)、YTV『ギルティ』(2020)、アクションドラマへの初挑戦となったKTV『エージェントファミリー~我が家の特殊任務〜』(主演・2021)、TX『部長と社畜の恋はもどかしい』(主演・2022)など。また2024年1月にはTX『チェイサーゲームW』(W主演)の放送を控える。
また2022年11月にシングル『浮ついたHeart』で念願の歌手デビュー。2023年現在はアルバム『Moonlight』が発売中。
映画『死が美しいなんて誰が言った』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【原案】
廣津里香
【監督・企画】
中島良
【脚本】
都築隆広・本庄麗子
【主題歌】
ももんぬ『記憶』
【キャスト】
長江崚行、中村ゆりか、真山りか、山田ジェームス武
【作品概要】
画像生成AI「Stable Diffusion」とモーションキャプチャーを駆使して制作された長編アニメーション作品。詩人・廣津里香の同名書籍を原案に、ゾンビウイルスによって荒廃した世界を舞台に繰り広げられるドラマを描く。
舞台『文豪ストレイドッグス』など2.5次元舞台を中心に活躍する長江崚行が詩人・レイ役を演じたほか、医師・リカ役を映画「賭ケグルイ」シリーズの中村ゆりか、レイの妹・ユウナ役をアイドルグループ「私立恵比寿中学」の真山りか、密航斡旋業者・タキシバを「セブンデイズ」2部作の山田ジェームス武が演じた。
監督は『スイッチを押すとき』の中島良。
映画『死が美しいなんて誰が言った』のあらすじ
ゾンビウイルスが全国を覆い尽くした日本。政府は治療可能な感染者だけを病院に送り込んだ。ウイルスに侵されている研修医のリカは、16歳で天才詩人のレイと妹のユウナの看病をしていた。
ある日、ユウナの症状が悪化し、ゾンビ化して暴れ出してしまう。リカとレイは恐怖と混乱に包まれた病院を逃れる。
リカは生きる希望を見出すため海外へ逃げることをタキシバとともに提案するが、レイは故郷の家に帰ることに拘っていた。そしてレイの家にたどり着くのだが、そこで変わり果てた姿の妹から悲しい告白を受ける。
絶望的な世界の中で、彼らは生きることへの希望を見出せるのか?!
編集長:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。