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Entry 2024/01/08
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【及川奈央インタビュー】映画『心のありか』節目の年に出会った“等身大”の主人公への想いד今の自分”だからこそできる芝居を続ける

  • Writer :
  • 河合のび

映画『心のありか』は2023年12月に池袋シネマ・ロサで封切り後、2024年2月24日(土)〜3月1日(金)大阪・シアターセブンにて劇場公開

アラフォー女性が「親友の死」という喪失から再生していく日々を静かに描いた、及川奈央主演映画『心のありか』。

『ソウル・フラワー・トレイン』『ねこにみかん』『三十路女はロマンチックな夢を見るか?』などの脚本を手がけてきた上原三由樹が、自らのオリジナル脚本のもと監督を務めました。


(C)田中舘裕介/Cinemarche

このたびの劇場公開を記念し、本作の主人公・郁子を演じられた及川奈央さんにインタビューを行いました。

ご自身にとって節目となる年に出会った「等身大」の役への想い、本作の劇場公開を迎えた現在におけるお仕事の「原動力」など、貴重なお話を伺えました。

節目の年に出会った「等身大の役」


(C)Miyuki Uehara

──本作の内容を初めてお聞きになった際には、どのような想いを抱かれたのでしょうか。

及川奈央(以下、及川):主演作自体が約20年ぶりになるというのはもちろん意識したんですが、それまでの作品ではキャラクターとしての色が強い役を演じることが多かった中で、自分にとっての等身大である「40代の女性」を演じてほしいとお話をいただいた時には、正直驚きました。

実は上原監督から本作のオファーをいただいた当時は、ちょうど40歳を迎えた頃だったんです。その節目となるタイミングで、等身大の自分に近い役を演じられる機会を得られたのは、本当にうれしかったです。

ただ、本作にとって重要な「旦那」という影の存在は、最初に脚本を読ませていただいた後、上原監督がどう描こうと考えていらっしゃるのかを尋ね、郁子さんの「旦那」に対する認識のすり合わせを行いました。

郁子さんの頭の中に常にいて、それは本人にとって決して怖いものではない。自分のことを見守ってくれている存在としての「旦那」を郁子さんとして、彼女を演じる人間としてどう向き合うべきかは1番悩みましたね。その中で、とにかくナチュラルに郁子さんを演じるのが大切だと思いながら演じていきました。


(C)Miyuki Uehara

──本作での「ナチュラルに演じる」という演技のアプローチは、具体的にどのように進められていったのしょうか。

及川:まず最近は舞台作品への出演が多かったんですが、舞台ではどうしても演技の動作や表情も大きくなるんです。それは映像作品は大きく違うところであり、その上で表情の変化が何気ない仕草を、どこまで繊細に表現できるかを心がけましたね。

そして、舞台作品では「この場面ではこう演じよう」という演技プランを固めながら稽古を進めていくんですが、映像作品の場合は「私自身はこの瞬間、こう思うだろうな」「こう動くだろうな」といった具合に、役だけでなく自分自身もどう感じるのかをリハの時にも、本番の時にも確かめるようにしているんです。

本作では特に郁子さんが「等身大」の相手だったこともあり、自分自身の感情も確かめる過程はより強く意識していましたし、「役作りの中で、郁子さんのキャラクターを形作った」という感覚もないんです。それは過去に出演した作品の中でも、あまりない体験でした。

影は人それぞれに、姿も名前も違う


(C)田中舘裕介/Cinemarche

──郁子が「旦那」と呼んでいた影の存在を、彼女を演じられた及川さんご自身はどう受け止められたのでしょうか。

及川:撮影現場にいた私の心の中では、どこか「ご先祖様」のようなものだと受け止めていましたね。

郁子さん自身は、別に旦那の正体がご先祖様だと具体的に決めていたわけではないと思うんです。ですが、彼女を実際に演じ続ける中で「普段は目に見えないけれどいつも自分の中にいて、自分の生活を『見守ってくれている』と思える存在」と接していたら、それはやっぱり「ご先祖様」と呼ばれるものなんじゃないかという想いを抱いたんです。

ただ「普段は目に見えないけれど、『自分を見守ってくれている』と思える存在」について考えた時には、人それぞれに違うものが思い浮かぶはずです。そういう意味でも、本作に登場する影に対して、映画をご覧になった皆さんが何を思ってくださるのかはお任せしたいです。

もしかすると、私も10年後に本作を観直してみたら、影に対して「ご先祖様」とはまた異なる別の何かを感じるのかもしれません。

40代になった「今」だからこその芝居を


(C)田中舘裕介/Cinemarche

──ご自身にとって節目の年に出会った『心のありか』が劇場公開を迎えた2024年現在、及川さんにとっての俳優活動の原動力となるものとは何でしょうか。

及川:まず、家族の存在ですね。

私の両親はお芝居をしている自分をとても好きだと言ってくれていて、映画が公開された時には初日に観に来てくれ、舞台に出演した際にも1回の公演で何度も劇場に訪れてくれるんです。

この年になると、どうしても「親孝行をしておきたい」と感じてくるんです。もちろん年齢のこともあるので、いつまでも観てもらうことは難しいですが、1本でも多くいろんな作品に出演して、いろんな私を観てもらいたいし、両親が喜んでくれることをがんばっていきたい。

お仕事をご一緒した方やファンの方たちのためにという想いもある中で、最前列の席に座っていてくれる両親のためというのが、1番の原動力です。

それに、私が最も居心地がいいと感じられるのは、やっぱりお芝居の世界なんです。色々なお仕事をさせていただけるのは本当にうれしいことなんですが、その中でも「自分の存在は『ここ』にある」と思えるのは、様々な方とともに一つの作品を一生懸命に作り上げていく現場なんです。

これから何年経っても、自分のお芝居を観てくれる方のため、楽しんでくれる方のために活動を続けることは昔から変わりません。20代の時には辞めるべきかどうかを悩むこともありましたが「一人でも応援してくれる方がいれば『及川奈央』としての仕事は辞めない」という想いのもと、ずっと仕事を続けてきましたから。

40代になった今だからこそのお芝居を、これからも重ねていきたいです。『心のありか』は、その決意をすることができた作品だと思っています。

インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介

及川奈央プロフィール

1981年生まれ、広島県出身。バラエティ番組やラジオ、ドラマ・Vシネマ作品に出演後、映画や舞台などマルチに活躍し幅広い役柄をこなす。

特撮ドラマ「炎神戦隊ゴーオンジャー」シリーズ(2008~2010)やNHK大河ドラマ『龍馬伝』(2010)への出演で注目された他、2011年には劇団「スーパー・エキセントリック・シアター」所属の久下恵美とともに演劇ユニット「類類?Lui Lui?」を立ち上げ、自らプロデュース公演も行っている。

近年の主な映画出演作は『シネマの天使』(2015)『真白の恋』『こいのわ~婚活クルージング~』(ともに2017)『炎神戦隊ゴーオンジャー 10 YEARS GRANDPRIX』(2018)『HE-LOW THE FINAL』(2022)、ドラマ出演作は『スペシャリスト』(2016)『刑事7人』(2018)『日暮里チャーリーズ』(2020)など。

映画『心のありか』の作品情報

【公開】
2023年(日本映画)

【脚本・監督】
上原三由樹

【キャスト】
及川奈央、鳥谷宏之、川村エミコ、野村麻純、佐久本宝、杉本凌士、浅野雅博、土田英生、米田敬、三浦萌、渡会久美子、吉田芽吹、高森由里子

【作品概要】
親友を亡くしたヒロインの喪失と再生を描くヒューマンドラマ。『ソウル・フラワー・トレイン』(2013)『ねこにみかん』(2014)『三十路女はロマンチックな夢を見るか?』(2018)などの脚本を手がけてきた上原三由樹が監督・脚本を務めた。

映像作品から舞台まで幅広く活躍する及川奈央が主演を務め、『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016)の鳥谷宏之が郁子を支える恋人・雄大を、お笑いコンビ「たんぽぽ」の川村エミコが親友・妙子をそれぞれ演じている。

共演は野村麻純、佐久本宝ほか。

映画『心のありか』のあらすじ


(C)Miyuki Uehara

40代独身の税理士・郁子には、彼女にしか見えない影の存在があり、いつも見られているような感覚があった。彼女はその影を「旦那」と呼んで心の支えにしていた。

そのことを聞かされた恋人の雄大は驚き、うろたえる。そんな少し変わったところのある郁子だったが、《普通》の生活を送っていた。

ある日、同じ事務所で働き、20年来の親友でもあった妙子が急死する。

妙子とは信頼し合える仲だと思っていた郁子だったが、妙子の仕事を引き継いでから彼女が横領をしていたことを知ってしまう。

さまざまな思いに揺れる郁子。やがて自分の気持ちにけりをつけるため、ある行動に出る──。

編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


(C)田中舘裕介/Cinemarche




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