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Entry 2023/08/11
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【奥津裕也インタビュー】『ピストルライターの撃ち方』主演映画での“自由”に逃げないという覚悟×演技に不可欠な“綺麗ではない愛情”

  • Writer :
  • 河合のび

映画『ピストルライターの撃ち方』は渋谷ユーロスペースで封切り後、2023年11月25日(土)〜富山・ほとり座&金沢・シネモンドにて、12月2日(土)〜広島・横川シネマにて、近日名古屋にて劇場公開

2023年6月17日(土)より渋谷ユーロスペースで封切りを迎え、全国各地の劇場にて公開が続く映画『ピストルライターの撃ち方』。

再び原発事故が起こった地方を舞台に、ヤクザの下で除染作業員を運ぶチンピラ、チンピラの親友で刑務所帰りの男、出稼ぎ風俗嬢による共同体の再生と崩壊を描いた群像劇です。


(C)田中舘裕介/Cinemarche

このたびの映画の劇場公開拡大を記念し、本作の主人公・達也役を演じられた奥津裕也さんにインタビュー

ご自身と達也の間にある接点、主演という役目に対する「“自由”に逃げたくない」という覚悟、演技に不可欠な「愛情」や役者としての原点など、貴重なお話を伺うことができました。

絶対に、適当にやってはいけない作品


(C)映画「ピストルライターの撃ち方」製作委員会

──『ピストルライターの撃ち方』は全編が宮城県でのロケ撮影にて制作されていますが、宮城県は奥津さんのご出身地でもありますね。

奥津裕也(以下、奥津):僕も18歳で東京に出たので、実は東京の方が馴染みの場所があるというか、居心地が良かったりするんです。ただ、僕の実家がある石巻を含めてロケハンのために被災した土地へ足を踏み入れた時には、何か感覚として感じるものが強くあって、それは達也の地元に対する感覚と共通していたんじゃないかと思っています。

またロケハンやその後の撮影で現地の方たちと関わっていく中で、その方たちの「俺たちは“ここ”に残ったんだ」という想いや生きるエネルギーが強く伝わってきた。そこで口にした食べ物一つにしても、様々なものが達也という役に作用したんです。

特に諒役の中村と初めに撮った七ヶ浜町の海辺での場面では、もちろん僕らはナメて作っていたわけじゃないけれども、その大地や海といった全てを体で感じた瞬間に「この映画は、絶対に適当にやってはいけない作品だ」と改めて強く感じましたね。

「“人のせい”にしてきた人間」として演じる


(C)映画「ピストルライターの撃ち方」製作委員会

──本作で演じられた主人公・達也は、自らが生きる土地に対してどのような感覚を抱いていると奥津さんは感じられたのでしょうか。

奥津:多分達也も、あの土地が好きなわけじゃないんです。東京に出ていった自分と違って達也は地元に残ったけれど、その根底には土地に対する好意的ではない感覚があって、だからこそ「残らなきゃいけない」という強い想いが逆にあったんだろうと思えました。

そして達也の行動は「土地を守る」というよりも、土地を離れることを選んでいった人々に対する彼なりの「怒り」の提示なんだと感じています。

また僕ら人間は、全てが全てではないですが、基本的には非常にパーソナルなものに基づいて生きていることがほとんどです。原発事故をはじめ、今起きている世の中の話も達也にとっては重大なことなんですが、彼を一番動かしているのは、やっぱり自身の母親に対する想いなんです。


(C)映画「ピストルライターの撃ち方」製作委員会

奥津:眞田には直接その話をしたわけじゃないんですが、僕も母子家庭で育ってきた人間なので、母親に対する想いは達也のように強いです。ただ、達也と自分の間における何よりの接点は「人のせいにしている」というところなんです。

本当に母親のことを大事に思っているのなら、達也は絶対に違うことをやれたはずなんです。けれど、自分もどこかで「被害者」なんだと達也が意識しているからこそ、作中の現状に甘んじている、「人のせい」にして生きている。そこが、昔の自分に似ていると感じましたね。

表向きには人を引っ張って「何か起こそうぜ」と言うものの、達也自身が一番「そんなこと不可能だ」と思っている。そして、そんな生き方をしている自分に対して「僕の人間性ではなく、この環境がそうさせたんだ」と心の根っこでは考えている。

その点を絶対に美化して演じたくなかったので、「その土地で懸命に残り続ける人間」としてではなく、どこかで卑怯な人間として達也を演じることを自分の中では意識していました。

演技で「自由」に逃げたくない


(C)田中舘裕介/Cinemarche

──本作での達也役をはじめ、奥津さんは常にどのように役作りを進められていくのでしょうか。

奥津:どの役でも一番大事にしているのは、脚本を読み込んでいく中でその役に寄り添って考えることですね。その過程で役がどんどん好きになっていくんですが、そうすると実際に役を演じる際に「いい人間」として立ち振る舞おうとしてしまうので、役や演技を客観的に見ることも非常に気を付けています。

またその役の「根っこ」になる部分……どう生まれ、どう育ってきたのかの境遇は、めちゃくちゃリサーチします。脚本に書かれている現在の姿を掘り下げた上で「どう生まれ育ったことで、その行動原理を手にしたのか」を想像し、自分の演技に落とし込むようにしています。

また僕は脇役を演じる時、アドリブなどを含めいつも好き勝手やったりするんですが、本作は「主演」という役どころだったので「その演じ方は『ピストルライターの撃ち方』ではダメだ」と自分でも理解していましたし、眞田からも「“いつも”はやらないで」と言われたんです。

「今回の映画では、“自由”に逃げたくない」と強く感じたんです。芝居の場面では監督や演出家から「自由にやれ」と言われることもありますが、自分の選択を自由に表現することだけが芝居じゃない。演じる役だけでなく、その作品全体における自分の役目もふまえた上で、一つ一つの細かな演技でどう表現していくかの重要性を改めて痛感しました。


(C)映画「ピストルライターの撃ち方」製作委員会

──奥津さんの劇団「狼少年」における「主宰」としての役目も、やはり『ピストルライターの撃ち方』における「主演」としての役目を担うにあたって意識されたのでしょうか。

奥津:できる・できないを別にして、「頭」である人間が「できっこない」と行動しなければ、基本的に物事は走っていかないと思うんです。

作品の質ではなく、人を巻き込むエネルギーを「頭」が持っていないと誰も動かない。そして「頭」の心が折れた瞬間に何もかもが終わりになると、決して得意ではない「人を引っ張る」という役目を続けるうちに思い知らされた。だからこそ本作の現場でも、監督である眞田とは別の「頭」として非常に気を付けていました。

「自分の演技だけに集中したいんです」なんて、絶対に許されない。ダニエル・デイ=ルイスのように時間をかけて役と向き合うのも大切だとは思うけれど、今の自分はそのタイミングではない。「役作りに時間をかけられないから」と言い訳をするつもりもない。「今の現状でどれだけやれるか」が自分自身のテーマだと思っていますし、そのための覚悟も常にしています。

「綺麗ではない愛情」とともに演じる


(C)田中舘裕介/Cinemarche

──奥津さんが役者というお仕事を始められたきっかけは何なのでしょうか。

奥津:自分は元々おとなしく、人見知りする子どもだったんです。人と遊ぶのも嫌で、それが小学1年生の頃まで続いていたんですが、両親が離婚してから一気に自分の性格を変えたんです。それからは今のような性格で人と接するようになり、人と関わる面白さも理解していったんですが、どこか心にぽっかりと穴が空いている感覚を引きずったまま育ちました。

10代ではダンスをやったりもしましたが結局やめてしまい、「自分は何がやりたいんだろう」という悩みを抱えたまま、とにかく何かを変えたくて東京に出ました。そして18歳の時に、日活芸術学院(2013年に閉校)に入ったんです。

最初は監督コースに入ろうと思ったんですが、母親に「映画監督になるのは難しい」「ヘアメイクを勉強するのなら行っていい」と勧められたため、当時あったメイクコースに進みました。ですが通い始めてすぐに「自分に裏方は無理だ」と痛感し、俳優コースに変更したんです。

ただ俳優コースに関しても、最初に演技の講義を受けた時に「これは違う」「これは、自分のやりたい演技じゃない」と素人ながらに思っちゃったんです。その講義や学院自体は何も悪くなかったと今では感じるんですが、当時の僕はそう思い込んでしまったため、1ヶ月で学校を辞めてしまいました。

その後、2・3年ほどバイトをしながら過ごしたものの、最後にはほとんど引きこもりのような状態に陥りました。そして、その状態の中で映画を見漁っていた時に「映画って、すげーな」「もう一回、演技やってみたいな」と改めて思ったんです。


(C)田中舘裕介/Cinemarche

奥津:また映画を見漁る中で、ハリウッドの俳優たちの瞬間的な演技法、いわゆる「メソッド」の存在に何となく気づいたんです。そして「メソッド」という名前も知らないまま、素人なりにその演技法を調べ続けていくうちに、中村と出会うことになるUPSアカデミーという俳優養成所に出会ったんです。

初日のワークショップに参加し芝居をやった時、自分の心の中で十数年近く空いていた穴がハマった。小さい頃からずっと探していたものが、ようやく見つけられた。「俺は、これをやるべき人間だ」と思えたことが、死ぬまで芝居を続けようと決めたきっかけですね。

──奥津さんが当時から追い求め続けている、演技の在り方とは何でしょうか。

奥津:本当に恥ずかしいことを言うと、演技はもう「愛情」でしかないと思っているんです。たとえ汚くても、歪んでいても、愛情といえるものが演技に込められていないと人を動かせる役者にも、作品にもなれない。それは当時から、ずっと変わっていないです。

もちろん、自分は役者という作品の素材の一つである以上、いろいろな作り手がそれぞれに持つ創作における「正解」に対して全身を懸けることが、まず一番に重要だと感じています。

ただ人間って、結局は愛情に振り回されながら「旅」を続けていると思うんです。誰かを好きになったり嫌いになったり、一緒にいたり別れたりを、呆れるほど繰り返している。「月が綺麗ですね」なんて綺麗なものではない、人間の生々しさ、人間らしさとしての愛情が、自分の思う演技の根底にはありますね。

インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介

奥津裕也プロフィール

1984年生まれ、宮城県出身。2013年に『しんしんしん』で映画デビュー。

映像作品に多数出演し、2022年に『ピストルライターの撃ち方』で自身初となる主演を務める。また「劇団狼少年」の主宰を務め、年に数回公演を行い舞台俳優としても活躍している。

近年の映画出演作品は『ラーゲリより愛を込めて』『護られなかった者たちへ』『OLD DAYS』など。

映画『ピストルライターの撃ち方』の作品情報

【公開】
2023年(日本映画)

【脚本・監督】
眞田康平

【キャスト】
奥津裕也、中村有、黒須杏樹、杉本凌士、小林リュージュ、曽我部洋士、柳谷一成、三原哲郎、木村龍、米本学仁、古川順、岡本恵美、伊藤ナツキ、橋野純平、竹下かおり、佐野和宏

【作品概要】
再び原発事故が起こった地方を舞台に、ヤクザの下で除染作業員を運ぶチンピラ、チンピラの親友で刑務所帰りの男、出稼ぎ風俗嬢による共同体の再生と崩壊を描いた群像劇。

オール宮城県ロケで撮影された本作を手がけたのは、東京藝術大学大学院・映像研究科修了作品『しんしんしん』(2011)が渋谷ユーロスペースはじめ全国10館で劇場公開された眞田康平。

瀬々敬久監督作品に多数出演し、自身も劇団「狼少年」を主宰する奥津裕也を主演に迎え、中村有、黒須杏樹の3人を中心に物語は描かれていく。また杉本凌士、小林リュージュ、柳谷一成、佐野和宏など実力派キャストが脇を固める。

《映画『ピストルライターの撃ち方』公式サイトはコチラ→》

映画『ピストルライターの撃ち方』のあらすじ


(C)映画「ピストルライターの撃ち方」製作委員会

遠くない未来、地方で再び原発事故が起こった。しかしその隣町では一見変化のない生活が続いている。

ピストル型のライターで煙草に火をつける残念なチンピラの達也は、ヤクザの下で立入禁止区域の除染作業員をタコ部屋まで運ぶバンの運転手をしている。

そんな達也の下に、刑務所に入っていた親友の諒と出稼ぎ風俗嬢のマリが転がり込んできて、行き場の無い3人の共同生活が始まる。

達也はヤクザに取り入って、バラバラになっていく故郷や仲間をなんとか食い止めようと行動するが……。

《映画『ピストルライターの撃ち方』公式サイトはコチラ→》

劇団「狼少年」第12回公演『晩カラ学校』も開催!

2023年8月30日(水)〜9月4日(月)には、下北沢「劇」小劇場にて奥津裕也さんが主宰する劇団「狼少年」による舞台『晩カラ学校』の公演も開催。

主演を奥津さんが務める他、黒須杏樹さん・米本学仁さん・實川阿季さん・宮後真美さんと『ピストルライターの撃ち方』キャスト陣が多数出演。

映画とともにぜひお見逃しなく!

舞台『晩カラ学校』の作品情報

【日程】
2023年8月30日(水)〜9月4日(月)

【会場】
下北沢「劇」小劇場(〒155-0031 東京都世田谷区北沢2丁目6−6)

【演出】
奥津裕也

【脚本】
狼少年

【キャスト】
奥津裕也、實川阿季、宮後真美、黒須杏樹、玉置康二、尾本響子、藤井久泰、文ノ綾、米本学仁、及川奈央、たむらもとこ

《舞台『晩カラ学校』公式ページはコチラ→》

舞台『晩カラ学校』のあらすじ

様々な境遇で生きた人たちが集う、郊外にある夜間中学校。

そこには戦後の混乱を生き抜いてきた者、不登校の経験を持つ者、国籍が違う者、人には言えない過去を持つ者もいた。

年齢、性別、人種を超え不器用にも関わり、少しずつ絆を深めていく生徒たち。

だがそんな時、学校にある妙な噂が流れる……。

《舞台『晩カラ学校』公式ページはコチラ→》

編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


(C)田中舘裕介/Cinemarche





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