映画『ピストルライターの撃ち方』は渋谷ユーロスペースで封切り後、2023年11月に〈新藤兼人賞〉の最終選考10傑入りを果たし、11月25日(土)〜富山・ほとり座&金沢・シネモンドにて、12月2日(土)〜広島・横川シネマにて、近日名古屋にて劇場公開!
2023年6月17日(土)より渋谷ユーロスペースで封切りを迎え、全国各地の劇場にて公開が続く映画『ピストルライターの撃ち方』。
再び原発事故が起こった地方を舞台に、ヤクザの下で除染作業員を運ぶチンピラ、チンピラの親友で刑務所帰りの男、出稼ぎ風俗嬢による共同体の再生と崩壊を描いた群像劇です。
このたびの映画『ピストルライターの撃ち方』の劇場公開を記念し、本作を手がけられた眞田康平監督にインタビュー。
映画の企画・キャスティング経緯をはじめ、本作の物語の舞台を「原発事故が起こった町の“隣町”」に設定された動機、ご自身が映画に惹かれ続ける理由など、貴重なお話を伺うことができました。
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“存在感”を表現できる三人の役者
──映画『ピストルライターの撃ち方』の企画経緯、また物語の中心人物である達也、諒、マリをそれぞれ演じられた奥津裕也さん、中村有さん、黒須杏樹さんのキャスティング理由をお教えいただけませんでしょうか。
眞田康平監督(以下、眞田):『しんしんしん』(2011)のロケハンのために福島県を訪ねたことがあり、そんなご縁があった中で3.11が起こったので、福島県やそこで起こった原発事故をずっと意識していたんです。そして2013年頃から「原発に関する映画を一度は作りたい」と思い始め、企画を温めていました。
また『ピストルライターの撃ち方』の企画を練り始める以前から「奥津裕也・中村有という二人の役者をメインに据えて映画を作りたい」と考えていたので、企画の構想期間中には二人と一緒に酒を飲んだ時などに、企画の構想やイメージを共有し話し合うことも度々ありました。
眞田:奥津と中村は『しんしんしん』を含め、何度も映画制作を一緒にやってきた仲間であり、とても信頼している役者でもあります。それぞれの人柄はもちろん、何よりも二人の芝居が好きだと思っていて、カメラを通して画にした時に「“そこ”にいる」と感じられる存在感をちゃんと見せてくれる役者なんです。
今回オーディションを通じて黒須さんを選ばせていただいたのも、多くの候補となる方にお会いした中で一番「画になる」と感じられたからであり、奥津・中村と同じように芝居に役の“存在感”を表現できる役者だと思えたのが一番の理由でした。
「事故が起こった町の“隣町”」を描いた理由
──本作をはじめ、眞田監督が映画を制作される上で常に心がけていることは何でしょうか。
眞田:制作するのが劇映画である以上、その中で描かれる物語はフィクションなわけですが、「カメラで映し出されたその場所の中に、登場人物たちにはちゃんと“人間”として存在していてほしい」と考えています。
また最近は、「この企画を、自分がやる動機はあるのか」を強く意識しながら企画を練るようになりました。
例えば今回の『ピストルライターの撃ち方』は、「奥津・中村と映画を作りたい」「原発に関する映画を一度は作りたい」という動機が合体して企画が進んでいきましたが、同時に「『3.11以前の福島県に行ったことがある』という関係性だけで、自分は福島県や原発事故について描けるのか」「その関係性だけで、自分は映画制作における“しんどい時”を乗り越えられるのか」とも感じたんです。
眞田:ただその中で、自分の実家がある町は、志賀原子力発電所の隣にあることを改めて思い出したんです。実際に調べてみると、山一つが間にあるとはいえ、志賀原発の約20〜30km圏内に自分の実家があり「もし事故が起きたら、自分の実家は『帰宅困難区域』になる可能性がある」と理解できました。
そうした自分自身が生まれ育った場所と原発の関係性を確かめた上で「『原発事故が起こった町の“隣町”』という設定であれば、自分にとっての“映画を作る動機”を落とし込めるんじゃないか」と考えた結果、現在の『ピストルライターの撃ち方』の形ができあがっていったんです。
どうして人は、映画に惹かれるのか
映画『ピストルライターの撃ち方』メイキング写真より
──そもそも眞田監督は、どのような理由から映画というものに惹かれていったのでしょうか。
眞田:正直、映画の「原体験」と呼べる記憶はあまりないんです。映画館もレンタルビデオ店もないところで育ったので、中学生ぐらいの頃は週末にテレビで放映される映画を全部録画して、ひたすら観ていました。
地元で暮らしていた頃は、映画どころか、まず美術的なことに興味を持っている人が周りに本当にいなくて、高校生になって初めて映画に興味がある友だちができる前は、録画した映画を観ること自体が本当に一人きりの、孤独な趣味でもありました。
眞田:また当時から何となく「映画を撮りたい」と思っていたんですが、「何で自分がそう思うようになったか」のきっかけとなる出来事も明確にはなくて、「自分なら、面白い映画が作れる」という無駄な自信だけがありました。ただ、そんな謎の自信がないと、多分ここまで映画制作を続けられていないと思います(笑)。
ただ高校生の時に、友だちと一緒にシネモンドさん(石川県・金沢市に建つ映画館。石川県唯一のミニシアターとして知られる)に行ったことはよく覚えています。電車で片道1時間半、駅に着いてからも街中に行くまでに30分かかるので、本当に一日がかりでシネモンドさんに向かい、そこで橋口亮輔監督の『ハッシュ!』(2001)を観ました。
その出来事は楽しかった思い出として残っているんですが、今思うと「どうして人は、そこまでして映画を観たいのか」「映画の何が人を惹きつけるのか」という疑問が、自分が映画に触れ続ける理由なのかもしれません。
映画を通じて“そこ”へ連れて行く
──眞田監督ご自身は、完成された『ピストルライターの撃ち方』という映画をどのような作品だと捉えているのでしょうか。
眞田:原発事故や放射能汚染そのものの恐ろしさではなく、事故なんてなかったかのように社会やそこに生きる人々に対して抱く不安感を描くという、自分自身がやりたいと考えていたことはできたのではと感じています。
また本作は、登場する人物が一人、また一人と“呪い”の言葉を吐いて退場してゆく物語でもあるんですが、その退場の仕方も個人的に気に入っています。そして、その“呪い”を捨て切れない人間こそが主人公であり、だからこそ物語に残り続けてしまうことも同時に描けました。
ただ、そうやって人間がいなくなっても、場所だけは“そこ”に残り続けます。その場所が果たしてどんな風景なのかを知ってもらうためにも、『ピストルライターの撃ち方』を通じて観客の皆さんを“そこ”に連れていけたらと感じています。
インタビュー/河合のび
眞田康平監督プロフィール
1984年生まれ、石川県出身。東京藝術大学大学院・映像研究科監督領域修了。監督、脚本、編集エディター。
東京藝術大学大学院・映像研究科修了作品として制作した『しんしんしん』(2011)は、渋谷ユーロスペースはじめ全国10館で劇場公開され「NIPPON CONNECTION」にも出品された。
また『イカロスと息子』(2015)では、ゆうばりファンタスティック映画祭・ショートフィルム部門で審査員特別賞を受賞し、大阪アジアン映画祭にも出品された。
近年の監督作品は、2018年度「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」を通じて制作した『サヨナラ家族』(2019)、2023年6月17日(土)より渋谷ユーロスペース他で全国順次公開を迎える『ピストルライターの撃ち方』(2022)。また同年11月に「新藤兼人賞」の最終選考10名入りを果たす。
映画『ピストルライターの撃ち方』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【脚本・監督】
眞田康平
【キャスト】
奥津裕也、中村有、黒須杏樹、杉本凌士、小林リュージュ、曽我部洋士、柳谷一成、三原哲郎、木村龍、米本学仁、古川順、岡本恵美、伊藤ナツキ、橋野純平、竹下かおり、佐野和宏
【作品概要】
再び原発事故が起こった地方を舞台に、ヤクザの下で除染作業員を運ぶチンピラ、チンピラの親友で刑務所帰りの男、出稼ぎ風俗嬢による共同体の再生と崩壊を描いた群像劇。
オール宮城県ロケで撮影された本作を手がけたのは、東京藝術大学大学院・映像研究科修了作品『しんしんしん』(2011)が渋谷ユーロスペースはじめ全国10館で劇場公開された眞田康平。
瀬々敬久監督作品に多数出演し、自身も劇団「狼少年」を主宰する奥津裕也を主演に迎え、中村有、黒須杏樹の3人を中心に物語は描かれていく。また杉本凌士、小林リュージュ、柳谷一成、佐野和宏など実力派キャストが脇を固める。
映画『ピストルライターの撃ち方』のあらすじ
遠くない未来、地方で再び原発事故が起こった。しかしその隣町では一見変化のない生活が続いている。
ピストル型のライターで煙草に火をつける残念なチンピラの達也は、ヤクザの下で立入禁止区域の除染作業員をタコ部屋まで運ぶバンの運転手をしている。
そんな達也の下に、刑務所に入っていた親友の諒と出稼ぎ風俗嬢のマリが転がり込んできて、行き場の無い3人の共同生活が始まる。
達也はヤクザに取り入って、バラバラになっていく故郷や仲間をなんとか食い止めようと行動するが……。
ライター:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。