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Entry 2023/05/30
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【黒須杏樹インタビュー】映画『ピストルライターの撃ち方』観客と自身がつながる瞬間を生み出す“心で伝える芝居”

  • Writer :
  • 河合のび

映画『ピストルライターの撃ち方』は渋谷ユーロスペースで封切り後、2023年11月25日(土)〜富山・ほとり座&金沢・シネモンドにて、12月2日(土)〜広島・横川シネマにて、近日名古屋にて劇場公開

2023年6月17日(土)より渋谷ユーロスペースで封切りを迎え、全国各地の劇場にて公開が続く映画『ピストルライターの撃ち方』。

再び原発事故が起こった地方を舞台に、ヤクザの下で除染作業員を運ぶチンピラ、チンピラの親友で刑務所帰りの男、出稼ぎ風俗嬢による共同体の再生と崩壊を描いた群像劇です。


(C)田中舘裕介/Cinemarche

このたびの映画『ピストルライターの撃ち方』の劇場公開を記念し、本作でマリ役を演じられた黒須杏樹さんにインタビュー

お芝居の上で重要な心身の“自由”な状態、ご自身が考えられるお芝居の魅力や目指されているお芝居の在り方など、貴重なお話を伺うことができました。

心身が“自由”な状態で演じる


(C)田中舘裕介/Cinemarche

──はじめに、黒須さんが女優のお仕事を始められた経緯をお教えいただけますでしょうか。

黒須杏樹(以下、黒須):元々は、幼い頃から続けていたダンスの道で生きていきたいと考えていたんです。

母や祖母からは「女優さんになってよ」と言われることもあったんですが、「なってよ」と一度でも言われるとつい反発してしまう年頃でもあったので、「絶対にならない」と意地を張りながらも「ダンスでがんばっていこう」と思っていました。

ただ、18歳になって自分の進路を考えていた時に俳優養成所であるアップスアカデミーの存在を知ったことでお芝居の世界に興味を持ち、「演技を学びたい」と思いアカデミーへ通い始めたのがきっかけでした。


(C)映画「ピストルライターの撃ち方」製作委員会

──アップスアカデミー時代に学ばれたことの中で、黒須さんが一番記憶されていることは何でしょうか。

黒須:当時は「レペティション」(*1)という演技トレーニングをよくしていました。とにかく相手の言葉を受け取り、それを返すというコミュニケーションそのものの練習で、ひたすら続けていたのを今でも覚えています。

役作りと実際のお芝居は、いわゆる「脱力」の状態といいますか、精神も肉体も自由な状態でないとできないんです。

緊張してしまうと何も聞こえなくなるし、何も心に響かなくなるのに対して、リラックスした状態では五感に入ってきたもの全てが心身に刺さってきて、だからこそ全てに反応できる。レペティション」はその状態を見つけるための、演技の柔軟性を作るためのトレーニングなんです。

今回の『ピストルライターの撃ち方』はオーディションで抜擢してもらえたというだけでなく、お芝居が上手い先輩ばかりだったので、ダメだと感じつつも「自分もがんばらないと」と考えてしまい、心身が固くなってしまう時もありました。ただその中でもリラックスした状態を作り、保ち続けることを心がけ、撮影に臨み続けました。

*1:レペティション……演出家サンフォード・マイズナーが考案した演技メソッド「マイズナー・テクニック」の一つ。二人一組での会話の反復練習を介して、芝居における衝動性、他の存在からの影響を受けやすくすることで自意識による演技の妨げを取り除く“開かれた状態”の発見を促すことを目的とする。

“人間”であろうとするマリの強さ


(C)映画「ピストルライターの撃ち方」製作委員会

──本作でマリという人間を演じられるにあたって、最も大切にされていたこととは何でしょうか。

黒須:マリの人間としての「芯の強さ」にあたる部分は、彼女を演じる上で大切にしなければと感じていました。

彼女は風俗嬢として働いていますが、決して自分自身が「社会の“一番下”」だとは思っていません。「それでも、人間は生きているんだ」「それでも、私は人間なんだ」と信じている、人間であろうするマリの強さをお芝居でも表現したいと考えていました。

──完成した映画をご覧になられた時には、どのような感想を抱かれたのでしょうか。

黒須:「もっとできる」という精神で常にお芝居と向き合っているということもあり、自分が出演させていただいた作品を観ると「ここ、こういう風に演じたらもっと面白くなったな」とどうしても考えてしまうんです。

もちろん、撮影現場のその瞬間にしか思いつかないものはありますし、「マリの“人間”としての姿」という自分が大切にしていたことは表現できていたのでよかったんですが、「これからの自分の演技」という視点から常に作品を観直すようにしています。

心がなければ、言葉があっても伝わらない


(C)田中舘裕介/Cinemarche

──黒須さんにとっての女優というお仕事の、お芝居の魅力とは何でしょうか。

黒須:私がダンスを好きだと感じていたのは、「言葉なしであらゆることを伝えられる」という点にとても魅力を感じていたからなんです。

ただ、お芝居について学ぶ中で「言葉」の在り方そのものについて触れていくうちに、言葉は決して「言えば伝えられるもの」などでではなく、言葉もまた心から発さないと他者に何も伝えられないんだと理解し、それはダンスの魅力と似ているなと感じたんです。

心がなければ、言葉だけがあっても何も伝えられない。それはお芝居の難しさでもありますし、お芝居の面白さでもあると思っています。


(C)田中舘裕介/Cinemarche

──2023年現在の黒須さんが目標とされているお芝居の在り方を、改めてお教えいただけますでしょうか。

黒須:お客さんに作品を観ていただいた時に「なんか分かんないけど、とにかく凄かった」という感覚を抱いてもらえるお芝居をできたらと考えています。

作品の中で役を演じている私と、それを観ているお客さんが心でつながれる瞬間を作りたいといいますか、物語の情報に基づいて感動の仕組みを把握されるのではなく、ただお芝居を見ていただけなのにお客さんの心へ“何か”がフッと入り込んでもらえるようなお芝居をしたいですね。

女優としても、人間としても大切な作品に


(C)田中舘裕介/Cinemarche

──ご自身にとって、映画『ピストルライターの撃ち方』はどのような作品となったのでしょうか。

黒須:この映画のおかげで自分は始まった、役者としてのスタート地点に立てたと感じていますし、自分にとってのコアとなる映画になったんだと感じています。

これから『ピストルライターの撃ち方』とは別の作品に出演させていただくことになっても、この映画で得られた経験が自分のコアにある状態で演じていくんだろうと思います。

この映画を思い出すことで今後もいろんな作品と向き合っていけるし、女優としても、人間としても本当に大切な作品になりました。

インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介

黒須杏樹プロフィール

1997年生まれ、東京都出身。

木場明義監督作品『ヌンチャクソウル』で映画デビュー。映画『ピストルライターの撃ち方』ではオーディションにて800人以上の中からヒロインに抜擢された。

主な出演作は舞台『ヴァニタスの手記』など。

映画『ピストルライターの撃ち方』の作品情報

【公開】
2023年(日本映画)

【脚本・監督】
眞田康平

【キャスト】
奥津裕也、中村有、黒須杏樹、杉本凌士、小林リュージュ、曽我部洋士、柳谷一成、三原哲郎、木村龍、米本学仁、古川順、岡本恵美、伊藤ナツキ、橋野純平、竹下かおり、佐野和宏

【作品概要】
再び原発事故が起こった地方を舞台に、ヤクザの下で除染作業員を運ぶチンピラ、チンピラの親友で刑務所帰りの男、出稼ぎ風俗嬢による共同体の再生と崩壊を描いた群像劇。

オール宮城県ロケで撮影された本作を手がけたのは、東京藝術大学大学院・映像研究科修了作品『しんしんしん』(2011)が渋谷ユーロスペースはじめ全国10館で劇場公開された眞田康平。

瀬々敬久監督作品に多数出演し、自身も劇団「狼少年」を主宰する奥津裕也を主演に迎え、中村有、黒須杏樹の3人を中心に物語は描かれていく。また杉本凌士、小林リュージュ、柳谷一成、佐野和宏など実力派キャストが脇を固める。

《映画『ピストルライターの撃ち方』公式サイトはコチラ→》

映画『ピストルライターの撃ち方』のあらすじ


(C)映画「ピストルライターの撃ち方」製作委員会

遠くない未来、地方で再び原発事故が起こった。しかしその隣町では一見変化のない生活が続いている。

ピストル型のライターで煙草に火をつける残念なチンピラの達也は、ヤクザの下で立入禁止区域の除染作業員をタコ部屋まで運ぶバンの運転手をしている。

そんな達也の下に、刑務所に入っていた親友の諒と出稼ぎ風俗嬢のマリが転がり込んできて、行き場の無い3人の共同生活が始まる。

達也はヤクザに取り入って、バラバラになっていく故郷や仲間をなんとか食い止めようと行動するが……。

《映画『ピストルライターの撃ち方』公式サイトはコチラ→》

劇団「狼少年」第12回公演『晩カラ学校』も開催!

2023年8月30日(水)〜9月4日(月)には、下北沢「劇」小劇場にて『ピストルライターの撃ち方』主演・奥津裕也さんが主宰する劇団「狼少年」による舞台『晩カラ学校』の公演も開催。

黒須杏樹さんをはじめ、米本学仁さん・實川阿季さん・宮後真美さんと『ピストルライターの撃ち方』キャスト陣が多数出演しています。

映画とともにぜひお見逃しなく!

舞台『晩カラ学校』の作品情報

【日程】
2023年8月30日(水)〜9月4日(月)

【会場】
下北沢「劇」小劇場(〒155-0031 東京都世田谷区北沢2丁目6−6)

【演出】
奥津裕也

【脚本】
狼少年

【キャスト】
奥津裕也、實川阿季、宮後真美、黒須杏樹、玉置康二、尾本響子、藤井久泰、文ノ綾、米本学仁、及川奈央、たむらもとこ

《舞台『晩カラ学校』公式ページはコチラ→》

舞台『晩カラ学校』のあらすじ

様々な境遇で生きた人たちが集う、郊外にある夜間中学校。

そこには戦後の混乱を生き抜いてきた者、不登校の経験を持つ者、国籍が違う者、人には言えない過去を持つ者もいた。

年齢、性別、人種を超え不器用にも関わり、少しずつ絆を深めていく生徒たち。

だがそんな時、学校にある妙な噂が流れる……。

《舞台『晩カラ学校』公式ページはコチラ→》

編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


(C)田中舘裕介/Cinemarche




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