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Entry 2023/09/28
Update

【ネタバレ】禁じられた遊び|映画あらすじ感想と結末の評価解説。2023ホラーのラスト意味は?“寂れた神社”が想像させる“もう一つの真実”

  • Writer :
  • 河合のび

エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……
小さな嘘は、“悪魔的”な真実を召喚する。

リング』『事故物件 怖い間取り』『“それ”がいる森』など数多くのホラー映画で知られる中田秀夫監督が、作家・清水カルマのデビュー作であるホラー小説を実写映画化した『禁じられた遊び』

父親が幼い息子に冗談半分で教えた「トカゲの尻尾を土に埋めたら、トカゲが新しく生えてくる」という“小さな嘘”が、一家に起こった不幸を機に想像を絶する真実と恐怖へと変貌していく様を描きます。

実写版『かぐや様は告らせたい』『カラダ探し』の橋本環奈と、本作が初のホラー映画出演となった重岡大毅がW主演を務めた映画『禁じられた遊び』。

本記事では映画のネタバレあらすじ紹介のとともに、設定・ストーリー展開からうかがえる名作映画へのオマージュ、そして映画作中に登場した「寂れた神社」から探る本作の“もう一つの真実”を考察・解説します。

映画『禁じられた遊び』の作品情報


(C)2023映画『禁じられた遊び』製作委員会

【日本公開】
2023年(日本映画)

【原作】
清水カルマ『禁じられた遊び』(ディスカヴァー文庫刊)

【英題】
The Forbidden Play

【監督】
中田秀夫

【脚本】
杉原憲明

【キャスト】
橋本環奈、重岡大毅、ファーストサマーウイカ、正垣湊都、堀田真由、倉悠貴、MEGUMI、清水ミチコ、長谷川忍、猪塚健太、新納慎也、諏訪太朗

【作品概要】
原作は作家・清水カルマのデビュー作である同名ホラー小説。父親が幼い息子に冗談半分で教えた“小さな嘘”が、一家に起こった不幸をきっかけに思いがけない真実と恐怖を露わにしていく様とその顛末を描き出す。

監督は、Jホラーの名作『リング』で知られ、『事故物件 怖い間取り』『“それ”がいる森』などJホラーの最前線を牽引し続ける中田秀夫。

W主演を勤めたのは、実写版『かぐや様は告らせたい』『カラダ探し』の橋本環奈と、本作が初のホラー映画出演となった重岡大毅。

映画『禁じられた遊び』のあらすじとネタバレ


(C)2023映画『禁じられた遊び』製作委員会

会社員の伊原直人は、美しい妻・美雪と夫婦の間で健やかに育つ愛息子・春翔の3人家族。念願のマイホームにも引越し、絵に描いたような幸福な生活の中にありました。

ある日、庭で遊んでいた春翔は偶然見つけたトカゲを捕まえようとしますが、トカゲは尻尾だけを切り離してどこかへと消えました。驚きながら「トカゲは死んだの?」と尋ねる春翔に、直人は一部のトカゲが持つ習性である「自切」について説明しました。

直人の説明を聞き、その習性にまた驚いた春翔は「残った尻尾からも、新しくトカゲは生えてくるのか」とさらに尋ねました。イタズラ心が芽生えた直人は「生えてくるよ」「土に埋めて『エロイムエッサイム』と呪文を唱えたら、トカゲが生えてくる」と冗談半分で教えました。

父・直人の言葉を信じた春翔は、それ以来毎日のように「ママには内緒」という約束を守りながらも、トカゲの尻尾を埋めた庭の土山の前で呪文を唱え続けました。ところがある日、土山の中からトカゲが這い出て草むらへと消えていく瞬間を直人と春翔は目撃しました。

自身の喜びを母・美雪に伝えたがる春翔に、直人は目にした出来事に戸惑いながらも「ママが怖がるから」と止めさせると「男の子だから、ママのことをちゃんと守るんだぞ」と教えました。

その日から時が経ち、直人はある日の勤務中に警察から連絡を受けました。それは、美雪と春翔が交通事故に遭い病院へ救急搬送されたという知らせでした。

直人は病院に駆けつけますが、美雪は全身に損傷を受けすでに手遅れの状態、春翔も病院に運ばれた時点で心肺停止の状態にあったため、蘇生措置が行われていました。

直人が必死に呼びかけるも春翔の心肺は戻らず、医師は死亡診断を下そうとします。その瞬間、悪天候であった空から雷が落ち、病院内が停電に。そして電気が復旧した直後、春翔の心肺は再び動き始め、やがて意識を取り戻しました。

息子・春翔は生き残ったものの、妻・美雪の死を悲しむ直人。そんな父に、直人は“あるもの”……棺の中の美雪の亡骸から切り離した、彼女の指の一部を見せ「埋めてもいい?」と尋ねました。

直人から了承を得た春翔は、トカゲの尻尾と同じように美雪の指を庭へ埋めると、その土山の前で「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム」と呪文を唱え始めました。母の死をまだ受け入れられていないのであろう息子を、直人は涙ながらに抱きしめました。

一方、「輝く女性」として雑誌で取材されるほどに映像ディレクターとして活躍していた倉沢比呂子は、仕事を終え自宅でテレビを観ていたところ、正体不明の耳鳴りに襲われます。そして耳鳴りが止み、目の前のコップが突如真っ二つに割れた時、テレビでは美雪と春翔の交通事故が報道されていました……。

その後、比呂子は美雪の葬式へと参列。そこで直人と春翔に再会しました。

実は今から7年前、比呂子は直人と同じ職場に勤務していました。そしてある日、歪んだ愛を押しつけ続ける上司に襲われかけた場面を間一髪で助けてもらったのを機に、すでに結婚していた直人へ恋愛感情を抱くようになりました。

しかしそれ以来、比呂子は女の声で「近づかないで」とだけ告げてくる発信元不明の着信やポルターガイストなど、様々な怪奇現象に襲われ始めます。

怪奇現象が1週間続いた後、無事に出産した春翔を抱く美雪が、夫である直人ともに職場へ挨拶に来ました。比呂子は他の同僚たちのように祝おうとしますが、美雪は春翔に比呂子が触れようとするのを激しく拒絶し、耳元で「私の夫に近づかないで」と呟きました。


(C)2023映画『禁じられた遊び』製作委員会

比呂子がこれまでの怪奇現象の元凶を確信し出す中、ついに彼女の自宅へ美雪の“生霊”が姿を現しました。激しい怒りを露わにする美雪の生霊に、比呂子は必死に謝罪し、現在の会社も辞めると伝えました。そして実際に会社を辞めた結果、怪奇現象も収まったのでした。

しかし、比呂子がテレビを観ていた際に襲われた現象は、かつて美雪の生霊が起こしていた怪奇現象と酷似していました。すでに美雪はこの世を去ったと頭では理解していたものの、比呂子は嫌な予感を抱いていました。

葬式の後も、春翔は昼夜問わず庭で呪文を唱え続けていました。「昼寝してたらママと会った」「『もう少しで会える』って」と嬉々として話す息子の姿、そして美雪の指が埋まる土山がわずかに“脈動”する瞬間を目撃した直人は不安を抱き、呪文を唱えるのを止めさせました。

その後も怪奇現象が続いていた比呂子でしたが、とある番組の収録にて、仕事仲間の柏原曰く“本物”であるという霊能力者・大門と出会います。

そして収録後の喫煙室にて、かつて直人に贈ろうとしたものの現在は自身が使用している比呂子のジッポーライターに触れた大門は、彼女の身に起こっている異変を察知し、1度自分の事務所へ来るように勧めました。

比呂子は胡散臭い大門のことを信じていませんでしたが、帰宅中の車内で柏原からかかってきた電話に「私の夫に近づかないで」という美雪の声が聞こえたかと思うと、車のフロントガラスに1羽のカラスが激突し、そのまま息絶えました。

その頃、眠れずにいた直人は同じ状態であった春翔に誘われて庭へ。「ママはどこにいるの」「どうして出てきてくれないの」と訴える息子に心を痛める直人でしたが、例の土山が再び脈動しているのに気づき、春翔に自室へ戻り寝るように言いました。

「本当にそこにいるのか?」……直人がそう語りかけると、脈動していた土山は大きく盛り上がり、中から“肉”が這い出てこようとします。恐怖した直人は庭にあった杭を手にとると、「出てくるな」と絶叫しながら何度も“肉”へと突き刺しました……。

対して大門の事務所へ訪れた比呂子は、大門に「この世に“幽霊”は存在しない」「最も恐ろしいのは“一度死んで生き返った人間”だ」と告げられます。

比呂子のライターに触れてしまって以来、比呂子に憑く何者かに狙われ続けているという大門。「何でオレがこんな目に」と怯える彼は「蘇ろうとする者の“肉体”を滅ぼすしかない」とだけ助言した後、事務所内に侵入してきた何者かに取り憑かれました。

比呂子に襲いかかろうとする、大門の肉体を乗っ取った何者か。異変に気づいた大門の助手・黒崎は事務所に飾られていた日本刀で、もはや大門自身のものではなくなった彼の肉体を斬り捨てますが、今度は大門の次に“力”がある……その分“力”の影響も受けやすい黒崎が取り憑かれてしまいます。

黒崎は、かろうじて保てた意識の中で自らの首に刀を押し当て、自らの首を斬り落としました。しかし凄絶たる惨状に放心状態の比呂子に、斬り落とされた黒崎の首は口を動かし「私の夫に近づかないで」と告げました。

大門と黒崎の変死事件がテレビで報道される中、自宅へ戻った比呂子。ただ美雪の生霊に怯えるだけだった“過去”を思い起こした彼女は覚悟を決め、“現在”の自身の武器であるカメラを手に、亡き美雪が起こしているであろう怪奇現象と立ち向かうことにします。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『禁じられた遊び』ネタバレ・結末の記載がございます。『禁じられた遊び』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2023映画『禁じられた遊び』製作委員会

かつての同僚で親友の麻耶からの情報提供で、伊原家へ向かった比呂子。庭の全てが暗幕で覆われ、外部からは様子が一切うかがえない伊原家の異様な光景に困惑しながも、なぜか「ママに会いに来たんでしょ」と知っていた春翔の案内で家の中へと入ります。

ゴミが散乱する室内を通りながらも、庭が窓から見える居間に着く比呂子でしたが、長い間仕事を休んでいた直人は来客に気づくと、急いで居間の窓のカーテンを閉じてしまいました。

伊原家に何が起きているのか尋ねても、答えない直人。比呂子はかつて美雪に“呪われた”こと、それは自身が直人のことを好きになったのが原因だったことを告白しますが、“呪い”の存在を認めようとしない直人は彼女を追い出してしまいます。

しかし比呂子は伊原家を追い出された後、暗幕の隙間から春翔が庭の土山の前で呪文を唱え続ける姿を撮影することに成功。そして撮影した映像を確認すると、そこには盛り上がった土山の中からカメラを覗き見る“眼”が映り込んでいました。

美雪が大門が語った“一度死んで生き返った人間”となろうとしていると感じた比呂子は、大門の変死を知った柏原とともに、美雪がいかにして強い“力”を持ったのかを知るべく結婚以前の彼女の過去を調べることに。

かつて両親が火事で亡くなったために、施設で育てられた美雪。また施設に訪れた比呂子と大門は、施設時代の美雪を知る職員・野田から彼女の“力”にまつわる話を聞き出しました。

施設時代、周辺で奇妙な現象を多く引き起こしていた美雪に野田が面談を行うと、彼女はスプーン曲げなどを披露し自身が持つ“力”を明かしました。そして同じ施設の子どもたちに地下室に閉じ込められた時には、その内の一人を“力”によって呪い殺してしまったのでした。

伊原家の庭では、呪文を唱え続ける春翔を直人は止めようとしますが、父が蘇ろうとした母・美雪を杭で傷つけたことを知っていた春翔は「ママをいじめるな」「ママをいじめたら許さないから」と答えました。

一方、美雪の過去の調査を終えた比呂子は、自宅マンションで麻耶と遭遇。近々結婚を予定していた相手が浮気していたことを知り激しく動揺していた麻耶でしたが、その心の隙間を狙われたのか、美雪と思われる何者かに取り憑かれてしまいます。

台所の包丁を手に襲いかかってきた麻耶に比呂子は殺されかけますが、帰宅途中の車内で「比呂子が特集された雑誌に載っていた、彼女の顔写真が真っ黒に焼け焦げる」という怪奇現象に遭遇し、急遽比呂子の家を訪ねることにした柏原に助けられます。

気絶した麻耶と負傷してしまった柏原を部屋に残し、比呂子は「蘇ろうとする者の“肉体”を滅ぼすしかない」という亡き大門の言葉を信じて、全ての決着をつけるべく伊原家へ急行。

春翔を自身の両親に預けるも、それでも“我が家”を離れられない直人と再び会う比呂子。疲れ果てた直人から明かされた「トカゲの尻尾」の話を聞き、彼が吐いた嘘を美雪の“力”が現実にしてしまったのだと悟りました。

比呂子と同様に覚悟を決めた直人は、薪割り用の斧を手にとると土山の元へ。すると美雪の泣き声が聞こえ始め、土山から彼女の青白い腕が這い出てきました。

動揺し身動きの取れない直人に代わって、比呂子は美雪の腕を斧で叩き斬りますが、切断された腕はくっつくと元通りに再生。そしてついに、美雪の全身が露わになりました。

当初は生前の美貌を保った姿だったものの、苦しみもがき始めるかと思うと全身に赤黒い枝のような血管が浮き出し、トカゲのような鱗が生え、醜く恐ろしい姿へと変貌する美雪。もう直人への恋愛感情はないと比呂子が訴えても、その言葉は決して届きませんでした。


(C)2023映画『禁じられた遊び』製作委員会

かろうじて伊原家を脱出し、雑木林の中の寂れた神社の本殿へと逃げ込んだ直人と比呂子。そこで直人は「オレは美雪が怖かった」とその本音を打ち明け始めました。

常日頃から“美雪の視線”……美雪の生霊に監視されていたこと。その中で優しさを向けてくれていた比呂子はかけがえのない存在であったために、妻子ある身ながらも次第に比呂子に惹かれてしまったこと。そして生前の美雪は、その“裏切り”を全て知っていたこと……。

そこへ、追いついてきた美雪が再び姿を現します。罪悪感に駆られた直人が美雪を抱きしめると、彼女は一瞬元の生前の姿へと帰りますが「この人はもう美雪さんじゃない」という比呂子の言葉を耳にすると、再び嫉妬に狂う化物の姿へと戻ってしまいました。

負傷した比呂子とともに逃げ続けた直人は、雑木林を抜けた先で線路を見つけます。そして自分たち自身を囮にして美雪を誘導し、彼女を電車に轢かせることに成功しました。

再生ができないほどにバラバラとなった美雪……その“肉体”を滅ぼすことができたと感じた直人と比呂子は、伊原家の前で別れを告げました。

帰宅中、比呂子は柏原からの電話に出ます。麻耶を病院へと運び、自身も包丁で受けた傷を処置してもらった彼は、その後施設の職員・野田から「美雪の両親が亡くなった火事はなぜ起こったのか」の経緯について連絡を受けていました。

実は美雪の母親は小規模な宗教団体の教祖を務めていましたが、恨みを持った信者に自宅を放火されたために火事で亡くなりました。そして美雪の母親も、娘と同じ“力”を持つ人間だった……美雪の“力”は母親からの遺伝であり、その強い“力”は母から子に受け継がれたものだったのです。

その頃、全てが終わったと思い一人伊原家で安堵していた直人でしたが、庭にはバラバラになった美雪の肉片が少しずつ集まり始め、また再生しようとしていました。

「何をしたってムダだよ」……直人の両親の家に預けられているはずなのに、突如姿を現した春翔は、そう口にしました。

直人は「死んだ人間を生き返らせちゃいけない」と庭にあった灯油を再生中である美雪にかけ、比呂子が落としていったライターで火を点けようとしますが、父の言葉を理解できない春翔は見えない“力”で彼をふっ飛ばしました。

「ボクが生き返らせてあげる」と呪文を唱える春翔。伊原家に再び駆けつけた比呂子は、再生を続ける美雪を見て「アレは美雪ではなく、春翔が作り上げた化物だ」と確信しました。

大門が言っていた“一度死んで生き返った人間”とは春翔のことであり、生前の美雪の生霊による仕業に酷似した一連の怪奇現象を引き起こしたのも、大門や黒崎を死に追いやったのも、母・美雪から“力”を受け継いだ上で「トカゲの尻尾」を現実にしようとした春翔が犯人だったのです。

「パパはお姉ちゃんが好きなんだ」「だからママをいじめるんだ」「何で大人は嘘を吐くの」「もうパパはいらない」……母・美雪の再生のために呪文を唱え続ける春翔の“力”は暴走の一途を辿り、伊原家の周辺は嵐のように天候が荒れ始めます。

すると突如、黒雲から一筋の雷が落ちてきました。

雷は春翔と美雪に直撃し、母子は火に包まれます。あと少しで再生を終えるところだった美雪は灰に帰し、火に焼かれ苦痛に悶える春翔は父に助けを求めながらも、そのまま息絶えました。

春翔の死から3ヶ月後。伊原家へ訪れた比呂子は、出勤前の直人が庭で「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム」と唱えている姿を目にします。彼はかろうじて焼け残った息子・春翔の指を、その後庭に埋めていたのです。

そんなことをしても春翔は戻ってこないと訴える比呂子でしたが、直人の目前にある土山の中から“何か”が飛び出していくのを目撃し、思わず怯えてしまいます。

「もうすぐ地上に戻れるからな」……直人は土山に対して、優しく語りかけるのでした。

映画『禁じられた遊び』の感想と評価


(C)2023映画『禁じられた遊び』製作委員会

「死者の復活」と名作映画へのオマージュ

「トカゲの尻尾を土に埋めたら、トカゲが新しく生えてくる」……そんな“小さな嘘”が思いがけない真実と恐怖へと変貌していく様を描いた本作ですが、映画ならびに原作小説のタイトルは、1952年公開のルネ・クレマン監督による名作映画『禁じられた遊び』から引用されています。

戦争の最中で両親と愛犬を失ったものの、「死」も「神への祈り」もまだ理解できないほどに幼い少女ポーレットが、彼女を保護してくれた農家の息子ミシェルに「死んだ者には墓を作るんだ」と教えられたのを機に“墓作り”の遊びを始める姿を描いた、1952年版『禁じられた遊び』。

“2023年版”といえる本作と原作小説で描かれた「死を理解できない幼な子が“信仰”を誤解してしまったがために、死を冒涜する行為へ没頭する」や「両親の死により施設に入れられる娘」といったストーリー展開も、同作からのオマージュそのもの。

そして作品全体を通して「死者の復活」というテーマそのものも、1952年版『禁じられた遊び』における作中設定の根底にあるキリスト教信仰が着想元となっているといえるでしょう。

「寂れた神社」が想像させる“もう一つの真実”


(C)2023映画『禁じられた遊び』製作委員会

作中で春翔が唱えていた「エロイムエッサイム」という言葉は、魔術書『赤竜』へ記されていた呪文の一節であり、ヘブライ語で「神よ、悪魔よ」と意訳できる呪文です。2023年にNetflixで新作が配信予定の『悪魔くん』などでも登場し、日本でも広く知られた“魔術の呪文”といえるでしょう。

1度は死を迎えたものの、落雷とともに蘇生した春翔。大門の事務所内には「悪魔退散」と書かれたお札も貼られていた通り、その“悪魔っ子”というべき所業が映画終盤では明かされました。

ただ映画作中では、母・美雪から“力”を受け継いでいた春翔が直人の嘘を信じ込んだ結果、あと一歩のところまで美雪を復活させるに至ったという展開が描かれていますが、果たして「美雪の復活」は本当に春翔の“力”のみで行われていたものだったのでしょうか

その疑問に対するヒントとなるのが、映画終盤に描写され、伊原家周辺の雑木林の中にひっそりと建っていた、寂れた神社の存在です。

直人の嘘により、誤ったものながらも“信仰”の行為を続けていた春翔に、その寂れた神社で祀られていたであろう“何か”は呼応したのではないか。そして春翔の本来の“力”とは別の“力”が同時に働いていたのではないか……そんな想像を巡らせることができるのです。

しかしながら、その神社に祀られていた“何か”は本当に「神」と呼ばれるものだったのか、それとも「悪魔」と呼ばれるものだったのか、あるいは時々によって「神」とも「悪魔」とも呼ばれるものだったのかは、偶然にもそれを信仰する形となった春翔の所業を思えば、自ずと答えは見えてくるはずです。

まとめ/“枷”のない想像力が暴走する時


(C)2023映画『禁じられた遊び』製作委員会

キリスト教をはじめ、宗教における信仰は「“神”や“悪魔”は存在するのではないか」「“あの世”は存在するのではないか」という人間の想像力が根幹にあります。そして信仰という名の想像力が極限まで高まった時に、いわゆる「神秘体験」を人間は感知するのではと考えることもできます。

しかし、こう考えることもできます……信仰において「神」「悪魔」「あの世」といった概念が生み出されたのは、本来は抑制などできず暴走し、果てには現実や虚構の境目、あるいは自己と他者の境目を超えてしまう=「世界」そのものを破壊し得る人間の想像力に“枷”を与えるためだったのではないかと。

ではもし、信仰における“枷”を持たない人間がその想像力を発揮したら、世界には何が起こるのか……『禁じられた遊び』は、その問いに着目した物語とも解釈できます。

春翔がその“力”で人を殺めたのも、「“人を殺したらどうなるのか”という想像力が欠如していたから」なのではなく「“枷”のない自身の全力の想像力を発揮した時、その人々は想像力の“邪魔”になったから」なのではないか。

“枷”のない想像力が何をもたらすのか」「そして、本作のタイトルにもある“禁じられた遊び”とは、作中の何を指しているのか」……そのような視点で本作を観てみると、その物語の新たな一面が見えてくるかもしれません。

編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介





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