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Entry 2021/02/05
Update

映画『樹海村』ネタバレ感想評価と考察レビュー。コトリバコは実在の心霊スポットなる場所と融合し“約束”の恐怖と化す

  • Writer :
  • 岩野陽花

映画『樹海村』は2021年2月5日(金)より全国ロードショー公開!

2020年に大ヒットした『犬鳴村』に続く「恐怖の村」シリーズ第2弾であり、「自殺の名所」と知られる富士・青木ヶ原樹海、インターネット怪談の名作「コトリバコ」がそれぞれに持つ恐怖を再解釈・融合させたホラー映画。

それが2021年2月5日(金)公開の映画『樹海村』です。

果たして「実在の心霊スポット」と「架空(とされる)ネット怪談」が融合した時、どのような恐怖が新たに生み出されたのでしょうか。

その全貌をひも解く言葉は、「ゆびきりげんまん」かもしれません。

映画『樹海村』の作品情報


(C)2021「樹海村」製作委員会

【公開】
2021年(日本映画)

【監督】
清水崇

【脚本】
保坂大輔、清水崇

【キャスト】
山田杏奈、山口まゆ、神尾楓珠、倉悠貴、工藤遥、大谷凜香、塚地武雅、黒沢あすか、安達祐実、國村隼

【作品概要】
2020年に大ヒットしたホラー映画『犬鳴村』に続いて制作された「恐怖の村」シリーズの第2弾であり、「自殺の名所」として知名度が高い青木ヶ原樹海、知る人ぞ知るインターネット怪談の名作「コトリバコ」を題材に新たな恐怖の物語を描いた作品。

主演のの山田杏奈・山口まゆをはじめ、神尾楓珠、倉悠貴、工藤遥、大谷凜香、塚地武雅、黒沢あすか、安達祐実、國村隼らが出演。そして監督はシリーズ第1弾『犬鳴村』に引き続き、「呪怨」シリーズなどJホラーを代表する監督の一人・清水崇が務めた。

映画『樹海村』のあらすじネタバレ


(C)2021「樹海村」製作委員会

2020年7月17日の金曜日。YouTuberアキナ(大谷凛香)は、コンパスにスマホのGPSアプリ、そして赤色の命綱用テープという軽装ながら遭難対策は完璧な装備で、「オカルト特集第2弾」と称した富士・青木ヶ原樹海探索の生配信を始めました。

苔蒸した岩の地面に、無数の木々。険しい道のりに弱音を吐くアキナですが、それでも視聴者のコメントに後押しされ、テープを進路中の木へ次々に結びつつも樹海の奥へ進んでゆきます。

しばらくしてアキナは、樹海の中で自殺志願者と思われる男を遠くで発見。恐がりつつも声をかけ近づこうとしますが、男はアキナの声に反応することなく、どこかへと消えてしまいます。

男の捜索を続けるアキナはやがて、巨岩の上に生えた奇妙な大樹を過ぎた先で、集落の跡と思われる場所へと辿り着きます。その場所を目にした視聴者たちは、有名な都市伝説である「樹海村」の集落跡ではとコメントし始めます。

周囲には誰もいないはずの樹海で異音が聞こえ、怯えるアキナ。制御不能になったGPSアプリ、針が延々と回り続けるコンパスも見てしまい恐怖した彼女は、テープを頼りにその場から逃げ出します。

しかしアキナが手繰っていったテープの先は、先ほどまで追っていたはずの男の腐敗した首吊り死体へと括られていました。そして口から蛆虫を漏らしながら自身に落下してきた死体にアキナは絶叫、そのまま倒れてしまいます。

動かないアキナ。すると樹海中を覆っている苔の一部が突如動き出し、途絶えがちの映像の中、全身が苔で覆われた人間らしきものが配信用カメラを手に取ったかと思うと、そのまま配信は終わってしまいました。

配信を観ていた響(山田杏奈)は、何も映らない配信終了画面をただ見つめていましたが、いつの間にか自室に訪れていた母・琴音(安達祐実)にたしなめられます。


(C)2021「樹海村」製作委員会

多くの謎を残したアキナの配信と樹海村に興味を抱く響ですが、ある日彼女は姉・鳴(山口まゆ)に連れられて、ともに姉妹の幼馴染みであり、結婚したばかりの輝(神尾楓珠)と美優(工藤遥)の新居への引越しを手伝いに行きます。

美優との間に子どもも授かっている輝。しかし鳴は、詳しい事情は定かではないものの、輝に対して「未練」を抱いていました。また美優も、鳴と輝の微妙な関係を気にしている様子でした。

一方で手伝いに参加することなく、新居にいた尺取り虫と戯れる響に、鳴は嫌味を吐きます。昔から奇妙な言動や行動が多い妹・響のことを、鳴は「ただ構ってほしいだけ」と少なからず疎んでいました。

ところが響は、偶然「あるもの」の存在に気づきます。それは輝・美優の夫婦がこれから暮らす新居の1階部分よりもさらに下部、1階ウッドデッキの下に隠れていたため誰もその存在に気づいていなかった、謎の空間とそこへ通じる四角い穴でした。

四角い穴から真っ暗な空間へ入っていく輝。そこで彼は、古く汚い風呂敷に包まれた「何か」を見つけます。美優が嫌々ながら風呂敷を解いてみると、そこにはひどく黒ずんだ、余りにも気味の悪い「箱」がありました。

箱に直接触れようとする美優を、何かを察した響は思わず叫んで制止します。鳴たちは何故止めたのか問いただしますが、響は答えに詰まります。そこに鳴の現在の恋人・真二郎(倉悠貴)がやってきますが、突然美優は吐き気を催し、新居へ駆け込んでしまいました。

何とか美優の体調不良を落ち着いた中、真二郎はネット上で有名な怪談「コトリバコ」を探し当て、箱の正体はその怪談内に登場する「呪殺の道具」コトリバコではと言い出します。怖がる美優に対し、オカルト好きな響への不信感も強い鳴は信じようとしません。

そんな5人の元に、新居の管理人が姿を現します。輝に箱について事情を聞いた彼は、「こっちで処分する」と箱を持って帰ろうとします。響はそれを止めようとしますが、管理人は道路を走ってきた大型トラックに轢かれてしまいました。

「樹海村」に加え「コトリバコ」も調べ始めた響ですが、後日彼女が暮らす実家に、二人の刑事がやって来ます。例の配信を観ていた視聴者の一人である響に、配信後行方不明になってしまったアキナについて聞き込み調査をしにきたのです。

インターホン映像に映り込んだ行方不明のはずのアキナの姿に驚く響。その後は特に異変なく刑事たちも実家を後にしたものの、奇妙なものを見てしまった響のことを琴音は心配します。

その日の晩、同じく聞き込み調査を受けた他の視聴者たちとボイスチャットをする響。しかしそのチャット上でも謎の赤ん坊の声が聞こえ、映像が乱れるなどの異変が起こり、響は無理やりチャットを終了させました。

ある日、新居への荷運び中に怪我を負った美優は急遽入院。美優自身は大事に至らなかったものの、妊娠していた輝との子どもは残念ながら亡くなってしまいました。

姉妹と夫婦の四人は、お祓いのために真二郎の実家である寺へ箱を持っていきます。真二郎の父である住職は不安がる皆を「気のせい」と諭しますが、寺に泊まった響がその晩寺の本堂へ行くと、そこには必死にお祓いを続ける住職がいました。また本堂とその周囲で、響は大勢の亡者たちの姿を目撃してしまいます。

その後、響は配信の視聴者たちとともに、樹海への探索に行くことに。しかし探索中に誤って転倒した際、苔むした樹海内に身を潜める何かに腕を掴まれた響はパニックに陥り、他の視聴者たちを置いて樹海から逃げ出しました。

そして同日の夜に見た夢の中で、響は現在寺に保管されている箱、その中に封印されている何本もの切り落とされた指と大量の血液を目にします。

やがて大事件が起こります。寺が何者かによって放火され大火事となり、真二郎は多数の火傷を負って入院、彼の父である住職は命を落としてしまったのです。

ところが、重大な事実が明らかになります。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『樹海村』ネタバレ・結末の記載がございます。『樹海村』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2021「樹海村」製作委員会

真二郎の病室へ訪れた刑事たちが見せた、寺の監視カメラ映像。そこには、寺に保管されていた箱に灯油をかけ、火をつける響の姿が映し出されていました。

結果、精神科病棟への入院措置が決まった響。鳴と姉妹の祖母・唯子(原日出子)が精神科医・野尻(塚地武雅)から様々な説明を受ける中、響が箱と「ママ」のことを口にしているという野尻の言葉に、鳴と唯子は言葉に詰まります。

そして野尻の言葉に対し、鳴は「母・琴音は、13年前に“自殺”で亡くなった」と祖母・唯子に聞かされていると明かしました。

その後、鳴は病棟内で出くわした美優に「あなたたちとはもう関わりたくない」と告げられます。そして美優が輝の手を引いて立ち去った後、鳴は真二郎の見舞いに訪れていた彼の母に謝罪しようとしますが、夫である住職を亡くした彼女は無言で鳴を拒絶しました。

「放火魔の家」として人々に荒らされた実家へと戻る鳴。仏壇の前に一人座っていた唯子は、琴音もまた今の響同様に「おかしなもの」が見えるようになり、それを怖がるようになったと鳴に語ります。

自身を責め続ける唯子に、鳴は「琴音は自身の自殺に姉妹を道連れにしようとした」「自分を責めることじゃない」と慰めますが、唯子は琴音の写真を握りながら「ごめんなさい」とむせび泣くばかりでした。


(C)2021「樹海村」製作委員会

昼の精神科病棟。入院中の自身を訪ねてきた鳴に、響は感謝と謝罪をしつつも「置かれた家は皆死に、家系が絶える」という箱の存在、「ある女性が樹海へ箱を戻しにいった」「子供の命だけは助かった」と唐突に語り出します。

「ママから聞いた」という話を語り続ける響の姿に、鳴はただ黙るしかありませんでした。

翌朝。鳴が起床すると、唯子は仏壇の前で手を合わせていました。いくら呼びかけても反応しない彼女に鳴が触れると、唯子は目を見開いたまま絶命していました。

その頃、新居に一人いた美優は赤ん坊のように泣く「何か」を抱きかかえ、我が子のようにあやしていました。それは、響が焼いたはずの例の箱でした。そのことにようやく気づいた美優は思わず箱を放り捨ててしまいます。

すると新居の床下から……あの謎の空間から、赤ん坊の泣き声が聞こえ始めます。美優は怯えながらも、出入口の穴から空間へと一人入っていきました。

唯子の葬儀を終え、実家で一人泣く鳴。そのまま眠り込んでしまった彼女は、夢の中で生前の母と幼き日の姉妹を目にします。

在りし日の平和な光景に鳴の心は安らぎますが、幼い自身が実家の納屋で見つけた箱の姿を見て一転戦慄します。生前の琴音は箱に触れようとした幼い鳴を血相を変え突き飛ばし、どこかへ箱を持っていきました。

幼い姉妹の泣き声に苛まれながらも目を覚ました鳴。その肩に「お姉ちゃん」という声とともに響の手が触れますが、鳴が振り返ってもそこには誰もいませんでした。

何かを感じた鳴は輝の元へ。そこで美優が行方不明だと知らされた鳴は、輝・真二郎と美優の捜索を開始。スマホのGPS情報共有アプリを頼りに美優の元へ向かいます。

GPS情報上で美優がいると思われるのは、樹海。闇に包まれた樹海の山道を車でゆく中、そこで三人は美優のスマホを偶然拾っていた出口(國村隼)と彼がかつて保護した「元」自殺志願者の女性と出会いました。

樹海の中に入ろうとするも、怪我をしてしまい止められる輝。出口は「神の森」としての樹海、そこで行われていた「生贄」という名の「口減らし」の風習などを語り聞かせ、夜が明けてから再捜索するよう説得します。

帰りの車中、真二郎は自身の父である住職が死ぬ間際に語った「祓えなくてすまなかった」という言葉、響の放火にも「意味」があった可能性を口にします。

後日病棟を訪れた鳴は、箱と寺に火を放った理由を響に尋ねます。響は箱がまだ存在し続けていることなどを鳴に語りますが、そこで大勢の亡者たちを再び目撃。「連れてかれる」「みんな死んじゃう」と錯乱し、野尻たち職員に拘束されてしまいます。

響を病院から出すよう訴える鳴・輝・真二郎に対し、野尻はあくまで精神医学の論理から怪異現象と恐怖の存在を頑なに否定。しかし、野尻は明らかに「何か」を恐れていました。

輝は美優を再捜索しに行こうと、鳴・真二郎を置いて病院の外へ出ます。すると輝の足元には、切り落とされた一本の指が。驚いたも束の間、輝の頭上からエレベーターで上階に向かったはずの野尻が落ちてきて、輝と激突。二人はともに即死に至りました。

一方樹海にて、多くの人々を連れ美優の行方を捜索していた出口は、樹木に埋め込まれたように息絶えていた美優の姿を発見します。

実家へ戻ったものの、真二郎に抱きしめられながら泣き続け、そのまま眠ってしまった鳴。やがて目を覚ますと、真二郎は台所で自身の指を包丁で切り落とそうとしていました。

鳴の声で自らの奇行に気づく真二郎。慌てて止血を試みますが、鳴が119番に電話する間に再度包丁を手に取ったかと思うと、そのまま自身の頸動脈を掻っ切りました。


(C)2021「樹海村」製作委員会

夜の手術室前で一人泣く鳴の元に、出口が姿を現します。そして鳴の問いに対し、出口はそれまで言葉をつぐんでいた箱と「樹海に作られた村」の関わりにまつわる噂、かつて樹海で保護した「幼い姉妹」の記憶、その妹が森で「何か」を見た可能性を語ります。

鳴は実家へ戻ると、響の自室の床に刻まれていた、「樹海に作られた村」と箱を描いた絵の数々を発見。それらをスマホで撮影しようとした時、村と箱にまつわる「過去」の映像を次々に幻視します。

撮影を終えたにも関わらずシャッターは切り続けられ、スマホの画面上には「絵」ではない箱が出現。そして思わず後ずさりしてしまった鳴の背後には、あの箱が置かれていました。

翌日の昼。樹海の中を進む鳴は、絵を頼りに村の集落跡を見つけ、同じく絵に記されていた「祭壇」に持参してきた箱を戻します。

鳴は元来た道を戻ろうしますが、そこである人々と遭遇します。それは例の配信以来行方不明だったはずのアキナと、彼女を捜索すべく樹海に入ったものの、そのまま遭難してしまっていた視聴者たちでした。

再び歩き出す鳴とアキナたち。やがて一行は、アキナが配信時に進路中の木々に結んでいた命綱用テープを発見。視聴者たちは喜びながらテープの先へと突き進んでいきます。

鳴はアキナに先を譲られ、テープを辿っていきます。しかしテープの先には、先ほどまで会話を交わしていたはずのアキナの腐乱死体が。また失神してしまった鳴の頭上には、百舌の速贄のごとく木の枝に体を貫かれた視聴者たちの死体がありました。

亡き母の声を耳にしつつも、夜の樹海で目を覚ます鳴。木の枝やつるで拘束された彼女のそばには、「鳴もこれからこの村に住むの」「もうすぐ響も来る」と語る死んだはずの輝・美優が立っていました。

その頃、響が精神科病棟の隔離室で目を覚ますと、以前から彼女を襲おうとしていた木々の「影」が室内の壁中を這い回っていました。そして未知の力によって宙へと浮かばせていた響を、壁へと叩きつけます。

樹海では美優が、「過去」の映像でも用いられていたハサミで鳴の左手薬指を切り落とそうとしていました。「これであなたも仲間になるの」という言葉とともに、樹海に埋もれ身を潜ませていた「村人」が蠢き始めます。

そこに姿を現したのは琴音。美優からハサミを取り上げると、代わって鳴の指を切り落そうとします。やがて地面に切られた指が落ちると、村人たちは歓喜の声を上げます。

その隙に琴音はハサミで鳴の拘束を解き、その場から逃げ出します。琴音は鳴のではなく自らの指を切り落とし差し出すことで、村人たちの目を欺いていたのです。

しかし逃走中、鳴は誤って地下の穴へと転落。足を負傷し穴からも這い上がれそうにない状況に陥る中で、鳴は「本当の記憶」を思い出します。

かつて箱を戻すべく樹海の中の村へ訪れた琴音と幼い姉妹。しかし、幼い鳴を助けようとした際に土中の「村人」に引きずり込まれ、鳴が落ちたのと同じ穴へ転落。足を負傷してしまい全てを悟った琴音は、姉妹に自分を置いて逃げるように促し、涙ながら今生の別れを告げたのです。

記憶の中の琴音……穴の中でそのまま息絶えた琴音の亡骸を抱きしめる鳴。しかし地上では、にやついた輝・美優が顔を覗かせていました。そして箱の中身である指を穴の中へ落としたかと思うと、指の切断面から肉が湧き、「指」だけだった「村人」は人の形を成していきます。


(C)2021「樹海村」製作委員会

恐怖する鳴が肩に触れる手に気づき振り返ると、そこには隔離室に閉じ込められているはずの響が。響は混乱する鳴の手を引き、人の姿をすらも捨て樹木と化しながらも追いかけてくる「村人」から逃げます。

しかし「実体」として隔離室内にいる響は、木々の「影」に体内をも侵食され、天井へと叩きつけられます。それと同時に、「生霊」或いは「思念体」である穴の中の響も負傷しました。それでも必死に逃走を続ける中、全員が樹木と化したことで「村人」の襲撃は止まりました。

突如、鳴は強烈な耳鳴りに襲われます。響は彼女を心配しますが、ふと何かに気づき「私を呼んでる」といずこかを見つめます。

耳鳴りに苦しみながらも、「お姉ちゃんは逃げて」と語る響とともに再び逃げ出そうと彼女の左手を掴む鳴。しかし響の左手であるはずの薬指は、いつの間にか切り落とされていました。

響は「ずっと一緒にいるからね」と鳴を抱きしめたのち、彼女を突き飛ばしました。響の足には木の根が食い込んでいき、手足自体が樹木へと変化。そんな彼女の体に「村人」が群がり融合していきます。

大樹と化した響は伸び続け、ついには地上へと穴を空けるまでに成長。瞼を閉じ完全に樹木となってしまった瞬間、隔離室内にいた響もまた息を引き取りました。そして樹海から脱出し、何とか車道付近にまでたどり着いた鳴は、通りかかった出口に保護されました。

エンドロールが始まったと思いきや、突如映画は山中の大きな一軒家で暮らす、絵に描いたように幸福そうな家族を映し出します。広々とした庭で母親は洗濯物を干し、父親はバーベキューで食事の支度をする中、幼い娘ねねは「何か」を探している様子でした。

ねねはやがて「そこにいるんでしょ?」と家の車庫へ入っていきます。そして探していた「何か」を見つけ、その場でしゃがむと「ひーびきちゃん」と「誰か」の名を呼びました。

ねねがしゃがみ込んだ目の前には、富士・青木ヶ原樹海に置き捨てられたはずの「箱」がありました。そして箱がガタリと勝手に動いたかと思うと、響の「きちゃだめ」という声が、いずこから聞こえてきました……。

映画『樹海村』の感想と評価


(C)2021「樹海村」製作委員会

約束/契約の手段としての「ゆびきり」

「ゆびきりげんまん、うそついたら、はりせんぼんのます、ゆびきった」……幼い頃、誰もがこの文句を歌いながら、友だちや家族と「約束」をした経験や記憶はあるのではないでしょうか。

鎌倉時代成立の歴史書『吾妻鏡』にも、誤って同士討ちをした武士に対し「右手の指を切り落とす刑」でもってその責を負わせていた様子が記されるなど、古くから行われていたとされる、約束または契約時の「指切り」。


(C)2021「樹海村」製作委員会

大衆文化として広まった原因には、男女が「愛情の不変」を誓う証拠立ての行為「心中立て」のおいて指切りを行うことがあったこと、そこから遊郭で働く遊女が客に対する心中立てとして「切った指」(多くは職人による「模造品」だったようですが)を渡すようになったことが挙げられます。またヤクザ映画で度々描かれる「指詰め」も、「指切り」が広まった原因の一つといえます。

そして『樹海村』作中でも、映画終盤で美優とともに鳴の「左手薬指」を切断しようとした輝が生前触れている通り、「結婚指輪」もまた「指切り」の発想に基づく約束の方法の一つであると示唆されています。

「指切り」で約束/結束する樹海村の証コトリバコ


(C)2021「樹海村」製作委員会

映画『樹海村』の題材である人気ネット怪談「コトリバコ」において、呪殺の道具であるコトリバコは「指やへその緒などの『子どもの死体』を材料に製作された」「『箱が置かれた家の女性と子どものみを全員呪い殺す』という効力を持つ」と説明されています。

しかしながら『樹海村』作中で描かれている「箱」=コトリバコは、製作に必要な材料が「人間の指と血液」へ、完成した箱が持つ効力も「箱が置かれた家の人間を性別・年齢関係なく呪い殺す」という形へと改変されています。

なぜ製作陣は「指」にこだわり、呪いの対象者も元ネタの怪談以上に広げたのか。そこには同じく映画の題材とされている都市伝説「樹海村」との融合、上記でも触れた「指切り」という行為に込められている意味「約束/結束」が深く関わっているのではないでしょうか。


(C)2021「樹海村」製作委員会

映画作中で描かれている樹海村は、「神の森」であった樹海へ「生贄」という建前のもと、様々な事情や都合によって森に捨てられた人々が死に切れなかったことで作り上げた村として描かれています。

村人たちは一度は作り上げた村を、どうにか残そうとした。その果てに生み出されたのが、「指切り」という村人たち全員の「約束/結束」の証明によって製作したコトリバコだった。

映画『樹海村』はコトリバコを「村を外敵から守るべく、聞くも悍ましい経緯で製作された呪殺の道具」という一側面だけで描いてしまうのではなく、呪殺の道具を製作するに至った村人たちの「約束/結束」という狂気に着目。

その結果、コトリバコが持つ「呪殺の道具」、そして「村の約束/結束の証であり、村の存続・繁栄を意味する象徴」という一見真逆ともいえる二つの側面を独自に解釈・描写したのです。

まとめ


(C)2021「樹海村」製作委員会

本作の題材となった怪談において、「コトリバコ」の正式な表記は「子取り箱」であり、「女性と子どものみを全員呪い殺し、その家の子孫を絶やす」という効力から由来していると描かれています。

対して映画『樹海村』版のコトリバコは、妊娠していた美優やその子どもを死に追いやった一方で、それらはあくまでも物語上の「ミスリード」を狙って描かれています。

そしてそのミスリードの先に描かれるのは、『樹海村』版コトリバコにとっての「子」とは「村の子ども」とも表現できる「村人となる人間」であり、樹海村の存続のため、新たな住人となる人間を「取る」ために製作された物であるという衝撃の真相でした。

「村を守るために自身たちの子どもを殺した人間の狂気」が物語の肝である怪談「コトリバコ」を再解釈。その「肝」をさらに「閉鎖空間としてのコミュニティで結実する狂気」に焦点に当てたことで、『樹海村』は新たなコトリバコ像を生み出したのです。







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