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Entry 2020/11/01
Update

【スリー・フロム・ヘル】高橋ヨシキ×てらさわホークによる映画解説トークショー開催!《シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020》

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  • 20231113

映画『スリー・フロム・ヘル』は、シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020にて上映中!

1968年に創設され世界で最も権威ある、SF・ホラー・スリラーサスペンス映画などファンタジー系作品の祭典として名高いシッチェス映画祭

そこで上映された作品の中から、厳選された話題作を日本で上映する“シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020”が、今年も実施されました。

今回その目玉というべき作品が、ロブ・ゾンビ監督作、「マーダー・ライド・ショー」シリーズ第3作となる『スリー・フロム・ヘル』。

過激なホラー映画を手掛けながらも、常に自らの映画愛を作品に織り込むロブ・ゾンビ監督。

その最新作を、ジャンル映画を語れば第一人者の高橋ヨシキ、てらさわホーク両氏が熱く語ります。

映画『スリー・フロム・ヘル』の作品情報


(C)2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

【日本公開】
2020年(アメリカ映画)

【原題】
3 from Hell

【監督・脚本】
ロブ・ゾンビ

【出演】
ビル・モーズリー、シェリ・ムーン・ゾンビ、リチャード・ブレイク、ダニー・トレホ、エミリオ・リヴェラ、シド・ヘイグ

【作品概要】
殺人一家の凶行を、極彩色で描いたスプラッター映画『マーダー・ライドショー』(2002)。

その続編で一家の逃走劇を、一転アメリカン・ニューシネマ風のタッチで、破滅の美学をもって描く『デビルズ・リジェクト マーダー・ライド・ショー2』(2005)。

待望のシリーズ3作目が、ロブ・ゾンビ監督とオリジナルキャストの出演で完成しました。

出演はシリーズの主役、ビル・モーズリイにシェリ・ムーン・ゾンビ。そしてロブ・ゾンビ監督『31』(2016)で怪演を見せた、リチャード・ブレイクが殺人一家の新たなメンバーに加わります。

特異な風貌で個性的な脇役として活躍し、『マチェーテ』(2010)と続編『マチェーテ・キルズ』(2013)で主役を演じたダニー・トレホも出演。

そして2019年に亡くなったシド・ヘイグも、シリーズの顔、キャプテン・スポールディング役として本作に登場しています。


映画『スリー・フロム・ヘル』のあらすじ


(C)2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

1978年、逃避行の果てに警官隊の激しい銃撃を受け、無数の銃弾を浴び倒れたオーティス、ベイビー、キャプテン・スポールディングの殺人一家。

生き残った彼らは挑発的な態度で裁判に臨み、その姿勢が信奉者を集め世間を騒がせました。

10年後のハロウィンの時期、死刑を逃れたオーティスとベイビーは、”ミッドナイト・ウルフマン”ことフォクシーの助けを借り、脱獄に成功します。

獄中生活で狂気度を増した彼らは、殺人行脚を繰り返しながらメキシコを目指します。

死者の日に賑わうメキシコの町で、彼らにどんな運命が待つのか。血塗れのロードムービーが今、幕を開ける…。

映画『スリー・フロム・ヘル』トークショー

左から高橋ヨシキ氏、てらさわホーク氏


10月31日(土)ハロウィンの日、ヒューマントラストシネマ渋谷の『スリー・フロム・ヘル』19:05の回終了後、高橋ヨシキさん、てらさわホークさんのトークショーが実施されました。

厳しい環境で生まれ公開された続編

高橋ヨシキ氏:以下、敬称略)今日は満席ですが、これはロブ・ゾンビに中継で見せるべきですね。

『スリー・フロム・ヘル』はアメリカでは、配信中心でまともに公開していないので、この盛況を見たら泣くんじゃないでしょうか。

『マーダー・ライドショー』と『デビルズ・リジェクト マーダー・ライド・ショー2』は同じ予算位で作られましたが、今回はその半分、300万ドル位で作られました。

てらさわホーク氏:以下、敬称略)それもあって汚いですね、全体的に(笑)。しかし、その汚さが実に美しいというか。

高橋ヨシキ:今回の作品が良いのは、オープニングが「チャールズ・マンソン事件」がベースになっており、それに似せて撮っています。

“ベイビー”(シェリ・ムーン・ゾンビ)が収監された牢獄か登場します。

これは実際スーザン・アトキンス(マンソンファミリーの1人で実行犯)が収監された場所で、今は撮影とかに使えるんですが、そこで撮っているんですよ。

僕にとっては、タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)より、マンソン度が高い映画です。

てらさわホーク:マンソンファミリーに対する愛とこだわりがあり過ぎる、それは間違いないですね(笑)。でも前作の『デビルズ・リジェクト』は、思えば2005年の作品なんですね。

高橋ヨシキ:『デビルズ・リジェクト』の最後で皆警察に撃たれて、観た人はガン泣きでしょ。

それを続編でどうしてくれるのかと思ったら、「悪魔的な回復力」だと説明する。その手があったかと(笑)。

“キャプテン・スポールディング”を演じた、シド・ヘイグは亡くなりましたが、この映画の撮影時には相当まずい状態で、1日だけ病院から抜け出して、撮影させてもらったという話です。

彼が抜けた穴を埋めた、”ミッドナイト・ウルフマン”を演じる、リチャード・ブレイクが実に良いこと。

てらさわホーク:間違いないです。あの人のキャラクターは、絶対に友達になりたい感じです(笑)。

高橋ヨシキ:彼と”オーティス”(ビル・モーズリー)が脱走して最初にする会話が、どっちが『必死の逃亡者』(1955)のハンフリー・ボガートに似てるか…そんな奴いないよね。

『マーダー・ライドショー』から続くシリーズで、必ず皆で飲んで騒いで、あと裸のオバさんを殺す(笑)。こういった事を毎回必ずやっている、シリーズ感が強い作品です。

こだわりのキャスティング


てらさわホーク:今回ビックリした事があって、モーテルの親父、どっかで見たな、誰だろうと思いました。

エンドロール見て声を上げました。ジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)の、リチャード・エドソンなんですね。

気付いて感動しました。俳優としてTVやインディーズ映画に出ていたんですが、こんな所で大フィーチャーされているとは。そこにロブ・ゾンビのインディーズ映画魂を感じました。

高橋ヨシキ:ロブ・ゾンビはタランティーノとは違う形の目利き感というか、奥ゆかしい俳優の使い方をするんです。

ナレーションが『ロッキー・ホラー・ショー』(1975)の、バリー・ボストウィックなんて言われなきゃ判らないし、クリント・ハワードも最初は誰か判らず、やっと気づきました。

鬼のような女看守役は、『E.T.』(1982)や『クジョー』(1983)のお母さんを演じた、ディー・ウォレスだし。

この女看守の名前が”グレタ”という…ここで”イルザ”にしないのが、ロブ・ゾンビの奥ゆかしさ(笑)。

“イルザ”だと(ダイアン・ソーンが演じた)ナチの女収容所所長映画モノそのままだから、ジェス・フランコ監督の同じコンセプトの映画に出てくる、”グレタ”の名を使ってくる。

ロブ・ゾンビの映画愛が詰まった作品


高橋ヨシキ:ロブ・ゾンビは本当に古い映画好きです。

“ベイビー”が見る、猫の仮面のバレエダンサーのシーン、あれはミケーレ・ソアビ監督の『アクエリアス』(1986)のフクロウの仮面の男そっくりです。

だけど今日見直して、そのシーンの舞台や背景を見ると、ジョルジュ・メリエス(映画草創期のフランスを代表する監督)をやりたかったんだなぁと気付きました。

ロブ・ゾンビは『ロード・オブ・セイラム』(2012)でも、ビジュアル的にメリエスに言及していますからね。

本作で劇中に、TVに映る映画は『ベラ・ルゴシのジャングル騒動』(1952)。人間をゴリラに改造するマッドサイエンティストが出てくる、誰も知らない映画です(笑)。

次に出てくるのが『美しき生首の禍(死なない頭脳)』(1962)の、ラストのシーンなんですよ。

それだけでもお腹いっぱいなのに、最後にロン・チェイニーの『ノートルダムのせむし男』(1923)が出てくる。

てらさわホーク:大事なところですね。そこから”ベイビー”と、”セバスチャン”のエピソードにつながる。リリシズムがありますね。

高橋ヨシキ:この映画はメキシコで撮影する予算は無くて、ハリウッド周辺の大手スタジオ以外のバックロット(撮影所近くの野外撮影場)で撮影したんです。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に登場する、マンソンファミリーの住むスパーン牧場も同じような性格の場所。

そんな場所でメキシコを撮ったんですが、狭い感じになるかと思いきや、それっぽく見えました。

てらさわホーク:最初に汚いと言いましたが、画面の細部まで汚い、そこに感動したんですよ。

中々無いでしょ、絵になる汚さというのは。見ている内に段々落ち着く感じになります。

高橋ヨシキ:ロブ・ゾンビの「汚くたっていいじゃないか」イズムは感じますね。今回良かったことは一杯あるんですが、”セバスチャン”が現れ、最後の戦いの前にかける曲。

てらさわホーク:ああ、「ガダ・ダ・ヴィダ(In-A-Gadda-Da-Vida)」という、ロック・バンド”アイアン・バタフライ”の名曲ですね。

『悪魔のいけにえ2』の中でかけろかけろ、って言ってた曲です。

高橋ヨシキ:こういった発見の他人に伝わらないもどかしさ、こういう嬉しさがありますね(笑)。

今回、日本でハロウィンの晩に、こんな大勢で『スリー・フロム・ヘル』が見られる状況は嬉しく、皆さんの思いは時空を超えて、絶対にロブ・ゾンビに届くと思いますよ。

てらさわホーク:本日はありがとうございました。

まとめ


(C)2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

前作を見ずとも、凄惨なシーンに酔いしれる映画『スリー・フロム・ヘル』。前2作をご覧になれば、より深く楽しめます。

殺人映画でありながら、シド・ヘイグが病を押し出演した遺作と知ると、そのシーンに感動すら覚えました

流血シーンに注目が集まりますが、重度の映画マニア、ロブ・ゾンビ監督のこだわりが詰め込まれた映画です。

それを高橋ヨシキ、てらさわホーク両氏がトークショーで詳細に語ってくれました。映画を楽しむ手引きにして下さい。

映画の始まる1978年。チャールズ・マンソン事件の発生した1969年から時間が経過しています。

しかしこの年、カルト教団人民寺院が集団自殺を行い、世界に衝撃をあたえます。映画のオープニングは、そんな時代の空気も再現しています。

10年後、彼らが脱走し凶行を繰り返したのは、1988年のハロウィン~死者の日の時期です

それはレーガン政権が終わりつつあり、そして後継者のブッシュ大統領の誕生を決める、大統領選挙の最中でした。

アメリカが保守化に動き、それが盤石のものとなった時期。60~70年代とは全く異なる空気が支配する時代です。

そんな世の風潮に逆らうように、前作より過激な凶行を繰り返す殺人一家たち。

この姿には、体制や世間の良識を物ともしない、ロブ・ゾンビの反骨的な姿勢が反映されています

高橋ヨシキ、てらさわホーク両氏はトークショーで、その過激な部分も「適切な」言葉で語ってくれました

余りに「適切な」言葉だったので、トークショーレポートでは控えたものもあります。

この文字に出来ないヤバさは、映画を見て感じ取って下さい。『スリー・フロム・ヘル』、シリーズ3作目に相応しい作品です。

映画『スリー・フロム・ヘル』は、シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020にて上映中!







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