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Entry 2019/09/19
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映画『ボーダー(2019)』感想考察と評価レビュー。原作は【ぼくエリ】で知られるヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの短編小説

  • Writer :
  • 増田健

映画『ボーダー 二つの世界』は2019年10月11日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー!

映画『ボーダー 二つの世界』の原作者は、異色の吸血鬼小説「MORSE モールス」のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストです。

「MORSE モールス」は、スウェーデンで『ぼくのエリ 200歳の少女』として、その後ハリウッドで『モールス』として映画化され、世界のホラー映画ファンを虜にしました。

彼の短編小説が新たに『ボーダー 二つの世界』として映画化されるや、各国の映画祭で注目を集め、数多くの賞を獲得し高い評価を獲得。

脚本と監督を務めたアリ・アッバシは、この作品でスウェーデンのアカデミー賞である、第54回ゴールデン・ビートル賞を最多6部門で受賞。更に第71回カンヌ国際映画祭では、ある視点部門のグランプリを獲得しました

世界に『ぼくのエリ 200歳の少女』と同様の衝撃を与えた、せつなくも美しい異色の北欧ミステリー映画『ボーダー 二つの世界』が、いよいよ日本公開されます。

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映画『ボーダー 二つの世界』の作品情報


(C)Meta_Spark&Karnfilm_AB_2018

【日本公開】
2019年10月11日(金)(スウェーデン・デンマーク合作映画)

【原題】
Gräns

【脚本・監督】
アリ・アッバシ

【出演】
エヴァ・メランデル、エーロ・ミロノフ、ヨルゲン・トーション、アン・ペトレーン、ステーン・ユンググレーン

【作品概要】
北欧スウェーデンの税関で働く、特殊な能力を持つ女。孤独な生活を送っていた彼女は、ある男と出会った事で、真の自分の姿に目覚めていきます。その物語を美しい大自然を背景に描く、一つのジャンルに収まらない作品。出演のエヴァ・メランデルとエーロ・ミロノフは、特殊メイク姿でこの役を熱演、国際的にも評価され、第91回アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされました。

監督はイランからスウェーデンに移り住んだアリ・アッバシ。2016に発表した初の長編映画『Shelley(原題)』は、ベルリン国際映画祭のパノラマセレクションで、プレミア上映を果たしている人物です。監督と原作者ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト、そして女性映画監督でもあるイサベッラ・エークルーヴの3人が共同で脚本を手がけ、胸を打つ物語を完成させました。

映画『ボーダー 二つの世界』のあらすじ


(C)Meta_Spark&Karnfilm_AB_2018

スウェーデンの税関で働く女性職員のティーナ(エヴァ・メランデル)。彼女は父(ステーン・ユンググレーン)を老人ホームに預けて、森の中に建つ家で暮らしていました。

森の奥にある家は近隣に住む者も少なく、ティーナは居候する恋人とは愛情も無く、心の通わせる事も無い日々を送っていました。

醜い容姿に悩まされた結果か、彼女はひっそりと孤独に生きる事に慣れていました。そんな寂しい日常の中で、自然との触れあいに安らぎを見い出していたティーナ。

ティーナには特殊な才能がありました。それは人間の心を嗅ぎ分ける能力です。税関職員として働く彼女は、その力で違法な物を持ち込む人物を摘発し、職場で頼りにされる存在でした。

ある日、勤務中に怪しげな旅行者ヴォーレ(エーロ・ミロノフ)に出会うティーナ。彼女は同僚と共に彼を検査しますが、証拠は無く彼は入国審査をパスします。

ヴォーレから本能的に、何かを感じたティーナ。後日再会した彼に、自宅の離れを宿泊先として提供します。

徐々にヴォーレに魅かれていくティーナですが、職場で彼女はその特殊な能力を買われ、ある事件の捜査に協力する事になってゆく。

やがてヴォーレの正体に気付いたティーナ。しかしそれは、彼女の出生の秘密を暴いていく事になるのです…。

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映画『ボーダー 二つの世界』の感想と評価


(C)Meta_Spark&Karnfilm_AB_2018

短編小説を大胆に加筆したストーリー

特殊な能力と出生に秘密を抱えた主人公。彼女を通して描かれるミステリアスなストーリーは、社会に潜む様々な”境界線”を暴いていきます。

実は原作小説は、ほぼ全ての物語がティーナの日記を通して描かれる展開です。彼女は自分の身に降りかかる事態を受動的に受け止め、傍観者の様な姿勢で語ります

そういった内容を踏まえて、原作者も出版社も他の小説の映画化を薦めてきた、と監督のアリ・アッバシは語っています。しかし監督はこの作品を『ぼくのエリ 200歳の少女』と同様の、幾つものテーマを内包した作品にする事を望んでいました

現代の吸血鬼ファンタジーであった『ぼくのエリ』。しかし同時に現代のスウェーデン社会を反映し、登場人物の歪んだ形の愛を描く、ホラー映画の枠を越えた映画でもあります。

『ボーダー 二つの世界』をホラー・ファンタジーの枠を越えた、ミステリアスで社会問題を反映したものにしたかったアッバシ監督。まず原作者のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストと、次いでイサベッラ・エークルーヴと脚本に手を加えていきます。

その過程で原作に無い、犯罪捜査のエピソードが加わります。その結果映画は北欧ミステリーの雰囲気を漂わせながら、様々な価値感の”境界線”を示す作品になりました

女性監督が脚本に加わり深みを増した物語


(C)Meta_Spark&Karnfilm_AB_2018

この映画の主人公ティーナは孤独であっても、仕事とパートナーは持っている、形の上では恵まれた生活を送っていました。

国境という”境界線”を管理していた彼女は、ヴォーレとの出会いを通して、暫悪や美醜、性別や貧富、自然や人間に関わる、様々な価値の”境界線”と向き合う事になります

イランからの移民であるアッバシ監督が、こういった問題を取り入れた結果、この映画はミステリーやファンタジーのジャンルを越えた、異色の作品となりました。

『ボーダー 二つの世界』の脚本に関わった、もう一人の脚本家がイサベッラ・エークルーヴ。彼女は”未体験ゾーンの映画たち2019”で上映された映画、『ビッチ・ホリディ』を監督した人物です。

参考映像:『ビッチ・ホリディ』予告編(2019)

『ビッチ・ホリディ』は北欧の女性が、地中海のEU圏を越えた先にある場所、トルコの保養地で享楽的な日々を過ごすお話です。

しかし彼女は贅沢な暮らしを目当てに、承知の上で犯罪に関わる事業で財を成した危険な男に、訳ありな事情で接近していました。

当然2人の間にまともな愛情はありません。しかし拝金主義に染まった多くの現代人同様、彼女は贅沢な暮らしを捨てる勇気も持ちません。そんな彼女が、この保養地で別の価値感に従って生きる、魅力的な男性と出会う事になります。

この女性の心の揺れ動きを、北欧から遠く離れた異境の地で、言語も価値観も異なる人々が集う環境で描いた作品が『ビッチ・ホリディ』です

若い女性というだけで、虚飾に満ちた生活を楽しむ可能性があるが、同時に物のように扱われる事に甘んじる。そんな姿を映画は見事に捉えています。

女性ゆえに日常に潜む、様々な”境界線”を実感していたのか、それを表現する事に長けた人物であるイサベッラ・エークルーヴ。

『ボーダー 二つの世界』の脚本は、彼女が参加する事で社会的な問題に、より踏み込んだ内容になった事は間違いありません

まとめ


(C)Meta_Spark&Karnfilm_AB_2018
北欧のスウェーデンの地で起こる、ミステリアスな事件を様々なテーマを含めて描いた『ボーダー 二つの世界』。

映画で起きる衝撃の展開を経て、自らを取り戻した主人公ティーナがどの様な決断を下すのか、その展開にご注目下さい。

北欧ミステリーとして、また『ぼくのエリ 200歳の少女』と同様の美しい物語として、多くの注目を集めている作品です。

同時にこの映画は、スウェーデンの豊かな自然を背景に描かれた作品です。緑や水に囲まれ、様々な動物が登場する自然の姿は、社会や心の内に存在する、”境界線”に区切られた人々を大きく包み込む様に描かれています

この美しい自然の光景を味わうのも、この映画の楽しみ方の1つです。

ところで劇中で様々な動物と共に、巨大なヘラジカが登場しますが、さすがにトレーナーが付いて撮影しています。

おっとりとした印象ですが、巨体を持つ動物です。機嫌を損ねて暴れると、映画の中で最も危険な存在に早変わりしたでしょうね。

『ボーダー 二つの世界』は2019年10月11日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー!

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