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Entry 2016/12/30
Update

映画『転校生』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も【大林宣彦の尾道三部作第1作目】

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

『君の名は。』の大ヒットの要因となった重要なモチーフは、「男女の入れ替わり」。

その1つに挙げられる映画『転校生』が注目をあびています。

今回は、思春期の性への興味と不安を切なくも爽快に描いた青春映画。

大林宣彦監督の代表作の『転校生』をご紹介します。

転校生
(C)東宝

映画『転校生』の作品情報

【公開】
1982年(日本映画)

【監督】
大林宣彦

【キャスト】
尾美としのり、小林聡美、佐藤允、樹木希林、宍戸錠、入江若葉、中川勝彦、井上浩一、岩本宗規、大山大介、斎藤孝弘、柿崎澄子、山中康仁、林優枝、早乙女朋子、秋田真貴、石橋小百合、伊藤美穂子、加藤春哉、鴨志田和夫、鶴田忍、人見きよし、志穂美悦子

【作品概要】
原作は山中恒の『おれがあいつであいつがおれで』で、これが初の映画化。この作品の監督は、大林宣彦。また、2007年に自らリメイク版を制作して、1982年版は「尾道転校生」、2007年版は「長野転校生」と呼ばれています。

映画『転校生』のあらすじとネタバレ

転校生
(C)東宝

広島の尾道に住む斉藤一夫は、8ミリ映画撮影が好きの中学3年生。悪ガキの友人たちと女子更衣室を覗いたりと、ごく普通の少年。

ある日、一夫のクラスに、転校生の斉藤一美と名のる少女がやって来ました。

担任の大野先生が一美を紹介していると、一美は一夫を見て叫ぶ。「デベソの一夫ちゃんじゃない?」。

久しぶりに幼馴染の一夫と再会した一美は大喜びでまとわりつきます。しかし、クラスのみんなに恥を晒された一夫は、大迷惑で面白くない。

その帰り道、神社の境内にいた一夫は、階段の上にいた一美めがけて空き缶を蹴飛ばします。

驚いた一美は、階段から落ちそうに。一夫は助けようと抱きつくが、2人はそのまま階段をころげ落ちます。

しばらくたって、意識を失っていた2人は目を覚まします。少しもうろうとした気分で、それぞれの家に帰ります。

やがて、身体が入れ替っていることに気づいた、女子の身体になった一夫は愕然。

男子の身体になってしまった一美は泣き出します。

入れ替わったことに混乱するが、2人はそれぞれの生活をすることにします…。

以下、『転校生』ネタバレ・結末の記載がございます。『転校生』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
突然、男っぽく粗野になった一美や、その逆に女っぽく礼儀正しい一夫。

それぞれの家族は、少し変だなと戸惑うが、誰も入れ替っているなどとは考えもしません。

学校に行っても、一夫は突然勉強ができるようになりクラスメイトは驚きます。

悪ガキの友人たちは、オカマっぽくなった一夫をからかうと、一美が怒って乱闘騒ぎを起こします。

ある日、一美は、弘というボーイフレンドと会うことになります。一夫は、一美を演じているうちにボーイフレンドの弘を揶揄してしまい、一美を怒らせてしまいます。

やがて、一夫は父の転勤で横浜に引っ越すことになり、いつまでたっても元の身体に戻らない2人は絶望的になってしまう。

特に、一美は自死を考えるほど落ち込み追い込まれてしまいます。

その一方で、互いの身体に嫌悪感を感じつつも、徐々に異性の愛情が芽生えていきます。

一夫の引っ越しが間近に迫ったある日、あの神社の階段の上で、一夫と一美の2人は、ふとした弾みで、またも、階段を転げ落ち…。

あの時と同じように、目を覚ますと、2人は元の一夫と一美に戻っていました。

泣きながら2人は、「俺、一美が大好きだ」、「この世の中で誰よりも一夫君が好き」と抱擁します。

一夫の引っ越しの日。一美が見送りに来ます。

動き出したトラックを追いかける一美に気がつくと、一夫は助手席から顔を出し、追い掛けてくる一美の姿を8ミリカメラで撮り続けます。

それぞれは、「サヨナラ、オレ」「サヨナラ、あたし!」と叫びます…。

映画『転校生』の感想と評価

転校生
(C)東宝

この作品は、以後に、大林宣彦監督の、『時をかける少女』、『さびしんぼう』と併せて「尾道三部作」と呼ばれ、多くのファンに愛された作品です。

また、自主製作映画を目指す若者が増えたキッカケの作品でもあり、一種の“大林監督チルドレン世代”を生んだ火付けとなった映画

この作品は、製作に日本テレビ網が入っており、定期的にテレビで放映されることで、田舎住む若い多くの映画ファンも視聴できました。

そのことが映画人の芽を育てるキッカケとなります、一方で日本テレビは、宮崎駿作品「スタジオ・ジブリ」と繋がっていきます。映画とテレビの世界をつないだ『転校生』の功績は大きいのです。

さらに現在では全国に浸透した、「フィルム・コミッション」や、「聖地巡礼」といったブームの原点でもあります。

大林監督の演出の見事さも如実に現れており、何と言っても小林聡美の演技力には目を見張るものがあります。

この作品は、小林聡美という女優なしでは、斉藤一美役や作品自体が成り立たなかった作品ではないでしょうか。

男女が入れ替わってからの一美の思いっきりのよさは、揺れるオトコ心と、処女の身体が一体化しているというアイデア設定を見事具現化しています。

もちろん、斉藤一夫役を演じた尾美としのりにも言えることです。

“大林映画”といえば、尾美としのりと言われるほど、尾美としのりは大林映画になくてはならない存在。『この空の花 長岡花火物語』(2014)まで、合わせて14本の作品に出演を果たしています。

大林監督は、尾美としのりを「フランソワ・トリュフォーの映画に於ける、ジャン=ピエール・レオみたいなものです。僕自身の少年時代を描くには欠かせない」と雑誌で述べています。これほど監督から愛される俳優は、なかなかいません。

小林聡美と尾美としのり。日本映画やテレビにとって、小林聡美と尾美としのりは、今後も名優であり、名バイプレヤーとして活躍し続けるはずです。

まとめ

転校生
(C)東宝

新海誠監督の『君の名は。』と『転校生』。この2作品の類似テーマは、「思春期の男女が入れ替わることで、大人への一歩を踏み出した」こと、つまり「抽象化した性/span>」なのです。

男女が入れ替わったことで、心と身体が別人物と混じり合い、1つになります。

初恋に身を焦がした時に、自分の身体(心)が相手のことでいっぱいになってしまったことを映像化しているとも言えるのではないでしょうか。

2つ目は、一夫と一美を引き合わせた運命の結び役である大野光子先生の存在です。

志穂美悦子の演じた2人の担任の先生「大野光子」は、『東京物語』(1953)のダブルイメージを担っています。

志穂美悦子は、ジャパンアクションクラブが初めて売り出したアクションスターであり、アイドルとしてお馴染み。

彼女が出演するというだけで、「志穂美悦子だ!」と言わしめる人気者でした。

その志穂美悦子の演じた大野先生は、小津安二郎監督の名作『東京物語』の中で、主人公の娘役香川京子演じる尾道の小学校教師をイメージ化したものと言えるでしょう。

『転校生』と『東京物語』とが、同じ尾道を舞台としたことを、この先生役を通じて、世代を超えて結びつけています。

このダブルイメージは、あらゆる世代の映画ファンを繋ぐ役目でもあり、CM監督出身の大林宣彦ならではの、粋な計らいです。

京子が尾道に住んでいる幻影は、大林流の映画に協力してくれた地元民への感謝と、郷土愛の表れとも言えます。

1980年代当時、日本映画界では、大林宣彦監督の観せたシネフィルや引用表現は、それほど一般化されておらず、日本では大林監督が先駆者といっても良いかもしれません。

『君の名は。』もこの点では同じ。タイトルの『君の名は。』は、大庭秀雄監督の『君の名は』とダブルイメージな訳ですから。

ということで、映画『転校生』は観たことのない方は、ぜひご覧になってください。

また、『君の名を。』を観た若い映画ファンにもお薦めの1本。

日本の青春映画のベストテンには必ず挙げられる1本です!ご覧下さい!

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