ティム・バートン監督×ジョニー・デップで贈るファンタジーアドベンチャー
『チャーリーとチョコレート工場』(2005)、『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(2008)のティム・バートンが、ルイス・キャロルの名作児童文学『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』の主人公アリスのその後を描いたファンタジー。
19歳に成長したアリスは、かつてワンダーランドに行ったことを忘れかけていました。そんなアリスに母親は結婚することを望んでいます。
しかしアリスは、結婚をする気になれず、パーティー会場にいたウサギを追いかけて再びワンダーランドに。
ワンダーランドの住人は、アリスが「予言の書」に記された戦士であり、アリスが暗黒時代を終わらせてくれることを期待しますが……。
帽子屋のマッドハッター役にジョニー・デップ、赤の女王役にヘレナ・ボナム=カーターとティム・バートン監督作にお馴染みのキャスト陣が顔を揃えるほか、『プラダを着た悪魔』(2006)のアン・ハサウェイが白の女王を演じました。
アリス役を演じたのは、本作でハリウッドで初主演を飾ったミア・ワシコウスカ。
映画『アリス・イン・ワンダーランド』の作品情報
【日本公開】
2010年(アメリカ映画)
【監督】
ティム・バートン
【原作】
ルイス・キャロル
【脚本】
リンダ・ウールバートン
【キャスト】
ジョニー・デップ、ミア・ワシコウスカ、ヘレナ・ボナム・カーター、アン・ハサウェイ、クリスピン・グローバー、マット・ルーカス、フランシス・デ・ラ・トゥーア、リンゼイ・ダンカン、ジェラルディン・ジェームズ、ティム・ピゴット=スミス、マートン・ソーカス、アラン・リックマン、スティーブン・フライ、マイケル・シーン、ティモシー・スポール、バーバラ・ウィンザー、クリストファー・リー、マイケル・ガフ、ジム・カーター、イメルダ・スタウントン、ポール・ホワイトハウス
【作品概要】
『チャーリーとチョコレート工場』(2005)、『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(2008)と、数々の作品でタッグを組んできたティム・バートン監督とジョニー・デップタッグが贈るファンタジーアドベンチャー。
アリスを演じたのは、本作がハリウッド初主演となるミア・ワシコウスカ。赤の女王役にはヘレナ・ボナム・カーター、白の女王役はアン・ハサウェイが務めました。また、アブソレムの声はアラン・リックマンが務めました。
映画『アリス・イン・ワンダーランド』のあらすじとネタバレ
19歳に成長したアリス。理解者であった父は亡くなり、母はアリスの将来を案じて貴族の青年と結婚させようと、アリスに内緒で婚約パーティーを催します。
アリスはコルセットをせず、ストッキングも嫌いだと履こうとしません。そんなアリスに「あなたは綺麗だけれど若さはいつか衰えるのよ」と母は言います。
アリスはどこか納得できずにいます。パーティー会場でもどこか上の空で風変わりなことばかり考えているアリスは、結婚を申し込まれて呆然とします。
「皆がそう期待していることは分かる。でもちょっと考えさせて」と言うとウサギの後を追っていき、穴の中に落ちてしまいます。
するとみたことのない部屋にたどり着きます。机には「私を食べて」と書いた食べ物や「私を飲んで」と書いた飲み物があります。それらを口にすると体が大きくなったり、縮んだり……混乱しながらも鍵を開け外に出たアリスは不思議な庭園に迷い込んでいきます。
そんなアリスの目の前に現れたのは先ほど目にした服を着たうさぎに、風変わりな双子、そして服を着たヤマネです。皆「アリスじゃない、違うアリスだ」と口にしています。
「私の夢なのにどうしてアリスじゃないの」と混乱するアリスに皆は「予言のアリスならフラブジャスの日にジャバウォッキーを倒すはずだ」と言います。「私が殺せるわけがない。私は求めているアリスじゃない」とアリスは言います。
皆はアリスをアブソレムの元に連れていきます。アブソレムは煙を吐きながらアリスを「ほとんど違う」と言います。
そこに赤の兵士とバンダースナッチがやってきて皆を捕まえていきます。アリスは必死に逃げますが、「これは夢なの、恐ろしいことは起きない」とバンダースナッチに対峙しようとします。
そんなアリスを助けるために、ヤマネはバンダースナッチの目をくり抜きます。くり抜かれた痛みで暴れたバンダースナッチの爪が、アリスの腕を切り裂きます。アリスは腕を怪我したまま森の中を逃げます。
次にアリスの目の前に現れたのは姿が消せるチェシャ猫でした。チェシャ猫はアリスの腕に包帯をまき、マッドハッターと三月うさぎ、ヤマネのおかしなお茶会に連れていきます。
アリスと再会できたとマッドハッターは嬉しそうにしますが、アリスは以前のことを覚えておらず、今の状況も分かっていません。追ってがやってきたことに気づいたマッドハッターは、アリスに体が縮む薬を飲ませてポットの中に押し込めます。
ハートのジャックと手下たちをなんと騙して切り抜けたマッドハッターは帽子の上にアリスを乗せ、白の女王のお城へと向かいますが、着く前にまたしても赤の兵士がやってきます。
マッドハッターは捕えられアリスは帽子と共に逃げ伸びます。そんなアリスの元にベイヤードがやってきます。白の女王の元に連れて行こうとするベイヤードにアリスは「マッドハッターを助けにいく」と言います。
「そんなの予言にない」と言うベイヤードに「ここにきてから指図されてばかり。運命は私が切り開く」とアリスは強く宣言します。ベイヤードはアリスを連れて赤の女王の城に向かいます。
映画『アリス・イン・ワンダーランド』の感想と評価
戦うヒロイン
『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』、2作のその後を描いたファンタジーアドベンチャー『アリス・イン・ワンダーランド』。
続編ではありますが、2作品で描かれたアリスのキャラクターとは異なり、時代にあった戦うヒロインとして大胆に翻案したといえます。
近年のディズニーアニメや、ディズニーアニメの実写版のヒロインは、戦ったり、自分の意見を言ったりするヒロインが普通になってきていますが、『アリス・イン・ワンダーランド』が公開された2010年は、まだそのようなヒロイン像が当たり前になっていませんでした。
「運命は私が切り開く」と宣言し、コルセットを嫌い、結婚=幸せという価値観に疑問を呈すアリスの姿は時代の先を行くニューヒロインであったのです。
このように本作は、時代とともに変わりゆくヒロイン像の中で、戦うヒロインの先駆けのような映画であったと言えます。
それだけでなく、ティム・バートンならではの実写とモーションキャプチャを用いたファンタジックな世界観が観客の心をくすぐります。
中でもヘレナ・ボナム・カーター演じる赤の女王のインパクトは非常に大きいでしょう。皆から恐れられる女王でありながら、その姿はどこかキュートさと滑稽さが感じられます。必ずしも“怖い”見た目ではなく、悪役でありながら愛されるキャラクターになっています。
一方、アン・ハサウェイ演じる白の女王は優雅で常に浮遊しているような浮世離れしたキャラクターです。優しいけれどちょっぴり変わっていて、掴みどころのないような不思議な役になっています。
更に原作では主となるキャラクターではないマッドハッターを、ジョニー・デップが演じたことで大きな人気となります。
その人気故に続編である『アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅』(2016)ではマッドハッターを中心にした話が作られたのかもしれません。
まとめ
ルイス・キャロルの名作児童文学『不思議の国のアリス』は、ディズニーアニメのほか映像化作品もいくつもあり、よく知られているお話です。
しかし、『鏡の国のアリス』は『不思議の国のアリス』ほど知られてはいないのではないでしょうか。『アリス・イン・ワンダーランド』に出てくるジャバウォッキーは、『鏡の国のアリス』に登場する架空の生物です。
『鏡の国のアリス』の中でジャバウォッキーは、物語の中で登場する『ジャバウォックの詩』の中で語られています。『鏡の国のアリス』の中で登場するキャラクターではないのです。勿論、アリスとも対峙しません。
ルイス・キャロルがつくったナンセンスな詩に出てくるジャバウォッキーは、怖い存在ではなく、ナンセンスな存在として扱われています。しかし、本作においてはアリスを戦うヒロインとして翻案した関係で、倒すべき存在としてジャバウォッキーを登場させたのでしょう。
映画に出てくるジャバウォッキーの見た目は、『鏡の国のアリス』の挿絵を担当したジョン・テニエルが描いたジャバウォッキーに近い見た目をしています。ナンセンスな存在ということもあり、恐ろしい見た目というよりかは、どこか滑稽で変な生き物になっています。
ルイス・キャロルが描いたワンダーランドをティム・バートン監督らしいおどろおどろしすぎないダークファンタジーとして描き、人々の心を掴む世界を創り上げます。
そのような世界で描かれる、自分で自分の道を切り開いていくアリスの姿は、その後のヒロイン像にも影響を与えたことでしょう。