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『シンシン/SING SING』あらすじ感想と評価レビュー。 実話をベースに当事者である受刑者が本人役で登場するユニークな作品

  • Writer :
  • 桂伸也

2025年4月11日(金)より、映画『シンシン/SING SING』はTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開!

ニューヨークにある刑務所を舞台とした、実話ベースの物語を映像化したドラマ『シンシン/SING SING』

米ニューヨークのシンシン刑務所にあった実話をもとに、一人の男性の目線で仲間たちとの交流をまじえて揺れ動く心の機微を描きます。

主要キャストの85%以上が実際にシンシン刑務所の元収監者で構成されるというユニークな試みで作られたこの物語は、北米配給権をA24が獲得しました。2024年3月にSXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)映画祭で最高賞の「観客賞」を受賞するなど、世界的に高い評価を得ています。

映画『シンシン/SING SING』の作品情報


(C)2023 DIVINE FILM, LLC. All rights reserved.

【日本公開】
2025年(アメリカ映画)

【原題】
Sing Sing

【監督・共同脚本】
グレッグ・クウェダー

【出演】
コールマン・ドミンゴ、クラレンス・マクリン、ショーン・サン・ホセ、ポール・レイシー、デビッド・“ダップ”・ジローディ、モーシ・イーグル、ショーン・“ディノ”・ジョンソン、コーネル・ネイト・オルストン、ミゲル・バランタン、ジョン=エイドリアン・“JJ”・ベラスケスほか

【作品概要】
刑務所の収監者更生プログラムとして行われている舞台演劇活動を背景に、無実ながら収監された男と囚人たちとの友情を描きます。

作品を手がけたのは、『ザ・ボーダーライン 合衆国国境警備隊』(2016)などのグレッグ・クウェダー監督。

主演を務めたのは『ビール・ストリートの恋人たち』(2018)『マ・レイニーのブラックボトム』(2020)『キャンディマン(2021)』などのコールマン・ドミンゴ。本作で第97回アカデミー主演男優賞にノミネート、2度目の主演男優賞ノミネートを果たしました。

他のキャストの多くには、シンシン刑務所の元収監者で舞台演劇プログラムの卒業生及び関係者が、本人役で参加しています。



映画『シンシン/SING SING』のあらすじ


(C)2023 DIVINE FILM, LLC. All rights reserved.

刑務所内の更生プログラムの一環として、刑務所内でおこなわれている「舞台演劇」のグループに所属するディヴァイン・Gは、無実の罪で収監されながらも、囚人仲間たちと日々演劇に取り組むことで生きる希望を見いだそうと、活発な活動を続けていました。

そんなある日、刑務所で最も恐れられている男、クラレンス・マクリンが更生プログラムに応募してきます。

プロジェクトのメンバーに空きが出たことで、彼を演劇グループに招き入れることにしたディヴァイン・Gたち。

そんな中で演劇グループは、次の公演に向けた新たな演目の準備に取り掛かりますが……。

映画『シンシン/SING SING』の感想と評価


(C)2023 DIVINE FILM, LLC. All rights reserved.

物語の舞台となるシンシン刑務所は米ニューヨークで最も厳重なセキュリティが施された場所、つまり「凶悪犯罪者」を重点に収監する実在の刑務所です。

この刑務所では1996年、芸術を通した更生プログラムRTA(Rehabilitation Through the Arts)を立ち上げました。

このプログラムでは、演劇のプロの指導による演劇への取り組みを受刑者に即すことで、意識の改善と再犯率の低下を促す効果が見られたと言います。

アメリカ社会の刑務所はその服役終了後の再犯率が非常に高く、社会的に大きな問題、課題があるというイメージですが、本作はこの実情に対して、施設におけるポジティブな取り組みを行っている現場を中心に描いています。

その刑務所の中で展開する物語は、無実の罪で収監された一人の男性の日々を綴ったものでした。

演劇に向かう主人公、ディヴァイン・Gは、日々の生活とRTAの活動に対して非常に前向きな姿勢を見せていますが、心のどこかで「自分は無罪であるはずなのに、なぜかこの場所にいる」ということと、囚人たちと不自由な生活を送っていることとの間にある葛藤を抱えて日々を過ごしています。


(C)2023 DIVINE FILM, LLC. All rights reserved.

一見、いつも前向きに生きているように見える彼は、物語で発生するある一つの出来事で、自身の不満を爆発させてしまいます。

それは、所内で札付きのワルとされるクラレンス・マクリンが、RTAに参加した後で起こる出来事によるものでした。

所内でも品行方正に振る舞い、RTAでも積極的に活動を進めながらも、どこかそれが認められず、さらにまるで罠に陥れられているような状況に陥り、彼はそのイライラを演技にぶつけ、自身の道を見失ってしまいます。

演技をする現場が物語の舞台ということもあり、実話をベースにした「一つの物語」の内容が、ある時はそのさまはどこか「演劇のドキュメンタリー」のように見えたりと、ドラマ性とドキュメンタリー性の境界があいまいに感じられます

この効果によって、見る側は強くディヴァイン・Gの視点や立ち振る舞いに共感し、作品に対する深い没入感を覚えることでしょう。

作品で見られるカメラアングルは、一台のカメラで淡々と人々の会話を追うドキュメンタリー作品のようなものです。敢えてこの画質、アングルを狙ったところには、登場人物の心情をさまざまな視点で見つめる意図が感じられ、シンプルながら人間の観察効果が巧妙かつ斬新に見えてきます。

まとめ


(C)2023 DIVINE FILM, LLC. All rights reserved.

本作では、主演のコールマン・ドミンゴとクラレンス・マクリンの競演が見ものです。元々は実際の受刑者ながら、特に現在はプロの俳優として活動しているマクリンは、ドミンゴと息ピッタリの共演を見せ、物語をしっかりと支えています。

また本作ではマクリンをはじめ物語の当事者たちが本人役で登場、それぞれが当人ならではの人物像を物語の中で演じています。

出演者には出所後、更生したことで自身と同じような境遇の若者を支える活動をしている者もおり、劇中で見られる生き生きした存在感は眩しくも見えてきます。

彼らは残念ながら罪を犯した経歴を持つ人間でありますが、本作における彼らの立ち振る舞いは同時に彼らのような境遇を持つ人間も、一人の人間であるということを改めて感じさせられます。その意味で本作は、非常にポジティブな力を持った作品であると言えるでしょう。

映画『シンシン/SING SING』は2025年4月11日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開!




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