Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2025/04/14
Update

映画『平坦な戦場で』あらすじ感想と評価考察。遠上恵未監督が《性》という“押し付けられる属性”から日常の加害性を映す

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

映画『平坦な戦場で』は2025年7月5日(土)池袋シネマ・ロサで劇場公開!

ENBUゼミナール在学中に手がけた『遠上恵未(24)』にてPFFアワード2020で入選を果たした遠上恵未監督による長編映画『平坦な戦場で』。

恋人として平穏な日常を送っていたはずの高校生の男女が、思わぬ形で性的搾取に遭い日常が揺らいでいく……孤独や格差が蔓延する社会で、それでも向き合い、乗り越えていこうとする姿を高校生の2人を通して描き出します。


(C)2023/遠上恵未

W主演を務めたのは『犬も食わねどチャーリーは笑う』(2022)、『きまぐれ』(2024)の櫻井成美と、『脳天パラダイス』(2020)に出演し、『未亡人』(2020)で監督として自主制作も手がけた野村陽介。

直接的な描写はありませんが、性被害の問題を取り扱っています。鑑賞の際にはご注意ください。

映画『平坦な戦場で』の作品情報


(C)2023/遠上恵未

【日本公開】
2025年(日本映画)

【監督・脚本・編集】
遠上恵未

【キャスト】
櫻井成美、野村陽介、玉りんど、佐倉萌、竹下かおり、安藤チカラ、つかさ、山田荘一朗、上野山圭治、金子翔、大野やすひろ、大河原恵

【作品概要】
ENBUゼミナール在学中に手がけた『遠上恵未(24)』にて、PFFアワード2020で入選を果たした遠上恵未監督による初の長編作。

女性と男性、それぞれに押し付けられる“属性”や日常の加害性を描き出した本作は、第24回TAMA NEW WAVE コンペティション部門で入選、うえだ城下町映画祭 第21回自主制作映画コンテストで大賞を獲得しました。

『犬も食わねどチャーリーは笑う』(2022)、『きまぐれ』(2024)の櫻井成美と、『脳天パラダイス』(2020)に出演し、『未亡人』(2020)で監督として自主制作も手がけた野村陽介がW主演を務めました。

映画『平坦な戦場で』のあらすじ


(C)2023/遠上恵未

高校2年生の冬。恋人同士である早崎のぶえと村木智也は仲良く登下校を共にしていました。

ある夜、村木は路上で泣いていた自分の親と同世代くらいの女性を家まで送り届けます。その女性は、お礼にと村木を家に入れます。

そして、女性はペットのうさぎが亡くなったことを話し、「お金を払うから抱いてほしい」と村木に縋ります。

村木は断ることができず、女性を抱きますが、それがトラウマとなり学校を休んでしまいます。突然学校を休んだ村木にのぶえは不安を募らせます。

思わぬ形で性的搾取の被害に遭ったことで、変わってしまった関係性。2人はどう乗り越えていくのでしょうか。

映画『平坦な戦場で』の感想と評価


(C)2023/遠上恵未

恋人として平穏な日常を送っていたはずの高校生の男女が、思わぬ形で性的搾取の被害に遭うことを通して、日常に潜む「性」への偏見や加害性を描き出す映画『平坦な戦場で』。

村木は、年上の女性に「抱いてほしい」と頼まれ、断れなかったことで、その経験がトラウマとなり女性に対して嫌悪感を抱くようになります。

一方で、のぶえが街中を歩いていると「お金を払うからカラオケ行こう」と中年男性に話しかけられる場面も。村木に対してのぶえの方が、日常的に性的にみられる視線を体感しているといえるのではないでしょうか。

性に関心を持ち始めた高校生の会話の中にも、性に対する偏見は当たり前のように刷り込まれています。そしてそんな加害性に対し、多くの人は無自覚です。

また、まだまだ未熟である10代の頃は、時には性的にみられることに対し「それが自分の魅力であり、存在価値だ」と思い込んでしまう危険も。それ故に自分が性的に搾取されていることに気づけないという場合もあるのです。


(C)2023/遠上恵未

そのような加害性や搾取、“それが日常”と押し付けられていく男性性・女性性に対して無自覚であることを、高校生の男女を通して浮き彫りにしていきます。

何より本作は「性」だけでなく、その先にある孤独と、孤独の《共鳴》も描いていると言えます。村木ものぶえも孤独を感じており、2人の間は孤独であるからこそ結びついたシンパシーのようなものがあったでしょう。

だからこそ村木は、路上で泣いていた女性を放っておけなかったのかもしれません。しかし「抱いてほしい」という女性の頼みを断れなかったのは、女性の孤独な心への同情だけではないでしょう。

女性の家で、思いもよらない頼みを前に戸惑いや恐怖……様々な感情によって断れなかったのではないでしょうか。そのような状況で「NO」と拒絶することの難しさがそこにあります。

日常に潜む偏見や加害性と無関係でいられる人は恐らくいません。その中でどう生きていくべきか、高校生の2人を通して私たちに問いかけます。

まとめ


(C)2023/遠上恵未

タイトルの『平坦な戦場』に込められている通り、日常は平坦で当たり前のように続いていくかのように思えます。そんな日常のなかに偏見や差別、格差が当たり前のように潜んでいます。

日常を生きていくため、つい人は偏見や差別、格差から目を背け、自分にとって生きやすいところにばかり目を向けてしまいます。

しかし、無自覚でいたくない、人の痛みや孤独に気づける人でいたいという切実な思いが本作にが込められています。自覚的に生きていくことには過酷で、まさにその意味でこの社会、すなわち日常は戦場とも言えるでしょう。

生きやすさ、都合の悪いことに目を背け、誰かを傷つけて生きるよりは、無自覚でいたくない、気づいて、共に乗り越える人でありたいと思っている人は多いはずです。

必要な誰かに届いてほしいと同時に、自分はそばにいるという決意も感じられる映画と言えるでしょう。




関連記事

ヒューマンドラマ映画

実写映画『リバーズエッジ』二階堂ふみ・吉沢亮らの演技力の評価は

岡崎京子の原作漫画が行定勲監督の手によって映画化! 二階堂ふみ、吉沢亮、森川葵ら若手実力派が岡崎ワールドを体現。 主題歌を担当するのは岡崎京子の盟友である小沢健二。 二階堂ふみ主演の映画『リバーズ・エ …

ヒューマンドラマ映画

『墓泥棒と失われた女神』あらすじ感想と評価考察。ギリシャ神話から誕生する幻想的ラブストーリー

映画『墓泥棒と失われた女神』は2024年7月19日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開 『墓泥棒と失われた女神』は、アリーチェ・ロルヴァケル監督の最新作( …

ヒューマンドラマ映画

映画『否定と肯定』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も

ユダヤ人女性歴史学者とホロコースト否定論者のかつてない対決の行方は?! ミック・ジャクソン監督、レイチェル・ワイズ主演の『否定と肯定』をご紹介します! 1.映画『否定と肯定』作品情報 (C)DENIA …

ヒューマンドラマ映画

Netflix映画『ワインは期待と現実の味』あらすじネタバレと感想評価。知識と価値を熟成させた深みのあるストーリー

Netflix映画『ワインは期待と現実の味』は、父の息子への期待と息子が見つけた道の現実を描く! 跡継ぎ問題は日本でもよく聞かれる話。親たちの苦労はわかっていても、自分に成し遂げたい夢ができたら、その …

ヒューマンドラマ映画

映画『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』のあらすじとキャスト。山田洋次の作風とは?

山田洋次監督が贈る「家族はつらいよ」シリーズ待望の第三弾、5月25日(金)公開! 3世代の夫婦を描くことで幅広い年齢層から共感を得た『男はつらいよ』に続く山田洋次渾身の「つらいよ」シリーズ。 今回のテ …

Cinemago|想像力の海へ、シネマダイビング。
ACT1|次の物語は、人からはじまる。
Cinemagoオンラインショップ|DVD・鑑賞チケット・オリジナルグッズ
『血を吸うスマトラオオコンニャク』
【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学