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Entry 2021/03/29
Update

映画『ゲット・オン・ザ・バス』ネタバレ感想と結末あらすじ解説。スパイクリーが黒人の人権問題を歴史的背景と内省を込めて描く

  • Writer :
  • 滝澤令央

Black Lives Matterを掲げる黒人の人種問題を描いたロードムービー

『マルコムX』『ブラック・クランズマン』で知られるスパイク・リーが監督を務めた1996年の映画『ゲット・オン・ザ・バス』。

“百万人の大行進”に参加するため、長距離バスでロサンゼルスからワシントンへ向かう男たちを描いたロードムービーであり、現在も続いている黒人の人権を訴えるプロテスト運動の内実を、様々な立場を通して描いています。

長距離バスに乗り合わせた、映画学校の学生・牧師・非行少年とその父親・60年代の公民権運動に参加した老人・元ギャング・警官など、様々な立場の黒人が宗教観や人種問題、同性愛嫌悪や帰属意識などにおける自身の考えを吐露し、論争を重ねていきます。

エンターテインメント作品の中で黒人の人権問題を訴え続けてきたスパイク・リー。彼の監督作史上「最も政治的」と言われ、思想的な社会規範を訴えかけたとされる映画『ゲット・オン・ザ・バス』をご紹介します。

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映画『ゲット・オン・ザ・バス』の作品情報


(C)1996 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

【公開】
1996年(アメリカ映画)

【原題】
Get on the Bus

【監督】
スパイク・リー

【キャスト】
チャールズ・S・ダットン、イザイア・ワシントン、ヒル・ハーパー、アンドレ・ブラウアー、トーマス・ジェファーソン・バード、リチャード・ベルザー、オジー・デイヴィス、アルバート・ホール、ハリー・レニックス、デオウンドレ・ボンズ

【作品概要】
本作は240万ドルという小規模の資本から企画された映画でありながら、ダニー・グローバー、ウェズリー・スナイプス、ウィル・スミス、ジョナサン・カークランドといったハリウッドで活躍する錚々たるアフリカ系アメリカ人俳優による資金提供によって製作され、1995年10月16日に行われた“百万人の大行進”の1周年を記念して公開されました。

監督を務めたスパイク・リーは、12本目の監督作となる本作を、異なる立場のアフリカ系アメリカ人を描くことが人々の多様性と、人種間の軋轢は黒人社会の中でも生まれているという事実を浮き彫りにしたと語っています。

映画『ゲット・オン・ザ・バス』のあらすじとネタバレ


(C) 1996 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

地元の仲間とスリで捕まった少年スムーズは、72時間の監視処分を受け、身柄を引き受けた父親エヴァンと手錠で繋がれていました。

スムーズはエヴァンに連れられ、ワシントンで行われる“百万人大行進”へと向かう長距離バスに乗せられます。

行進は、ネイション・オブ・イスラムの実質的最高指導者であるルイス・ファラカンが、黒人男性に対し「家庭や仕事をそっちのけにして、自身の人生の責任を取ろう」と呼び掛けて始まったもので、バスには同じくように行進に参加する黒人男性が乗り合わせていました。

バスは映画学校の学生エックス、白人と黒人のミックスのゲリー、老齢のジェレマイア、ムスリムへ改宗したジャマルを乗せ、ロサンゼルスはサウスセントラルに向けて出発しました。

ワシントンまで彼らを案内するバス会社のジョージとクレイグは、「これから参加する行進は暴力も、ドラッグも、酒とも無関係だ」と説明します。

目的地までを共にする彼らは、だんだん互いの身の上について話し始めました。ハリウッドで俳優を目指すフリップは、隣の席に座るエックスの話に耳を傾けます。

エックスは、映画学校の卒業制作用ドキュメンタリーを撮るべく、行進までの道のりをカメラに収めていました。

エックスはゲリーの行進に参加する理由を尋ねます。

ゲリーが「ブラザーが動くなら参加しなくては」と答えると、フリップは不思議そうに彼の出身や親について執拗に尋ねていきます。それは、ゲリーの肌の色が他のアフリカ系よりも薄いからでした。

ゲリーは自身の母親が白人であることを明かした上で、「自分は黒人だと思っている」と答えました。身の上についてしつこく訊かれた彼は苛立ちを抑えながらも、父親が警官だったこと、そして同じ黒人に殺されたことを語りました。

その頃、ゲリーたちの後部座席に隣り合って座っていたカイルとランドールは痴話喧嘩が過熱し、他の乗客に聞こえるほどの声で言い合いをしていました。話が聞こえていた乗客たちは、口々に同性愛者であるランドールとカイルを罵ります。

車内には、同性愛を否定する声が高まっていました。最後部に座るジェレマイアとジャマルは、ジャマルの恋人について話をしています。純潔を守っているというジャマルたちにジェレマイアは敬意を示しました。

やがて砂漠を走っていたバスは溝にハマり、エンストを起こしてしまいました。溝から引っ張り出すことには成功したもののバスは動かず、何とか行進に間に合わせるために、ジョージとクレイグは代わりのバスを手配します。

代わりに手配されて来たのは、ユダヤ人のリックが運転するバスでした。乗客たちは口々に文句を言います。「白人の運転するバスでデモに行ったら、黒人の恥になる」と。

クレイグは「昔は黒人がバスを運転させられていた。今は、黒人が白人にバスを運転させているのだ」と乗客たちを説得し、リックの運転するバスで改めてワシントンへと向かいました。

アーカンソーへ到達したバスは、乗客が休憩をとるために一時停車しました。バスの停車中も、エックスはカメラを回し続け、行進に参加する理由をスムーズやランドールに訊いて回ります。

フリップは、駐車場に居合わせた2人組の女性に行進の話をします。彼女たちは「女性の参加しないデモは成功しない」と語り、フリップもそれは一理あると納得させられました。

彼は参加する理由を「悩める同胞を助けたい」と答えますが、彼女たちは「あなたたちが行進してる間、女性は留守番してるんでしょ?」とフリップを説き伏せてしまいました。

夜になり、メンフィスのモーテルで一服する乗客たち。リックは「行進には関わりたくない」と言い、運転をジョージと代わり、バーで一同と別れました。

スムーズとエヴァンは、バーで居合わせた白人と行進が目指すものについて話し合っていました。「行進を呼びかけたファラカーンは、白人を敵視している訳ではない」と言うエヴァン。

スムーズは、手錠をされているのは置き引きで捕まったからだと語ります。奥に座る白人の客が、彼らを忌々しそうに睨みつけていました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ゲット・オン・ザ・バス』ネタバレ・結末の記載がございます。『ゲット・オン・ザ・バス』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)1996 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

一同が外へ出ると、 高級車を売るウェンデル・ペリーが仲間になろうと声をかけてきました。飛び入りの客にジョージは戸惑ったものの、行進に参加したいという思いを受け、乗客たちも彼を受け入れました。

バスは新たにウェンデルを乗せワシントンを目指します。エックスとジョージは、映画界での黒人の扱いには、4つの「R」が付きまとうと語ります。

「黒人にはラップ・レイプ・ロブ(窃盗)・ライオット(暴動)が付きまとう」と。

ウェンデルは乗客たちに対し自分語りを始めます。学歴さえあれば、白人に稼ぎで勝ること。共和党を支持する理由。人種差別は黒人の被害妄想であること。デモを扇動するファラカンは利己的だと述べました。

ジョージは「ファラカンは黒人の名誉のために40年間戦ってきた」とかばいますが、ウェンデルは聞く耳を持ちません。

横暴な彼の口ぶりに車内は険悪になる中、ジェレマイアはウェンデルに対し「黒人を侮辱する口ぶりだが、君自身も黒人だろう」と諭しました。そして結局、ウェンデルはバスからつまみ出されます。

ウェンデルを追い出したバス車内では、ランドールがカイルに対し、自分を偽る態度をしないように言います。カイルは「他人を意識しすぎて偽りの姿に惑わされている」と。

ランドールの言葉を受けて、カイルはゲイであることを恥じない生き方すると気持ちを新たにしました。

ジョージは、エヴァンと息子のスムーズとの関係に立ち入った話をしました。息子に手錠をかけたまま行進はできないと。エヴァンは、いずれ息子とはきちんと話をしなくてはならないことを悟ります。

フリップとジャマルとゲリーの3人は、トランプに興じながら、母親に叱られた過去について話をしていました。

フリップは子供のころ、勉強をサボって気になる子のいる陸上部へ顔を出していたところを母親に見つかり、鞭で追いかけ回されたことを。ジャマルは、おろしたてのスニーカーを踏んだ婦人の尻を蹴っ飛ばして母親にこっ酷く叱られたことを語りました。

対してゲリーはキャンディを万引きしたことを語りますが、説教をされただけで母親にはぶたれなかったと言います。

母親が白人だからだと合点がいくフリップとジャマル。「俺たちの親とは違う」と言いました。

その後ジャマルは非行少年を更生させる仕事を、ゲリーは父親同様警官であることを明かしました。黒人地区は警察が機能していないと語るゲリー。

「殺人を犯す黒人とそうでない黒人の人生は違う」と言うゲリーに、ジャマルは強く反論します。彼は元ギャングで、過去に殺人を犯した事から改心のためにイスラム教へ入信したことを明かしました。

しかし、ジャマルのようなギャングに父親を殺されているゲリーは「お前らが親父を殺した」と言い放ち、更生の余地は無いと吐き捨てました。

バスはテキサス州警察の車両に停められ、検問を余儀なくされます。ゲリーは、自分はL.A.警察であると言いますが、テキサスの白人警官は関係無しにドラッグの抜き打ちをしました。

ジョージと運転を代わったエヴァンは、スムーズとの会話の中から、彼が飛行機のパイロットを目指していることを知ります。父親が出来ないことをするため。彼にとってそれは重要なことでした。

映画を撮り続けているエックスは、ジェレマイアに行進への参加理由を聞きます。ジェレマイアは1963年のワシントン大行進に間に合わなかった後悔を話しました。給料の良い仕事が決まった矢先、波風を立ててクビになるのを恐れ参加できなかったと。

彼は仕事を全うしたつもりだと言いますが、出世や昇給において冷遇されながらも、白人に忠実なジェレマイアはこき使われていたのです。

その後、日本企業の参入により仕事を失った彼は酒に溺れ、家族と家を失ったことを明かします。なんの楽しみもなく人生を終わる前に、行進を成功させたいと思いを打ち明けました。

車内が和やかなムードに包まれている中、デンゼル・ワシントン主演映画への出演が決まったフリップは、調子づいてランドールとカイルにちょっかいを出します。

挑発に乗ったカイルはフリップと殴り合いになり、車内は大混乱。バスを停めた一同は、外での喧嘩を始めました。

カイルとフリップの殴り合いに夢中になっている隙を見たスムーズはその場から逃亡。スムーズが居なくなったことに気付いた一同は、彼を探して森を駆け巡ります。

スムーズを森で見つけたエヴァンは、22歳で子どもが生まれ、父親としての責任がなく、未熟であった自身を反省しました。エヴァンはこれから改めて家族になりたいとスムーズと心を通わせました。

喧嘩も収まり、バスへ戻った一同。ワシントンへ向かうアフリカ系アメリカ人を乗せた車の大群は、それぞれプラカードを掲げて力強いメッセージとともに、行進を始めていました。

エックスがジェレマイアに声をかけるものの、返事がありません。意識を失っていた彼は、すぐさま病院へと搬送されました。

重い心臓病を患っていた彼は、死を覚悟で旅に来ていたのです。

行進のためにはるばるワシントンまで来た彼らでしたが、ジェレマイアの傍にいるため、行進に参加せず、病院で彼の回復を待っていました。

しかし、待合室に再び訪れた医師が彼らに告げたのはジェレマイアの死でした。家族のいない彼の死を弔うことができるのは、同じバスに乗り合わせた赤の他人の彼らだけでした。

彼らはワシントンD.C.まで来たものの、スピーチも聞けず、同胞と語らうこともできませんでした。ジョージは乗客たちに語りかけます。

「黒人が、自分たちの抱えるドラッグや銃、ギャングの問題を責任を持って取り組む時、それが本当の大行進の始まりなのだ」と。

無関心をやめ、相手の身になり、黒人社会の支配権を取り戻すために今一度、家に帰って考え直すことを彼は訴えました。

ジョージは、バスに残されていたジェレマイアの遺品を乗客たちに分け合い、彼が書き連ねていた祈りを代読して、彼の達成できなかった夢を受け継ぎました。

ワシントンD.C.に鎮座するリンカーンの銅像の足元には、鎖の放たれた足枷が残されていました。

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映画『ゲット・オン・ザ・バス』の感想と評価


(C)1996 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

映画のモチーフとなったモンゴメリー・バスボイコット運動

タイトルの『ゲット・オン・ザ・バス』は直訳すると「バスに乗れ」であり、運動に参加するよう訴えかけているのと同時に「バスから降りるな」という意味でもあります。

そもそも本作が「バス」を舞台とした背景には、戦後のアラバマ州で実際に起こった路線バスへの乗車ボイコット運動が深く関わっています。

1955年のアラバマ州モンゴメリー。市営バスで黒人優先席に座っていたローザ・パークスが、後から乗車してきた白人のために席を譲るよう指示されたことに従わず、警察に逮捕されたこの事件に端を発した、モンゴメリー・バスボイコット運動

この運動は、翌年の連邦最高裁判所で出された人種隔離政策への違憲判決により見事成功を収め、公民権運動のきっかけの一つとなりました。本作が「バス」を舞台に人々の議論が展開されていくのも、公民権運動から続く社会問題を踏まえているためなのです。

オープニング曲・エンディング曲が意味するもの

映画冒頭、コロンビアピクチャーズのロゴから既に流れているマイケル・ジャクソンのオープニング曲が、観客の心を惹きつけます。ここで掛かる曲は「オン・ザ・ライン(On The Line)」「本心を晒す」といった意味付けがされており、登場人物たちが、作中にて衝突を顧みずに本音で語らうさまを予感させます。

バラード調の曲から、画面に映し出されるのは、クローズアップされた黒人の姿。その腕は手錠で繋がれ、首には鉄の鎖が。その姿からは、奴隷制の忌々しい歴史と、屈辱的な過去から未だに逃れることが出来ていない現状を連想させられます。そして本作が、そういった問題に真っ向から立ち向かっていく映画であることを、マイケルの歌詞がなぞっていきます。

それと対応する形でエンディングを飾る曲は、カーク・フランクリンの「My Life is in your hands」災難や試練を乗り越える強さを訴えるゴスペルは観ている人を、そしてワシントンへ向かうバスで、互いを理解し合う一歩を踏み出した乗客たちを優しく包み込みます

オープニング・エンディング曲それぞれが観客と登場人物の心を包み込む本作は、エンターテイメントを織り交ぜながらも、現実の社会問題を真っ向から取り扱うスパイク・リー監督作としては、異色と思えるほどに優しい映画でした。

スパイク・リー監督作の「怒り」と本作で描かれた「内省」


(C)1996 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

人種問題を取り扱ってきたスパイク・リー監督の中で、『ゲット・オン・ザ・バス』が異色作であると感じるのは、政治的でありながら、作品のタッチ自体は柔和であるからでしょう。

それは、本作の背景にある、白人に席を譲らなかったローザ・パークスの始めた抗議運動自体が比較的平和的なものであったからであり、本作がプロテスト自体ではなく、そこへ向かう人々の心の動向を追った内省的な作品であるからだと考えられます。

しかし彼の手掛けた作品、特に代表作とされる『マルコムX』や『ブラック・クランズマン』は非常に先鋭的で、攻撃的でした。なぜならスパイク・リーにとって映画製作は、社会に対して力強く問題提起する手段の一つだからです。

それは、映画人として社会正義に誠実な姿勢の表れでもあります。先鋭的で、攻撃的なのは、問題提起の根底に深い怒りがあるからに他なりません。

怒りは、映画の原動力であると同時に観客に対して強い訴求力を持っています。しかしその反面、あまりにも強い怒りは、権利を主張する人々が思想・主義の本来の意味を見失っていく要因になってしまうこともあります。

抗議の声が高まっていく中で、各々が帰属している最小規模の共同体の権利のみが叫ばれるようになり、(言ってしまえば自分だけに都合の良い権利を主張していくようになってしまい)社会に別の分断を生んでしまうことが多々あるのです。

それぞれに異なった差別・偏見が存在する社会


(C)1996 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

その様子は、本作の劇中からも垣間見ることができます。

バスに乗る人々が劇中で展開してゆく対話には、きちんと共有された歴史があり、良くも悪くも歴史に学んでいるという印象を受けます。それは歴史の勉強をしているのかといった基礎教養の話ではなく、自身のルーツや他民族との関係性の歴史に、個人個人が意識を持っているかどうかにおいて、彼らは日本よりも高度なレベルで、政治思想とは別個に確立されたナショナル・アイデンティティを有しているからでしょう。

過去に起こった歴史や思想を取り上げた議論が、黒人の間で盛んに行われている。結果それが互いの思想の対立を露呈させるも、それが軋轢を生むことがない。日本ではあまり見かけないその光景を、約30年前のアメリカ映画が見せてくれました。

その一方で、バスの中で一番若いスムーズが手錠をかけられているのは、再び歴史を繰り返してしまいかねない黒人社会ならびに若い世代への不安を意味しています。

また同性愛者であるランドールとカイルへの偏見、道中で出会った女性にフリップが指摘された男尊女卑の状況などは、白人至上主義社会が黒人社会に差別・偏見を抱くように、黒人社会を含むあらゆる社会に、形は違えども、さまざまな差別・偏見が内包されていることを明示しているのです。

スパイク・リー監督の「優しさ」が詰まった作品

しかしながら本作は、声を上げる人々の姿勢そのものを問題視した映画ではありません。そうした被差別者の主張や怒りの声を上げるその姿勢を頭ごなしに問題視し戒める行為は、問題の本質を見失わせるトーンポリシングに他なりません。

映画はあくまでも、社会問題に立ち向かう人々のその姿勢自体への糾弾ではなく、ファラカンの提言の中でも触れられていた、団結して問題に取り組むという形で「責任」を持つことの重要性をテーマにしています。

人種差別が変わらぬ問題として残り続けている今、本作を観て何よりも実感させられるのは、劇中で描かれる「無責任な態度」が、現在で言うところの「キャンセルされることへの怯え」に重なって見えるということです。

前者は、社会正義を自分の都合に合わせて変容させる身勝手さ。後者は、社会問題を意識するよりも手前の段階で「いつ自分が失言の揚げ足を取られるか」と怯えながら、口はぼったいコミュニケーションのみを続ける愚かさを意味しています。

このふたつはともに、本当は問題に無関心であることを隠す行為であり、自身の加害性を認知させられることへの恐怖が根底にあります。

問題に立ち向かっていくことは容易ではありません。本作の登場人物たちも、先人の死や辛い実体験を経て、ようやく本質と向き合う第一歩を踏み出します。

本作は、「失ってからでないと、人は本気で向き合うことは出来ない」という事実を悲観的に捉えつつも、そこへ向かう心強さを讃えようとするスパイク・リーの優しさが詰まった映画なのです。

まとめ


(C)1996 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

本作は、旅と並行する形で登場人物たちがひたすら議論を重ねていくという、ある意味では非常に観念的な映画といえます。

ですが、ダイナミックなアクションや激しい起伏や機知に富んだ展開がないと退屈するかもと心配をする必要はありません。

舞台となるバスが“百万人の大行進”の地・ワシントンに向かって走り続けるように、ストーリーもまた停滞することなく進み続けます

このような作品を如何にドラマチックに演出できるかは、監督の力量が試されるところですが、スパイク・リー監督はその持ち前の社会批評性と各キャラクターに背負わせた思想や背景によって、優れた作品を生みだしていました


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