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Entry 2017/12/07
Update

映画『花筐HANAGATAMI』あらすじネタバレと感想。大林宣彦考

  • Writer :
  • 村松健太郎

大林宣彦監督の監督生活40周年記念作品『花筐HANAGATAMI』

監督は癌を患い余命宣告を受けながらも撮影に臨んだ映画で、原作は檀一雄の同名短編小説「花筐」。

『この空の花』『野のなななのか』に次ぐ戦争三部作。佐賀の伝統“唐津くんち”が映画史上初の全面協力したのも見どころです。

1.映画『花筐/HANAGATAMI』の作品情報


(C)唐津映画製作委員会/PSC 2017

【公開】
2017年(日本映画)

【監督・脚本・編集】
大林宣彦

【キャスト】
窪塚俊介、矢作穂香、常盤貴子、満島真之介、長塚圭史、山崎紘菜、柄本時生、門脇麦、村田雄浩、武田鉄矢、入江若葉、南原清隆、小野ゆり子、岡本太陽、豊田邦子、原雄一郎、根岸季衣、池畑慎之介、細山田隆人、白井美海、大川竜之助、大塚康泰、片岡鶴太郎、白石加代子、高嶋政宏、原雄次郎、品川徹、伊藤孝雄老

【作品概要】
癌を宣告された大林宣彦監督が挑む監督生活40周年記念作品。大林監督が1977年にデビューした『HOUSE ハウス』より前に執筆した脚本を映画化。

『この空の花』『野のなななのか』と合わせて「戦争3部作」の最終章にあたる青春群像劇です。

原作は檀一雄の同名の純文学「花筐」。

2.映画『花筐/HANAGATAMI』の登場人物と配役


(C)唐津映画製作委員会/PSC 2017

榊山俊彦(窪塚俊介)

本編主人公。アムステルダムから唐津に引っ越してきた学生。

鵜飼(満島真之介)

俊彦曰くアポロ神のように、雄々しい印象の同級生。

吉良(長塚圭史)

俊彦曰く虚無僧のような同級生。幼いころから足が悪く杖を突いている。

阿蘇(柄本時生)

クラスの道化役。喘息持ちだが、徴兵から外れて非国民扱いを嫌がる。

江馬圭子(常盤貴子)

俊介の若く美しい叔母。豪邸に義妹の美那と暮らす。

江馬美那(矢作穂香)

俊介が想い寄せる美少女。肺を患い余命が幾ばくも無い。

あかね(山崎紘菜)

美那の同級生。老舗豆腐屋の娘。活発な性格。

千歳(門脇麦)

美那の同級生。吉良の従妹でもある。

3.映画『花筐/HANAGATAMI』のあらすじ


(C)唐津映画製作委員会/PSC 2017

少年は魂に火をつけ、少女は血に溺れる。

1941年の春。アムステルダムに住む両親の元を離れ、佐賀県唐津に暮らす叔母の元に身を寄せることになった榊山俊彦17歳。

彼の新学期は、アポロ神のごとく雄々しい鵜飼、虚無僧のような吉良、お調子者の阿蘇の学友とともに、“勇気を試す冒険”に興じる日々を過ごしています。

肺病を患う従妹の美那に恋心を抱きながら、女友だちのあきねや千歳と不良なる青春を謳歌していました。

しかし、我が生を自分の意志で生きようとする皆は誰もが純粋で、それでいて自由な荒ぶる青春の時間は儚いもの。

いつしか彼らは戦争へと巻き込まれていきます。

その中で俊彦は、「殺されないぞ、戦争なんかに!」と仲間たちから外れ、自らの魂に火をつけようと…。

4.映画『花筐/HANAGATAMI』の感想と評価


(C)唐津映画製作委員会/PSC 2017

監督の“終生の夢”とした映画は凄まじい映像の奔流

稀代のビジュアリスト大林宣彦が余命宣告を受けた中作り上げた執念の作品は、“映像の奔流”といっていい映像美の集合体だった。

原作は無頼派の一角檀一雄。井伏鱒二に知己を経たのち太宰治や中原中也とも絡んだ作家。

「火宅の人」などで知られ、直樹賞も受賞している作家ですが、絡んだ作家たちを見れば立ち位置的には芥川賞側の人物で、私小説といっていい作品も多数残っている

そんな人物のしかも短編ということもあって、良くも悪くも作品の物語としては大掛かりな盛り上がりやどんでん返しがあるわけではない

主人公の同級生たちは雄弁に語りはしますが、明確な意思表示や誰かを強く導くものではありません

ただ、作品全体の戦争が泥沼化していく日本と世界の空気、そして大林監督が当時を表現する“戦争によって消耗される青春”のムードはひたひたと伝わってきます

ただ、この物語、作品の空気は正直言ってこの映画を体験する者としては二の次といってしまってもいいでしょう。

とにかく全てのカット、全てのカットに加工が入り、凄まじい映像美の嵐に包まれます

さすが映像の魔術師大林宣彦監督だと思わずにはいられない。

おおよそ、余命宣告を受けた映画監督の作品とは思えない

しかも上映時間2時間49分もある。

壮大すぎるこの寓話は何でもありで、42歳の長塚圭史が学生役を演じていたりして、同級生の若く美しい叔母の常盤貴子にその美を賛美ささせたりもします。

さらにユネスコの無形文化遺産にも登録された佐賀県唐津神社の秋の例大祭“唐津くんち”が映画に全面協力

色とりどりの数多くの曳山(いわゆる山車)の登場もあって映像はさらに神々しいものになった。

まとめ


(C)唐津映画製作委員会/PSC 2017

ところで、余命宣告を受けた中でこの大作を撮りふった大林宣彦監督。

40年来の企画を成し遂げた中、体調を不安視する声も多い。

ところがもう一本映画を撮ってそれで引退するという話が聞こえてきた。

病と闘うなか終生の夢と語った企画を映画化し、監督生活も40周年を迎えた大林宣彦監督。そんな彼が最後の場に選ぶつぎのフィールドとは果たして?

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