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【映画ネタバレ】『正体』あらすじ感想と結末の評価考察。キャストの横浜流星×藤井道人監督が世界を信じて逃亡する死刑囚を描く珠玉のヒューマンドラマ

  • Writer :
  • 谷川裕美子

横浜流星が5つの顔を持つ逃亡犯役を熱演

染井為人の同名ベストセラー小説を、『新聞記者』(2019)『余命10年』(2022)の藤井道人監督が映画化。

第48回日本アカデミー賞では最優秀監督賞をはじめ、3つの最優秀賞を受賞する快挙を成し遂げました。

これまで藤井監督と『ヴィレッジ』(2023)などでタッグを組んだ横浜流星が主演を務め、5つの顔を持つ逃亡犯という難役に挑みます。

共演は山田孝之、吉岡里帆、森本慎太郎、山田杏奈ほか。

逃げ続ける男が追い求める真実とは何か。スピーディーに展開する物語から目が離せなくなる本作の魅力をご紹介します。

映画『正体』の作品情報


(C)2024 映画「正体」製作委員会

【公開】
2024年(日本映画)

【原作】
染井為人

【監督】
藤井道人

【脚本】
小寺和久、藤井道人

【編集】
古川達馬

【キャスト】
横浜流星、吉岡里帆、森本慎太郎、山田杏奈、前田公輝、西田尚美、田中哲司、松重豊、山田孝之

【作品概要】
新聞記者』(2019)『余命10年』(2022)の藤井道人監督作品。

染井為人の同名ベストセラー小説を原作に、一人の死刑囚が姿かたちを変えて逃亡するさまをスリリングに描きます。

これまでも『ヴィレッジ』(2023)や『パレード』(2024)で藤井監督とタッグを組んできた横浜が、幾度も変装しながら逃亡を続ける鏑木を熱演しています。

鏑木が日本各地の潜伏先で出会う人々に吉岡里帆、森本慎太郎、山田杏奈、山田孝之が鏑木を執拗に追う刑事に扮します。

第48回日本アカデミー賞では横浜流星が最優秀主演男優賞、吉岡里帆が最優秀助演女優賞、藤井道人が最優秀監督賞と、3つの最優秀賞を受賞しました。

映画『正体』のあらすじとネタバレ


(C)2024 映画「正体」製作委員会

日本中を震撼させた凶悪な殺人事件を起こして逮捕され、死刑判決を受けた鏑木慶一が脱走しました。

鏑木を追う刑事の又貫征吾は、逃走を続ける鏑木が潜伏先で出会った人々を取り調べます。しかし彼らが語る鏑木は、それぞれがまったく別人のような人物像でした。

さまざまな場所で潜伏生活を送り、姿や顔を変えながら、間一髪の逃走を繰り返す鏑木。やがて彼が必死に逃亡を続ける真の目的が明らかになります。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『正体』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『正体』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2024 映画「正体」製作委員会

最初に鏑木が潜伏したのは大阪の建築現場で、そこにはワケありの人たちが集まってました。

ある日、資材が落ちてきて野々村和也が足を怪我をしてしまいます。上司に労災申請を断られ困っていた彼のために、鏑木は上司に直談判しました。それをきっかけに二人の間に友情が芽生えます。

しかし、懸賞金のかかった逃亡犯だと気づいた和也は、警察に通報しました。鏑木はすんでのところで逃走します。

逃走から180日目。鏑木はライターの那須に変装し、東京に潜伏していました。雑誌社の担当・安東沙耶香は、弁護士の父が痴漢のえん罪をかけられ苦しんでいました。

ある夜、雨の中で鏑木をみつけた沙耶香は食事をごちそうし、酔い潰れてしまった彼を泊めてやります。ネカフェに寝泊まりしている鏑木を、沙耶香はしばらく家においてやることにしました。鏑木は毎晩ひどくうなされていました。

沙耶香は鏑木が逃亡犯ではないかと疑うようになります。

やがて沙耶香の父に有罪判決が下されました。父を追う記者から那須が鏑木だと言い当てられ、沙耶香は動揺します。

帰宅後、鏑木に沙耶香は父のえん罪の話をし、絶対にやってないって信じているから逃げて、と言いました。

その瞬間インターフォンが鳴りました。ドアの前で待っていたのは又貫刑事でした。

又貫は室内を見て回って一度は去ったものの、天井裏に隠れていた鏑木が出てきた頃を見計らって再び部屋に飛び込みます。沙耶香は又貫が鏑木に向けた銃に飛びつき、鏑木を逃がしました。

鏑木は窓から飛び降り、その後川に飛び込んで姿を消しました。

逃亡から1171日目。捜査当時、「僕はやってない」と叫ぶ鏑木を、半ば強引に有罪に持ち込んだ日を又貫刑事は思い起こしていました。

逃亡から332日目。鏑木が逮捕された東村山殺人事件とそっくりな凄惨な事件が起き、足利という男が犯人として逮捕されました。犯人は東村山事件の詳細を知っていることを匂わせる発言をします。

逃亡から334日目。長野の諏訪の老人ホームで鏑木は働いていました。同僚の舞は彼に好意を抱いています。彼の目的はホームに入っている東村山事件の被害者の家族・由子でした。彼女はPTSDに苦しんでいました。

一方、大阪の和也は沙耶香の事務所を訪ね、鏑木を犯人とは思えないと話しました。彼女は父と一緒に東村山事件の証拠を集めており、和也も協力を申し出ます。

由子の妹の浩子が勤めていた水産加工会社に一時期鏑木は勤めており、由子の居場所を知りました。沙耶香の雑誌社の後藤は、鏑木の事情を知って見守っていました。

ある日、鏑木はニュースで足利が別事件の殺人犯として捕まったことを知ります。

その頃、舞がインスタにあげた画像から、鏑木の居所が流出しました。時間のない鏑木は、必死で涙ながらに由子に思い出して欲しいと語りかけます。しかし、すぐに警察車両が施設に到着しました。

鏑木は舞に頼んで人質のフリをしてもらい、駆けつけた又貫刑事に向かって「あなたは本当の犯人が誰かわかっているはずだ」と言って、施設に立てこもりました。沙耶香も現場に駆けつけます。

舞は、由子に必死で思い出してほしいと頼む鏑木の様子を配信しました。

事件当日、鏑木は悲鳴を聞いて駆けつけ、真犯人の足利の顔を見ていました。苦しむ被害者に思わず駆寄って背中の鎌を引き抜いた鏑木は返り血を浴び、犯人として取り押さえられました。目撃していながらショックで思い出せずにいた由子は、とうとうすべてを思い出します。

しかし、そこに警察が突入し、鏑木は肩を撃たれて倒れました。

沙耶香は舞も交えて鏑木に会った人達を中心に再審開始の賛同者を募りました。自宅に戻った由子にも会いに行きました。

足利が犯人だという証拠もあがり始める中、警察上層部は体面を守るために、断固として鏑木を真犯人とすることを決定します。

鏑木に面会した又貫刑事は、逃げた理由を聞きました。

鏑木に会った後、又貫は上司の指示に背いて、会見の場で再捜査をすると独断で発表しました。

「この世界を信じたかった。外に出て初めて人を好きになり、生きてて良かった、もっと生きたい」その鏑木の言葉が又貫の心を変えました。

沙耶香たち3人が鏑木に面会し、「待ってる」と伝えます。鏑木は笑顔でうなずきました。

そして裁きの日。法廷で鏑木の無罪判決が言い渡されました。人々は涙と笑顔で祝福します。鏑木は歓喜の涙を流しました。

映画『正体』の感想と評価


(C)2024 映画「正体」製作委員会

理不尽な世の中を信じ抜く鏑木

脱走した後、姿をカメレオンのように変えて逃げ続ける死刑囚の姿をスリリングに描く作品です。

狡猾な男なのかと思いきや、そうではないことが徐々に明らかになっていきます。潜伏先で出会う人々の目を通して、薄皮をはがすように鏑木という男の真の姿が見え始めることでしょう。

鏑木は純粋過ぎる男でした。酒を飲んだことがない、おいしいものを食べたことがないと語る彼が、実は養護施設で育った高校生だと明らかとなります。彼の持つ純粋さは、年若いことにも理由があったのです。

児童養護施設施設で育った彼は、恐らく他の人より理不尽な思いを多く経験してきたことでしょう。しかし彼が選び取ったのは、理不尽な世への恨みではなく、「世界を信じたい」というまっすぐで美しい思いでした。

沙耶香をはじめ、鏑木に出会った人々は、ほんの短い間の接触でありながら彼の美しい魂を感じ取ります。そして、彼を信じて助けの手を伸ばすようになりました。

ライターの鏑木を雇っていた沙耶香は、父が痴漢のえん罪を受けて苦しんでいました。そんな経験をしていたからこそ、鏑木の無実をまっすぐ信じることができたのでしょう。いつしか聖母のように彼を守らねばと決心を固める沙耶香の様子を吉岡里帆が好演。疲れ果てた鏑木は、沙耶香に寄りかかって安心感に満たされて眠ります。

自分の無実を伝えるためにどうすればよいか必死で考え、たった一人で走り続ける鏑木。しかし、心の内ではいつも沙耶香、和也、舞が隣にいてくれたことでしょう。彼の美しい心は、組織の中で凝り固まっていた又貫刑事の心も溶かしていきます。

強靱な肉体で逃走するタフさと、瑞々しい精神性を併せ持つ若木のような鏑木に同化した演技をみせる横浜流星から目が離せません

山田孝之演じる又貫刑事の存在感


(C)2024 映画「正体」製作委員会

本作の重石のような役割を果たしている又貫役の山田孝之の演技に心奪われます。表情を変えず、瞳だけで喜び苦しみ悩みのすべてを表現する実力に感服せずにはいられません。

又貫刑事は、上層部から押さえ付けられる苦しい立場にありました。縦社会でメンツを何より重んじる組織にあって、又貫は歯車の1つに過ぎません。そんな状況下でも、又貫は鏑木の「もっと生きたい」という気持ちを正面から受け止め、捜査再開を独断で会見で発表します。

彼のように真の正義を貫ける者は決して多くはないはずです。本作のストーリー展開で厳しいところは、最後の決め手は又貫刑事一人に委ねられていた点といえます。

又貫ではない人間が担当刑事だったなら、鏑木は助からなかったことでしょう。しかし、この綱渡りのような人生展開は、実はとてもリアルに思えます。私たち一人ひとりの運命も、運や縁によってくるくると変わっていくことは周知の通りです。

運命の悪戯で簡単に人選を変えられてしまう現実に恐怖を感じつつ、良い方に変わっていく可能性もあることに希望をもらえる作品です。

まとめ


(C)2024 映画「正体」製作委員会

横浜流星が自身のすべてを投げ打って難役・鏑木慶一役に挑んだ大作『正体』。彼に伴走するかのように吉岡里帆、山田杏奈、森本慎太郎らも素晴らしい演技をみせています。

最後のピースをはめる役割を果たす刑事・又貫を演じる山田孝之、そして本作の悪役である警察上層部の川田を演じる松重豊も必見です。

父がえん罪で有罪判決を受けた沙耶香、貧困から抜け出せない和也、東京で夢破れて地元に帰ってきた舞。彼らもまた、社会的に傷ついた同志でした。踏みつけにされる悲しみを知っていたからこそ、鏑木を救う行動がとれたのでしょう。

上層部から圧力をかけ続けられる又貫、そしてメンツという化け物にとらわれている川田もまた、生きづらさを抱えています。

痛みを知るからこそ、人は手を取り合って生きていけるのかもしれません




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