Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2018/09/24
Update

映画『止められるか、俺たちを』感想解説とあらすじ。恩師 若松孝二の下で修業した白石和彌監督自ら企画した秀作

  • Writer :
  • 富士野

映画『止められるか、俺たちを』は、10月13日(土)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー!

日本映画界を牽引する鬼才白石和彌が、師匠若松孝二の若き日と彼が駆け抜けた時代を描き出します。

若松監督の助監督である主人公、吉積めぐみを門脇麦が演じ、若き日の若松監督を『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』など若松監督作に出演してきた井浦新が演じます。

映画『止められるか、俺たちを』の作品情報


(C)2018 若松プロダクション

【公開】
2018年(日本映画)

【監督】
白石和彌

【脚本】
井上淳一

【キャスト】
門脇麦、井浦新、山本浩司、岡部尚、大西信満、タモト清嵐、毎熊克哉、伊島空、外山将平、藤原季節、上川周作、中澤梓佐、満島真之介、渋川清彦、音尾琢真、高岡蒼佑、高良健吾、寺島しのぶ、奥田瑛二、柴田鷹雄、西本竜樹、吉澤健

【作品概要】

2012年、若松孝二監督逝去から6年が経った今、彼の若き日の生き様、その作品、そして彼の立ち上げた若松プロダクションの姿を、タイトル通り“止められるか、俺たちを”と言わんばかりのエネルギーで描いた青春群像劇。

若松孝二だけでなく、彼と同時代に活躍し、若松プロもしくはその周辺に集まった沖島勲・大島渚・赤塚不二夫などの異才の人々の姿も描き出します。

スタッフ・キャストには監督の白石和彌を筆頭に、若松監督に縁のある方々が集結しています。


(C)2018 若松プロダクション

白石和彌監督のプロフィール

参考映像:『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(2010)

白石和彌は、1974年の北海道出身で、1995年に中村幻児監督主催の映像塾に参加します。

その後は若松孝二監督に師事し、フリーの演出部として活動。

行定勲、犬童一心監督などヒット作を生み出す監督たちの作品に関わり経験を積みながら、師匠若松監督の『明日なき街角』(1997)、『完全なる飼育 赤い殺意』(2004)、『17歳の風景 少年は何を見たのか』(2005)などの作品にも助監督として参加します。

2010年、『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編映画デビューを果たすと早くも注目を集め、2013年の『凶悪』では新藤兼人賞金賞をはじめ、第37回日本アカデミー賞優秀作品賞・脚本賞ほか様々な映画賞を受賞しました。

近年では綾野剛主演の『日本で一番悪い奴ら』(2016)、2017年M-1グランプリ優勝コンビとろサーモン出演の『牝猫たち』(2017)、蒼井優主演の『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)などを監督。

また、お笑い芸人又吉直樹の芥川賞受賞作『火花』のNetflixドラマ版(2016)の監督の一人にも名を連ねています。

暴力団や汚職刑事、SMなどアウトローな世界を舞台にした作品を多く手掛けています。

映画『止められるか、俺たちを』の主なキャスト


(C)2018 若松プロダクション

門脇麦のプロフィール


(C)2018 若松プロダクション

1992年生まれ。東京都出身。幼いころからバレリーナを目指して真剣に取り組んでいましたが、中学生の時に、限界を感じ、バレリーナの道をあきらめます。

しかし表現するということを変わらず求めていた彼女は、高校生の時に10代の宮﨑あおいや蒼井優らが出演する映画を見て、役者の仕事に興味を持ちます。そして高校卒業後、芸能事務所に所属します。

2011年、テレビドラマ『美咲ナンバーワン!!』でデビュー。

2013年、『チョコラBB Feチャージ』(エーザイ)のCMや『東京ガス ガラスの仮面 MASK OF GAS』で話題となり、そしてその波に乗るように、2014年に公開された映画『愛の渦』では“地味でまじめそうな容姿ながら、誰よりも性欲が強い女子大生”というヒロインを演じ、大胆な濡れ場やヌードに挑戦。

参考映像:『愛の渦』(2006)

同作や『闇金ウシジマくん Part2』(2014)、『シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸』(2014)での演技により、第6回TAMA映画賞最優秀新進女優賞、第36回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、第88回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞などの新人賞を総なめにします。

『愛の渦』と同年に放映された日本テレビ系列深夜ドラマ『セーラー服と宇宙人(エイリアン)〜地球に残った最後の11人〜』(2014)でドラマ初主演。

2015年にはNHK連続テレビ小説『まれ』に出演し、ヒロイン・土屋太鳳の友人役を演じてお茶の間にも広く知られるようになりました。2016年には『二重生活』で映画単独初主演。

バレエ仕込みの透明感のあるたたずまいと、強い意志を感じるミステリアスな眼差し。“光”と“影”の両方の芝居ができる役者として、今日本映画界で引っ張りだこの女優です。

井浦新のプロフィール


(C)2018 若松プロダクション

1974年、東京都出身。東京経済大学中退。大学在学中にインディーズブランドのコレクションをきっかけに、モデル事務所にスカウトされて芸能界デビュー。

ファッションモデルとして、『MEN’S NON-NO』、『an・an』、『smart』、『CHECK MATE』、『asayan』ほか、各ファッション誌の表紙を次々と飾ります。1990年代後半にはパリコレをはじめ、東京コレクションなどで常にシーズンのトップモデルとして出演を果たします。

1998年11月に独自ブランド”REVOLVER”をオープン。REVOLVER内で、小リリースラインのFARRELLを展開。2007年から改名し、自身のブランド”ELNEST CREATIVE ACTIVITY”をもって独立し、デザイナーとしても本格的に活動しています。

彼はそんなルーツもあり、当初は役者志望というわけではありませんでした。

そのため役者という立場に気持ちが付いていかない時期もあり、作品を撮り終わったあとに、作品の宣伝活動をするという役者のしごとも、想像がつかなかったほどだったとか。

しかしそんな彼も、1999年公開の『ワンダフルライフ』のオーディションで是枝裕和監督に見初められ、映画初主演を果たします。

その後、2002年に公開した、松本大洋の漫画を実写化した『ピンポン』で、主人公の親友スマイルを演じ注目を浴びます。

参考映像:『ピンポン』(2002)

『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008)で若松監督作品に初出演。その後も蜷川幸雄の監督作品『蛇にピアス』(2008)や「20世紀少年シリーズ」などの話題作に立て続けに出演。

2012年公開の『かぞくのくに』でブルーリボン賞助演男優賞。

近年ではテレビドラマや舞台にも活躍の場をひろげるとともに、2013年4月より京都国立博物館の文化大使をを務めたり、文化財修復保護や日本の伝統工芸継承の支援などを目的とする一般社団法人匠文化機構の理事長に就任するなど、関心のある美術や工芸の仕事にも携わっている。

映画『止められるか、俺たちを』のあらすじ


(C)2018 若松プロダクション

1969年春、21歳の吉積めぐみは、新宿のフーテン仲間に誘われて、若松プロダクションに出入りするようになります。

当時すでに若者たちを熱狂させる映画を作りだしていた若松プロには、理屈タイプの足立正生、カメラマン志望の高間賢治、助監督の沖島勲らが集まっており、創作に熱意を傾ける若者の巣窟となっていました。

めぐみはここで助監督として若松孝二の映画作りを学ぶことになります。

現場を走り回り、時には怒鳴られ、役者をやることも…。そんな厳しい環境の中でも、めぐみはどんどん映画作りの世界にのめり込んでゆくのでした。

しかし、のめり込めばのめり込むほど、めぐみ自身が何を表現し、何者になりたいのかという疑問が自身の中に生まれてきて…。

映画『止められるか、俺たちを』の感想と評価


(C)2018 若松プロダクション

この作品の素晴らしいところは、“映画監督若松孝二”の生きざまに触れられるところだと思います。

若松プロダクションの歴史はもちろん、その熱量、そこで巻き起こる人間ドラマなど、まさに若松映画の息吹を感じることのできる作品になっています。

映画というのは非常に魅惑的なコンテンツで、ここではないどこかに連れて行ってくれます。

時に日常とは全く違う世界に冒険に出ることができたり、心を揺さぶられたり、そんなものを思春期の繊細な時期に見てしまった人の中には、「自分も映画を撮りたい」と立ち上がる若者がいるはず。

そういったエネルギー溢れる志を持つ人間が集まったのが、この若松プロダクションです。

ものをつくることに命を懸けた人々、そしてその人たちがつくりだした結晶に出会える、それが本作『止められるか、俺たちを』なのです。

まとめ


(C)2018 若松プロダクション

本作は若松孝二監督のもとで修業した白石和彌監督が、“若松さんの声をもう一度”と自ら企画したものです。

そして2012年の若松監督逝去から6年、悲願の若松プロダクション映画製作作品再始動の第一弾の作品でもあります。

よって、スタッフ・キャストには若松プロダクションに縁のある人たちが集結。

晩年の若松孝二監督が絶大な信頼を寄せていた辻智彦&大久保礼司の撮照ゴールデンコンビ、脚本には若松プロ助監督出身の井上淳一、助監督出身の大日方教史がプロデューサーを務めています。

本作で若松監督を演じる井浦新も、晩年の若松映画の常連俳優で、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008)、『海燕ホテル・ブルー』(2012)、『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(2012)に出演。

そのほか『キャタピラー』(2010)で 四肢のない軍人を熱演した大西信満、『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』で森田必勝役を演じた満島真之介、『千年の愉楽』(2013) で強烈な存在感を見せた高岡蒼佑、高良健吾など、若松孝二に愛された俳優達が白石監督の元に集いました。

若松孝二監督を愛する人たちによる、まさしく魂の作品。

自分のこれから進む道に迷っている人や、何か創作活動をしている人には特に胸に刺さるものがきっとあるはずです。

観ることによって自分の人生に向き合うことができる、素晴らしい映画です。

主演・門脇麦の芯の強い演技にも注目してみてください。

映画『止められるか、俺たちを』は、10 月13日(土)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー!


(C)2018 若松プロダクション

関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング|感想評価と内容解説。ネッド・ケリーの真実の歴史をアナーキーかつパンクに描く

伝説の反逆者ネッド・ケリーの新たな実像に迫る 映画『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』が、2021年6月18日(金)より渋谷ホワイトシネクイント、新宿シネマカリテほかにて全国順次公開予 …

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】ハンサン龍の出現|あらすじ結末評価と結末感想の解説。16世紀後半の日韓の戦争を描く歴史大作

戦国時代史上最大の海戦「閑山島海戦」を映画化! キム・ハンミンが脚本・監督を務めた、2022年製作の韓国のR15+指定の歴史大作『ハンサン 龍の出現』。 戦国時代末期。天下統一を成し遂げた豊臣秀吉は、 …

ヒューマンドラマ映画

黒澤明映画『生きる』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。リメイク版公開前にオリジナル版の魅力を解説

黒澤明監督が描いた、ヒューマンドラマの頂点にして最高傑作! 世界な映画監督として今もなお影響を与え続けている巨匠・黒澤明が、1952年に公開した人間賛歌の映画『生きる』。 映画以外のリメイク版も多く、 …

ヒューマンドラマ映画

映画『北の果ての小さな村で』あらすじネタバレと感想。グリーンランドの雄大な自然の中で豊かに暮らす人々

雄大な自然が教えてくれるもの。 人間はもっとシンプルでいいのかもしれない。 サミュエル・コラルデ監督は、グリーンランドの自然に魅せられ、2年をかけて国中を旅して回り、映画の舞台・チニツキラークにたどり …

ヒューマンドラマ映画

映画『デンジャー・クロース 極限着弾』感想とレビュー評価。ベトコン2000人との“ロングタンの戦い”に挑む108人のオーストラリア軍

映画『デンジャー・クロース 極限着弾』 ベトナム戦争の「ロングタンの戦い」を描く オーストラリアのクリフ・ステンダース監督が、ベトナム戦争の実話を描いた映画『デンジャー・クロース 極限着弾』。オースト …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学