Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2021/12/25
Update

映画『さがす』感想評価と内容解説。佐藤二朗×片山慎三監督が生む“見つけたくないもの”だらけの異色エンタメ

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『さがす』は2022年1月21日(金)より全国ロードショー!

片山慎三監督×佐藤二朗のタッグによる異色のヒューマンドラマ『さがす』。

岬の兄妹』で注目された片山監督の商業デビュー作品となった本作は、ある少女が謎の失踪を遂げた父を探す中で一人の不審な男性に遭遇するとともに予想だにしない結末へと向かっていく様を描いた物語。

失踪した父親役を佐藤二朗、その娘を伊東蒼、そして二人の前に現れた謎の男性を清水尋也が熱演。個性あふれる俳優陣が集い、独特の世界観を作り上げています。

映画『さがす』の作品情報

(C) 2022『さがす』製作委員会

【公開】
2022年(日本映画)

【監督】
片山慎三

【キャスト】
佐藤二朗、伊東蒼、清水尋也、森田望智

【作品概要】
岬の兄妹』を手がけた片山慎三監督によるオリジナル作品。突然行方をくらませた父親を探すべく、一人家に残された娘が奔走する中で驚愕の真実にたどり着く姿を描きます。

「マメシバ」シリーズなどの佐藤二朗、『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)などの伊東蒼が、物語のメインキャストとなる父娘を演じます。ほかにも『東京リベンジャーズ』(2021)などの清水尋也、ドラマ『全裸監督』などの森田望智ら個性派が出演。また本作は第26回釜山国際映画祭ニューカレンツ部門にも出品されました。

映画『さがす』のあらすじ

(C) 2022『さがす』製作委員会

母を亡くし、自暴自棄気味に過ごしていた父と、そんな父を叱り飛ばしながらも励ます娘。

ある日、父は「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」と娘に告げ、翌朝に姿を消しました。

孤独と不安を押し殺しながらも、父の行方をさがし始める娘。やがて父が務めていた日雇いの工事現場にたどり着きますが、そこにいたのは父の名を騙って働く一人の男でした……。

映画『さがす』の感想と評価

(C) 2022『さがす』製作委員会

とある街中で、様々な事情を抱え不遇な状況に生きる父と娘。そしてある日起こった父の失踪。

いわゆる「中流」的な立場にある人たちの目線で見れば、警察などの機関に相談ししかるべき対処を、と判断するであろうところで、物語では弱者の立場に全く寄り添う様子もありません。

東京、または関東方面の場所が舞台であれば、物語は普遍的なテーマを示しているように見えますが、関西方面という局所的な地域が物語の舞台となっている本作。

意外にこのロケーションとしていながら物語の描き方により、かえって作品に埋め込まれている社会的な現状の普遍性を幅広く表現しているように感じられます。

ところが一方で、本作はそういった社会的な問題、課題を背景に置きながら、それを直接強く訴えることを敢えて避けているようでもあります。

強烈な印象で2019年の公開後には大きな反響を得た映画『岬の兄妹』。そして片山監督の商業デビュー作となった『さがす』は、エンタテインメント性を加えながらも前作の鮮烈な印象をたっぷりと含んだ作品となっています。

(C) 2022『さがす』製作委員会

何もかもから見放され、一人で父を探すことを決意する娘。そしてその彼女が遭遇する、父の名を騙る一人の男性。

彼もまた複雑な事情を抱えた一人であり、物語は父娘とこの一人の男性を中心に意外な方向へ展開していきます。

非常にユニークなポイントは、冒頭は父娘の境遇などに重きを置いて描いており、社会派ドラマ的な雰囲気をたたえていたのに、中盤に差し掛かるにつれ、物語はエンタテイメント性をたたえ、ミステリアスな展開にもつれこんでいくところにあります。

この展開はふと「自分は今どんな作品を見ているのだろうか」と思わせます。いい意味で肩透かしを食らわせ、見るものをさらに物語に引き込む働きをしています。

このような作風は先述の『岬の兄妹』でも同様に見られた方向性であります。ですが、作品を作る上で込めたいと考える自身の思い、描きたいものを描くという製作者自身の製作欲求がある上で、商業映画であるという責務をうまく盛り込んでいます。

映画は作品によって、社会問題などのテーマを単一視点でダイレクトに描き訴えるものもありますが、近年は様々な視点で問題をとらえ、決して解決の道を決めつけない、一つの問題提起で様々な要因を想起させる新たな作風を持った作品が、多く排出されるようになっています。

本作もそういった作品の一つともいえ、ミステリー的要素をエンタテインメント性として盛り込みながらも、物語の世界観で描いている様々な人々の事情、境遇から見るものへの共感を引き出し、世にはびこる様々な問題を想起させ、深く考える機会を与えてくれる展開を生み出しています。

まとめ

(C) 2022『さがす』製作委員会

本作の見どころは、なんといっても佐藤二朗の存在感にあります。

個性的な俳優陣が名を連ねる中でも突出した個性を持つ佐藤ですが、本作で見せるその表情、演技は役柄そのものに同化することに徹しており、物語が展開するにつれて、彼が“佐藤二朗”という名の人間であることを忘れてしまうほど。

これまで数々のコメディー作品でアクの強い演技を見せていた佐藤ですが、ただひたすらに消極的でいつもどこかに絶望感をたたえた本作の役柄は、そんな彼の実績から思い浮かぶ性質からは最も遠い印象であり、そんな難題をものともせず、本作のキャストとして演じ切った力量のほどを思い知らされることでしょう。

そしてもちろん伊東蒼、清水尋也ら若手俳優の緊張感あふれる演技も本作の世界に花を添えています。

荒削りな面もありながら、体当たりで役に向き合う瑞々しさも随所に現れています。また佐藤との共演でも程よい緊張感を見せており、物語の味わい深い展開と同時に役者同士の化学反応のさまを味わえる作品となっています。

映画『さがす』は2022年1月21日(金)より全国ロードショー



関連記事

ヒューマンドラマ映画

『さよなら ほやマン』あらすじ感想と評価解説。MOROHAのMCアフロらが演じる純粋な兄弟とワケあり漫画家が離島で人生の輝きを取り戻す

『さよなら ほやマン』は2023年11月3日(金・祝)新宿ピカデリー他にて全国ロードショー 笑って泣ける家族の再生の物語『さよなら ほやマン』が2023年11月3日(金・祝)新宿ピカデリー他にて全国ロ …

ヒューマンドラマ映画

映画『クーリエ:最高機密の運び屋』感想評価と考察解説。実話として描かれた世界滅亡を未然に防いだ1人のサラリーマン

映画『クーリエ:最高機密の運び屋』は、2021年9月23日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかで全国公開! べネディクト・カンバーバッチ主演で贈る実録スパイ・サスペンス『クーリエ:最高機密の運び屋』 …

ヒューマンドラマ映画

孤狼の血LEVEL2|ネタバレ結末感想とあらすじ考察。ラスト鈴木亮平×松坂桃李の対決で白石和彌監督の“模索”は結実する

前作を遥かに凌ぐ、圧倒的バイオレンス!映画『孤狼の血 LEVEL2』は2021年8月20日(金)より全国ロードショー。 柚木裕子の「孤狼の血」シリーズを原作とした、白石和彌監督の映像化作品第2弾『孤狼 …

ヒューマンドラマ映画

GAGARINEガガーリン|ネタバレあらすじと結末の感想評価。パリオリンピック再開発で消えゆく団地を舞台にした少年の孤独と希望を描く

消えゆくガガーリン団地で少年が守ろうとしたものは!? 2024年のパリ・オリンピックを見越して再開発が決まり、取り壊されることになったガガーリン団地。住民が次々と退去していく中、母親に見放された16歳 …

ヒューマンドラマ映画

映画『チア男子!!』キャストの清水くるみ(晴子役)のプロフィールと演技力の評価

映画『チア男子!!』は2019年5月10日(金)ロードショー! 『桐島、部活やめるってよ』『何者』で知られる直木賞作家・朝井リョウが、実在する男子チアリーディングングチームをモデルに書き上げた『チア男 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学