ユダヤの孤児123人を救った“パントマイムの神様”の実話
映画『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家』が、2021年8月27日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかで全国公開されます。
“パントマイムの神様”と称されたマルセル・マルソーが、第二次世界大戦中、ナチスドイツと協力関係にあったフランス政権に立ち向かうべく、レジスタンス運動に身を投じていたという知られざる実話を描きます。
『ソーシャル・ネットワーク』(2011)のジェシー・アイゼンバーグがマルセルを演じたことも話題の、本作の見どころをご紹介しましょう。
CONTENTS
映画『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ・イギリス・ドイツ合作映画)
【原題】
Resistance
【監督・脚本・共同製作】
ジョナタン・ヤクボウィッツ
【製作】
カルロス・ガルシア・デ・パレデス、トーステン・シューマッハー、ダン・マーグ、クロディン・ヤクボウィッツ
【製作総指揮】
ニコラス・サンドラー、シルビア・シュミット、クリステル・コナン、クレメンス・ホールマン、クリスティアン・アンガーマイヤー、チー・リン ウェイ・ハン、シモン・ハップ、ディーパック・ネイヤー、ニック・バウアー
【撮影】
ミゲル・I・リッティン=メンツ
【キャスト】
ジェシー・アイゼンバーグ、クレマンス・ポエジー、マティアス・シュバイクホファー、フェリックス・モアティ、ルーリグ・ゲーザ、カール・マルコビクス、ビカ・ケレケシュ、ベラ・ラムジー、エド・ハリス、エドガー・ラミレス
【作品概要】
『ソーシャル・ネットワーク』でアカデミー賞にノミネートされたジェシー・アイゼンバーグ主演の伝記ドラマ。
ジェシーが、“パントマイムの神様”と称されたパントマイムアーティストのマルセル・マルソーに扮し、第二次世界大戦における彼の知られざる実体験を描きます。
そのほか、『TENET テネット』(2020)のクレマンス・ポエジー、『アーミー・オブ・ザ・デッド』(2021)のマティアス・シュバイクホファー、『めぐりあう時間たち』(2002)のエド・ハリスらが脇を固めます。
監督はポーランド系ユダヤ人で、ベネズエラで最も著名な映画監督にして脚本家、ベストセラー作家でもあるジョナタン・ヤクボウィッツです。
映画『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家』のあらすじ
1938年のフランス。アーティストとして生きることを夢見るマルセルは、昼間は父が営む精肉店で働き、夜はキャバレーでパントマイムを披露していました。
やがて第二次世界大戦が激化するなか、彼は兄のアランと従兄弟のジョルジュ、想いを寄せるエマと共に、ナチスドイツに親を殺されたユダヤ人の子どもたち123人の世話をすることに。
悲しみと緊張に包まれた子どもたちにパントマイムで笑顔を取り戻し、彼らと固い絆を結ぶマルセル。
ですがナチスの勢力は日に日に増大し、1942年には遂にフランス全土を占領。
マルセルは険しく危険なアルプスの山を越え、アランやエマたちとともに、子どもたちを安全なスイスへと逃がそうと決意しますが…。
映画『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家』の感想と評価
“パントマイムの神様”の秘められた過去
本作『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家』は、“パントマイムの神様”と称されたフランスのパントマイムアーティスト、マルセル・マルソーが主人公です。
チャールズ・チャップリンに憧れ、第二次世界大戦後、パリのサラ・ベルナール劇場で本格的に演劇を学んだ彼は、1947年に、白塗り顔でボーダーシャツに花のついたシルクハットを纏ったキャラクター「ビップ」を創造。このキャラクターは、パントマイムの一般的なイメージを確立するほどになります。
ビップ姿で、体一つで喜怒哀楽を表現するマルセルのパフォーマンスは、世界中の俳優やミュージシャン、ダンサーたちに影響を与えることに。
『エル・トポ』(1969)、『ホーリー・マウンテン』(1973)のアレハンドロ・ホドロフスキー監督が、キャリア初期にマルセルの劇団で戯曲を共著すれば、マイケル・ジャクソンがマルセルの「風に向かって歩く」ステップから想を得て、あの「ムーンウォーク」を生み出したことでも知られます。
しかしその一方、戦時中に、ナチと協力関係にあったフランス政権に立ち向かうべくレジスタンス運動に身を投じていたという実体験は、ほとんど公にされませんでした。
本作ではそうしたマルセルの秘められた過去を、監督のジョナタン・ヤクボウィッツが、かつての活動仲間でもあった従兄の証言や膨大な資料をもとに、自ら脚本を執筆。
ポーランド系ユダヤ人として生まれ、ホロコーストを生き延びた者の子孫でもあるヤクボウィッツにとっても、マルセルと自身を繋ぐ作品となりました。
マルセル・マルソーのドキュメンタリー映画『Le Mime Marceau』(1964)
銃を持たない抵抗者
ジェシー・アイゼンバーグといえば、『ソーシャル・ネットワーク』のマーク・ザッカーバーグに「グランド・イリュージョン」シリーズ(2013~16)のJ・ダニエル・アトラス、そして『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)のレックス・ルーサーなど、矢継ぎ早に言葉を繰り出して相手をかく乱する役が目立つ俳優。
その彼が、本作で言葉を発さないパントマイムの第一人者を演じるのを、意外に思う方もいるでしょう。
序盤での、アーティストになる夢に反対する父親に屁理屈をこねたり、ナチスに親を殺されたユダヤの子どもたちの保護を理由を付けて断ろうとするマルセルは、ジェシーがこれまで演じてきたキャラクターとダブります。
しかし、孤児たちの命も狙われていると知ってからレジスタンスに加入以降、彼は変わります。
「真の抵抗<レジスタンス>とは、ナチスの連中を殺すことではなく命を繋ぐこと」――そう力強く発するマルセルを生き生きと演じるジェシーもユダヤ人の血筋を持ち、さらに母親のエイミーはプロの道化師として活躍していました。
ヤクボウィッツ監督同様に、マルセルとの繋がりを持つジェシーとしても、本作は特別なものとなったはずです。
孤児たちを安全なスイスへと逃がすべく、険しいアルプスの山を越えようとするレジスタンスですが、“リヨンの虐殺者”と恐れられたクラウス・バルビー率いるナチ親衛隊が行方を追います。
そんなナチに対するマルセルの武器は、銃ではありません。
パントマイムで笑顔を無くした孤児たちを笑わす一方で、親衛隊の追手を饒舌な即興演技で交わします。
目標としていたチャップリンが映画『チャップリンの独裁者』(1940)でヒトラーとナチスに噛みついたように、マルセルもアーティストとして培った沈黙と体技を武器としたのです。
まとめ
なぜ今、マルセル・マルソーの映画を作ることにしたのかという問いに、ヤクボウィッツ監督は「世界中で今、人種、国籍、宗教、政治などの違いから来る憎悪が高まっていると思う」と前置きしつつ、こう答えています。
「私がマルセルと仲間たちを大いに気に行っているのは、世界のために行動し、人々の命を救おうと決断したからだ。(中略)現代を生きる私たちにとっても、マルセルの努力は希望と人道行為の“道しるべ”だ」。
絵本作家としての顔も持っていたマルセルは、自著「かえってきたビップ」(富山房・刊、谷川俊太郎・訳)で以下の一文を添えます。
ぼくらのせかいには けんかも、きたならしさも、いじわるも あるけれど、
どうじに、なかよくすること、あいしあうこと、やすらぎも あるはずだ と。
孤児たちとの出会いによりアーティストの才能が開花した人物の、“愛と希望の道しるべ”を、スクリーンでご確認ください。
映画『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家』は、2021年8月27日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開。