映画『クオリア』は2023年11月18日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開!
『激怒』(2022)『餓鬼が笑う』(2022)など多数の作品に出演し、俳優として長年活躍してきた牛丸亮が初監督を務め、2021年の舞台を映画化。
『娼年』(2018)『最低。』(2017)の佐々木心音が主演を務めたほか、『うみべの女の子』(2021)の石川瑠華、『おんなのこきらい』(2014)の木口健太、『片袖の魚』(2021)の久田松真耶が出演しました。
養鶏場を営む家族に嫁いだ優子は、義姉にいびられながらも家事と鶏の世話をこなし日々生活していました。
しかし、そこに優子の夫・良介と不倫関係にある渡辺咲が現れ「養鶏場の住み込み従業員の募集を見た」と告げます。夫の不倫相手と知らぬまま、優子は彼女の採用を決めてしまいました。
こうして、歪な共同生活が始まっていきます……。
映画『クオリア』の作品情報
【日本公開】
2023年(日本映画)
【原作】
越智良知
【監督】
牛丸亮
【脚本】
賀々賢三
【キャスト】
佐々木心音、石川瑠華、木口健太、久田松真耶、藤主税、遠山雄、榎本桜、小林英樹、吉川流光、保坂直希、片瀬直、伊藤由紀、辻夏樹、田村魁成、田口真太朗、窪田翔、芦原健介、木村知貴、川瀬陽太
【作品概要】
長年俳優として活動してきた牛丸亮が初監督を務めた本作は、「劇団うつろろ」の2021年の舞台に惚れ込み、舞台の作・演出を手がけた越智良知に映画化を提案しました。
主演は『娼年』(2018)『最低。』(2017)の佐々木心音。さらに『うみべの女の子』(2021)の石川瑠華、『おんなのこきらい』(2014)の木口健太、『片袖の魚』(2021)の久田松真耶など幅広く活躍する役者陣が顔を揃えました。
養鶏場で生きる女性と一家の元に、突如現れた夫の不倫相手。歪な共同生活を通して現代社会、そして家族というのものが抱える問題をシニカルかつユーモアに描き出します。
映画『クオリア』のあらすじ
養鶏場を営む田中家に嫁いだ田中優子(佐々木心音)。
夫の姉である里実(久田松真耶)は足が悪く、優子は身辺の世話をしていますが、気が利かないといびられ続けています。それでも文句を言わず、家事と家業である養鶏場の仕事をこなし、慎ましく生きていました。
夫の良介(木口健太)と住み込みの手伝い・たいち(藤主税)と優子の3人で鶏の世話や配達をこなしていましたが、人手が足りず養鶏場はアルバイトを募集していました。
そんな時、家の前に若い女性・渡辺咲(石川瑠華)が現れ「アルバイトの募集を見て応募しに来た」と答えます。優子は住み込みの従業員として咲を採用しますが、実は彼女は良介の不倫相手でした。
こうして、歪な共同生活が始まっていきます……。
映画『クオリア』の感想と評価
「社会の縮図」としての養鶏場
養鶏場を営む一家に、突如やってきた不倫相手。本作は、そんな歪な家族関係を社会の縮図や養鶏場の鶏たちとなぞらえてシニカルに描きます。
養鶏場にはメスしかいません。それは、オスがいると無精卵ではなく有精卵になってしまい、商品として売り出すことができないからです。雛の段階でオスとメスに仕分けられ、オスは大抵処分されてしまい<ます。 養鶏場に混ざっていたオスも、同様に見つけ次第処分されてしまいます。映画冒頭では、オスを処分するたいちの映像が映し出され、「処分されるオスの姿」というのは、本作において重要な意味を持つものであることが伝わってきます。
咲はたいちからオスが処分されてしまうことや、メスもずっと卵を産むことはできず、ある程度産み続けたら処分し鶏肉として出荷される話を聞き、「そんなの可哀想、鶏さんは何のために生まれてきたの」と言います。
たいちもどうにかしたいという思いを抱えつつも、どうすることもできず割り切って仕事をしようとしています。それでもわだかまりを抱えているたいちに、優子は「鶏だけじゃないよ、人間だって同じでしょう」と答えます。
たいちとは違い、優子にはどこか諦めの感情があります。優子はどんなに義姉にいびられたり、夫に上からの物言いをされても何も文句を言わず、不倫相手ですら受け入れてしまいます。
それでも「必要とされているだけで嬉しい」と何も不満に感じていることはないと能面のような笑顔を浮かべ続ける優子。詳しくは語られませんが、優子は必要とされず、ぞんざいな扱いを受け続けてきた結果、家族として迎えてくれただけで自分のような人間には十分だと感じているのです。
養鶏場の鶏たちの中には、必ず他の鶏に羽をむしられ、いじめられる者が現れます。「いじめる鶏が悪い」というたいちに対し、優子は「そういう風に埋め込まれている「悪いことしているとも思ってないのよ」と言います。その鶏は、まさに家族の中での優子の立ち位置と重なるのです。
どんなコミュニティにいても自分より「弱い」とみなした存在をいじめることで自分の優位性を保とうとする存在が現れてしまう、そんな思いを感じたことはないでしょうか。優子はまさに標的となる存在で、そのことに対し優子は諦めの感情を抱いているのです。
いじめられ羽をむしられた鶏はしばらく隔離して、また群れに戻します。一人で檻にいる鶏を気にかける優子に良介は「どうせ群れに戻してもいじめられるのだから、ずっと檻の中にいた方がいい」と言います。
しかし、優子はそれでも「一人より皆と一緒にいた方が良いに決まっている」と答えるのです。それは優子自身の思いと同じなのかもしれません。たとえいびられても、孤独よりはましだと思っているのかもしれません。
「処分」を恐れ自らを誇示する理由は?
慎ましく暮らしていた家族の中に突如やってきた咲の存在は、それまでの家族の役割を大きく変えてしまいます。
咲は自分の特技を活かし、半ば強引に家事を引き受け、その要領の良さから義姉にもすっかり気に入られます。優子は養鶏場の仕事のみで、食事や姉の狩りのサポートなどは咲の役割になってしまいました。
義姉が咲を優子のようにいびらないのは、咲が要領が良かったこともありますが、「優子という自分より弱く攻撃しやすい対象が一人いれば、そのコミュニティは問題なくバランスを保っていられる」という側面もあるのでしょう。咲も優子の場所を奪うことに躊躇いはなく、優子の立場すらも利用して自分の居場所を獲得します。
また、優子と良介の夫婦には子どもがいません。その中で現れた咲の存在は、夫婦の隠していた事実さえも浮き彫りにしていくのです。
良介は、とある事情から姉に逆らえずにいますが、優子に対しては冷たい態度で苛つきを隠すこともありません。また、住み込みで働くたいちに対しても自分の優位性を保とうとする面も見せますが、それはたいちが“オス”として自分より優位になるのを恐れているからかもしれません。
鶏であったら、処分されてしまうオス。オスの優位性を保とうと背景には、そうせざるを得ない理由もあったのです。人間のコミュニティと養鶏場の鶏で、本来事情が異なっているはずですが、養鶏場の構図を家族の構図と絶妙に当てはめるシニカルっぷりが見事です。
終盤に描かれる鶏のあり得ない行動は、その構図を取っ払ってしまおうという“解放”のメタファーなのかもしれません。
まとめ
本作の魅力の一つは何と言っても、主演の佐々木心音の存在感でしょう。
おっとりとした喋り方で、常に笑顔を絶やさないようにしている優子は、内心どう思っているのか分からない不気味さがあります。その一方で優しく何があっても文句を言わない穏やかさもあるのです。
良介は、優子に対し上からな物言いではありますが、どこか優子に不気味さを感じてる様子が窺えます。それは優子に対する後ろめたさもあるからなのではないでしょうか。
良介は、咲と不倫関係にありますが、咲のことも本当に愛しているのかどうか分かりません。良介自身もどこか感情が欠如しているような、諦めがあります。
その諦めは、義姉との過去の一件や、夫婦が隠していた事実も関係しているのでしょう。どこか息苦しさを感じていてもそこから抜け出そうとしないのは、諦めているからなのです。
咲の存在によって今まで保っていた危ういバランスが崩壊してしまった家族が向かう先には、どこか開放感と悲しさも感じられます。変わらない笑顔をたたえつつも感情が少しずつ変化していく佐々木心音の表情にも注目です。
映画『クオリア』は2023年11月18日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開!