映画『POP!』は2021年12月17日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
京阪地域は12月17日(金)よりシネ・リーブル梅田、1月14日(金)より京都みなみ会館、1月15日(土)より元町映画館にて上映!
『POP!』は俳優としても活動している、小村昌士監督が初めて手掛けた長編映画です。
若手クリエイターの登竜門、「MOOSIC LAB[JOINT]2020-2021」のコンペティション部門に出品され、グランプリと最優秀女優賞を受賞しました。
主演に『アルプススタンドのはしの方』(2020)、『テロルンとルンルン』(2020)など、インディーズ映画界で活躍中の小野莉奈を迎え、“コドモ”から“オトナ”へと移行する過程で感じる、人間関係と社会の矛盾をシニカルかつポップに描いたコメディ映画です。
映画『POP!』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督・脚本】
小村昌士
【原題】
Princess of Parking
【キャスト】
小野莉奈、三河悠冴、小林且弥、野村麻純、菊田倫行、木口健太、成瀬美希、中川晴樹
【作品概要】
主人公が「19歳」という“コドモから“オトナ”になる「入口」で、ギャップにつまづきモヤモヤした気持ちを抱きながら、混乱していく様子をコミカルに描いた映画『POP!』。
見どころと注目ポイントは、主人公リンが思い描いていた“夢”と“現実”の狭間で、“アイデンティティークライシス”に陥り、悶々と葛藤している様子をポップかつシュールに描かれている点です。
またポイントは、小村昌士監督の熱烈オファーで実現した、若手の奇才ビートメイカー“Aru-2”が音楽を担当し、彼の織り成すビートサウンドが、主人公のやるせない心情、現実を理解できない葛藤などが見事に融合されているところです。
共演者には『帝一の國』(2017)、『おいしい家族』(2019)など、多数の話題作に出演の三河悠冴が、主人公リンの生き方に一石を投じる重要な役どころで出演。
リンをとりまくテレビ関係者に、『疑惑とダンス』(2019)で古村監督と共演した小林且弥、テレビドラマで活躍する中『空白』(2021)など、話題の映画にも出演の野村麻純が、脇を固め“大人の事情”を演じます。
映画『POP!』のあらすじ
地方のテレビ局が企画している「明日のアース」という、チャリティー番組でオフィシャルサポーターをしている柏倉リン(19歳)は、ハート型のかぶりものを被り「愛」と「世界平和」を謳って、募金を呼びかけますが、趣旨と現実はかけ離れ、一緒に働く大人達との疎外感を感じ始めます。
リンは周りの“オトナ”に合わせ、上手く立ち振る舞うことができず、真面目に正直になればなるほど、社会と自分の間にある“不寛容”のギャップに苛まれ、モヤモヤに支配されたリンは心身共に憔悴していきます。
そんな中、ある事件をきっかけに、リンの“価値観”がこっぱみじんに砕け、意識と思考は迷宮の中に迷い込んでしまいます。
そして、ついに 一般的に節目と呼ばれる、“ハタチ”の誕生日が迫ります。彼女の中で繰り返されるのは 「大人ってなに?」という疑問ばかり・・・・・・。果たしてリンは“オトナ”への扉を開けることができるのでしょうか?
映画『POP!』の感想と評価
“コドモ”とは「建前」で「本音」をいう存在
柏倉リンがチャリティー番組で着ている衣装を見て、ふと「本音と建前」というキーワードが頭に浮かんできました。よく見ると中央が紫色で、周囲が赤色をしています。紫の部分が本心で、赤の部分が本音を隠す“オブラート”に見えたのです。
“オトナ”とは、周囲に忖度し本心を隠して、表向きのことを装おうこと。それを「建前」と思っています。ところが本来「建前」とは、家の骨組み状態のことで“未完成”な形です。
19歳のリンはまさにこの“未完成”な状態で、それまでオトナから教わってきた、“基礎”に沿って生きてきました。ルールは守る、落し物は届ける、マニュアルに従って動く・・・。
ところがオフィシャルサポーターをする中、周囲から欺瞞がちらつき「愛は世界を平和にする」じゃなかったの?という疑問に苦しみます。
リンの正義は根底から覆され、骨組みだけの彼女は激震にグラグラと揺れはじめました。
コドモがオトナに本音(正論)を言えば阻害される・・・。“オトナの正体”とは、そんな理不尽の中で悶え苦しみながら、傷つかないように壁や屋根を作り、外敵から身を守るため、目立たないように標準的な色と外壁で完成した家のこと・・・。
しかし、内装(心)のインテリアや壁紙には、自分の個性が出ます。完成した家に人を招くのか?どんな人が訪れるのか?そこで“オトナの真価”が問われるのかもしれません。
小村監督自身もまだ、建設中のクリエーターといえないでしょうか?欺瞞に苦しめられているのかもしれませんし、信念とのせめぎ合いの日々ではないかと感じました。
「駐車場」の意味とリンの行く末は?
小村監督は主人公のリンに、詳細なキャラクター設定をしていないと語りました。そのせいか彼女には“真っ新”なイメージがあり、オトナの植えつけた体裁を忠実に守っています。
人間はある程度の経験を積み、失敗して怒られたりしながら、オトナへと成長していくものなので、まさにリンが直面している状態です。
ところがある時から、「指示がないと動けない」若年層が増えてきました。“自分ルール”を作り、その枠から出ることに抵抗し、閉じこもる傾向があると感じます。
また、決められたルーティンをこなしていれば、怒られないし失敗もないと思い込んだり、“自由”には責任がないと勘違いもしています。
リンの場合は、アルバイト先の利用者が少なく寂れた“駐車場”が、彼女の全てを表わしています。
危険も煩わしさもありませんが、それは彼女にとってプラスになるとも思えません。知恵を使って考えたり、コミュニケーション能力を育む経験値が積めない環境だからです。
彼女はそこから抜け出す必要があるでしょう。しかし、駐車している自動車が運転手を待つように、彼女は行き先を決めてくれる、奇跡を待っているようでもありました。
若い時には目の前のことに精一杯で、夢はあったのにどこに向っていたのか、忘れてしまうこともあります。
「20歳=大人」という概念は、もはやナンセンスではありますが、“ハタチ”というタイミングでみつめ直すきっかけにはなります。
本作のラストシーンには、彼女の行く末がどうなるのか?という含みを残していて、タイトルの『POP!』の意味に集約されているように感じます。
まとめ
映画『POP!』は柏倉リンのような、生き辛さを抱えた若者に焦点をあて、“オトナ”というカテゴリーからはみ出るのか、夢を持って前進するのか・・・その行く末を予見させる作品です。
“生き辛さ”というのはデリケートで、シリアスな問題でもありますが、本作はコミカルに演出することで、危うさがカムフラージュされ、重苦しさのない作品に仕上がっています。
また、「MOOSIC LAB[JOINT]2020-2021」では、外国人からの手応えもありました。クスっと笑えるユーモアのセンスが、外国人にも通用すると実証できたことは、大きな収穫だったでしょう。
それは類まれな監督や出演者、音楽や美術との相乗効果の賜物だと、各分野からの批評につながる由縁でもありました。
小村監督は『POP!』を通して、伝えたいテーマは特に設けておらず、初の長編作品として尺の取り方等を実験的に知り得たかった(それを指すシーンが作中にもあり)とインタビューで答えています。
また、監督は主人公の“柏倉リン”と自分は重なる部分が多いと語っていて、それを“小野莉奈”に具現化してもらい、かつ彼女の魅力を余すところなく出してほしかったと語っています。
『POP!』の公開もまもなくとなりますが、次回は中編作(50~60分)への創作意欲が湧いているとのこと・・・、本作はそのキックオフ的な原動力になったといえるでしょう。
映画『POP!』は2021年12月17日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。